罪と罰
ゆらり、と水の中を漂うように、霞がかった視界を見渡すように、俺はそこにいた。これが夢である事は理解している。何度も何度も、数える事も止めた程繰り返し見た
目の前に立つのは、俺がこのゲームをやるきっかけであり、後のギルドに所属する事になった親友……プレイヤー名を『武人建御雷』という。
その彼が、ギルドを…ゲームを辞めると言って背を向けて去っていく。俺はあいつに手を伸ばす。
ーー行かないでくれ、という悲哀に。
ーーどうしてだ、という憤怒に。
長年連れ添った友の言葉に、初めて感じる悲しみと怒り、苦しみを感じた。そうだ、あいつと喧嘩なんてしたのは生まれて初めてだった。言い争う事はあってもそれは単なるじゃれあいのひとつで。ここまで意見が分かれる事も、拒絶される事も初めてで。そのことに戸惑いと恐怖を感じていた。
その場に立ち竦む事しかできない俺を案じる優しい彼…我らがギルドマスターもまた、仲間が去っていくのを声には出さずとも悲しみ、嘆いていた。
だから、俺はそんな彼とひとつの約束をした。
「建と仲直りして、必ずギルド『アインズ・ウール・ゴウン』……ナザリック地下大墳墓に帰ってくる」
必ず戻ってくる。あの馬鹿(建)を殴ってでも説得…言いたい事があるから、それを伝えて、それから謝って仲直りして。そしてまた、モモンガさんや皆と一緒にギルドで笑い合いたいのだと告げた。
「約束……ですよ。このナザリックで、待っていますから」
これが、ひとつ目の約束。
そして、自分が仲間の協力を得て作った我が子のようなNPCにも、AIというのは分かっていたが声をかけずにはいられなかった。それはきっと、必ず此処に帰ってくるのだという決意の証。
「必ず戻ってくるから、待っていてほしい。それまでの間、優しすぎるギルマス…モモンガさんが悲しまないように、頼んだぞ」
これが、ふたつ目の約束。
NPCに対して、なんて言葉をかけたものだ。笑ってしまうが、不思議と目の前の息子は然と命を賜ったというような目をしていた。……俺の勝手な想像だが。
彼らの設定を少しだけ変えて、大切な息子と娘の事をモモンガさんに託すと俺はあの世界から去った。
そして……ああ、そうだ。あの日。メールで呼び出したあいつに会うために有給をとってまで向かった先で、俺は………。
俺は…………死んだのだ。
死んだのだ、事故で。
下級階級の者がが不運に巻き込まれて死ぬなんてのはあの世界じゃよくあることだ。そうだとも、上流階級の者に殺されるなど、運が無かったと嘆くしかないのだ。
でも……でも、ここで死んでしまったら建と仲直りができない。言いたい事、たくさんあるのに。きっと、不器用ながら書き上げたこの手紙だけじゃ語れない。
それに、ギルドに…ナザリックにも帰れない。おかえりなさい、と自分を出迎えてくれるギルドマスターのモモンガさんにも会えない。ただいま、と自分を待つNPC達に声をかけることもできない。
俺には果たさなきゃならない約束があるのに。守らなければならない約束があるのに。
ああ、ああ……俺は、約束を守れずに死ぬのか。彼らを裏切ってしまうのか。ああ、なんということだろう。なんて……なんて、罪深い。
生きたい。彼らにもう一度会いたい。ごめんなさいと謝りたい。
それが、俺の願いだ。きっともう二度と叶わない願い。罪の代償、課せられた罰。
そうして俺は、また何度でもこれを見続けるのだ。
そんな、夢を見た。
唐突かつ短いオリ主の語り。そして転移というか転生みたいな感じで異世界に降り立つと。