暗黒文花帖   作:ヲリア

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第3話の投稿です。
たくさんの高評価、コメントありがとうございます!
日間ランキングで38位ぐらいになっていたようです。

誤字報告もいただきましたが、操作ミスかなにかで誤字報告一覧からも消えてしまって申し訳ないです。

投稿ペースが長くなってしまいましたが、自分の目標としては7月完結としたいところです。
コメントが有るとたぎるぜ。


Stage3. 陪審員は自分勝手

暗黒大陸調査団からの緊急通信を受けたネテロは、このような事態に陥った時にも信頼できる、元十二支んの一人に電話をかけていた。自分だけでも対処は可能だが、それでも武闘派として会長となった面があるため、未知との遭遇に対して最善の手を打ちたかった。そのためには、多少情報漏洩のリスクをとってでも彼と連絡を取るべきだと考えたのだ。

 

ジン=フリークス。二つ星の遺跡ハンターとして名を残す、最高クラスのハンター。その業績から未知との遭遇には一日の長があり、また、ネテロの信頼する人物の中で最も暗黒大陸に詳しい人物の一人である。

その会話の詳細は割愛するが、対応は以下のように決まった。

 

敵対関係にならないこと

画像データから奴は人間の姿をしている。多少の知能を持っているのではないかと期待できる。希望的観測でしかないが、交渉することも可能かもしれない。また、それができるほどの知能を持ち合わせてない場合でも、後述の理由で人類への被害は最小限に収められるだろう。

暗黒大陸の生物の能力は未知数だ。どれだけ強力なハンターを揃えて正面から立ち向かおうとしても、初見殺し能力を持っていればすぐさま壊滅する。無差別テロに適した能力を持っていれば、殲滅対象として認識された時点でアウトだ。そのためには、初対面で刺激を与えることは避けたかった。

 

 

捕食者であること

暗黒大陸からわざわざここまで飛んできたのは、暗黒大陸の獲物が口に合わなかったからだと推測した。無論、そうだと決め付けるわけではない。人間の土地を侵略しに来たとか、暗黒大陸にある秘境からの移住計画に向けた大使の路線も考えたが、まずないだろう。

そして、奴の身体の小ささから、相当な偏食家でもない限り、食事は多くても1日5人程度だろう。ネテロとしても断腸の思いだったが、それで奴の動向を図れるならば安い、とのことだ。

捕食者としても、その対象が人間ではなく、加工食品などの物資を求めた場合に備えて、ネテロが個人的に食べたいと言う名目でいくらか取り寄せておいた。

 

だが後日、調査隊が上陸に成功したことで、捕食者の線は薄くなった。

奴を発見した調査隊が、過去に渡航した末に音通不信となっていた調査隊のキャンプ地を見つけ、その中で奴のものと思われる新しい下駄の跡と黒い髪の毛、カラスの黒羽を発見した。

髪の毛と羽は検査の結果、人類に有害な毒素はなかったため、ウィルス感染のリスクは少なくなった。食料は缶詰めの一部につい最近開けて食べたものがあった。下駄の跡は森の中からキャンプ地、海岸に続いており、船の錨の痕跡と奴の進行方向と一致していることが確認できたため、奴は人のいないキャンプ地の亡骸を見て飛んでいったということだ。

これにより、高い知性を持つことや、人間を知っていて接触しに来た可能性も大きいと考えられる。

人肉を漁りにきた可能性は小さくなったが、依然未知数の相手。とりあえずネテロは知り合いの料理ハンターに予定を空けておくように手配した。

 

情報の拡散はネテロの信頼するハンターに限ること

事を大々的に報道するとして得られるメリットは、国軍の支援を受けられる事、何も知らない住民を避難できる事。

前者については、人間サイズの飛行物体に対して有効な大型兵器を作ってない事、さらに言えば、もしあったとしても奴に対して先制攻撃を成功させたところで、撃墜できる確証がなかった。一応、サーチライトをつけて堂々と索敵できるメリットもあるが、相手に刺激を与える行為は避けたかった。“貧者の薔薇”で上陸前に絶命させることも考えたが、国を害する()()()()()()怪物に対して、()()()国を滅ぼす兵器を使うなど本末転倒だ。

住民の避難に関しては、全ての住民が確実に避難を開始する警報でなくてはならない。そして、そういった警報は“ほぼ間違いなく街が壊滅する災害“でなければ、人は動かない。街に殺人鬼がやってきたとニュースで伝えたところで、対岸の火事だと思う人が必ずでてくるはずだ。

第一、避難を呼びかけたところで、奴は暗黒大陸から人間の住む大陸までやってくるほどの()()を持った者だ。力のあるハンターで足止めしたところで、内陸まで侵入された時点でアウトなのは部が悪すぎる。

一番最悪なのは、リターンを得ようとする他国のハンターによって混乱状態に陥ることだ。足を引っ張り合うことになれば、貴重な戦力を喪失してしまう。

どうしても監視の目は薄くなるが、重要な部分は隠しつつ、上空に不審物がないか注意するように呼びかけることで妥協した。

 

要するに、先制攻撃はせずに様子見に徹して、あわよくば先に捕捉しようということだ。

万が一人に危害を加えるとしても、その被害は

 

 

--------

 

 

到着予定時刻はちょうど日が沈んでいる時間帯で、情報の拡散を制限している影響で堂々とサーチライトをつけることができないため、光源も少なかった。

覚悟はしていたが、残念ながら次の日になっても見つけることはできなかった。

 

ジンは元々奴の到着予想日から半日遅れて現地入りする予定であったので、周辺の探索および聞き込みをしていた。

すると、収穫があったとのことで一時戻ってきた。

 

「ようジジイ、邪魔するぜ。ビーンズ、この場所の監視カメラの映像出してくれ」

 

「何があった?」

ジンはビーンズに見せていた端末の画面をネテロに見せた。路地裏の写真と、写真を撮ったときの位置情報が示されている。

 

「この場所は?」

 

「偶然見つけた。この場所だけ強風が吹いたみたいに砂が巻き上げられていて、積み上げられていた木箱やゴミも崩れていた。

過去の気象情報でも気圧は安定していて、嵐が起こっていたわけでもないらしい。放出系か変化系の発の練習かと思って一応"凝"をしてみたが、念能力によるものではなかった。()()()()()()()()だと思わないか?」

 

凝はオーラを目に集中する念能力の一つである。

主に念能力による文字の解読や、発を見えなくする隠を見破るために用いられている技術だが、これによって念の影響を受けたものであるかを判別雨することができる。

今回は路地裏に対して使ったが、念能力以外の力によってなされた現象であることがこれでわかった。

 

「映像出ました!それでは、2日前から早送りで出してみます」

 

ーーーーーーーー

 

 

ビフスのやつがいなくなった次の朝。

あの日家に帰った僕はお母さんにケガについて聞かれたが、適当に友達とケンカしたと返したら、そのあとは興味なさげに解放してくれた。

なかなか寝付けなかったが、次の日の朝は早く起きていち早く地方新聞を確認した。あの強風についての記事はどこにも見当たらず、行方不明になったビフスのことも書かれていなかった。

あの時の風は夢だったのだろうかと思いながら学校に行った。

 

いつもと変わらない日常。

だけど、あのビフスだけがいなかった。

 

先生には何も連絡がいってないらしい

舎弟の二人は他のクラスだし、名前も知らない。今頃何をしているのだろうか。

 

放課後、スピーカーから呼び出しがかかった。

 

『チキル=ハーブくん、チキル=ハーブくん、至急応接室に来てください』

どきりとした。怒られるかもしれない。

でも、僕は何も悪いことはしていない。そう自分に言い聞かせて、重い足取りで向かった。

 

「失礼します」

 

「こんにちは、チキルくん」

中に入ると、そこにいたのはPTA会長、そしてビフス=カルヴィンの母親であった。母と一緒ではない時に会うのは初めてだ。

カルヴィン夫人はにこやかに、自分の子供が行方不明になっていることなど知っているはずなのに、それを気にかけない態度で話しかけた。

 

「さあさ、ここに座って。紅茶は甘い方がいいわよね。私、ちょっとあなたとお話ししたくてこっちにきたの。」

ティーポットから紅茶を注ぎ、飲むように勧められた。

 

「いただきます」

 

「礼儀正しい子ねぇ。私、そんないい子ちゃんのチキルくんのこと知りたいの」

そんな夫人の優しい笑顔と紅茶の甘さに安心感を得たチキル。小さい頃から父親がいなかったこと、お母さんが頑張ってくれたこと、

学校生活の話になった。

気の弱い性格でさみしい思いをしていたところに、ビフスが声をかけてきたこと。

豪華な昼食にするために自分からお金を借りてきたこと。そして、約束通り借りたお金より多くのお金を返してくれたことを話した。

 

「そう、十分おこづかいをあげていたと思っていたけど、もっとあげればよかったわね……続けてちょうだい。」

 

はじめはこれ幸いと、お願いされたら貸してあげることにしたこと、増えた分のお金はなるべく貯金したこと、

彼のことを信頼していたことを話した。

 

「えらいわね、子どもなのにちゃんと貯金しているなんて」

 

それまではよかったんだと。

そのうち、お金を貸しても帰ってくるまでの期間がながくなっていき、最後には貸した金額も忘れて、返さなくなってしまったこと。増やした貯金が減っていることに気付いた時にはもう信頼できなくなったんだ、と話した。

 

「・・・それで?」

 

それからは、彼の分の領収書をもらうようにして、ノートに貼り付けて保管することにした。レシートの裏には自分が貸した金額もメモするようにして。ビフスに催促はするけど、貯金したお金は元々は彼のお金だから、貯金がなくなった時はビフスのお母さんに払ってもらえるようにするために。

 

「そのノートは今持っているの?」

 

そのノートを昨日の夜夫人の家に持って行って、せめて減った分のお金を返してもらえないかと言いたかったけど、ビフスに見つかって殴られて、無理やり燃やされてしまったのだ。

そして地面にうつぶせになって泣いている間にものすごく強い風が起きて、目を開けたらビフスが目の前からいなくなっていた。

 

「それが今まで起こったことです」

 

「うちの子が憎かったの・・・?」

 

「正直、嫌なやつでした。」

そうだ。

いなくなってせいせいした。

お金を借りていた証拠はなくなってしまったけど。

それでも、もうお金のことなんてちっとも・・・少ししか、気にしていない。

 

「だからって・・・だからって!お金がほしかったならいくらでもあげたのに!どうしてビフスちゃんを殺したの!

 

「えっ えっ?」

 

「私聞いたのよ!?うちの子の友達から!うちの子がいなくなったあとに『いい気味だ』なんて言ったって!」

 

「それはっ、そういうことじゃなくて」

自分がやったことじゃない、あれはただの事故だ!

 

「それに、あなたのお母さんにも聞いたのよ!今朝は早起きして自分から見たことのない新聞を取りにいったって。あなたが犯人なんでしょ!?」

 

「違う、僕じゃない!僕がやったことじゃない!」

勘違いされている!どうにか落ち着かせて、そんなこと僕にできるはずがないって伝えなきゃ!

 

「もう警察も呼んであります。言い訳は警察署でしてきなさい!」

 

カーテンで仕切られていて見えなかったけど、外からサイレンの音が聞こえてくるのに続いて赤いランプがカーテンを点滅させていた。

大人が大股で歩いてくる足音が聞こえる。もうすぐそこまで来ている。

応接室のドアがノックされた。

 

来ないで。

どうして。

なんで。

嫌だ。

 

 

--------

 

 

その後僕は警察官に手を引かれ、校庭に止めてあったパトロールカーに入れられて、市の中央にある大きな警察署で事情聴取をした。

夫人と違って警察の人は冷静に話を聞いてくれた。だがそれだけだ。子ども一人だけを攫っていく強風が何の前触れもなく起こるなんて話は信じてもらえなかった。

 

それでも記録はされて上司に報告はされた。すると、それから10分もしないうちに質問してきた人が戻ってきた。

 

「これからあってもらいたい人がいる。一緒に来てくれ」

どうやらまたパトカーで移動することになったらしい。

案内する人に連れられて外に出た。今回は手を繋いでいないが、後ろにも警察官がいる。

 

逃げ出したかった。どうしてこんなことになってしまったんだろう。全部、全部あの風のせいだ。

いっそ、あの風がまた吹いて、僕をどこかに連れて行ってくれないか。

ビフスのやつはどうなったんだろう。あんちくしょうの顔は見たくないけど、ひょっこりとでも顔を出してくれればそれで解決するのに。

 

「急に冷えて来たな。さっさと車に乗り込むぞ」

 

そんなことを考えていたからだろうか。

 

風が吹いて来た。

あの時と同じだ。

あの時より冷たい風だ。

小石や砂が巻き上げられ、パトロールカーがガタガタと揺れる。前にいた人は右向きにかがんで飛ばされないように踏ん張り、後ろにいた人は左手をあげて砂利が目に入るのを防ぐが、強い風で目が乾くのか、薄目でまばたきを繰り返す。

反面、僕は巻き上げられた砂を目にして、風の音を聞いてようやく強い風が吹いていることに気付いた。

学校で習ったことがある。台風の目という現象があって、渦巻いた強い風の中心には風が吹かないらしい。

さらに周りの砂や花壇の土を巻き込んだのか、夕焼けで浮かび上がった影でしか前後に人がいることを確認できなくなった。

 

突然脇の下に腕をいれられた。

後ろの人に捕まったのかと思って振り返ると、真っ赤な顔に長い鼻の、怒った表情の顔があった。いや、お面か。

 

「何・・・うわっ!」

脇の下に入った腕から上に持ち上げられ、足が地面から離れる。

自分がもっと小さい頃、たかいたかいと上に放り投げられた時と似ているが、そうじゃない。持ち上げられている腕が()()()()()()()()()()

後ろで僕を抱えている人が、空を飛んでいる!

垂直に浮かび上がった体は警察署の3階ぐらいの高さになると、斜め上にまっすぐ飛んでいった。

 

!? 子供はどこに行ったの!?

まさか、本当にあの少年がこの風を起こしたというのか!?

 

その声は風にさえぎられてもはや少年には届いていなかった。

そして、この事件は念能力者が公共の場で罪を犯したときと同じように、その詳細を闇に葬られることになった。

 

 

--------

 

 

昨日は人間の子供をさらったというのに、その場にいた子供が話題を広めなかったのか、畏れ、妖怪としての認知度がほとんど得られませんでした。仕方ないので今回は大人のいるところですることにしました。

 

「放せ!どこに連れていくんだ!何をするつもりだ!」

少年が声を張り上げはじめました。できれば腕の中で暴れないでいただきたいのですが。

空を飛んでいると先程から白い()()がかかったようになっています。そこまで濃くはないですが、人間にはどこを飛んでいるかわからないでしょうね。

 

「今放したら絶対に落ちて死んじゃいますよぉ。どこに行くかは、人気がないところなら本当はどこでもいいんですが、山の中です。どうするかっていえば・・・実は君を攫った時点でもう目的は達成しているんですよねー。」

懇切丁寧に教えてあげる。妖怪は知名度が命。知られたがりなのだ。

 

「達成して・・・いる?」

 

「そうです。畏れを得ること。私のことを世界に知らしめること。そのために、あなたのような子供をさらいたかった」

 

「僕のような・・・?あの時、ビフスがいなくなった時に一緒にいたからじゃないのか?」

 

「おやおや、一人目の関係者、もといあの場にいた子供でしたか。これは偶然ですよ。何の関係もありません。なぜあなたをさらったかといえばですね。

親から見捨てられた子は天狗にさらわれる。

それを知らしめたかっただけですよ」

 

「そっ、そんなことのために・・・そんなことのために、僕らをさらったってのか!?それに、ビフスはお母さんから大切にされていた!自分の子供のために怒っていたんだぞ!」

 

「あなたにとってはわからないでしょうが、そんなことは我々にとっては死活問題なのです。そして、見捨てられたかどうか、わたしにはわかるんです。おおかた、その親は子供のことを子供として見ていなかったのでしょう」

事実、夫人は自分のできの悪い子供を愛していなかった。

お金を出してあげるのも嫌だったが、うるさくされる方が嫌なのであげていただけだ。

怒っていたのは、どこの誰とも知らない誘拐犯だと警察に言われて反故にされ、賠償金を得られないのは惜しいため、身近な容疑者を攻撃しただけ。

愛しているが故の行動ではなかった。

 

「あなたからも、親から見捨てられた気配がします。せっかくの空の旅です、少しばかり話を聞かせてくれますか?」

 

「もういいよ、僕の話なんて。今日だけで3回も話す気はない。それよりも」

少年幾分か落ち着いた様子だ。無力な自分を悟ったのか。

 

(あの時・・・もっと強ければ・・・知っていれば・・・考えていたら・・・こんなことにはならなかったのかな・・・それなら)

「ぼくも、おまえみたいになれる?」

 

両手がふさがっているので、天狗の面の長い鼻で少年の頭を小突く。

「あいたっ!」

 

「人に何かを頼むときはもっと丁寧に話すべきです。それとわたしにはおまえじゃなくて、射命丸文という名前があります」

 

「シャメイマル=アヤ?変な名前」

 

二度小突く。

「痛い!?」

 

「外国の名前だからです。名誉毀損ですよ。まあ、考えておきますよ」

 

「本当!?ですか!」

 

「それはこれから決めることです。さあ、着きましたよ」

 

樹が生い茂る山に降り立つ。

当然ながら、人の気配はない。

 

「これから、とりあえず・・・一週間生きているなら、天狗になるためのけいこをつけてあげます。ここで死ぬようでは、とうてい天狗にはなれないでしょう」

 

「わかりました。ここで生きていればいいんですね?」

 

「ふふ、ここで一人で生き残れるというのなら。わたしはどこか別の山にいます。では、さようなら」

文は羽を広げ、また空に飛んで行った。

 

(あの目は、まだ自分が生かされているという自覚がない目だ。人の勝手で生まれ、人の畏れで生かされている妖怪も、支え支えられて生きている人間も同じだ。人間が造った生き残るための道具すらない子どもでは無理でしょう。生き残りたいなら、体力があるうちに下山して民家を探すのがいいでしょうが)

 

 

--------

 

 

だんだん暗くなってきた。夜になれば山の中では月と星の明かりしか存在しない。だがここにきてチキルは何をすればいいのかわからなかった。

火を起こせばいいのか?

水を探せばいいのか?

生えている草は食べられるのか?

そのどれにしても、どうやって実行するのかすらわからなかった。

 

「自分には無理だと言えば良かったのかな・・・いや!どうにかする!きっとなんとかなる!・・・はず・・・」

 

情緒が不安定になるチキルの足元に、一匹の獣がやってくる。

 

「きゅぅーん」

クマのような見た目をした動物の赤ん坊は、群れからはぐれて寂しがっているのか、チキルの足首を舐める。

 

「お前も、お母さんに見捨てられたのか・・・?」

獣の前足を持って抱きしめる。警戒心というものを知らず、無知な存在は、今、今までの自分を思い出す。

 

学校で昼食を食べてからしばらくする。もうすぐお腹もすく。

少年には肉を処理する方法を知らない。刃物もない。処理するという概念もない。

 

殺せば食べられる。

なんの理屈もない突発的な思考だった。殺してもなんにもならないのに、無駄な躊躇すらした。

 

腕を頭より高く上げて、思いっきり振り下ろそうとした、その時。

草むらから母親熊が、奇しくも同じ構えで、少年に爪を立てて襲いかかった。




リスク①
天狗の人さらい

古来の農村で飢饉が起こった時には、働き手を生き残らせるため、子供の口減らしをする必要があった。
だが、素直に「野山に捨ててきた」というのでは外聞が悪い。
そこで、そのような場面でよく言われる常套句として「天狗の仕業」ができた。

誰でもない架空の悪いやつを用意して、そいつにさらわれたから仕方ない。余計な詮索をするな、という合い言葉である。

それが転じて天狗という妖怪が生まれた。
親から見捨てられた子どもをさらう役目を持った妖怪は、次第に明確には言いたくないが言わなくていけないことがあるとき ex)大切なものをなくした
「天狗の仕業じゃ!」と言われるようになり、知名度が上昇、勢力を拡大するようになり、社会を作るようになった。

人間が天狗になるには百年単位で山ごもりして修行する必要がある。
そこからさらに、射命丸文のような力を持つには、数百年の時間が必要。
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