暗黒文花帖   作:ヲリア

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彡(゚)(゚)「うーん、ゴンがさらわれる流れが弱いか?」

彡(^)(^)「ギャグ風味で乗り切ったろ!」

誤字報告いただき、ありがとうございます。


Stage4(後). 追跡者(ハンター)

「これからどうしましょうかねぇ・・・」

 

文はザバン港ーーー正確には幻想郷には存在していなかった海ーーーを見つめていた。

ザパァンと波が打ち付ける音が聞こえ・・・ない程度には離れた場所からだが。

妖怪は人間に比べて長寿であるため、人のように生き急ぐこともない。

 

「昨晩の実入りが良くないですが・・・今日のところは気楽に行きますかねえ・・・」

2日前は子供しか私の姿を見たものはおらず、周囲の大人は話を信じられなかったのだろう。

そう思って昨晩は同じ服装の大人がたくさんいる場所・・・警察と思われるところで目標に合致する子供を見つけたので、それをさらえば事態を重く思った人たちが騒いでくれるはずだと踏んでいた。しかし結果は逆。見なかったフリでもされているかのように情報封鎖されていた。

ただ、妖力を使ったとはいえ、彼女の力は数年は持つ程度に残っている。児童虐待を受けているような子供達の施設を襲ってまで、一日も早く名を広めたいとは考えられなかった。

 

かくして街からかっぱらってきた酒を飲みながら日の出より9時間、ただボーッと海を見つめていると、港に大型の木造の船が着く。どれどれと遠目に見てみると、ぐでんぐでんに船酔いしてダウンした多くの男たちが船から荷物でも運び出されるように扱われていた。「これはこれでなかなか面白い」と思いながら眺めていると、いかにも船長らしき人と、3人の男たちが下船していた。船酔いしている男たちよりも若いようなので、少し興味を持ちながら観察した。

 

「スーツ姿の男は成人しているから駄目。かなり俗物的な考え方をしてそうだし、人間代表って感じですね。金髪の子はなかなかね。強い憎しみと誇りを合わせ持っているから、妖怪になったら強くなりそう。両親とは死別したみたいだけど、大切に思われていたみたいね」

文は千年を生きる大妖怪であり、鴉の頃より人にあこがれ、人を学び、人を知った天狗である。妖怪として、天狗として人を見る力は常人のそれをはるかに上回っていた。

 

「そしてあの少年、あの目、あの顔、純粋でありながら貪欲。人間的でありながら妖怪にも近しい、博麗の巫女のような天然の()()()ですね。是非とも天狗道に招待したいところですが、それだけに、実に惜しい。どうにもまだ父親から根っこの部分で信じられている。私が最初にいた場所があの少年の近くなら何も気にしなかったものを」

 

妖怪というものは種族によって違いはあれど、嘘に敏感だ。特に鬼は自ら嘘をつかず、人に嘘を付かれても手に取るようにわかるという。例外として天邪鬼は常に嘘をついているが。

そして何よりも、自らの行動を嘘にしない。つまり自ら定めた規則(ルール)を破らないのだ。

文はこの地に来る前に、天狗としての名前を広めるために『天狗は親に見捨てられた子どもをさらう』と決めた。それを嘘にしないためにも、少年がどれだけ魅力的な人間であっても連れ去ったりしない。

 

彼女はふてくされて物見を続けた。

 

 

ーーーーーーーー

 

 

「昨日はああ言っちまったが、結局のところ分の悪い賭けになっちまうんだよなぁ」

昨晩は細かい作戦会議で夜が遅くなってしまった。その時にジンはゴンを餌に使う案を出したが、それだけで文が釣れるとは発案者のジンを含め、誰も思っていなかった。

そのため、不審者情報を流して子供の個人外出を控えさせ、孤児については可能な限り1箇所にまとめ、スラム街には一般人に化けさせたモラウの煙人形を設置することに決めた。

また、文の2回の出現時刻は夕方と夜であり、ジンから聞いた妖怪の性質は夜行性であることから、それに向けて会長とモラウは仮眠をとり、ジンは何かが起きたときのために待機していた。

ビル最上階の窓ガラスから海を眺め、くじら島からの巡回船が到着したのを見つけた。おそらくあの中にゴンはいるはず。

 

「・・・願掛け程度にもう一回やっておくか」

 

念能力の説明を避けるための方便として、「燃」がある。

 

点(テン) ・・・・心を一つに集中し、自己を見つめ目標を定める。

舌(ゼツ) ・・・・その想いを言葉にする。

練(レン) ・・・・その意志を高める。

発(ハツ) ・・・・それを行動に移す。

 

言葉や意志の力を発現するこの技術は「念」を知る前の下準備として知られているが、全くの嘘というわけでもない。

念能力の達人の言葉、「燃」には言霊が宿り、対象を祝い、呪うのだ。

ジンは言霊が宿るとか霊的なものは信じていなかったが、損はないので今一度やってみることにした。

 

集中する。

対象は自分とゴン。

その関係は親と子。

その関係を否定する。

自分の子供ではない。

だが、それ以上に意志の力を込める。

 

赤の他人だ。

立場が違う。

名前が違う。

歴史が違う。

目も鼻も口も、肉体も精神も魂も、すべてが違う。

 

嘘をつくなら自分から。

嘘をつくなら味方から。

世界を味方につけたなら、世界をも騙す。

 

俺はお前じゃない。

お前は俺じゃない。

 

お前は俺にとっての何者でもない

 

あの船にいるであろう「あれ」に向けて、「あれ」がいる世界に向けてそう言い放った。

だが所詮は一個人が全力で言っただけの嘘に過ぎない。ジンはそれでなにかが変わるとも思ってもいなかった。

 

ゴオオオオオオオオオォォォォォォォォォ

 

少なくとも人の身体で出すことができると思えない音はドップラー効果を伴い、ジンはその音をビルの揺れとともに感じ取った。

慌ててジンは音が聞こえた方向を見ると、映像データと同じ姿形の妖怪少女が船に向かって飛んでいった。

 

「マジかっ・・・マジだ!おいジジイ!モラウ!来やがった!すぐに支度してくれ!追うぞ!」

 

 

--------

 

 

何が起こったかわからないが、あの少年から親の気配が消え去った。

何が起こったかわからなくとも、それだけがわかった瞬間、文は空を飛んでいた。

常識的に考えれば罠以外の何者でもない。

だがそれでもいい。それ以上にあの少年は極上の囮であった。

何よりも面白そうだ。たとえその結果人間の手によってその生命を落とすしても、彼に関わりたいと思えた。

それほどに彼が人間として、妖怪にとって魅力的だった。

立ち向かってきてもいい。今は無理でも近い将来、彼によって打ち倒されるならそれでもいい。

だが、願わくば。

 

「同じ天狗として生きていきたいですねぇ・・・!」

空を飛びながら山伏の格好に似た天狗装束を身にまとう。

その顔は天狗の面を被るまでもなく、酔いつぶれた男のように、恋い焦がれた少女のように赤く火照っていた。

 

懐より葉団扇を取り出し、一度振るう。あたりにそよ風が吹く。

少年はこのときより異変を感じ取っており、後に「潮の香りじゃなくて、秋の山で風が通り抜けたような匂いがした」と評している。

 

ふたたび振るう。急に強い風が吹いたことに港は異常を感じ取る。

船の帆をしまうべく、船員が駆け回る。

 

三度振るえば嵐が吹き荒れる。

その中心にいたゴン以外はもはや立っていることもかなわない。

 

 

ゴンは周りの人が強い風に耐えているのを見た後、その原因を探るべく周りを見渡した。

そうすると視界の端、上の方に人影を見た。未知の敵、何をしてくるのかわからない相手に対し、恐怖しながらも勇気を持ってその姿を見た。

 

(あぁ、良い!その目!弱くともその中にある強さ!その光にどうしても惹かれる!)

文は笑みを深める。酒によって茹だった頭はテンションを際限なく高め、ついには目は見開かれ、口角は頬が裂けるほどに上がっていた。

お面をかぶっていればまだマシだったものを、猛スピードで近づくその顔を見たゴンは、恐怖が上回った結果わずかに目を閉じてしまった。

それを見て文は人間の体に重大な害を及ぼさない程度に速度を緩め、我が子を扱うように優しさを持って、しかし傍から見れば乱暴に、ゴンを空の旅に連れて行った。

 

 

「なんだったんだ今のは・・・」

「無事か?」

風が弱まり、嵐が去ったのを確認したクラピカとレオリオは周りの人の安否を確認した。

 

「俺は問題ねえ。一応近くにけが人はいねえな。船の方は大丈夫か!」

レオリオがそう呼びかけると船長が中から出てきた。

 

「大丈夫だ!ちょいと頭を打ったやつがいるぐらいだ。なんてことはねえ」

 

「頭はやべえぞ、後々響いてくることもある!診断するから今からそっちに行く!」

そういってカバンをとったレオリオは船に乗り込んだ。

 

「やれやれ、とんだ災難だ。・・・ゴンはどこだ?」

クラピカはこういうことがあったら心配するよりも興奮してはしゃぎそうな隣人の姿が見えないことに気づいた。

 

「ゴン!何処に行った!まさか、これもハンター試験だというのか!?」

 

「何があった?」

黒いスーツにこれまた黒いサングラスをかけた男が寄ってきた。

 

「誰だお前は!?」

 

「まあ落ち着け。私はハンター試験監視員の者だ。ゴンという者がいなくなったことに我々は関係していない。私は今しがた来たところだが、状況を教えてくれないか?」

クラピカは監視員を名乗る男に不信感を覚えながらも、先程起こったことを簡潔に説明した。

 

「わかった、彼は我々の方でも捜査することにしよう。最近になってこのあたりに不審者が出没したらしい。親と離れ離れになった子どもを狙うらしいので、君も気をつけるように」

 

「協力感謝する(ゴンは船の中であったきりの関係だが、いなくなったらやはり気になる。人徳のなせる技ということか)」

監視員の背中を見送りつつ、クラピカはけが人の手当をするレオリオを待つことにした。

 

 

(不味いな、ジンさんはこのことを把握しているだろうか?)

ハンター試験監視員を名乗るこの男は、実はそうではなく、ゴンを監視するべく急遽ジンから依頼された幻獣ハンターだった。

 

その念能力、『狩人の探知玉(ペイントボール)』は自身のオーラを混ぜた玉を対象に当てることで、しばらくの間方角と距離を知ることができる。さらに彼の持ち前の空間把握能力によって、対象が地図上の何処にいるか正確にわかる。

普段は幻獣を相手に使用し、その生態を知るための能力だが、今回はゴン及びその他の文の対象に選ばれそうな子どもに通りすがりを装って使う予定だった。

 

「あのビルの最上階にいるはずだし、あの音だったら流石に気づくだろう。まあマーキングする前にターゲットが出てきちまったんなら仕事はオジャンかぁ。しゃーねえなあ」

彼は頭をボリボリとかきつつ、ジンの携帯端末にメールを入れておいた。

 




ー清くて正しい射命丸

ー理性の壁
|⇦今ここ
ーヒソカ

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