ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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今回、切りどころが難しかったのでちょっと長いです。


コカビエル、やばすぎです!

 

 夜、俺たちは神父の格好をして町中を歩いていた。

 

 結局、戦闘になった際いちいち脱ぐのも時間がかかると思ったので、俺の発案で全員が神父の格好になることが決定した。

 

 フリードなら面白がって脱ぐまで待ってくれそうだが、他の連中が一緒にいたとしたら、それだけではなさそうな気がするからだ。

 

 ベルたちが山間部を調べている間に、俺たちがフリードをおびき寄せることができればそれでよし。

 

 念のためわざと発信機を付けさせてもらったので、向こうがアジトを発見するのが先だったら木場がそれに気づいて暴走した風に見せかけて突入する手はずになっている。

 

 俺はその手はずのイメージトレーニングを一応しておきながら、盗まれたエクスカリバーの能力を思い返す。

 

 あの後、戦闘になった際手の内がわかっていないと大変だということで、ベルがエクスカリバーの特徴を教えてくれた。

 

 一つは天閃の聖剣(エクスカリバー・ラピッドリィ)

 

 ゼノヴィアの破壊の聖剣(エクスカリバー・ディストラクション)が攻撃力を強化するのに対し、こちらはスピードを強化する代物だそうだ。

 

 これを保有しているのがフリードとのことなので、これになった場合木場との一対一になりかねない。

 

 数で囲もうにもスピードで翻弄されかねないからだ。

 

 もう一つは祝福の聖剣《エクスカリバー・ブレッシング》。

 

 これは聖なる力を強化する能力を持っており、対悪魔戦においてはディストラクションに匹敵する威力が予想される。

 

 さらに透明の聖剣《エクスカリバー・トランスペアレンシー》。

 

 刀身を透明にする聖剣であり、特に緒戦に置いては他より効果が高いはずだ。

 

 単独ならともかく、複数ででてきたら俺が相手をすることになっている。

 

 一応対策が無いわけではないからだ。ちょっと魔術を使うことになるが、ライザー戦前の修行のおかげである程度ごまかせそうだ。

 

 そして最後は夢幻の聖剣《エクスカリバー・ナイトメア》

 

 夢を操ったり幻術を使うことができる聖剣だそうだ。

 

 完全なかく乱戦闘仕様。ある意味対集団でこれより強力な聖剣は存在しないだろう。

 

「・・・さすがは七分の一でもエクスカリバー。どいつもこいつも一筋縄じゃいかなすぎる」

 

 これを相手にしなきゃいけないのかと思うと、ちょっと頭が痛くなってきたぞ。

 

「大丈夫だよ宮白くん。エクスカリバーは僕が破壊する」

 

「一対一ならともかく、それ以外だとさすがに俺たちも動かなきゃいけないだろ。・・・絶対に倒さなきゃいけないからこそ、お前みたいなのはクールに行こうぜ」

 

 やはり気をつけた方がいいな。

 

 だいぶ落ち着いたみたいだが、それでも聖剣に対する憎悪が半端ない。

 

 手数が多いタイプの木場は、戦闘に置いてどう立ちまわるかかなり細かく考える必要がある。

 

 世の中考えるより本能に任せた方がうまくいくタイプは多いと思うが、それはどっちかっていうとイッセーのようなタイプだ。

 

 こりゃ本気でサポートを考えた方がいいな。

 

 念のためはなれたところでナツミを待機させているが、これは本当に最後の手段だ。

 

 バラす気になっている俺がバラしたことでダメージを負うのは自業自得だが、ナツミは違う。

 

 何とかエクスカリバーをぶちのめして、木場の気を晴らしておかないとな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・来たよー。三名様ご案内って感じ」

 

 桜花が声を出し、さらにはどこからともなく剣を出す。

 

 やけに刀身がぶっとい片刃の剣だ。いったいどこから用意してきた?

 

「あ、これは私の神器で聖吸剣(ホーリーイーター)って言うのー。・・・で、あちらさんもやる気だから全員戦闘準備」

 

「どうやら、獲物がかかったみたいだね」

 

 木場が狂暴な笑顔を浮かべる中、前方に悪魔祓いらしき人影が三つ。

 

 そのうち一人が一瞬でこっちに突っ込んできた。

 

「生贄神父御一行ご到ちゃ~くってねぇ!!」

 

「来たか、フリード!!」

 

 真っ先に木場が反応して剣をぶつけ合う!

 

 ・・・わかっちゃいたがヤバいオーラだ。

 

 全く、聖剣なら聖剣らしくもっと聖なる人間に力を貸せよ!

 

「わ~お。誰かと思ったらむかつく糞人間ちゃんのお仲間じゃ~ん。イッセーきゅんも僕のこと忘れないでいてくれたぁ? 遠距離恋愛の恋人みたいに胸をドキドキしてくれてたかなぁ」

 

 相変わらずのいかれ野郎だ。

 

 素早く光の槍を展開。さらに魔力を使って大量に水を生み出し、さらにそれを切りへと変化させる。

 

 剣の種類を確認している暇はない。既に残り二人も接近中だ!

 

「イッセーは倍化を譲渡する準備をしてろ! 小猫ちゃんはイッセーの護衛よろしく!!」

 

 フリードの相手は木場に任せ俺は、残り二人を狙って駆け出す。

 

 そんな俺に追いつく人影が一人。こいつは桜花か。

 

「元ちゃんも守ったげてー。一人はこっちで十分だよーっと!」

 

 むしろ俺を追い抜く勢いで駆け抜けると、そのまま相手の一人と対峙する。

 

「ぐ・・・糞がぁ!! お前ら殺してうっぷん晴らしてやるよ!!」

 

 やけに苦しそうに吠えるはぐれの剣から、オーラがさらに倍増して放たれる。

 

 チッ! 祝福のほうか!

 

「ラッキー! これは相性抜群!!」

 

 なぜか喜んだ桜花が剣をぶつけ合った瞬間、驚くべきことに聖剣のオーラが一気に減少する!?

 

 しかも桜花の剣は輝きをまし、桜花も不敵な笑顔を浮かべて力を込める。

 

「私の聖吸剣の効果は聖なるオーラを吸収すること。聖剣の相手としてここまでふさわしい神器はそうそうないよー」

 

 こいつは頼もしい!

 

 となれば俺はもう片方! さて、夢幻か? 透明化?

 

「グ、ガ。貴様ら・・・コロス!」

 

 こいつも苦しそうだな。

 

 特に人工聖剣使いに後遺症はなさそうだったが、パワーアップでもしようとして変な強化でもしてんのか?

 

 だが、目の前の男は構わず突進。

 

 さらにその刀身は透明になって見えにくくなる。

 

 透明の聖剣か! だが甘い!

 

「悪いな。見えてはいないが感じてはいるぜ?」

 

 自信満々で振るわれた一撃だが、俺も自信満々でそれを交わす。

 

 さらに今度は突きを放つが、俺はさらりとかわすと思いっきり殴りつける。

 

「霧の微細な粒子のずれを確認すれば、物体がどこにあるかは意外と分かる。本当はもっと濃くして肉眼で物体を見えなくした時の戦闘方法だが、お前ら相手ならこれで十分だ!」

 

 もちろん嘘だ。

 

 実際はもっと凝ったものだ。

 

 霧を生み出すときに俺の切った爪などを利用して作り上げた粉末を混ぜあわて周囲に浮遊させる。

 

 それを魔術により反応させ、簡易的なレーダーと化しているのだ。

 

 追加でコンタクトレンズ型の魔力反応礼装を作り(宝石を原材料に使っているのでマジで高かった。しかも使い捨てなので超無駄遣い!)それをつけることでより分かりやすく認識する。

 

 本当はさっきの説明のように霧を深くして使用し、自分だけが正確に位置を把握できるようにする代物だが、連携を考えて霧は少なめにしてある。

 

 それでも、一対一で集中すれば刀身の長さを図るぐらいはちょろいもんだ!

 

 動きは鋭いが木場程じゃないし、これならやられることはまずないか。

 

 一方、桜花の方もかなり優勢。

 

 ところどころ鋭い一撃を叩きこんだりもしているが、文字通り目にもとまらぬスピードで距離をとると、聖吸剣で切り結ぶ!

 

 アイツ騎士やってた方がいいんじゃないか!!

 

「ホラホラホラホラ! 俺様のちょっぱやセイバー、天閃の聖剣の餌食になっちゃえよホントよぉ!!」

 

「くっ! 舐めるなァ!」

 

 って木場が一番ヤバい!?

 

 クソッ! フリードの野郎腕をあげてやがる!!

 

 さすがに背を向けて援護できるほど余裕があるわけじゃないし、桜花の方もいつの間にか一が入れ替わってるから、あれはあれでやりづらい!

 

 どうすれば・・・。

 

「おいおい! 俺達のことを忘れてもらっちゃ困るぜ!!」

 

 匙の声が響くとともに、黒い触手のようなものがフリードの足にへばりつく。

 

 瞬間、フリードの動きが僅かに、しかし確実に落ちる。とっさにフリードは触手を切ろうとするが、エクスカリバーを以ってしても全然切れない!!

 

 見れば匙の腕にはトカゲをデフォルメしたような姿パーツが。

 

 思い出した、あれは匙の神器だ!!

 

「俺の神器はちょっとやそっとじゃ切れないし、相手の力を吸い取ることだってできる!! 兵藤!」

 

「・・・行きますよイッセー先輩。えい」

 

「う、うぉおおおお! 木場ぁあああ!!」

 

 小猫ちゃんがイッセー投げた!

 

 なんて豪快だけど素早くできる譲渡デリバリー!

 

 イッセーが触れると同時に、木場のオーラが格段に上昇する。

 

 これならいけるか!

 

「・・・ほう、まさかこんな所で魔剣創造(ソード・バース)を目にすることができるとはな」

 

 ・・・新手か!

 

 見れば、そこにいるのは通常武装に身を包んだ悪魔祓いに護衛された、一人の神父の姿が。

 

 少し小太りなその目は、この距離からでもわかるぐらいどす黒い!

 

「おお! バルパーの爺さん! このばっちいベロがむっちゃ切れなくて困ってんだけど、どうにかできねぇ?」

 

 フリードの言葉に、木場の殺気が膨れ上がる。

 

「貴様がバルパー・ガリレイかっ!」

 

 この面倒な時に!

 

 バルパーは俺たちの戦いを少し眺めると、失望したかのようにため息をついた。

 

「まったく、フリードですら聖剣が上手く使えないとは困ったものだ。私が与えた因子を聖剣に込めろ。そうすれば自然と切れ味は増す」

 

「「・・・因子?」」

 

 俺と桜花の声が重なる。

 

 『因子』を『与えた』?

 

 やけに気になるワードだが、それはつまり、人工聖剣使いはドーピングのようなもので増やせるのか?

 

 まさか、こいつらの様子がおかしいのはその副作用・・・。

 

「よっしゃ切れたぁ! とりあえずここはいったん帰ろうぜ爺さん! 俺っちはともかく他の木偶どもが使い物にならねぇ!!」

 

「どうやら、計画はプランB変えた方がよさそうだ。全員、一度撤退するぞ!!」

 

 ちぃ! 思った以上に判断が早い!!

 

 フリードは一気に距離をとると同時、聖剣を桜花に振るって隙をつくると、祝福のほうを引っ張ってバルパーの元へと走る。

 

 さらにはぐれ悪魔祓いは一斉に銃を放ち、透明のほうを撤退させるために援護射撃を叩きこんだ!

 

「グッバイコスプレ悪魔チーム! 今度会った時が真のデスマッチだ!!」

 

 フリードが懐から閃光弾を取り出し地面に叩きつける。

 

 クソッ! 何気に撤退戦が上手いじゃねえか!

 

 目が慣れた時にはもう奴らの姿がない。

 

 だが甘い!!

 

 さっき透明の方を殴った時に、どさくさにまぎれて発信機を付けておいたんだよ!

 

 俺が逃げられた時のことを考えてないわけがないだろうがバーカバーカ!!

 

「追うぞお前ら!! ここで逃がすと部長が厄介だ!!」

 

「わかってる! 逃がしてたまるかバルパァアアア!!!」

 

「了解だよー!」

 

「あ、ちょっとまて宮白!」

 

「え、ちょ、桜花!?」

 

 イッセーと匙が呼びとめるが、そんな余裕は全くない。

 

 ここで逃がすのは得策じゃない。できればコカビエルと合流される前にカタをつける!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追いかけている間に連絡を入れてベル太刀とも合流。

 

 俺たちは山間部にポツンと立てられた大きめの建物に到着した。

 

「・・・かなり古い建物だな。大戦前の教会か何かか?」

 

 結局隠れ家に到着されてしまった。

 

 どうするよ、コレ?

 

「あ、携帯電話落としたー。宮白くん、持ってる?」

 

「えーっと・・・ダメだイッセー達の電話番号入れたやつ電池切れだ」

 

 結構どたばたしてたからな。

 

 クソッ! 準備は万端にしてたつもりなんだが・・・。

 

 これじゃあイッセー達と合流ができない。

 

 最悪イッセーに右腕を差し出してもらって、コカビエル戦の切り札にしてもらうつもりだったんだが、このままだとちょっとヤバいか?

 

 建物の規模から考えると、人数は二十人から三十人は入れそうだ。

 

 エクスカリバー四本にコカビエルという洒落にならない戦力から逆算すると、そいつらに一人ずつぶつかってもらい、残り一人で雑魚を相手にするってことになりそうだ。

 

 ・・・どう考えても難易度が高すぎる。

 

 こうなったらナツミと合流して・・・

 

「宮白くんー? 木場くんたちもう行っちゃってるよー」

 

 オイコラちょっと待て!!

 

 本当だ! 木場を先頭にベル達も突貫しちゃってるよ!

 

 ああもう畜生!! こうなったら毒を食らわば皿までだ!!

 

「行くぞ桜花! とっとと行かないと置いてけぼりだ!!」

 

「あいよー」

 

 あわてて追いかけた俺たちが追いつくのと、木場達が扉を破壊するのは同時だった。

 

「バルパァアア!! 一体どこに・・・っ!」

 

 激昂しているはずの木場が言葉を切る。

 

 その視線の先には、さっきまで俺と戦っていた聖剣使いの姿が。

 

 いや、あいつだけじゃない。他に二人ほどはぐれ悪魔祓いが倒れている!

 

 慎重に近づいて脈を測る。

 

 ・・・もう、死んでいる。

 

 念のため、トラップがないかどうか解析の魔術で確認すると、何やら妙なものが見つかった。

 

 なんだ? 妙な力のようなものが渦巻いている。

 

 ・・・回収できるか? ・・・そうだ、奥の手の宝石を使えば宝石魔術の応用で行けるはずだ。

 

 ちなみに、宝石魔術とは宝石に魔力を込めることで宝石自体を魔術の塊とする魔術だ。

 

 ちょっとキーワードを唱えて投げつけるだけで大魔術を発生さえることができるため戦闘向きだが、宝石を使い捨てなきゃいけないため非常にカネがかかる。

 

 金が手に入ったのでいくつか調達しておいたのがこんなところで役に立つとは・・・。泥棒対策で常時持ち歩いていて助かった。

 

 ・・・良し、これならいけそうだ。

 

「・・・宮白くん? いったい何を―」

 

「木場祐斗、それよりも今は前を向いてください」

 

 ベルが皆をかばうかのように前に出る。

 

 俺も宝石に謎の力を込めて前を向くと・・・。

 

「ようこそ、俺達の隠れ家へ。・・・歓迎するぜ」

 

 ・・・ヤバい。

 

 見ているだけで分かる。

 

 明らかにエクスカリバーとか魔剣とかの格をはるかに超える男がいた。

 

 下手をすると、ライザーと禁手状態のイッセーを足しても追いつかないほどのオーラが俺でも分かる。

 

「・・・実質、あなたがコカビエルということですか」

 

 ベルは確認するかのように尋ねるが、そんな答えは聞くまでもないだろう。

 

 間違いなく奴があいつらのボスだ。

 

「聖剣使いが二人に転生悪魔が三人。・・・なんだ、輝く腕のベル以外は雑魚しかいないのか。ミカエルもつまらん連中しかよこさなかったか」

 

 完璧に雑魚扱いされるが、それを怒る気にもなれない。

 

 少なくとも、俺たちをその程度とみ下せるほどの実力を奴は持っている。

 

「舐めてくれるなコカビエル。神の名のもとに断罪してくれる」

 

「主のために戦う私達をなめないでくれる? エクスカリバーを奪った報い、必ず受けてもらうわ」

 

 ゼノヴィアとイリナは強気の姿勢を見せるが、コカビエルはいにも介さない。

 

「貴様ら程度に俺が倒せるわけがないだろう。・・・輝く腕ならできるかも知れんが、他の連中などこの倍いても役には立たん」

 

「・・・覚悟はしてましたが、ここまでとは思いませんでしたよ」

 

 勝算を受けたベルだが、その表情は非常に苦い。

 

「コカビエル! バルパー・ガリレイはどこにいる!! 答えろ!!」

 

 未だ怒りを抑えきれない木場も吠えるが、今はそれどころじゃない。

 

 ・・・なめてかかっていた。

 

 オカルト研究部と生徒会が束でかかったとしても、奴一人と互角に渡り合うことすらできそうにない。

 

 クソ! フリードからライザー、さらにこれって難易度の上昇率が洒落にならないだろうが!!

 

「奴は一応協力者だ。・・・なんだかんだでそれなりに役に立っているしな。貴様ら雑魚にいちいち合わせるわけがないだろう? 俺たちは計画に忙しいんだ。適当に相手をしてやるからとっととくたばれ」

 

「貴っ様ぁああああ」

 

「木場落ち着け!! 本気で状況考えろ!!」

 

 やばいやばいやばいやばい!

 

 考えろ! 何か手があるはずだから何とか考えろ!

 

 この人数じゃ勝ち目がない! ベルの戦闘能力なら勝算だけはあるらしいし、何とか眷属全員がそろえば・・・。

 

 いや、部長に連絡して魔王様の応援を要請した方がいい! それでも間にあうかわからないぞ!!

 

 

「・・・えーっと、コカビエルだっけー」

 

 ・・・静かに

 

 そう、あまりにも静かに前に出て、桜花がその剣をコカビエルに突きつける。

 

「なんだ小娘。やめておけ、お前程度じゃ俺に傷をつけることだってできんよ」

 

「一つ聞きたいことがあってここまで来たんだけどさー。質問いいかなー?」

 

 こんな時になんだ?

 

 その後半伸びる口調が緊張感を緩めたのか、コカビエルは少しおもしろそうな表情を浮かべる。

 

「聞くだけ聞いてやる。言ってみろよ」

 

 その言葉に少しだけ、本当に少しだけ桜花はためらい―

 

「アンタの目的って、三大勢力で戦争を起こすことー?」

 

 ・・・は?

 

「・・・な、何を言っているんですか? 実質、意味不明な質問なんですけど」

 

「桜花さん? それはいったいどういうことだい?」

 

 今、こいつなんて言った?

 

「だってさー。堕天使の幹部が教会の大事なお宝奪って、魔王血族の陣地にやってくるって、どう考えてもややこしいことになりそうじゃん? 下手したら戦争だよー。そんな面倒なリスクふつうは背負わないよー」

 

 だから、

 

「逆転の発想で、戦争が目的だからこんなことをしたのかなーって思うんだけどー」

 

 言葉が、無かった。

 

 確かに、なんでここに逃げ込むんだとは考えていた。

 

 下手をすれば均衡状態が崩れかねないとも考えていた。

 

 ・・・それが、目的だったっていうのか?

 

 答えはすぐにやってきた。

 

 コカビエルはいつの間にかうつむいていたが、その体が少しずつ震えだす。

 

「・・・ふ、フフフ、フハハハハハハハアハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! 正解だ! お前頭がいいなぁ!!」

 

 ・・・マジ、かよ。

 

「ああそうさ! こうでもしないと、アザゼルもミカエルも魔王どもも、戦争を起こしてくれそうになかったんでな!」

 

「貴様・・・。そのためにエクスカリバーをわざわざ盗み出したというのか!!」

 

「そうさ。だがミカエルはこんな雑魚しかよこさない。とくれば、念のためここに逃げ込んで正解だった。エクスカリバーを使って魔王の妹どもをミンチにしてやれば、サーゼクスとセラフォルーは怒り狂ってくれそうだしなぁ!」

 

 ・・・最悪だ!

 

 こっちが戦争を起こさないために慎重に行動していたのが完璧に裏目に出た!

 

 戦争を起こすために準備してきた奴ら相手に戦争を起こさないために戦力を少なくしていた俺たちじゃ勝ち目がない!!

 

「上手い具合にアザゼル達の監視網が緩んでくれたおかげで、手駒もそれなりに集まってくれた。俺はこの地で戦争の火蓋を切る。エクスカリバーを使って、この街そのものを滅ぼせば、いくらなんでも戦争を起こせるだろうしな!」

 

「マジめんどいよー。会長がヤバいかもとおもって勝手に行動して正解だったー」

 

 ものすごい殺気を放ちながら久遠は嘆息するが、コカビエルはむしろ愉快そうに表情をゆがめる。

 

「その判断は褒めてやるが遅かったな! プランが変更されたことで戦争の準備はほとんど整っている。後はそうだな・・・お前らの学校で花火をあげてやるよ」

 

 やけに物騒なことをのたまいやがる。

 

 いったい何をする気だ?

 

「・・・俺の動機を当てた褒美に教えてやる。プランBは分割されたエクスカリバーの統合、及びその時のエネルギーを利用してこの街を吹き飛ばす儀式のことさ」

 

 本当スケールが違いすぎる!

 

 今までの騒ぎの比じゃ無さ過ぎる!

 

 糞が! 戦争を起こしたいって理由だけで、何の罪もない人間を何万人も一度に殺すつもりなのか!!

 

 呆然とする俺たちの中で、真っ先に動けたのはベルだった。

 

「ゼノヴィア! イリナ! 彼らを連れて逃げなさい!!」

 

 叫ぶと同時、ベルの姿が消え―

 

「・・・この町から少し離れた都市に、同僚を何十人か呼んでいます!! 既にシグナルは出しましたから、グレモリーに助けを求めて合流してください!!」

 

 コカビエルの真後ろから殴りかかった。

 

 その両腕は目がくらむほどの光に包まれ、コカビエルの後頭部に・・・。

 

「ほお、万が一に備えて戦力はかき集めていたか」

 

 あっさり、コカビエルが出した翼に阻まれる。

 

 ダメだ、ベルでも奴には勝てそうにない。

 

「・・・何を言っているベル=アームストロング! 私達も主のために―」

 

「実質それだと無駄死ににしかなりません!! 相手が戦争勃発をもくろんでいるのならば、共同で殲滅してもむしろ神の子を見張るものに恩を売れます!! 早くッ!!!!」

 

 ゼノヴィアが反論しようとするのをぶった切り、ベルが叫ぶ!!

 

 間違いない、あいつここで死ぬ気だ!!

 

「・・・引くぞ木場!! この状況なら総力を挙げてエクスカリバーとも戦える! 今は態勢を立て直すんだ!!」

 

 撤退のために霧を生み出す。

 

 下手をすればフリード達は逃がさないために退路を断っている可能性もある。

 

 ここは全力で逃げないと!!

 

「桜花! 比較的冷静な俺達でしんがりだ! 早く部長に増援を要請しないと不味い!!」

 

「わかってるよー! 急がないと本気でまず―」

 

「オイ」

 

 殺気が・・・

 

「逃がすと思っているのか? 貴様ら程度なら、輝く腕を相手にしながらでも十分殺せる」

 

 天使の鎧を持っているからこそわかる。この光力・・・ヤバい!!

 

「俺の計画に気付いた褒美だ。主の死体を見る前に先に行って待っていろ」

 

「桜花!!」

 

 ほとんど条件反射だった。

 

 既に一度人生を終えていたから、いつ死んでもいいように後悔なく生きてたのが理由なんだろう。

 

 翼を出し、両足と同時に加速に費やした俺は突き飛ばすように桜花をその場からどかし―

 

「喰らっておけ」

 

 光力の一撃を叩きつけられ、俺の意識は暗闇に堕ちた。

 


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