ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
……そして、結局三つめも空振りだった。
このままでは俺の評価が上がるどころか、逆に下がるんじゃないかと不安になってくる。
しかもサイラオーグ・バアルまで巻き込むのはちょっとあれだ。彼に失礼だ。
「………どうしたもんかねぇ」
「どうしましょうですの」
と、俺と雪侶はう~んと唸りながら考え込む。
なにせ、有力候補から漁っているのに痕跡すら発見できないのだ。
これに関しては大王派や魔王派の息のかかった人間組織の支援もある。地球に関しては、もっとも繁栄している人間が動くのが一番だからな。
だから、ビィディゼだけでなくビィディゼの息のかかった連中の手がかりだって見つかってもいいと思ったんだが……。
「さて、こうなるとアプローチを変える事も考えるべきか」
「と、言いますと?」
雪侶が首を傾げるが、しかしこれに関しては結構な荒業になるだろう。
「探すんじゃなくておびき寄せる方向にシフトも考える。つまり、事態打開の為の餌を、奴が未だパイプを隠し持っていてもおかしくない連中に流すんだ」
「……またえげつない手を考えますこと」
悪いな、性分だ。
なにせビィディゼ・アバドンは失墜したも同然なわけだ。
レーティングゲームのランキング三位という、華々しい栄光を掴んだ立場。それが不正まみれのドーピング野郎というスキャンダルにより、表社会から逃亡する他なくなった。プライドが徹底的に傷つけられた事だろう。
なら、せめて裏社会で成り上がりを考えるぐらいの事はするはずだ。
おそらく奴は、大量発生した能力者の取り込みなども含めて使える手駒の確保を行っているだろう。
おそらく裏社会での成り上がり。もしくはディハウザーへの復讐か何かを考慮するはずだ。まあ、一枚噛んだ禍の団の残党との共闘戦闘などはないとは思うが。
なにせ奴は魔王クラス。下手にのさばらせておけば何するか分かったものではない。俺も手柄は欲しい。サイラオーグ・バアルを巻き込んだ手前、ある程度の成果は上げる必要がある。
だから、何としても奴を探さなくてはならないんだが―
「しかし、何を餌にしたらいいものか」
「聖杯戦争を引き起こすわけにもいきませんものねぇ」
俺と雪侶がそう頭を悩ませていると、ノックがした。
入ってきたのはシルシだ。
「兵夜さん、情報の更新が完了したわ。現時点における有力候補をまとめたわよ」
「助かる。さて、とりあえずはそっちを見るべきだが―」
と、俺はその資料を見て―
「………ん?」
凄い、嫌な予感を覚えた。
見て嫌な予感を覚えたのは、優先順位三番目ぐらいの場所。
レーティングゲーム三位だから三番目というのもアレだが、気になるのはそこじゃない。
ちなみに場所もこのイギリスだが、それだけでもない。
……補足資料で書かれている、近辺のイベントだ。
「なあ二人とも。この候補地点近辺のイベントで、植物学教授の講演会が開かれているんだが」
「……ああ、確かサイラオーグ様が仰っていた、マグダラン様が見に行ったとか言うイベントかしら?」
「それがどうしかいたしましたの?」
ああ、なんとなく何だが―
「現大王の子息が潜伏地点の近くにいる。……裏社会で名を上げたいなら、これはある意味格好の得物じゃないか?」
「「………」」
沈黙が響いた。
うん。嫌な予感がするだろうな。
これは仕方がない。念の為に動くべきだろう。
「………ちょっと様子を見てくる。悪いがグランソードを連れてきてくれ」
念には念を入れておこう。まあ、ゼクラム翁に恩も売れるし、悪い事ではないだろうな、うん。
そんなこんなで、俺達はイギリスの地方都市にやってきていた。
近年はどこもかしこも能力者の出現で大変で、電磁パルスによる都市機能のマヒもあって色々とあれな日々が続いている。
そんな中、この地方都市は地方都市ゆえに被害が少なく、奇跡的にも能力者の被害が少なかった。
そういう事もあってか、かなり明るい雰囲気だったな。
「で、大将。この辺だよな」
「ああ、あと100mぐらいだな」
グランソードが辺りを見渡しながら聞いてきたので、俺は食事の手を止めながら頭の中の地図を再確認する。
俺達は昼食代わりに屋台で購入したフィッシュ&チップスをぱくつきながら、目的の場所に移動していた。
お嬢様育ちのシルシ辺りは気にするかと思ったのだが、意外と抵抗なく普通に食べている。
「……こういうのって面白いわね。ただ、油が多いんだけど」
「諦めなさいませ。これでもましになった方だそうですわよ?」
むしろ興味津々のようだ。この辺まで考慮したというのなら、ゼクラム翁は慧眼と言う他ない。
まあ、シルシが雪侶と仲が良いのはあれだな。完全に将を射抜く為に馬を狙っているな。
……いや、政略結婚は一人ぐらいは必須だと思ってる。間違いなく一人ぐらいはやってくるとも思っていたし、俺の場合無しないわけにもいかないだろうとは思っている。
だがしかし、シルシの場合は少々状況が特殊すぎるんだよなぁ。
惚れられている可能性を考慮はしている。少なくとも、彼女自身が好意の類を見せているし、モーションもかけられている。
だが、そのきっかけが……なぁ。
などと思っていると、既に目的地に到着していた。
さて、後はマグダラン殿を探すだけなんだが―
「……ん? 確か、宮白兵夜ではないか」
―お、いたいた。
向こうから声をかけてくれるとは意外だった。まあ、俺も結構冥界では有名人だからな。
まあ、知られているなら話は早い。
「宮白兵夜とその眷属です、マグダラン様。お話はゼクラム翁より伺っております」
あまりへりくだらないように、しかし礼節を弁えてと。
それに対して、マグダラン・バアルは静かに手を前に出す。
「それはいい。だが、なぜここに?」
「はい。此方の講演会にマグダラン様が向かわれたと耳にしたのですが、現在捜索しているビィディゼ・アバドンがこの近辺にいる可能性が発覚したので、念の為に護衛に向かわせていただきました」
俺の説明に、マグダラン・バアルは少し自嘲の表情を浮かべた。
「……D×Dの者に、俺が助けられるとはな」
ふむ。
まあ、サイラオーグ・バアルと彼は仲が良いとは決して言えないだろう。
マグダラン・バアルの方は良い感情を抱いていない筈だ。恨み節の一つぐらいあるだろう。
だから、サイラオーグ・バアルと親しい俺達が救援に来るという事に思うとこがあるのだろうが―
「……まあ、基本
実際問題そういうわけだからな。
……そこのご子息、半目を向けるな。
「……主を馬鹿と言うのはどうかと思うが。不仲なのかね?」
「気の置けない付き合いをしているとお受け取りください」
はっはっはとそこは流す。
まあ、実際問題こう言った話を聞いたら、動きそうな面子ではあるしな。嘘は言ってない。
「まあ、馬鹿かお前はと言いたくなるぐらいのお人よしが多いという意味です。たぶん、先ほどの発言をイッセーが聞いてもその意味を理解できないと思いますよ?」
「……なるほど、あの男の同胞なだけあるという事か」
マグダラン・バアルはそう言うと、肩をすくめる。
まあ、家族の問題に深入りするのもアレだな。
俺はマグダラン・バアルと直接面識したのは今ぐらいだ、迂闊にそんな事をするわけにもいかないだろう。
「……では、帰る前に御一つしておきたい話があるのですが」
その言葉に、その場の悪魔全員が半目を向けた。
俺の扱いを分かってるなおい。
だが安心しろ。今回は黒い事をするつもりはない。
「実は
真面目な話、今後の事を考えれば冥界の自然環境などを生かした魔術研究は必須だ。
魔術には植物を利用する者は多々存在する。だから、冥界の植物の魔術的利用も当然行われる。
だが、それを行うには冥界の植物に対する専門的知識を集める事が必要だ。
その辺も考慮してサポート人材を集める予定なんだが―
「マグダラン様は植物に造詣があるとお聞きしました。もしよろしければ、そのお知恵をお借りできればと思いまして」
俺のその提案に、マグダラン・バアルは何故か沈黙した。
……あれ? 地雷踏んだ?
態々人間の講演会に参加するぐらいだから、植物の事が結構好きなのかと思ったんだが。
あ、魔術的に利用されるのが気に入らないとか……か?
「……そんな風に認められたのは、初めてだな」
そう、マグダラン・バアルは感慨深げに呟いた。
「バアル次期当主だった身としては、不適格とも言えるのだが」
「そうでしょうか? 複数の草鞋を履く事が珍しくない悪魔としては、学問に造詣があるというのは一種のステータスではないかと」
本当に、妙なところでプライドが高いもんだ。
文武両道なんてエリートのステータスだろうに。学問に対する造詣の深さは、武門に対する能力の低さをカバーする拍だと思うのだが。
まあいい。ぶっちゃけ俺の支援者として必要なのはゼクラム・バアルであって現バアル当主ではない。っていうかゼクラム翁さえ抑えとけばどうとでもなる相手だしな。
と、いうわけで―
「今後の大王派に必要なのは、思想が近しい
俺は真剣に誘いをかける。
今後の冥界を担う若手上級悪魔。その中でも植物に造詣が深く、実績を挙げているマグダラン・バアルは、植物を扱う魔術師にとっていい契約対象になるはずだ。
今のうちにこっちで関係を深めておくのは悪い事じゃない。
「……兄上が黒い事考えてますわね」
「そう言えば、
後ろで雪侶とシルシがこそこそと話してるが、俺は聞いてないからな!
「なあマグダランさんよぉ。悪い事は言わねえ、リアス・グレモリーに後で相談してから決めた方がいいぜ?」
グランソードも。お前何マグダラン・バアルに余計な事を言ってるんだおい。
そんなこと言ってこの商談が変な事になったらどうしてくれる! 割と真剣に今後に影響する話なんだぞ!!
くそ! マグダラン・バアルの反応を窺わなければ!!
俺が慌てて様子を見ると、マグダラン・バアルはどこか気が抜けたような表情を浮かべていた。
「……バアルとして、植物学で成果を上げるべきなどと言われたのは初めてだ」
そう呟いたマグダラン・バアルは、ふと空を見上げた。
「そうだな。こんな俺でも、バアルとして貢献できる事があるのか」
な、なんか凄い事になってきた予感がしてきたんだが―
「……兵夜さん、マグダラン様」
と、そこでシルシが鋭い声を上げる。
なんだ? 俺、もしかして地雷踏んだ?
大王派にしかわからない地雷を、俺が迂闊に踏んでしまったとか?
ちょっと慌てながら振り返ると、シルシは周囲を警戒していた。
………おいおい、念の為に動いていたら、当たりか?
「全員全集警戒! この辺り、囲まれてるわよ!!」
………はっはっは。
どうやら、来て正解だったのだけは間違いないな!!
さて、そろそろバトルに突入いたします。