暗黒文花帖   作:ヲリア

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たくさんの高評価ありがとうございます!
本小説はStage6、あわよくばExtraまで続けたいな、と思っております。
大まかに何をするかは決まってますが、細かい流れや感情表現を書こうとすると2時間で1000文字も書けなかったり・・・。

オリジナルモブキャラ登場です。そして若干の胸糞注意です。
ハリー・ポッターみたいなもんだからヘーキヘーキ。


Stage2. 自覚のない悪意

時間は過去にさかのぼり、文が上陸する3日前。

ハンター協会会長室に通信が入る。

 

「はい、こちらハンター協会会長室のビーンズです」

 

『こちら暗黒大陸調査隊、緊急事態発生に付きアイザック=ネテロ会長との通話を要請します!』

人類未踏の地、暗黒大陸。この地には国によって規模は大なり小なり違うものの、古来より多くの国がこぞって密かに人員を送っている。

多くの国が人員を送る理由は、莫大なリターンにある。

万病に効く霊草や、究極の長寿食など、あらゆる世の権力者が欲しがるものがそこには眠っている。

未だに人員を、密かに送っている理由は、世界を滅亡させると言われているリスクにある。

かつて5大陸が個別に暗黒大陸のリターン獲得に挑み、そのことごとくが失敗した経験から不可侵条約が結ばれている。

しかし、リターンを獲得すれば他の国に対して大きく有利を得ることができることから、条約が結ばれた今でも船が出ている。

 

「(まだ上陸する予定日には遠いし、今までの定期連絡には問題なし。一体何が?)わかりました、すぐにつなぎます。会長!」

 

「いまかわったぞい。要件は?」

 

『はい、先程暗黒大陸方面から人間の形をした飛行物体をカメラで確認しました』

もちろん、それは文のことである。

彼女が道中で見かけた、大木を疑似餌にした巨大な魚は『ツリーアンコウ』と名付けられており、暗黒大陸近海にすむ魚であることから、擬態の意味を込めてそれに似た形をした船が作られていた。

本来疑似餌となっている大木の部分にはカメラが仕込まれており、そこから海上を確認することができた。

 

「なんと、それは本当か!」

長年生きてきた会長の記憶にも、暗黒大陸からの飛来物の情報を得たことは少ない(実際は確認されていなかっただけで、潜伏しているものも多くいる)が、それが場合によっては非常に厄介なことになることは理解していた。

 

「(飛行物体そのものが人類に対して敵意を持っているかどうか・・・たとえ我々にに好意的だとしてもウィルスに感染していたら厄介じゃの)して、容姿は確認できたか?」

 

「こちらで確認したところ、目測で身長130~140cm、性別はおそらく女。顔は確認できませんが、これから映像と位置情報を送信します」

ビーンズの持つ端末に写真と位置情報が表示された。そこからさらに、速度と角度からおおよその到達位置と時刻を計算する。

 

『要件は以上になります。現在船は待機中ですが、指令の変更はありますか?』

 

「飛行物体はこちらで対処する。待機を解除して暗黒大陸に向かい、主目的を行方不明の調査員の捜索から飛行物体の調査に変更。以上じゃ、報告感謝する」

 

『了解しました、それでは上陸後、発見があり次第報告します』ブツッ

 

「今回は本当に運が良かったの。もし街に紛れ込まれたら何が起こるかわかったもんじゃないわい。ビーンズ、結果は出たか?」

 

「はい、こちらになります」

ビーンズは計算が終わった端末の画面をネテロに見せた。

 

「こりゃまた嫌な時期に来るもんじゃのう。さて、どう対応したものか・・・」

 

 

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(あの時・・・もっと強ければ・・・知っていれば・・・考えていたら・・・こんなことにはならなかったのかな・・・)

生身のまま空を飛ぶという稀有な体験をしている少年は、景色とともに流れる走馬灯にそんな思いを抱いた。

 

 

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少年、チキル=ハーブはいわゆる負け組である。

物心つくころに父親は長期の単身赴任をしていた。金こそ家に送ってくるものの、家に帰ってくるのは年に1回あればいいところ。当然少年は父のことなぞ近所のおじさんよりも知らない存在となった。

 

父の不在は、夫を愛していた母の心に影を落とした。

少年が10歳になるまでは、子供の前では気丈に振る舞っていた。元気な母を演じていられた。

だが、物事の分別がつけられるようになってからは、それまでの演技に陰りが見えるようになり、もはや化粧をして外出するのも億劫になっていた。

そんな中、母が小学校の父母の会に出席するようになってからは、とても生き生きとした表情を見せるようになった。少年の目にはただ雑務をやらされているようにしか見えないが、どうやら父母の会会長の人心掌握力が凄まじかったらしく、母は頼られる存在になれて嬉しく思っているようだ。

 

それで終わればみんな幸せ、ハッピーエンドであったが、そううまくいかないのが世の常。

少年はある日からだんだんと、母の愛情が薄れていくのをなんとなく感じていた。

自分の肌の様子を気にかけるようになったり、家の掃除を徹底するのはいいものの、隣町のほうが僅かに安いという理由で、少年に学校の帰りにおつかいを頼むようになり、どこか家から遠ざけようとする意思が感じられた。

そんな折、頼まれたおつかいを忘れてまっすぐ家に帰ってきた時には、なんとなく上ずった声で追い返されたこともあった。

もし少年が大人になってこのことを思い返したなら、これが不倫であったことに気づいただろう。

 

そして、父の、男の背中を知らずに育った少年は、外に連れられて遊ぶことも少なく、男でありながら内向的で凝り性な、いわばオタク、ナードと呼ばれるような存在になった。

もちろんそれはそれでいいところはあるが、小学生のそれはやはり致命的であり、いじめの対象となる十分な理由になった。

だがそれは、はじめは暴力によるものではなく、悪意によるものだった。そしてそれは彼が小学3年生の時に始まった。

 

「ヘイ、チキル!今日俺はスペシャル定食を食べてぇんだ!ちょいと金貸してくれよ!」

彼の名はビフス=カルヴィン。チキルとは正反対の、いわゆる勝ち組である。

運動神経に優れ、コミュニケーション能力抜群でクラスの中ではちょいワル系のポジションに付いた。

普段から肉定食を食べられるほどのお小遣いをもらっており、間違いなくチキルより裕福な暮らしをしていた。

 

「あぁ、ビフスくん。でも、僕あまりお金持ってないよ?今日だってB定食ぐらいしか買えないよ」

 

「大丈夫、惣菜パン1個分でいいから、それに来週倍にして返してやるよ!」

 

「うーん、それならいいよ」

チキルは素直に応じた。今日は少しひもじくなるが、お金が増えるのはいいことだと、そう思ったのだ。

よしんば返してくれなくても、そのときはちゃんと彼についていって、彼の定食のグレードを下げてもらうべく言うつもりだ。

次の週、ビフスはきちんと1.5倍の金額をチキルに返した。

2倍じゃなかったと若干不満げながらも、お金が増えた事自体には素直に喜んでいた。

そのようなやり取りは何度か行われ、そのたびにチキルはビフスのことを信頼していった。ただし、途中何度か支払いを遅らせたこともあった。

 

それこそがビフスの子供じみた悪意であった。

 

彼はTV番組で偶然詐欺師の手口を目にした。それは、少ない金額からはじめ、貸したお金が増えた状態で返ってくることを印象づけることで、大金を預けても返ってくるという信頼を得るものである。

そして最後には、大金を預けられた詐欺師は預けた人の手の届かない場所に行くものである。

もちろん、年頃の少年にそのような大金があるはずもないので、後半の部分についてはビフス自身もやるつもりはなかった。ただ、全半の部分が面白いと思ったので、自分でもやってみようとしただけだ。

 

そんな好奇心から始まったいたずらによって、チキルからの信頼を得ていったビフスは、やってみようと考えた時には思いもしない高揚感に包まれていた。

それは、思うように人を動かす愉悦であった。

次第に、ビフスはチキルのことを完全に下に見るようになった。

適当な理由をつけて金を返さなくなっても、チキルのお金がお小遣い以外の貯金から出るようになっても、返さなくなったお金が増えたお金よりも多くなっても、いつかは返してくれると信じているチキルを、むしろ哀れに思うことすらあった。

 

だが、その詐欺の手口は、いずれ高跳びするところまでがセット。長期間に渡って返さなくなれば、いずれは信用もなくなっていく。6年生になったころには、返してくれる存在だとは思われていなかった。

ある日、二人の舎弟とともに街を歩いていたビフスは、同じく通りを歩いていたチキルを見つけた。

 

「おっ、チキル!ちょうどいいところであったな!今日の俺はあそこのステーキ定食を食べてぇんだよ、ちょっと金貸してくれよ」

 

「もう、お金を返す気なんてないんでしょ?今日のところはハンバーグ定食で我慢してよ。」

 

「そんな冷たいこと言うなよ、な?」

そう言うと、過ぎ去ろうとするチキルの肩を力強い腕で掴む。

 

「離せ!僕はもうお金なんて持ってないんだ!お母さんからのお小遣いもだんだん減ってきてるし!僕だってもっとたくさん食べたいんだ!」

母親の不倫によって子どもへの愛情が薄れたことは、そのままお小遣いの量にも影響していた。

それまでは普通にリーズナブルなものを食べていれば余りを貯金できていたものが、段々とその額が減っていき、次第には昼食のメニューを変える必要すら出てきていた。

 

「チッ、悪かったよ。メシ食ったら少しは返してやるよ。一緒に食うか?」

 

「やめてよ、そんなお金僕が持ってないってわかってるくせに」

店内に入ると、ビフスら3人はテーブル席に座ったが、一緒に座る気にはなれなかったので、カウンター席で水だけ頼んだ。

冷やかしかと思った店主はムッとしたが、子供のケンカだと判断した途端、フッと笑った。

そんな大人の顔にもムカムカしたチキルは、ちびちびと水を飲んだ。

カウンター席に座っていると客のオーダーがよく聞こえる。今日はガタイのいい男たちがこぞってステーキ定食を弱火でじっくりと頼んでいる。

この店の人気メニューなのだろうか。

 

「待たせたな。じゃあ行くか」

支払いを済ませたビフスが戻ってきた。店を出て彼の家に案内してもらう。だが、途中から長い路地裏に入った。

 

「ねえ、こんな道通らなくてもいいんじゃない?」

 

「・・・」

だが彼は何も言わずあるき続ける。

2分は歩いたところだろうか。ビフスが声をかけてきた。

 

「・・・なあ。俺は今までお前にいくら借りてた?」

 

「そんなこと聞いても、お前に貯金が残っているはずないよね?だから、その分のお金はお前のお母さんに出してもらう。それでいいだろう?」

 

「・・・その金額はどうやって伝えんだ?ただ言うだけじゃ信じてくれねえだろ」

その言葉に対し、勝ち誇った顔でチキルはカバンの中から1冊のノートを取り出す。

 

「だから、お前がお金を返さなくなってきた頃からレシートと、その裏に貸したお金の金額を書いてまとめていたんだ。渡したお小遣い以上のものを何回も食べてたら、さすがのお前の母さんも怪しむだろう?」

 

だが、参っただろう、と言いたげなチキルの顔を見てもなお、ビフスは冷静であった。

時として強者は、弱者の努力を一瞬にして踏みにじる。

ビフスは()()()()()()()ことに優越感を覚えながら舎弟に命令する。

 

「ふん、やっぱりそういうことか。・・・やれ」

チキルの後ろにいた舎弟の一人が、肩からぶつかってくる!

たたらを踏んだチキルはなんとかバランスをとるために出した左腕を、横にいた舎弟に捕まえられる。

さらにビフスがノートに手を伸ばすが、何をされようとしているか理解したチキルは、唯一の武器であるノートを取られまいと右腕で抱えるようにして持つことで、その手を回避した。

その手でノートを取ることはできなかったが、両手がふさがったことを確認したビフスはニヤッと笑い、ジュニア級ボクシングで鍛えた右ストレートを、ノーガードとなったチキルの顎に当てた。

 

「っあ・・・」

 

脳を揺らされたチキルは、一瞬意識を飛ばされる。右腕が緩んだスキにノートを回収されると、支えになっていた左腕を放され、地べたにダウンする。

舎弟二人は心底小馬鹿にした顔でチキルを足蹴にする。そのショックで覚醒したチキルの眼の前でビフスは、ポケットからライターを取り出し、ノートを燃やした。

 

「ああっ、あああああ!」

 

「そんな大事そうなもの見せびらかしてきたら、欲しくなっちまうだろう?さあ、これで証拠はなくなった。」

燃え盛るノートを倒れたチキルの前に投げ捨てた。チキルはそれに手を伸ばすものの、その熱さにすぐに引っ込めていまう。

 

「これでどーやって信じてもらうんでしょうねー?なんなら灰でも出してみるか?」

 

ついには涙を流したチキルの顔を見て、ギャッハッハッハとひどく不愉快に笑うビフスたち。ひとしきり笑った後には、もはや本の原型は残されていなかった。

 

絶望で心が支配されたとき。

風が吹いた。

それを背中に感じた。

子どもを叱る母親のように暖かく、断罪の刃のように冷たく。

ビュオォオオゥと、台風の日のような音を立てながら、路地裏に空気の壁とも言えそうな風が吹く。

もとより倒れ伏しているチキルはともかく、立っていた3人は突然の事態に慌てふためく。

 

「(ビュオォオオゥ)っ!」

「――――ッ!」

互いに声をかけ合うも、叫んでも、もはや隣り合う仲間とも意思疎通ができない。

3人が開いた目にはすぐにゴミが入ってくるので、彼らは言われるまでもなく目を閉じた。

 

チキルの後ろからガラガラと路地裏に積んであった空箱が崩れる音がした。チキルはとっさに両手で頭をかばう。

ドッガッと何かがぶつかる音が2つ聞こえた。自分にもぶつかってくるかもしれない恐怖に、思わず目を強くつむってしまう。

 

何十分とも感じられた風が収まり、ようやくチキルは顔を上げて、目を開けた。

眼の前には仰向けになって動けなくなっている舎弟二人と、ぶつかったと思われる木箱が2つ。二人は完全には気絶していないようだが、すぐには動けそうにない。

 

チキルは立ち上がり、そして異変に気づく。

「ビフス・・・?あいつはどこにいった?あのデカブツが吹き飛ばされた?」

 

一本道になっている路地裏の奥を見渡すが、ビフスの姿はどこにも見つからない。

人が隠れられるようなスペースもないし、ゴミの山もない。

 

いなくなってしまったのだ。

あの憎いあんちくしょうはいなくなったのだ。

 

それがわかったチキルは、深刻な事態だというのに、なんだかわからないが、喉の奥から笑い声を漏らしていた。

そして、うめき声を上げて倒れている二人を背に、チキルは家路についた。

 

「いい気味だ」




リターン②
葉団扇

射命丸文の持つ、八手の葉。振るった以上の風を引き起こすことができる。
風を操る程度の能力を持つ彼女が持つことで、その能力を更に引き出すことができる。

ただの人間が振るうと、生命力と引き換えに風を生み出す。
鍛えられていない身体ではせいぜい10m先にそよ風を感じる程度だろう。

念能力者が"周"をして振るうことで、どの系統の能力者でもオーラを風の刃に変換して放つことができる。
人類最高峰のオーラ量を持つ者が振るえば台風を生み出すことすら可能。
念能力者であれば誰でも扱うことができる強力な武器になる半面、誰が振るっても同じ結果を生み出すことができるため、犯罪者の手に渡れば個人の特定が難しくなり、その破壊力や環境に及ぼす影響から、テロに用いられるにはもってこいだ。

そういったオカルト的な力を使うため、モーターに取り付けて永久機関を作ることは残念ながらできない。

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