ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド   作:グレン×グレン

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総督、ドつかれます!

 

「さあ走るんだヴァンパイア! 次はニンニクに十字架に聖水もセットで追いかけるぞ!!」

 

「いやぁああああああ! 浄化されちゃうぅううううう!!」

 

「・・・ギャーくん。とりあえずニンニクは食べて元気になろう」

 

 デュランダル片手に追い回すゼノヴィアと、涙目で逃走するギャスパー。そこにニンニクをもって追撃する小猫ちゃんまで加わって、旧校舎裏はいろいろとカオスな状況になっていた。

 

 なぜかゼノヴィアがヴァンパイアハントもやったことがあるから大丈夫という謎理論を展開してギャスパーの強化を買って出たが、止めた方が良かっただろうか。

 

 なんでも健全な精神は健全な肉体からということだが、スパルタなのはグレモリー眷属特有の思想か何かか?

 

 精神修行のために苦行をするのは珍しくないが、デュランダルは酷いと思う。

 

 しかし楽しそうだな。・・・Sに目覚めてないといいんだが。

 

 あと小猫ちゃんは見たことない一面を見せている。唯一同年代だからからかいたいのだろうか?

 

「はぅう・・・。同じ僧侶なのに目もあわせてくれませんでした」

 

 そしてアーシアちゃんは涙目だ。

 

 どうやらもう一人の僧侶に会いたくて会いたくてたまらなかったらしい。

 

 まあ、特殊な事情で参戦できない先輩の存在なんて気になって当然だ。

 

 それが、なんと引きこもりの女装少年。いろいろな意味でアーシアちゃんはショックだろう。いや、アーシアちゃんは女装とかじゃショックは受けないだろうか?

 

 そして俺たちは何をしているのかというとだ。

 

「そんじゃイッセー、終了な。・・・聖剣の因子の時でもわかってたが、魔力以外でも応用きくみたいだな宝石魔術」

 

「うぅ・・・。部長や朱乃さんとのチューチュータイムがぁ」

 

 イッセーのドラゴンの気を宝石に込めれないかどうか試してみました。

 

 なにぶん範囲拡大は俺の指示みたいなものだからな。当然その分の対策は立てておく必要がある。

 

 問題はこのドラゴンの気をどう活用するかだが、その辺は今後の研究課題ということにしておこう。

 

 それはそれとして出費もひどい。今度イッセーをヤクザな方々が主催する賭博バトルセンターにでも連れて行って大暴れさせた方がいいだろうか? いや、俺が出てファイトマネー稼いだ方が手っ取り早いか?

 

 まあ、将来的に金を稼いでドラゴンの力を宿す魔道具でも作ればいいかと考えなおし、ギャスパーの特訓の方へと視線を向けようとして―。

 

「やっほー!」

 

 後ろから勢いよく抱きつかれ、ドラゴンの気を封じた宝石を飲み込んでしまった。

 

「ングゥ!? ・・・ヤベ呑んだ!?」

 

「あー、ゴメン。もしかして大変なことしちゃったー?」

 

 この緊張感の足りない口調は・・・。

 

「久遠? お前なぁ・・・。ってナツミもいたのか」

 

「そだよ。ってゆーか大丈夫? 何か飲み込んでたけど」

 

 最近ナツミは久遠のところにもよく遊びに行っている。

 

 まあ転生者同士仲良くなりたいとか考えてるんだろうし、俺としても止める理由はない。

 

「ちょっとイッセーのドラゴンの気を吸い取ってたんだが・・・だめだ、完全に吸収された」

 

 部長や朱乃さんも普通に吸ってるし、まあ死ぬことはないとは思うんだが・・・。

 

「つか、お前らこそこんなところでなにしに来てんだ?」

 

「封印された僧侶がトレーニングやってるっていうから見に来たんだー。おーい元ちゃんーこっちだよー」

 

「分かってるよ! よう兵藤に宮白。噂のひきこもり眷属はどこにいるんだ?」

 

 匙までやってきて賑やかなことになってきた。

 

「あそこでゼノヴィアと小猫ちゃんに追いかけれれてるのがそれさ」

 

 イッセーが指し示す方向に集まる視線三対。

 

 とりあえず、ショックはやわらげておいた方がいいだろう。

 

「先に言っておくが女装少年だ。男の娘だからへんな期待はしないように」

 

「男の子なんだー。かわいいねー」

 

「女の子にしか見えないね。あれ本当に男?」

 

 久遠とナツミの感想には俺も同感。どう考えても男には見えないよなぁ、マジで。

 

「本当だよ。普通、女装って人に見せるためにするもんだろ? なんでそれで引きこもりなんだよ?」

 

「まったくもって同感だ。にあうっていうのがまたひどいよな」

 

 匙とイッセーがうんうんと頷きあう。

 

 なんだか平和な時間が流れ始める。ギャスパーが追いかけまわされているのは問題な気もするが、おおむね平和な時間だろう。

 

「なんかさー、もうすぐ三大勢力で会談が開かれるとか思えないぐらい平和だよねー」

 

「そだね。会談も平和に終わるといいよねぇ」

 

 まったりし過ぎなぐらいにまったりしながら、久遠とナツミはそう言いあう。

 

 確かに、ちょっと失敗したら一気に戦争が起こっても全くおかしくないとんでもないビッグが集う会談がもうすぐ起きるような雰囲気ではないな。

 

「まあ、そんな会談が起こせるのも俺たちが頑張ったからだし? 平和なひと時ぐらいの報酬はあってもいいだろ」

 

 俺は本気でそう思う。

 

 悪魔になったからって戦争に参加しなきゃいけないわけじゃないんだし、いくら長すぎるほどの人生が待っているとはいえ、そこまで戦うことを考えなくてもいいだろう。

 

「セラフォルーさまのおかげで転生者(俺ら)の身の安全も保証できそうだし、これからは是非平和に暮らしたいな」

 

 というより、悪魔になってからトラブルが続出しすぎている。

 

 中級堕天使のたくらみに巻き込まれ、上級悪魔とレーティングゲームした揚句一騎打ちする羽目になり、挙句の果てに超上級な堕天使の野望に巻き込まれて街ごと消滅の危機に陥った。

 

 どう考えてもスケールの上昇速度が半端なさすぎる。この調子でいけば、次は魔王と激突するとか割とあり得そうで怖い。

 

 絶対平和に終わってくれ。いや、マジで。

 

「そうだよね。ボクもどうなるか心配だけど、大丈夫だといいな」

 

 そう言いながら、ナツミは俺の袖をつかんだ。

 

 そういえば、あいつはあの最終形態を使って一対一でコカビエルの食い下がってたな。

 

 俺も大概やらかしたが、こいつも大概やらかしている。問題視されたら確かにヤバい。

 

「ま、最悪俺と一緒に魔王様のところに亡命でもすれば何とかなるだろ。ちゃんと頑張るから安心しな」

 

 そう言いながらナツミの頭をなでる。

 

 さわり心地がいいな!

 

「そうだよー。セラさまに限ってひどいことはしないし、いっそナツミちゃんも会長のとこに転生したらー?」

 

 久遠もそう言いながら頭をなでるのに参加してきた。

 

「おいコラ。なでるの邪魔だからちょっとやめろ伸ばしTHEソード」

 

「えー! ずるいよ兵夜くんばっかり! 私もなでるー」

 

「わ! ちょ、ちょっと!? 頭の上がヤバいからぁ!!」

 

「お前ら、仲いいなぁ」

 

「ああ、すっげぇ同感」

 

 なでバトルを勃発させる俺達をあきれて見ているイッセーと匙。

 

 いや、なんだかなで心地がいいんだよなこいつ。

 

「仲がいいのはいいことです。よかったですね、ナツミちゃん」

 

 アーシアちゃんはほっこりしている。うん、こういう反応の方がやっぱいいな。

 

 こういう時間がずっと続けば、平和で何よりなんだけどなぁ。

 

 と、そんなことを考えているとタイミング見計らって邪魔な奴が現れるわけで―

 

「おーおー。悪魔さん方はこんなところでお遊戯かい?」

 

 ・・・ききなれない声に視線を向ければ、そこにはちょい悪系とでもいえばよさそうなおっさんの姿が。

 

 服装は浴衣だが、学校にそんな姿で入れるとはどういうことだ?

 

「・・・アザゼル!!」

 

 イッセーが叫びながら赤龍帝の籠手を展開した。

 

 ・・・アザゼル?

 

「って堕天使総督じゃねえか!? なんでここに!?」

 

 とっさに天使の鎧(エンジェル・アームズ)を展開して迎撃態勢。

 

 宝石は携帯していてよかった。

 

 いざとなれば呪いをかけて方向感覚を狂わせる・・・!

 

 既にゼノヴィアと小猫ちゃんも戦闘の構えを見せており、アーシアちゃんとギャスパーは後ろに下がったり木の裏に隠れたりしていた。

 

「ひょ、兵藤!? アザゼルってホント!?」

 

「堕天使総督の!? え、ホントに・・・?」

 

 未だ状況が把握しきれていない匙とナツミも、とりあえず警戒はしているようだ。

 

 そりゃそうだろ。俺だって信じられない。

 

「ああ。俺はあいつに何度かあってる。間違いない・・・!」

 

 イッセーが後ずさりそうになるほどの状況だが、さてどうすればいい?

 

 さすがに三度生贄を出してイッセーに禁手を使わせるのは避けたいが、俺もエクスカリバーは手元にない。

 

 まともにダメージを与えられそうなのはナツミのサタンソウルぐらいだが、それだって時間制限が厳しい。

 

 くそ! こうなれば駄目もとで英霊召喚を試みて・・・っ!

 

「そうなんだー。よろしくお願いしまーす」

 

 ものすごく緊張感のないあいさつが響いた。

 

 視線を向ければ、むっちゃなれなれしそうに手を振ってる久遠の姿がそこにはあった。

 

 こいつ、構えてすらいねぇ!?

 

「ちょっ!? お前何やってんの!?」

 

「桜花!? おまっ、アザゼルっ、前ぇ!!」

 

 俺と匙が思いっきり動揺しながら非難するが、久遠の奴は一切動じていない。

 

「このタイミングで戦闘したら、魔王様キレるしさすがにないでしょー。どっちにしても勝てないしー」

 

 そういうと、久遠はポケットからお菓子を出してポリポリ食べ始めた。

 

 いや、どっちにしても緊張感持とう!?

 

 そんな久遠を見て、アザゼルはやけに感心した様子を見せていた。

 

「わかってるじゃねぇか。コカビエル程度に苦戦して、しかも切り札がなくなったお前らじゃぁ俺には勝てない。しかもやる気がないことまで気づくとはな。・・・お前、前世じゃ相当修羅場くぐってるだろ」

 

「むっちゃくちゃ鈍ってるけどねー。だてに一ケタ代から戦場を駆け抜けちゃいないよー」

 

 今度はジュースまで取り出して飲みながら、アザゼルに応じる久遠は一切緊張していない。

 

「ちなみに、他のグレモリー眷属は会長と一緒に会談の打ち合わせ中だと思うから、用があるならまたあとでねー」

 

「しかも俺の目的まで見抜いてやがるか。・・・しかし聖魔剣の奴はいねぇのかよ。せっかく見に来たのに残念だな」

 

 狙いは木場の聖魔剣かよ!

 

 なんなんだコイツ。神器の研究者か何かなのか?

 

 圧倒的に状況不利な空気に息苦しさを感じながら、俺はこの空気を何とかできるものがないかいろいろと視線を動かし―

 

「・・・あ」

 

 それに気付いた時にはもう遅い。

 

 アザゼルもそれには気づかず首をかしげるが、それは致命的な隙となった。

 

「なんだ? 俺の顔に何かついてるの―」

 

「・・・アーザーゼールーッ!!」

 

 後頭部にモロに蹴りをくらった。

 

 蹴りを入れたのは、俺の元お得意様の小雪だ。

 

 そのままアザゼルの後頭部を踏みにじり、思いっきり青筋を浮かべて怒鳴り始める!

 

「なーに考えてんだこのファックが! テメーは和平結ぶ気があるのかこのダーホが!」

 

「痛ってぇなぁ。いいじゃねえか気になる神器をちょっと見に行くぐらぃい!?」

 

 アザゼルの屁理屈を文字通り打ち抜いたのはデザートイーグル。

 

 発射されたのは光の弾丸だが、破壊力は文字通りケタが違う代物だった。

 

 少なくとも、悪魔払いの光の弾丸なぞ歯牙にもかけない威力なのはわかる。

 

 ・・・あんな緊急事態に呼ばれる時点で相当の実力者なのは知ってたが、少なくも俺を殺した堕天使の槍より威力はでかそうだな。

 

「こういうときは慎重に動けって言ってんだよファック。大胆にも程があるだろーが火種をほおり込みたいのかテメーは?」

 

 そういいながら足を下ろす小雪だが、アザゼルの頭は上がらない。

 

 いや、上がるどころが突然ジェット噴射でもされたかのようにさらに地面に押させつけられていた。

 

 アレがあいつの能力か何かか?

 

「ちょ・・・オマッ!? エアロハンドはやりすぎじゃねえか!? 俺総督だぞ、総督!!」

 

「副総督とバラキエルの旦那から許可はもらってんだよファックが。何かあったら骨の一本まではOK出てんだ分かったかファック総督?」

 

 信用ない総督だな。

 

 だがこれで分かった。

 

 この男、基本的にトラブルメーカーだ。

 

「お前も苦労してんだなぁ。同情するぜ青野小雪」

 

「ありがとよ宮白。お詫びと言っちゃなんだが、アタシの能力を教えてやる」

 

 そういうと、小雪はなぜかアザゼルの太ももの間に手をおくと―

 

「ぐがががががががががががががががががががががががががっ!? やめ、暴風電気アンマはマジでやめろぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!?」

 

 ものすごい突風がアザゼルの股に突き刺さった。

 

 ・・・うわぁ。

 

「あたしの世界では天然ものの特殊能力者がまれに出ててな。それに対抗するための反撃手段としての魔術が生まれたり、人為的に能力者を生み出そうと科学的研究都市が生まれたりした」

 

 そう言いながら、小雪は腰を静かに下ろす。

 

 その尻の部分から風の流れが生まれ、まるで椅子の腰掛けみたいに重さを支えて待機の流れが生まれてきた。

 

「コレが、軍事的な戦術レベルの価値を発揮させるレベルに到達した大能力者(レベル4)空力操作(エアロハンド)だ。覚えとけよな」

 

 アザゼルを悶絶させながら放つ言葉に、俺たちすべては戦慄した。

 

 風の流れを全て操っていると言ってもいいそれは、本気を一切出していないとはいえ、アザゼルを確かに翻弄している。

 

 戦術的な価値とはいったが、人間の軍隊のレベルとはいえ、それだけの力を発揮する能力を人為的に生み出すことができるのか・・・!

 

 だけどそれを駄目な人のお仕置きにしか使用しないってどうよ?

 

「まあ、風を操る程度のクソ能力だってバカの仕置きには使えるんだ。お前らも力の有効利用って言うのを考えてみたらどうだ?」

 

 そういうと、小雪は風をようやく止めた。

 

「・・・ってぇな。なんでちょっと挨拶しただけでここまで痛い目見なきゃなんないんだよ?」

 

「一組織のトップのあいさつってーのはそこまで痛い目見せてもいいぐらい重要だろうが、ファック!」

 

 実に苦労しておられるようで同情する。

 

「・・・で? 用事が終わったなら帰ってくれると俺らの精神面には抜群に最高なんだけどな」

 

「いいじゃねえかちょっとぐらいみても。仲良くしようぜ悪魔くん達」

 

 一切懲りてないなこの堕天使!

 

 ためいきをつく小雪を気にせずにこっちをニヤニヤとみているアザゼルだが、その視線が一か所に固定された。

 

 ギャスパーを見ている? 何のつもりだ?

 

停止世界の邪眼(フォービドゥン・バロール・ビュー)か。その様子じゃ制御できてないみたいだな?」

 

 ・・・っ! 一目で見抜くか!

 

 アザゼルは神器に造詣が深いとか言ってたが、そこまで知識が豊富だっていうことかよ?

 

「なんだよ? 迷惑料にアドバイスでもくれるってのか? それとも制御用のマジックアイテムでも用意すんのかよ神器オタク」

 

「悪魔側にはねぇのか? 研究が遅れてんなぁ」

 

 俺の嫌味をあっさりスルーしながら、ギャスパーを物珍しそうに見るアザゼル。

 

 小雪はその様子をみて、額に手を当てながらため息をついていた。

 

「まー気にすんな。とりあえず危害を加えるつもりはねーみたいだからよ」

 

「それならいいよー。あ、でもアドバイスくれると助かるかもー」

 

 久遠さん! すいませんがもうちょっと警戒してくれませんかね!!

 

「さすがに物まで渡すとシェムハザがうるせぇしな・・・。お、いいのがあった」

 

「ぃい!? な、なんだよ一体!?」

 

 アザゼルの視線が匙の方を向き、思いっきり匙は警戒する。

 

 気持ちはわかる。

 

「そいつぁ黒い龍脈(アブソーション・ライン)だろ? それを使えば余分な力を吸い取れるから、暴走せずに練習できるはずだ」

 

「え!? 俺の神器ってそんなことまでできんのかよ!? てっきり相手のパワーを吸い取って弱らせるぐらいなのかと・・・」

 

 応用範囲が意外に広いな!

 

 それなりに強力な神器だと思っていたが、そこまでできるってことは・・・。

 

「・・・コカビエルが発動させていた魔法陣も、エネルギーを吸い取って不発に終わらせることもできたのか?」

 

「理論上はできるぜ、転生者の坊主。普通にやれば仕様者が耐えきれないだろうが、ラインは切り離して他につなげることも出来るから、余分なタンクになるものがあれば不可能じゃぁない」

 

 ・・・すごすぎるだろ匙の神器。

 

「す、すっげぇな匙! お前そんなことまでできたのかよ!?」

 

「うわー! そんなすごかったんだ元ちゃん! マジすごいよチューしたげるー!!」

 

「そ、そうみたいだな兵藤。・・・って桜花やめろ! お前キス魔なのかうわっちょっと!?」

 

 イッセー達の賛辞を受けるより早くパニック状態になっているんだが、大丈夫か匙は?

 

 あーあーあーあーほっぺたがキスマークだらけになってるよ。久遠って意外とキス魔だったんだな。

 

「ちなみに、黒い龍脈はいくつにも分断された黒邪の龍王(プリズン・ドラゴン)、ヴリトラの魂が封印されたそれなりに格の高い封印系神器さ。・・・そんなことも知らないとは、悪魔側の神器研究は遅れてるな」

 

 まるでゆで卵すら作れない人を見る料理人みたいな感じでためいきをつくアザゼル。

 

 どうやら、神器の研究に関して言えば堕天使側は何歩も先に進んでいるらしい。知識量が圧倒的すぎる。

 

「そんなに教えて大丈夫なのか? 副総督あたりがいろいろとうるさいぜ?」

 

「このレベルの神器が暴走状態でほっとかれてる方が大変だろ。別にこの程度機密ってわけでもねぇんだから、問題ねえよ」

 

 小雪の意見も対して取り合わず、アザゼルはそういうと立ちあがった。

 

「完全に制御したいって言うなら赤龍帝の血を呑ませるのが手っ取り早い。ヴァンパイアならそれだけで十分効果があるだろ。・・・帰るぞ小雪」

 

 それだけ言うとアザゼルはイッセーのほうに視線を向ける。小雪も申し訳なさそうな目をしていた。

 

「赤龍帝。ヴァーリの奴が迷惑かけたみたいだな? ま、いくらあいつでもいきなり赤白ライバル対決を始めたいとは考えちゃいねぇよ」

 

「それはマジで悪かった。バカやんねーように見はっとくから勘弁してくれ」

 

 それだけ言うと、二人は背を向けて歩いていく。

 

「・・・正体知らせずにたびたび俺たちに接触してきた、アンタたちのほうは謝らねえのかよ」

 

 そう、イッセーの言葉が二人にかけられた。

 

「そりゃ俺の趣味だ。謝らねえよ」

 

「ちゃんと報酬は払ってるだろ? 客のえり好みしてんじゃねえよ」

 

 それだけ言うと、二人は去って行った。

 

「・・・あ、そうだ」

 

 かと思ったら、小雪の方が立ち止まって俺達の方に向き直った。

 

「朱乃は元気でやってるか? どうしてもその辺が気になっちまってな?」

 

「え? あ、ああ。いつもニコニコとして元気でやってるみたいだけど・・・それが?」

 

 イッセーが思わず自然と答えたが、お前もうちょっと警戒してもいいんじゃねえか?

 

「・・・直接自分で聞けばいいだろ? 知り合いなんじゃねえのかよ?」

 

 そうだ。その辺は直接本人に聞けばいいだけだ。

 

 コカビエルを回収しに来ていたときの発言から考えて、二人は知り合いだということだけはよくわかる。

 

 なら直接聞けばいいだけの話だ。

 

 なんで、自分から聞こうとしない?

 

「・・・あたしは、たぶん嫌われてるからな」

 

 それだけ言うと、小雪も背を向けて歩き出す。

 

「ま、知りたきゃ直接本人に聞けよ。こういうのは自分の口から言わなきゃ腹立つってもんだ」

 

 ・・・なんだか、さびしそうな答えだけが残されていった。

 




最後の作品、とあるシリーズから登場です。

これで、とりあえずクロス作品は終了です。さすがにこれ以上はこっちが混乱して裁き切れない・・・。

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