ハイスクールD×D 転生生徒のケイオスワールド 作:グレン×グレン
正直な話、圧倒的という言葉が脳裏をよぎった。
確かに敵は強大だが、あいにくこちらのほうが戦力では上だ。
とはいえ油断はしない。
『アーチャー、悪いんだけど戦闘中』
『警備の連中に連絡したらすぐに行くわ。それまで持ちこたえなさい』
理解が速くて助かる。
いくら空間こと断絶して察知を遮断しようが、サーヴァントとマスターのつながりまでは立てなかったようだ。
それが可能ならこちらも連絡することができる。そして連絡できれば対処は十分可能だ。
「・・・形勢逆転だなこれが。少なくとも、これで悪魔の連中には気づかれたということか」
それに気づいているフィフスが溜息をついた。
―正直に言えば、ここでの戦闘は良策ではない。
陽動の可能性を考えてアーチャーとタンニーンさんを置いておいたのだが、連れてきてたら速攻でこいつら逃げてくれただろうし失敗しただろうか。
まあアーチャーは何とかなるから心配してないが、だからと言って避けれる戦いなら避けておきたい。
数の差を理解して逃げてくれると助かるんだが・・・。
「・・・大王の息子が一番危険か。ほかは任せたぜ、これが」
どうやら逃げる気はないようだ。
フィフスが首をコキコキと鳴らしながら、鋭い視線をこちらに向ける。
「歴代一の無能でありながら、体術においてすでに冥界でも有数の領域へと到達しつつある時期大王。・・・相手にとって―」
その瞬間の動きを、俺は認識することができなかった。
フィフスの姿が揺らめいたかと思った瞬間、すでに奴はサイラオーグ・バアルの眼前にいた。
「―不足はない、これが!!」
―次の瞬間、同時に二人の姿が掻き消えた。
「・・・へ!? ちょ、どこ!?」
「あっちだよー」
久遠が指さす方向に視線を向けた瞬間、視界に入った木が砕け散っていた。
「・・・久遠、解説」
「回し蹴りを叩き込んだフィフスが、サイラオーグさんにその足をつかまれて投げ飛ばされたんだけど、その勢いを利用して投げ飛ばされるより先に膝蹴り叩き込んでもろともに吹っ飛ばしたあと、そのまま高機動打撃戦に突入したんだよー? 見えないー?」
「見えるか!?」
あれ!? あいつあんなに早かったっけ!?
驚愕に震える俺の耳に、フィフスの毒づく声が聞こえてくる。
「くそが!? この短い期間ながらも地獄のごとき戦闘経験を積んで覚醒した俺の格闘センスをもってして互角だと!? どれだけ強いんだオイ!?」
・・・そりゃそうだよな。鍛えてるのは俺たちだけじゃないよな、うん。
敵だって当然勝つために努力するに決まっている。少なくともフィフスは聖杯戦争を繰り返し、さらにはその勝者となるために死に物狂いの努力を積んできているのだ。
いささか見通しが甘かった。やはり聖杯戦争は甘くはない。
「すまんが、俺はこいつを抑えるので手いっぱいだ。そちらは任せるぞ!!」
そのフィフスの攻撃をすべてさばき切りながら、サイラオーグ・バアルの声が飛び、俺は我に返った。
そうだった、敵はまだほかにもいるわけで・・・。
「かっかっか! そんじゃぁまあ、こっちも始めようかい?」
「待ちくたびれちゃったにゃん。ちゃっちゃと終わらせちゃおうかしら?」
・・・うわぁ、明らかに相手したくないオーラを出しながら敵が本気を出してくれちゃってるよ。
「とりあえず、初手から偽聖剣発動!!」
素早く偽聖剣を取り出すと全身に展開する。
敵の能力がどれぐらいあるかは不明だが、しかし警戒するに越したことはない。
と、いうよりあのぼくがかんがえたさいきょうのはくりゅうこうの同僚が弱いわけがない。
「ヴァーリの野郎はいねーみてーだな。ファックな話だが、お前ら片づけたら出てくるのか?」
「会長に迷惑がかかる前に片づけたいねー。早めに終わってくれるー?」
二人の敵を囲むように、小雪と久遠が俺の左右から歩き出す。
小雪からは風が吹き荒れ、久遠からは気の流れが俺でもわかるぐらい活性化している。
その本気モードを見ても、美候と黒歌は余裕の表情を崩さなかった。
「いいねぃ。正直暇つぶしのつもりだったけどよ、こりゃもう少し楽しめそうじゃねえか」
好戦的な笑みを浮かべながら、美侯が手に持っている棒を軽く回しながらこっちをにらむ。
「正直赤龍帝がへぼくでがっかりだったんだ。アンタらはもうちょっと楽しませてくれよな?」
「そうか、悪いが」
俺は両手の指に結晶を展開する。
宝石魔術で宝石が使われるのは、歴史を経た鉱石類は魔力をためるのに非常に都合がいいからだ。
それを利用して、石炭や古い地層に合った異物をこの世界の錬金術で結晶化したこの結晶体は、宝石魔術の運用においてコストパフォーマンスを含めればはるかに凌駕する。
大量に供給できる魔力を利用して大量生産したこの結晶体があれば、俺は大型グレネードをはるかの凌駕する攻撃力を連発できる。
俺はそれを振りかぶり―
「こっちは速攻で片を付ける!!」
―美候の真上から投擲した。
別段そんなに難しいことはしていない。
擬態の聖剣の力を使ってダミーを作り、さらに透明の聖剣を使って姿を消した
敵の感知能力をごまかすために二人には派手な演出をしてもらったが、さてどうなる。
「あいにくだったねぃ! 気でわかるんだよこの程度は!! 筋斗雲!!」
魔力の波動を突破して、美候が雲みたいなものに乗りながらこっちに突っ込んできた。
「いくぜ如意棒!!」
「うぉっと!!」
とっさに装甲版を呼び出してそれを足場に飛び跳ねる。
次の瞬間には装甲版は一瞬でひしゃげ、同時に大爆発を起こした。
・・・リアクティブアーマーにしておいて正解だった。目くらましといやがらせぐらいにはなる。
とはいえ敵の戦闘能力は予想以上に強大だな。
フィフスがサイラオーグ・バアルを一人で相手にできるというだけで計算外だが、こりゃもう少し敵の能力を上方修正したほうがいいか。
「
「ちょいさぁ!!」
こちらから跳び蹴りで打って出れば、美候は予想していたようで素早くそれを受け止める。
「セイバー相手に遣り合っただけあるじゃねえかい。こりゃ結構楽してそうだ!!」
基本的にはパワータイプ。ただし和平会談の時に転移して離脱したことから考えて、戦術を運用したウィザードタイプとしても運用可能といったところか。
「そうかい、ただし―」
「言っておくけど二対一だよー」
その真後ろから久遠が一瞬で現れて切りかかった。
「おっと!」
身をひねって交わした美候はそのまま一回距離をとる。
だが、とったはずの距離を久遠は一瞬で詰めていた。
「斬岩剣ー!」
見かけ以上の破壊力をもった攻撃が如意棒とぶつかり合い、激しい音を立てる。
連続して攻撃が響き渡り、あたりに激しい騒音が響き渡った。
「やるじゃねえかい! 嬢ちゃん本当に駒価値1かぃ!?」
「それほどでもー! そっちも将来が楽しみだねー!!」
なんか攻撃で分かり合ってる二人を見ながら俺は上空に回り込む。
もしもの時はイッセーたちの援護もする必要がある。こちらに意識を振り切るわけにはいかなかった。
さて、小雪は大丈夫だろうか?
イッセーSide
目の前で、信じられないような光景が繰り広げられていた。
「にゃにゃにゃ!? なんでこっちの位置がまるわかりなのよ!?」
「誰が敵に理由を教えるか、ファック」
小雪さんが黒歌に向けて正確な狙いで銃を撃っている。
ただし、その状況が一味違った。
黒歌は霧の中に隠れながら、さらに分身して攻撃してきているのだ。
どれが本物か俺には全く分からないし、なんでも気を使ってごまかしてもいるらしい。
しかし小雪さんは撃つのに戸惑ったりしない。
しかもすべての攻撃が本体を狙っているようで、黒歌はさっきから混乱状態だ。
もちろん黒歌も攻撃してくるが、小雪さんはすべて見切って紙一重で交わしている。
時々こっちにも飛んできてはいるが―
「危ねーぞ」
暴風で体ごとずらされて安全な場所まで移動されている。
完璧に小雪さんのペースだった。
「相性がファックなまでに最高だな。あたしはそういうステルスには強いんだ」
ものすごい肩すかしをくらった感じの口調で、小雪さんは断言する。
「とっとと逃げるなり降参するなりするんだな。上のファック猿は、あたしの仲間が片づけるぞ」
分身の一人に素早く狙いをつけながら、小雪さんはそうはっきり言った。
「なるほどねぇ。確かに、このやり方じゃぁ勝ち目がないわね」
黒歌は肩を落とすと分身を一斉に消した。
残る姿は小雪さんがにらみつけていた1人のみ。
てっきりあきらめたのかと思ったら―
「・・・じゃあ、やり方を変えちゃうにゃん♪」
両手からものすごい力が集まってくるのがわかった。
「ヴァーリから聞いてるわよ。あなた、攻撃力が足りないんでしょ?」
「それがどうした。てめーのスペックはたいがい知れた。あたしの火力なら十分殺せる」
静かににらみつけながら、小雪さんは動じない。
「相手を殺すのに必要なのはファックな火力じゃない。必要最低限の火力とそれを当てる技術だ」
「じゃあ聞くけど、あなたこのミックスされた一撃を相殺できるのかにゃ?」
黒歌の言葉に、小雪さんが固まった。
「このアマ・・・っ! もろとも吹き飛ばす気か!!」
素早く銃を構えると、小雪さんは黒歌に向かって一斉に打ちまくる。
だがその弾幕は、突然盛り上がった土が壁になって受け止めてしまった。
しかもドーム状になった土の塊は、つまり全方位からの攻撃を防げるということだ。これじゃあ通用しない。
「残念だけど効かないにゃん。直接耐えられなくても、防ぐ手段はおおいのよ?」
「この駄猫が・・・っ!」
え、ちょ、ちょっとどういうこと?
もしかして・・・。
「黒歌の奴、俺たちごと吹っ飛ばす気かよ!?」
「そういってるだろーがファックドラゴン!! いいから二人を連れて下がってろ!!」
ライフル銃まで取り出しながら、小雪さんが怒鳴る。
さっきまで余裕すら見せていた小雪さんの様子から、これがやばいのは確かに分かった。
「イッセー逃げろ! ちょっとやばいぐらい力がたまってるぞ!!」
土のドームに宮白も攻撃を叩き込むが、しかしびくともしない。
「・・・くっそぉ!!」
俺は地面を勢いよく叩いた。
正直離れたいのはやまやまだが、フィフスに殴られたのがまだ聞いていて、両足はがくがくふるえている。
とてもじゃないが、間に合わない。
そうだ、結局いつもこうなるんだ。
アーシアを助けに行った時がそうだ。宮白がフリードの奴を引き受けてくれたのにも関わらず、結局アーシアは一度死んだ。
ライザーとの時だって、宮白が気付けを用意してなかったら結局負けてただろう。ライザーのブチギレっぷりから考えると、宮白もただじゃすまなかったかもしれない。
コカビエルの時だってそうだ。確かに俺も頑張ったけど、あれはほとんど宮白が解決したようなものだ。
宮白はこんな俺のことを確かに認めてくれているけど、しかし俺は結局ダメなままだ。こんな肝心な時に一回殴られただけで役に立たない。
畜生・・・! 俺は結局この程度なのかよ!!
「イッセー先輩」
「イッセー・・・」
毒で弱り切っている子猫ちゃんと部長の声が聞こえてくる。
ホント情けないよなぁ、俺って・・・。
「足手まといの赤龍帝を持つと大変だにゃん。ちょっとはヴァーリを見習ったらどうかしら?」
反論できない。
一か月も地獄の特訓をしてきたにもかかわらず、結局なんの力にもなってねえじゃねえか・・・っ!!
せめて立ち上がれば、足が動けば、弾除けぐらいにはなれるのに!!
「姉様には・・・わかりません」
小さな声が、俺の耳に届いた。
「歴代赤龍帝のほとんどは、力にのまれて暴れるだけ暴れたそうです。ヴァーリ・ルシファーを含めた白龍皇も同様でしょう」
まだ青い顔で、震えながら、小猫ちゃんはしっかりと土のドームの中に隠れているはずの黒歌を見据えた。
「イッセー先輩は違います。すごい力も持っていても、それに飲まれたりしないで、仲間たちのことを大事に思って、そして前を見て頑張ってます」
子猫ちゃんが、いっつも俺のツッコミ担当というポジションを宮白と共有している小猫ちゃんが、俺をかばってくれている。
違う。これはかばっているとかそういうのじゃない。
「姉様みたいに力にのまれて、それを振り回して周りを不幸にするような人には、一生わからないような存在が、イッセー先輩です」
俺のことを、宮白のように評価してくれている・・・?
「ええ、小猫の言うとおりだわ」
部長も、微笑みながらそれにこたえる。
「この子は確かにまだまだで、それにスケベすぎて困るときもあるけど、少なくともその力を使って悪いことをするような子じゃないわ。いつもまっすぐに走り出して、そしてみんなを引っ張っていく子よ」
部長、小猫ちゃん・・・。
「この子をヴァーリ・ルシファーと一緒にしないでちょうだい。とてもひどい侮辱だわ。万死に値するわね」
二人の言葉が身に染みる。
だけど、今のままだとやばいのだけはわかる。
想像以上に美候と黒歌はやばいやつらだ。
今のままだと間違いなく俺たちはやられる。
だけどどうする? 今の状況からいきなりひっくりかえせるような方法があるのか?
そんな、一瞬で禁手に至るような衝撃的な出来事だなんて・・・。
いや、あった。
「部長。お願いがあります」
「・・・何かしら」
部長が首を傾げながらこちらに向く。
ああ、一つだけ方法を思いついた。
禁手に至るにはとんでもない衝撃が必要だと聞く。
宮白は俺の童貞喪失を想定していた。
しかし、それと同じぐらい衝撃がありそうなことを、俺はあの時温泉で聞いていた。
・・・女性の乳首は、ある意味でブザーらしい。
「・・・部長、乳首をつつかせてください!!」
Side Out
ちなみに、小雪が敵の位置を把握したのは能力とは違います。また別の話で空間把握能力がシャレにならないのです。