地の文はナレーションと登場人物の心理描写が混ざってます。
はて、ここはどこでしょう?
とある世界のある場所で、一人の子供が地べたに座っていた。いや、木によっかかって寝ていた、というのが正解だろうか。
その姿は、白いシャツに黒いスカートを着て、特徴的な紐と毛玉がついている、赤い山伏風の帽子をかぶった十代前半の少女であった。ただ、その赤い目は幼い姿と裏腹に、深い知性と冷酷さを秘めていた。
彼女の名前は
昨晩のことなら覚えている。いつものように博麗神社でどんちゃん騒ぎをして、お酒をたらふく飲んだ記憶がある。もっとも、飲んだあとの記憶はおぼろげであるが。それでも生まれてこの方数千年、泥酔したからと言って木の幹を背もたれにして朝を迎える、なんてはしたないことは---彼女の記憶の中では---したことがない。
湿度も気温も高い・・・魔法の森ならもう少し寒いはずですね。幻想郷どころか日本の中ですらないんではないでしょうか。
彼女は幻想郷ができるより前から日本に存在し、全国を旅して回った烏天狗の妖怪だが、今この場の気候に合うような地域は日本にはなかった。
ましてや、目の前で大きな口を開いている化け物なぞ、日本どころか世界のどこにもいないと思えた。
後ろは私が背もたれにしていた木の幹。
左右は・・・爪で引っかかれそうですね。
下は地面がぬかるんでて通りたくないですし、なにより・・・
「ばんっ」と音が出るぐらいの---土の上なのに---勢いで手を下に叩きつけ、その反動で彼女の体が2メートルほど浮き上がる。それにより相手の噛みつきを回避する。
さらに背中に黒い羽を顕現させると同時に、彼女の『風を操る程度の能力』によって上昇気流を作り出し、羽を撒き散らしながらさらに5メートル高度を上げる。
逃げられる、と思った化け物は飛びかかるために突き出した前足をネコ科のようなしなやかさで縮めて着地し、その勢いを完全に殺す。続いて、後ろ足で「ため」を作り、すぐさま上空にいる彼女に対して今一度飛びかかる。
しかし、彼女の反撃準備はすでに整っていた。
「空中戦が鴉天狗の十八番です!」
化け物が「ため」ている間に上昇気流を解除して下降気流を展開、下方向へ自身のベクトルを変更する。
そのまま右足を突き出すことで、彼女の下駄が化け物の眉間にクリーンヒットした。
下降気流による勢いに化け物が飛びかかる勢いが加わったこと、さらにそのタイミングでカウンターされると思っていなかったことにより、すでに化け物の意識は朦朧としていた。
このまま蹴り抜いてもいいですけど・・・ある程度形が残っていたほうが記録は取りやすいですね。
そう考えた彼女は、踏みつけている右足先に下降気流のエネルギーを集中。そのまま解き放った。
不自然に上から下へと吹き荒れる暴風が、周囲の木々を揺らし、土をめくりあげ、化け物の体を押さえつける。
「"天狗のダウンバースト"。さて、奴の容姿はっと。ふむ、ワニの頭に獅子の体、それに大鷲の翼。この世界の
そう言いながら観察を続けていると、彼女は自らのダウンバーストによって生じた木々の揺れがいつもより大きいように感じた。
この辺り一帯の植物の特性だろうか、と考えていると、枝から切り離された一枚の葉が風切り音とともに、下降気流に加えて重力の影響を受けたかのような加速度で真っ直ぐに落ちてきて、切れ味の良いナイフのように、彼女のスカートの端に切れ込みを入れて、地面に突き刺さった。その長さは彼女の腰のあたりまであった。
「あやや?」
そうして初めて彼女は下降気流を弱めて上を見上げる。この森は先程の葉を落とす木の群生地だったのか、同じ葉が十枚や二十枚どころの話ではなく、数えきれない雨のように降ってくる。下降気流を完全に切っても木々の揺れが収まらないあたり、はじめから振動が加わったときに木の葉を落とす構造になっていたのだと考えた。
事実この木は、幹に動物がぶつかったときにその衝撃を全体に分散し、倒壊を防ぐと同時に枝を揺らすことで、剣のように固く、重さのある葉を落とすことで、その下にいる動物を攻撃し、その死体を土の養分にするという特性を持っていた。
ダウンバーストによる拘束が解け、意識を取り戻しつつあったキメラは、しかし、この剣の雨によってまたしても地面に縫い付けられた。今はその分厚い筋肉と頑丈な肋骨や頭蓋骨が重要器官を守ってくれているが、この雨が十秒も続けば、やがて耐えられなくなってその巨体を養分へと変えることだろう。
当然、この雨を引き起こした彼女も洗礼を受けて、何も為すことなく、為す術なく、死ぬことだろう。
ただの人間であれば。
「この私に、弾幕勝負を挑んでくるとは、舐められたものですね!」
彼能を展開。雨の一粒一粒から生じる風の軌道を読む。わずかに風の影響を受けて揺れ動き、葉っぱ同士の衝突による軌道の変化を除けば、ランダム射出される大量の直線の弾。
「気合よけは好きではありませんが・・・この程度なんてことはないですね」
ただ近くに飛んできた弾を、ぎりぎりで避けるだけ。それ以上でもそれ以下でもない。
彼女はダンスでも踊るかのようにステップを踏み、剣の雨の中を自在に泳いでいく。時折剣が彼女の肌をかすり、傷つけることはあっても、致命傷を与えるには至っていない。
そもそも、彼女、射命丸文は妖怪である。妖怪は人の畏れから生まれるものであり、その成り立ちは通常の生物とはまるで異なる。彼ら妖怪の身体は肉体的な損傷にはめっぽう強い。その反面、儀礼用の武器や、祈祷師によって祝福された札など、ただの生物には武器になりえないものによってダメージを受けることもある。彼女ほどの妖怪となれば、ただの鉄の剣が頭や心臓に二、三十回突き刺さったところでいっかいやすみになる程度だろう。
彼女は余裕ありげに、遠く離れた場所にある
「記念に撮影でもしておきますか。『号外!外の世界の植物は弾幕ごっこがマイブーム!?』ってね」
懐から年季を感じるカメラを取り出すと、彼女の妖力を込めてシャッターを切る。
すると、降り注ぐ剣の雨のうち、カメラに写った弾幕だけが一瞬にして消え去る。
彼女のカメラには『カメラを持つものに対して飛んでくる射撃を写真に撮ると、その射撃が消える』という特性がある。これを用いて、かつて彼女は幻想郷に住まう様々な妖怪、神、人間が放つ数々の回避不能弾幕を写真に収めてきた。
今回は弾幕をかき消す必要はなかったが、様式美というやつである。
30秒も降り注いだところで、枝の揺れがおさまり、雨が止んだ。初手の時点で地面に縫い付けられていたキメラは全身に剣の雨を浴びてすでに事切れていた。
そんな一つの災害が起こった中で彼女は腕や足に軽傷を負い、服にいくつもの切れ込みを作り、その肌をさらけ出していたが、一呼吸入れる間には肌も服も修復されていた。
「あちゃー、写真を取る前にぐちゃぐちゃになってしまいました。まあここでカメラに撮ったところで現像する機械もないし、手帳には思い出しながら絵にすることにしますか。」
そう言いながら、彼女の手帳、
さて、なぜ私は幻想郷の外の世界に飛ばされてしまったのでしょうか。これは昨日の宴会の記憶を思い出す必要がありますね・・・
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博麗神社。
妖怪退治の専門家、博麗の巫女が住まう神社であるが、当代の巫女、博麗霊夢の気質からか、この場所は時折妖怪寺と言われても仕方ない程に妖怪が集まることがある。
誰かが起こした異変が解決すれば宴会、祝い事があれば宴会、なくても誰か(主に神社に住まう鬼)の気まぐれで宴会が開かれる。
もちろん大酒飲みが多数集まるこの宴会で、飲まないことはむしろ失礼に当たる。
これに参加していた射命丸文は当然コミュニケーションの一貫で、上司に勧められた酒も、部下に注がれた酒も、同僚と楽しく話しながら注がれた酒も、すべて飲むこととなる。それでもなお、泥酔とは言わず、ほろ酔い程度で済むのはさすがは酒に強い天狗と言える。
たまに思い出したかのように賽銭を要求する巫女の願い叶わず、万年空になっている賽銭箱の前で宴会芸が盛り上がってきた頃、彼女に話しかける者がいた。
「お隣よろしいかしら?」
「おや、賢者様、もちろんよろしいですよ。ささ、どうぞ、天狗の銘酒ですよ。」
「あらあら、気前が良いわね。それでは遠慮なく」
とくとくと、話しかけてきた彼女の持つ盃に天狗のとびっきりきつい酒を注ぐ。
彼女は八雲紫。人間に忘れ去られ、滅びゆく運命だった神々や妖怪が暮らしていける理想郷、幻想郷を創り、その管理をしている賢者である。
能力は『境界を操る程度の能力』。異なる二点の空間をつなげて自在に移動する他、概念的な境界も操ることができるという。
ただ、賢者とはいっても常に忙しいわけでもないらしく、住民に声をかけることもある。そんな彼女が一体何の用があったのか。
「ねぇ、貴女」
「なんでしょうか?」
「かごの中が狭いと感じることはないかしら?」
「・・・」
酒によって蕩けた頭では、その質問の意味をすぐさま理解できなかったが、その意図はすぐにわかった。
紫はこのテの質問を数年に一度するからである。
(特に今困っていることもない・・・
簡単に行ってしまえば住民の意識アンケート調査や、幻想郷の環境改善活動の類である。それを難しく、解釈次第ではどうとでもとれる言い方をするのは、彼女のキャラ付け・・・などではなく、賢者の処世術、保険の一種である。
『あの時ああいったのはこういう意味じゃないのか』と言われても、都合が悪ければ『それはあなたの解釈』と言い返せる。
逆に、『あの時私はあなたにこう警告しました』と咎めたり、『役に立ったでしょ?』と恩を着せることもできる。
まあそんな態度を永らく続けたものだから、胡散臭いなんて言われるようになるのだが。
さて、ここで問題となるのは、この質問はただのアンケートではないということだ。
普通なら、『貴重なご意見ありがとうございます。今後の活動に還元していきます』となり、その後アンケートをかいた本人が何かすることはない。
だがこの意識調査、回答次第では『じゃああなたが解決して』と投げられることもある。
「(たまには自由に、新しい記事のネタを探しに行きたい・・・という気持ちもなくはないですが)いえいえ、特にはありませんとも」
「あらそう?なにか物足りなさそうな顔をしているように思えましたが」
「きっと気のせいでしょう。そんなことよりほら、お酒が進んでいませんよ?」
その後お酒を飲みながら他愛のない話をして、彼女はどこかに行ってしまった。
今回はうまく面倒事をかわせただろう、あとは宴会芸を心置きなく楽しみ、妖怪の山の自室で床についたはずだ。
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それがこのザマである。
なにか選択を間違えたのだろうか。
もっと馬鹿らしく「かごってなんですか?」とか、胡散臭くはぐらかしている部分を追求し続ければ、面倒に思われていただろうか。だが、そこまでバカのマネをするのは私の誇りが許さない。
あるいは心を読まれたか?あの時、周りの空気に歪みはなかったから、
「そろそろ出てきてもいいのではないですか、八雲紫?」
返事はない。スキマが開いている様子もない。巫女が彼女を呼ぶために結界を緩める、といった技能はないし、そもそも感じ取ることすらできない。何かを成し遂げたのを確認したら帰すのか。
状況も、実行能力も八雲紫がやったことだと言えよう。理性的にはそう考えられる。それでも、彼女は永らく紫が何のために行動してきたかを見てきた。何を好み、何を嫌うかを知っていた。
彼女は幻想郷が好きだ。だが、それより前に、妖怪や神、忘れ去られしものたちを憂いていたからこそ、幻想郷を作ったのだ。
もちろん、甘やかすだけではない。時には試練を与えることもある。それでも、送り出す前に必要最低限の説明はしてきていた。
何より違和感があるのは、人の畏れなくしてはたちどころに消え去ってしまう
紫の妖力ではないのはわかる。神の力に近いか。
本命は未知の神による転移。
対抗は紫が神に頼み込んで、外の世界の調査活動をしてもらうためか、私の心の願いを叶えたか。
大穴は紫が突如謎の力に目覚め、その力を試し打ちしたかったか。
紫が関わっているとすれば、彼女の思惑を読まない限り助けは来ないと考えよう。
あとは、この謎の力がなくなった時に自分がどうなるか。
希望的観測では、幻想郷に帰れる。だが、帰れると決まっているわけでもないし、好き好んで死を待つこともない。
この世界で天狗の名を広めて、畏れを得る。
願わくば、この世界にも適度に弱くて、信心深い人間がいてくれれば良いですが。
・・・最悪、知的生命体なら何でもいいです。
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探索初日。まずは上空から様子を見ようとしましたが、先客がいました。完全に空の色に同化し、獲物が近付くと乱気流を引き起こして自分のもとに引き寄せて食べるようです。
私は妖力による飛行ができるためヤツの餌食になりませんでしたが、暴風の中を無理やり飛んでいると、あの謎の力が減っていくのを感じました。しかも、地上は森が濃くて地表が見えませんし、木がないところは黒い瘴気で覆われています。
仕方ないので、歩きながら探索することにします。
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探索二週間目。海を見つけました。幻想郷には海がないので、これは外の世界で生きていた時以来ですね。
海岸の植物が風で飛ばされたのか、小枝や草花、はては大木まで奥の方に浮かんでいて、あまりきれいではないです。
その大木に渡り鳥がとまりました。すると、浮かんでいた大木が海の中に沈み、それに驚いた鳥が飛び立った瞬間、クジラのように巨大な魚が大きな口を開けて飛び出て、鳥を食べてしまいました。飛び上がった身体が海に打ち付けられ、かなり遠く離れたこちらにも水しぶきが飛んできました。いやー、いいものを見た。
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探索1ヶ月目。私の寝ていた場所に何か残ってないか、変化がないか気になったので帰ってみます。
あの時串刺しにされてしまった
それと入れ替わるように、私の腰ぐらいの大きさのアリがたくさんいました。
実はあの大きさのアリは、初日から木の上にいて葉っぱをもしゃもしゃと食べていたんです。その時は赤みがかった紫色でしたが、今はあの葉っぱと同じ、黒みがかった緑色です。その体は硬く、爪は鋭い。後から調べたところ、あの木の幹の中心には、あの葉っぱの硬さを生み出す樹液を分泌する器官があったようで、それを好んで食べていたようです。
それがうじゃうじゃいるということは、あの時葉っぱを食べていた個体の身体が変化したのではなく、食べたものの特性を持った卵を生んだのが正解でしょう。
まだまだ私の脅威になりえませんが、あまり彼らの生態系を乱したくないので、この場は引くことにしました。
もしあのアリが食べたものの知性まで受け継いだ卵を産めるとしたら、本当の最終手段として、私の身体を一部食べさせることで知的なアリを産ませて、それに私を畏れさせることも考えましょう。抜け落ちた髪の毛とか羽ならまだいいですけど、腕や足まで必要だとしたら痛いし、あと5年はやりませんけど。
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探索3ヶ月目。ついに人間らしきものの痕跡を見つけました。
三角形に組まれた鉄骨と、ボロボロになった布地。かなり年季が入っており、もはや使われていないのは明らかです。
その中で私の知らない文字で書かれた手記らしきものを見つけました。また、食器類の他に、中がかびており、食料が入っていたと考えられる缶詰が大量にあったので、推定ではありますが、この大地の外からやってきた調査員と考えられます。
そのため、この場所から一番近い海岸に行き、その岩盤を調べると、船は残っていませんでしたが、錨を刺した痕が残ってました。つまり、この先に行けば、あの調査員のような人間のいる国があるということです。
この世界がどれだけ広いかわからない以上、いままではあてもなく飛行し続けてあの謎の力をムダにするのは避けていましたが、これなら飛んでいってもいいでしょう。
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その次の日、私は調査員の手記や目ぼしいものを回収し、助走をつけて錨の痕跡があったところから勢いよく飛び出しました。
何日かかるかわからないし、そもそも国が残っているか心配ですが、なるようになるでしょう。
高度は渡り鳥と同じくらいで、速度はそれより気持ち速めです。
3時間飛んだくらいでは大陸が見えてきませんが、回収したもの中の方位磁石らしきものを頼りに飛んでいきます。
・・・おや、あの大陸で見かけたあの疑似餌を浮かべた巨大な魚がいますね。こんな遠くにも生息していたのでしょうか。
ですが、疑似餌の上に鳥が乗っているのに捕食してないですね。別個体の可能性もありますが、一応追記しておくことにしましょう。
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5日後、ようやく大地が見えてきました。調査員の持っていた道具からして幻想郷よりも文明が進んでいると思っていましたが、かつてオカルト異変が起こった時に頼んで特別に八雲紫に見せてもらった外の世界と変わらないか、それよりも前の時代でしょうか。あのときの外の世界には非常に高い建物が所狭しと並んでいましたが、ここは硝子製の高い塔を中心に街ができているみたいなので、偉い人がどこに住んでいるか一目瞭然でいいですね。
挨拶しに行くのもいいですが、まずは山に着陸し、ここを拠点とします。
さて、この世界の人間から畏れを得るために、どんな異変を起こすことにしましょうか。ここは単純に・・・
子どもでもさらうことにしますか。
リターン①
天狗のメモ帳 with 調査員の手記
暗黒大陸の環境、植生がつづられている貴重な情報源。
これを手にすれば、危険な動植物の生態や、さらなるリターンの手がかりになるだろう。
その実は射命丸文が新聞を作るときのネタ帳である。
彼女の作る新聞は面白さを追求するために、誇張表現や彼女の推察が含まれているため、その情報を鵜呑みにすることはできないが、そのもととなるネタ帳には当然嘘偽りはない。