ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
迫りくるケルベロスを前にして、俺と久遠は別段特に慌ててなかった。
同類がポンポン増えてくれた上、よりにもよって調べてくれてる会長のお姉さんが魔王だということが発覚。最悪の場合は魔王様のところに逃げれば安全は確保できるだろう。おかげで精神状態は非常にいい。
確かに洒落にならない化け物だろうが、今の俺をビビらせるのにこの程度では役不足だ。
「半分任せた」
「あいよー」
それだけで十分だ。
生み出すのは聖剣使い戦と同じく大量の水。
だが、今度は霧になんてもったいないことはしない。
「
実家が作り出した近接戦闘用魔術。まあ、いうなれば水で出来たパワードアーマーみたいなものだ。
水を確保するのが大変だという致命的な弱点はあるが、その辺は悪魔の力で完全カバーに成功している。
はっはっは。便利だ、便利すぎるぞ悪魔の力!!
「吹き飛べやぁ!!」
敵の攻撃はスケートのように滑ってかわし、豪快に強化された筋力で殴り飛ばす。
スピードでは木場には敵わないだろう。パワーでは小猫ちゃんには敵わないだろう。
だが、スピードで勝てないならパワーで木場を押し切る。パワーで勝てないならスピードで小猫ちゃんを押し切る。
両者の中間ポジションに到達したと言ってもいい俺に、この程度は余裕だ!
そして、俺には新たな武器がある。
アーティファクト、渡り鳥の籠手。それが、俺が手に入れた力の存在だ。
能力は、久遠の世界では量産すら可能な、ファンタジーRPGにでも出てきそうな飛行船の遠隔操縦と、義手としての機能。
義手としての性能は、はっきり言って今の俺の腕より高性能。流石に精密動作に関しては慣れてないこともあって劣っているが、頑丈さも考えれば代用品としては十分すぎる。アンカーワイヤーなどの追加機能もある為非常に便利だ。
そして、もう一つ機能があるがここがポイント。
レイヴンは100メートルを超える全長であり、それゆえに輸送船として使えるほどのペイロードを持つ。
それら格納庫に格納された物体を、自在に転送することができる。
「・・・エクスカリバー破壊の為に調達していたダイナマイト!! 腹で爆発すればどうなるかな!!」
スピードで翻弄しながら口の中に放り込み、爆発するまでに少し離れる。
・・・うわぁ! 爆発したケルベロスの死体がグロイ!!
派手すぎるのでアジト発見までは家に置いていたんだが、回収してきてよかった。直接持っていると攻撃の余波で暴発の可能性もあるし、この能力はその危険性を極端に減らしてくれる。
一方、久遠も完全に翻弄していた。
何でも、あちらさんの世界では魔法だけじゃなくドラグ・ソボールみたいに気が存在していたらしい。
彼女はその双方に心得があるそうだが、好んで使っていたのは近接戦闘向けの気の概念。
分かりやすく言うと・・・。
「切り刻むよー!!」
瞬間的なスピードなら木場を凌駕し、瞬間的な攻撃力なら小猫ちゃんをしのぐ。
瞬間移動でもしているのかと思うほどのショートダッシュの連発で完全にケルベロスを翻弄して、急所を聖吸剣でズッパリ切り裂く。
瞬く間に、ケルベロスは全滅した。
「よっしゃー! 前座撃破ー!!」
「よし! 次本命!!」
思った以上に早く片付いたが、油断はしない。
イッセー達全員を相手にして、なお余裕で対処する相手に、この程度の小細工で対処できるわけがない。
死線だってことは、ちゃんと理解できているさ。
俺達の視線の先にいるコカビエルも、特に今の光景に思うところはないようだ。
「思ったよりは早かったが、まさかその程度で勝てるとは思ってないよな?」
「そりゃ当然ー。でも、この状況下で増援が来ないわけないでしょー?」
久遠は挑発するかのように不敵に笑うが、正直これは賭けだ。
最低でもエクソシストが何人かは来てくれるが、魔王様が来るかどうかは分からない。
来るにしても果たして何時間かかるかどうか・・・。正直、頼りにするには状況が不安すぎる。
だが、コカビエルはそんな俺達をあざ笑うかのように、とんでもないことを口にした。
「まあ、あと27分で最初の増援は来るらしいな。・・・とはいえ七分でここは終わるが」
どういうことだ? エクスカリバー融合の余波で街を滅ぼすなら、今吹き飛んでないということはまだ融合は終わってないはず。
視線を向けてみるが、なんかでかいクレーターができているは使い手のフリードは血ぃ流して倒れてるわ・・・エクスカリバーはその場に投げ出されてるわ・・・あれ?
一 本 だ け だ
「部長、あのエクスカリバーって、
「・・・残念だけど、融合してから20分に発動するようになってるのよ」
時限式なのかよ!?
とっさにしゃがんで解析開始。
・・・やばい、魔力が莫大すぎる。
しまった。融合=起爆スイッチだから10分も掛かるような時間はないと勘違いしていた!?
よし! それなら今すぐ実行しないと!!
転送させた輸血パック(使用期限を越えた物を調達。魔術儀式とかに使うかと思いまして)を破って、瞬時に流体操作で陣を描き始める。
「皆! 俺の話を聞いてくれ!!」
これは本気で切り札になる。
「六割ぐらいの賭けになるが、この陣を何とかできる自信がある!!」
「・・・なんだと!? まさかそんなことが!?」
俺のセリフに、コカビエルが動揺する。
・・・よし。これは想定外だったようだ。
「発動まで数分間、俺は戦闘できない。頼む、その間俺を守ってくれ!!」
これはかなり時間の掛かる大儀式だ。
当然、陣を描くところもかなり集中する必要があるから、ろくに動けるはずもない。
もし、そのタイミングで攻撃されたら・・・。
「・・・わかった。それはまかせて」
聞こえるはずがない、声が聞こえた。
「なんか大変なことになってるけど、そういうことなら大丈夫」
声は、俺の隣に立つ。
「その代わり、ちゃんと成功させる! あと、ちゃんと後でボクのことも守ってよね!!」
ナツミ・・・。
「お前、家戻った時に戻れって、ヤバくなったらシトリー家のお姉さんを頼れって言っただ―」
俺はどういうことか訪ねようとするが、それはナツミから放たれる魔力の波動に止められる。
「言ってる場合じゃないでしょ。・・・ボクだって、守りたいものあるんだから」
・・・礼は言わない。
それは、これを切りぬけてから言おう。
「・・・陣はできた。後頼むぜ」
ナツミは答えない。
ただ、コカビエルを見据えながらこう唱えた。
「―サタンソウル。・・・マルショキアス」
祐斗SIDE
その時、ナツミちゃんは圧倒的な波動を出しながらその姿を変えた。
肌は少し白くなり、髪は外に跳ねるように広がる。
一番の変化は服装だ。今まで来ていた服は消え、その体に鳥の羽と獣の皮で出来たような露出度の高いボディスーツみたいな、独特な衣装を身に包む。
何より、その威圧感はコカビエルに匹敵していた。
「お前・・・何者だ」
あのコカビエルは即座に光の剣を生み出して警戒する。
僕達の時とは違う。あれはそれほどの力があるのか。
「前に一度アレ見たけどさ。・・・多分、ライザー吹っ飛ばした時の俺より上だ」
イッセーくんの言葉に僕達は全員驚愕した。
赤龍帝の籠手の禁手はまさに禁じ手の名に相応しいものだった。
アレをしのぐ力だというのか・・・!
「・・・素に銀と鉄。礎に石と契約の大公」
宮白くんの声が聞こえる中、ナツミちゃんは静かに構えると一言だけ言った。
「兵夜の、仲間だよ」
彼女は動くそぶりを見せたかと思うと、一瞬でコカビエルの眼前に移動する。
早い! ベルすらしのぐスピードだ!
コカビエルは光の剣でその拳を受け止めていたが、その表情は今までのような嘲るようなものではなかった。
「降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国にいたる三叉路は循環せよ」
詠唱が続く中、ナツミちゃんとコカビエルは壮絶な近接戦を繰り広げる。
「
その両腕はもはや僕ですらみ切れないほどのスピードで動き、音が遅れて聞こえてくるかのようだ。
「繰り返すつどに五度。ただ、満たされる刻を破却する」
「面白い! 面白いぞ小娘!! 俺はこういうのを待っていたんだ!!」
コカビエルの歓喜する声にも耳を貸さず、宮白くんはただ唱える。
「――――告げる」
その魔法陣から魔力が放たれ、宮白くんの声に緊張が走る。
「汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に」
ナツミちゃんが距離をとったかと思うと、胸を逸らす。
それが戻ると同時に、コカビエルを包み込むほどの大量の炎が巻き起こった!
―動けない。
あまりに次元の違う戦いに、僕達は動くことが一切できなかった。
コカビエルは今まで本気どころか、手加減というレベルすら出していなかったのか。
「聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」
炎に押されるかのようにコカビエルは引き飛ぶが、すぐに態勢を整えると、大量の光の槍を乱れ撃つ。
それを両手両足をすべて使っていなしながら、ナツミちゃんは再び接近する。
「誓いを此処に」
全ての光を捌いたナツミちゃんはコカビエルに再度拳を振るうが、コカビエルは今度は翼すら操って迎撃した。
「我は常世総ての善と成る者」
その大量の攻撃に、ナツミちゃんは迎撃しきれず何度も攻撃をくらい、地面に叩きつけられる。
コカビエルは、彼女が立ち上がるよりも早く巨大な光の槍を生成した!
「なんだか知らんがまとめて吹き飛ばしてやろう。防いで見せろ小娘!!」
「・・・兵夜!!」
宮白くんは動じない。
自分は詠唱に全てをかけ、そしてナツミちゃんにかけているのか・・・!
それを理解したのか、ナツミちゃんは一つ頷くと両手を構える。
「・・・うん。分かった!!」
「我は常世総ての悪を敷く者」
光の槍は恐ろしい速さで飛んでくるが、ナツミちゃんはそれを受け止める。
「やるな! だが・・・本当に耐えられるかな?」
「耐えて・・・やるよぉおおおおおっ!!!」
光の槍とナツミちゃんは拮抗し・・・。
「汝三大の言霊を纏う七天」
宮白くんのその言葉と共に、閃光が僕達の目を眩ませる。
光の槍が爆発したのか!?
「・・・ナツミちゃん! 宮白!?」
イッセーくんの叫びが聞こえる中、僕達は結局何も動けずに・・・。
「・・・抑止の輪より・・・」
聞こえた。
苦しげながらも、しかし、はっきりとした声で―
「来たれ・・・ッ!!」
目が慣れる。
そこには変身が解けたのか、私服姿に戻った、だけど槍を受け止めきったナツミちゃんの姿と、それを抱きかかえる宮白くんの姿が!
「天秤の、守り手よ―――ッ!!」
瞬間、圧倒的な力がその場に解放された。
・・・何も、起こらない?
先ほどの強大な波動から見て、どう考えても桁違いの術式だったのは明白だ。
それじゃあ・・・この街は。
動揺する僕達だったが、それを止めるものが二つあった。
「・・・どういう・・・ことだ?」
僕ら以上に愕然としているコカビエルと、
「クックククククククククク・・・クハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!! ざまあみやがれ!!」
コカビエルを嘲笑い、大きな声で笑い出す宮白くんだった。
どういうことだ? 宮白くんの儀式は結局成功しなかったはずだ。
そんな僕の疑問に答えたのは、コカビエルの言葉だった。
「どういうことだ!? 何故、エクスカリバー融合時のエネルギーが消滅している!?」
消滅?
「消滅って・・・まさか、兵夜が?」
部長も信じられないらしく、茫然と宮白くんに視線を送る。
唯一動揺していないのは、宮白くんからナツミちゃんを受け取ってアーシアさんのところに運んでいる桜花さんだけだった。
事前に聞かされていたのだろうか? それにしても、目の前で確かに起こっているのにこの冷静さは、彼女の器量を感じさせる。
「驚いたか? 驚いたよな墜落天使!! いいぜ教えてやるよ気分がいいからぁ!!」
宮白くんはこの窮地を食い止められた喜びからか、普段では考えられないようないい笑顔を浮かべていた。
「異世界の技術は出力が低い? なら言わせてもらうが、この世界の儀式は技術がぬるすぎるんだよ」
宮白君はポケットティッシュを取り出すと、一枚出してそれを指で破る。
「例えるなら金庫を紙で作るようなもんだ。どんだけ鍵をかけて開けにくくしたつもりでも、肝心の本体が駄目だから簡単に中身を奪える」
得意げに宮白くんは歩き出す。よほど今の状況が嬉しいのか、ステップすら踏んでいた。
肝心の本体が弱い。この場合で言うなら、構成式の解除そのものができなくても、エネルギーを取り出すことが簡単だということか。
「まあ、だからって街一つ吹き飛ばすエネルギーをそのままポンと出すわけにもいかないが、その辺の対処は簡単だ」
僕ら全員を視界に納めれるところまではなれると、大きな動作で両手を広げて天を見上げる。
「・・・俺がやったのは最終的に人類皆殺しやら人類完全洗脳すら理論上は可能にできる超極大大魔術儀式バージョン7分の1・・・それも最初の初期段階!! そんなもん街一つ吹き飛ばす程度のエネルギーでやれば当然ガス欠で失敗するが、当然そんなもんやられたらエネルギーなんて残らないよなぁ!!」
できないことが前提の魔術で、エネルギーそのものを無駄に消費させたのか!?
発動できなければ何の影響も及ぼさず、安全に莫大なエネルギーだけを消滅することができる。
しかし、それだけのことが可能な魔術とはどうすれば行うことができるんだ? 彼の世界はいったいどういう技術が広まっていたんだ!
「・・・反則すぎます」
「それだけの大術式。例え魔王様といえど絶対に不可能ですわ。彼の世界はいったいどういう世界だったのですか・・・?」
小猫ちゃんや朱乃さんも驚いている。
当然だ。そんな儀式この世界には存在しないはずだ。
これで出力が高位堕天使に劣る? 今まで出てきていなかっただけとはいえ、そんなことがあり得るのか。
「すごいよねー? 私の世界も超広い異空間作った魔法使いとかいたけどー、これはこれであり得ないよねー」
桜花さんの言った内容もとんでもない。まさかこれほどの力を発揮することができるとは。
先ほどのケルベロス戦で見せた魔術と言い、彼らの力量はそこが知れない。
だが、コカビエルの表情は次第に落ち着いていった。
「・・・まあいい。所詮貴様らでは俺には勝てんのだ。全員殺してからサーゼクスが来るまでに滅ぼせばいいだけの話だ」
その言葉に、陣の無効化に沸き立ってた僕たちの心が冷える。
そうだ。コカビエルの戦闘能力は単独でこの地方都市一つ滅ぼすことができるほどの大出力を誇っている。
ここで僕たちが抑えきれなければ、どの道―ッ!
「・・・それが、どうしたというの?」
戦慄する僕たちを呼び戻したのは、部長の静かな声だった。
部長は、全く臆することなくコカビエルを毅然と見据える。
「今言えることはただ一つよ。私の下僕は、私達だけでなくこの街全ての人々を救って見せた。あなたからね、コカビエル」
全身から滅びの魔力を全身からみなぎらせる。
既に消耗しきっているだろうに、その出力は今までで一番強い!
「私の自慢の下僕がここまでしてくれたのよ? 私達がそれにこたえなくてどうするというの?」
その言葉に、僕たちは思い出した。
彼は、下僕になる前から僕らの力になってくれていた。
アーシアさんの時は、たった一人でフリード達を引き付け、その命と引き換えに堕天使を一人滅ぼした。
レーティングゲームの時も、イッセーくんと小猫ちゃんが動けるようになるまで、たった一人でライザーを引き付け、あと一歩で倒せるところまで追い込んだ。それも、最後にイッセーくんが勝つための切り札まで用意して。
そしていま、彼は僕たち全員が絶望しかけるほどの危機を、ナツミちゃんの援護があったとはいえ解決してくれた。
・・・そうだ。そうじゃないか。
彼は、僕の憎しみを晴らすために、僅かな時間で様々な準備も整えてくれた。
今までずっと不安だったろう。
イッセーくんは知っていたとはいえ、人には言えそうにない秘密を抱えたまま僕と一緒にいたのは。
きっと、心を開くことなんてできなかったはずなのに、彼は僕たちの力になってくれた。
そうまでしてくれた彼に、僕らができることなんてただ一つだ。
彼の力に、なることだ!
「あなたが倒される理由はいくつもあるわ。我が兄を愚弄したこと。この街を滅ぼそうとしたこと。そして何より、私の大事な下僕たちを、散々侮辱してくれたこと・・・っ!!」
僕たちは立ちあがる。
そうだ、ここまでおぜん立てされて、増援が来るまで戦うことすらできないだなんてあり得ない・・・あり得ないんだ!
「さあ、私の可愛い下僕たち! 兵夜に続くのよ! たかがコカビエル程度足止めできないわけがない。この街を守るのは私たちなんだから!!」
「もちろんですよ部長!」
部長の言葉に応えるのイッセーくんだ。
宮白くんの親友の彼こそ、あの頑張りを喜んでいるのだから。
「コカビエル! お前をたたきつぶすのは魔王様かもしれないが、お前が負けたのは宮白だ! お前がバカにした、俺の大事な親友だ、このクソ堕天使ッ!!」
同志たち、もう少しだけ頑張ってくれ。
そして宮白くんも安心してくれ。
君の仲間はここにいる。そう、僕らは君の友達だ!!