私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1章・イキキル 後編①

チャラチャラララ~♪

チャラチャラララ~♪

チャラチャラララ~♪

チャラチャーチャーチャラチャーチャーチャチャー♪

 

希望ヶ峰学園に入学した私達、超高校級の才能達。

だが、その入学式の直前、モノクマを操る黒幕に誘拐され監禁される。

“コロシアイ学園生活”を宣言するモノクマ。

そんな中、仲良くなった超高校級の“アイドル”舞園さやかが何者かに殺された。

そして、“学級裁判”に反対した私の親友

超高校級の“ギャル”江ノ島盾子もモノクマに殺されてしまう。

 

迫り来る学級裁判!

 

「だから、アイツはあんなことをしたのか…」

 

ダイイングメッセージの意味とは…!?

 

 

「真実はいつも一つ!」

 

 

智子はこの完全犯罪を暴くことができるのか!?

 

 

 

次回、“名探偵”黒木智子 

 

 

 

      「希望ヶ峰学園殺人事件 後編」

 

 

 

NEXT智子ズヒント「ネームプレート」

 

 

 

 

(ふう…まあこんなところかな)

 

頭に湖南の軽快なBGMが流れ、つい次回予告を作ってしまった。

それだけ私もノリノリということだろうか。

一昔前のBGMを使用してしまったのはご愛嬌だ。

私も全てのアニメをチェックしているわけではない。

湖南は久しくみていないな。

まだ黒色の組織との決着はついていないのだろうか。

アイツら、もう十年近く膠着状態になってないか…?

まあ、話を戻そう。

 

 

あの~犯人、わかっちゃいました。

 

 

ウハ、いいよ、いいよ!これだよ!

このゾクリとする感覚だよ!ああ、なんて気持ちがいいのだ。

それはもう麻薬のような快楽。

今なら、某人気歌手のようにお縄となってしまうかもしれない、とそう思うほどに。

ああ、いかん、いかん。

快楽にヨガってる場合じゃねーや。

こうしている間にも、捜査のタイムリミットは刻々と近づいている。

そろそろ、シリアスに戻らなねば。

 

私は、部屋の中に戻り、舞園さんの前に立つ。

大和田君と大神さんは、怪訝な表情で私を見つめるが、今はそれを気にしないことにする。

私がここに来た理由は一つだけだ。

 

舞園さんにこの事件の真実を最初に教えてあげたい。

 

私の初めての推理を…この事件の真実を、被害者である彼女にこそ捧げたい。

私は、ゆっくりと瞼を閉じる。

 

真実は…今、ここに!

 

 

 

 

―――――これが事件の真相だ!!

 

 

 

 

突如、場面は裁判所のような場所に変わる。

私は、犯人の前に立っていた。

 

 

 

“ちょ、おまw誰だよ、この美人は!?”

“ん?突然の新キャラの登場か何かかな?”

“美化しすぎだろ!完全に別人じゃねーか!”

“巨乳美人になっててワロタwww”

 

 

また何処からともなく小うるさい幻聴が聞こえてくる。

うるさい奴らだな…どう見ても私ですが、何か?

幻聴を無視して、推理を続けよう。

 

私は、犯人と思われる人物の前に立っている。

犯人と思われる人物は、全身を黒塗りにして、まるで影のようであった。

不敵な笑みと敵意をもった目だけが怪しく光っている。

どうやら、推理で犯人を当てることで、正体がわかる仕様のようだ。

 

「笑っているのも今の内よ…“クロ”!

私が今からあなたの犯罪を解いてあげるわ…ジッチャンの名にかけて!」

 

私はクロに向かって宣戦を布告する。

勢いで名台詞をパクってしまったが、私の祖父はもちろん探偵ではない。

千葉の田舎に住んでいるただの農家であり、現在は鶏を増やそうかと計画中である。

久しぶりに祖父の顔を思い浮かべていると、

突如、私の頭上に、いくつかの映像がカードのように並べられていく。

なるほど…どうやら、これをジグゾーパズルのように当てはめていくことで

事件の真相がわかる仕様になっているようだ。

よし、では、さっさくやってみよう。

 

最初に選んだカードは、舞園さんが、クロを招き入れている場面だった。

 

何者かの襲撃の怯え、部屋の交換までした舞園さん。

だが、そのカードの舞園さんは、笑顔で犯人を招き入れている。

 

「彼女に信頼されているあなたなら、簡単に彼女の部屋に入ることができる。

“忘れ物をした”とかなんとか理由をつけてね」

 

「…。」

 

私の指摘にクロは黙り込む。どうやら、図星のようだ。

私は、次のカードを手に取る。

そこには、恐怖に顔を歪めた舞園さんと、

口から涎を垂らして襲い掛かるクロが映っていた。

それはまるで獣のように。

クロは、舞園さんの信頼を踏みにじり、その欲望を解き放ったのだ。

それが全ての引き金。この犯罪の発端。原始的欲求。

 

「そう、クロ…あなたは―――」

 

 

 

舞園さんを、無理やり“ビィーーー”しようとしたのよ!

 

 

 

あれ?何だ、発言が突如、異音に妨害された。

いや、だから、クロはアイドルである舞園さんと密室にいることに

理性が限界を超え、ついにその魅惑的な身体をむりやり“ビィーーー”しようと。

あれ、やっぱり上手くいかない。

だから、奴は彼女の服に手をかけて“ビィーーー” “ビィーーー”

チ…どうやら、ここではこの発言は放送コードに引っかかるようだ。

仕方がない、諦めよう。

 

気を取り直して私は、次のカードを手に取る。

そこには、ナイフと模擬刀の二刀流で舞園さんに襲い掛かるクロが映っている。

 

“ブゥ~~~~~”

 

不快な音響が私の選択の失敗を告げてる。

頭上のライフポイントが一つ減ってしまった。

 

くそ、失敗か…確かに、なんで二刀流になる必要があるんですかねぇ…。

小学生のチャンバラじゃないんだから。

私は気を取り直し、次のカードを手に取る。

ナイフを手にするクロに舞園さんは、慌てて模擬刀を取ろうとしていた。

 

“ブゥ~~~~~”

 

再び、不正解の音が響く。

あれ、なんで!?なんで、これが不正解なのだ?

ナイフを持って襲ってきたクロに、舞園さんが、とっさに模擬刀で応戦した…はずだ。

ライフもまた一つ減ってしまった。

これ以上は失敗できない。よく考えろ、私!

 

(ハ…そうだ!舞園さんの手首についていたもの…あれがヒントだ!)

 

舞園さんの骨折して右手首の袖口には、模擬刀の金箔がついていた。

そして、彼女の手のひらには、何も付着していない。

つまりそれは、クロが模擬刀を使って、そこに打撃を加えたことを意味する。

 

(うん?でも待てよ…だったら、犯人は包丁をどうしたのだろう?)

 

わざわざ包丁をどこかに置いた後で、模擬刀で舞園さんを襲った…?

いや…そんなことはありえない。

この部屋の惨状を見れば、クロと舞園さんは激しく争ったのがわかる。

クロが模擬刀を持っていたことは確定した。

 

ならば、包丁は…

 

 

(あの時のハンドバックの中か…!)

 

 

電流が奔った。

彼女は、ハンドバックを持っていた。あれは果物を入れるためなんかじゃなかった。

あれは、包丁を入れるために持ってきたのだ。

 

包丁を持ち出した人物…それは被害者である舞園さん自身だったのだ。

 

(そうか…舞園さんは、護身用に包丁を持ち出したのか)

 

全てはつながる。

部屋を交換するほど怯えていた舞園さんが包丁を護身用に所持しても何ら不思議ではない。

だが、模擬刀で右手首を殴打された時に、

包丁を落としてしまい、クロにそれを奪われてしまった。

 

その時の彼女の恐怖を想像しながら、私は次のカードを手に取る。

舞園さんは、シャワールームに逃げ込み、ロックをかけた。

しかし、包丁を手に取ったクロは、シャワールームの前に迫る。

 

まさに性欲の権化だ。

 

いや、逆上して頭がおかしくなってしまったのだろう。

私が手にとった次のカードには、

“ある物”を使ってドアノブを壊したクロが舞園さんに再び襲い掛かる映像だった。

掴み合いをしている時に包丁が彼女の腹部に刺さってしまった。

慌てるクロ。

舞園さんは、壁に背を当てズルズルとしゃがみこんでいく。

虚空を見つめる瞳。彼女は震える左指で、後ろの壁にダイイングメッセージを書き込む。

 

いよいよ事件も終わりに近づいてきた。

私が手にとった次のカードには、

クロがテープクリーナーを使って証拠隠滅に取り掛かっていた。

これが、髪の毛が一本もない謎の答えだ。

 

そして、最後のカード。

そこには、ネームプレートを入れ替え、薄笑いを浮かべるクロがいた。

 

「そう、これは計画殺人ではなく、突発的な殺人だったのよ。

誤って舞園さんを殺してしまったあなたは、焦った。

死体を処分しようにも、現在、私達が移動できるのは、この1Fのみ。

朝になれば、朝食において、舞園さんの不在はすぐ知られてしまう。

だから、あなたは、とっさにこのトリックを思いついたのよ。

舞園さんと部屋の交換という状況そのものを利用することを」

 

「…。」

 

クロは無言を通す。

だが、その黒塗りの顔には、明らかな動揺と大粒の汗が浮かんでいた。

ついに私は、クロを追い詰めたのだ。

 

「そう、あなたは、テープクリーナーで、証拠を隠滅し、

ネームプレートを交換することによって、その部屋を舞園さんの個室に仕立て上げ、

部屋を交換した事実を隠そうとしたのよ!

最初から部屋の交換などはしていない。

舞園さんは自分の部屋で殺された…そういうことにするためにね。

これは、舞園さんの隣部屋で、部屋の交換を行ったあなたにしかできないトリック。

そしてあなたは、次の日、第一発見者を演じた。

舞園さんは、自分の個室で殺されたことを印象づけようとしてね…そうでしょ?」

 

 

 

 

             苗木…誠君!!

 

 

 

「ぐッ…!!」

 

クロの黒塗りが消えてゆき、その中から苗木が姿を現した。

その顔は、ひどく歪みんでいた。額に大粒の汗をかき、その瞳に恐怖と敵意が映る。

 

「ハ、ハハハ、な、何を言ってるんだよ、黒木さん。冗談は止めてよ」

 

苗木は焦りながらも、両手を振りながら反論を始める。

 

「舞園さんは不審者に狙われて怯えていた。

彼女は、それで僕に部屋の交換を提案してきたんだ。

僕と舞園さんは、同じ中学校出身だったからね。

僕は彼女を助けたかったんだ。

そんな僕が彼女を…舞園さんを殺すわけ…ないじゃないか~~~~~ッ!!」

 

声を震わせながら苗木は叫ぶ。

それは確かに聞いた人間の心を揺さぶるものがあった。

 

(名優だね…苗木君)

 

だが、私は騙されない。

この男がいかに人の皮を被った魔物であるかをここで暴いてやるのだ。

 

「その不審者の正体こそ、あなたよ!苗木君。

そして、不安になっている彼女に部屋の交換を持ちかけたのもね!」

 

「クッ…!」

 

邪な欲望を成就させるために周到に用意された計画。

全ては彼女を“ビィーーー” “ビィーーー” “ビィーーー”

しかし、それが最悪の結果となってしまった。

 

「ま、待ってよ!思い出してよ!僕は、自分から部屋の交換の件を打ち明けたじゃないか!

僕が本当に犯人なら、このことは隠すはずだよね?

犯人なら、自分が不利になるようなことは絶対に言わない!

だから、僕がこの件について

自分から話した事実こそ、僕が犯人ではないという証拠じゃないかな…?」

 

大げさに身振り手振りしながら、苗木は己が無実を語る。

その表情は次第に、落ち着きを取り戻してきた。

だが、それとは裏腹に、その目には強い敵意が宿り、

口元には時折、下卑た笑みが浮かべていた。

少しずつだが、その邪悪な本性が露となってきたようだ。

 

「…モノクマファイル!」

 

「ヒッ…!?」

 

私の言葉がまるで“弾丸”のように発射され、苗木の耳を掠めた。

嘘の核心を撃ち抜かれた苗木は、小さな悲鳴を上げた。

おお、嘘を見破るとこんな演出が起こるのか。

言葉の弾丸か…そうだ、これからは言弾(コトダマ)とでも呼ぶことにしよう。

おっと、話の途中だった。

 

「それは嘘よ。あなたは自分から打ち明けてなどいなかった。

モノクマファイルに“殺害現場は苗木誠の部屋”と記載されていたために、

部屋の交換の件を打ち明けるしかなかったのよ!」

 

「…ッ!」

 

 

そうなのだ。

この部屋の入れ替えトリックは、突発的殺人を隠すために即興で行ったもの。

故にこのトリックには多くの穴が開いていた。

例え隣部屋とはいえ、部屋の位置を記憶している人間がいればすぐにバレてしまう。

このトリックはそう長い時間、真実を隠せるほどの強度を持ち得ないのだ。

恐らく苗木は、そのわずかな時間に校則⑥(仲間の誰かを殺したクロは“卒業”となりますが、自分がクロだと他の生徒に知られてはいけません)

が適用される可能性に賭けたのだ。

なんと邪悪で抜け目のない奴だ…まさに人の皮を被った悪魔、人間のクズそのものである。

だが、その目論見も、モノクマファイルの存在により破綻することとなった。

まさかそんなものが出てこようとは、誰も予想できなかったはずだ。

これはモノクマの気まぐれである。

まあ、早い話は、苗木は“幸運”から見放された、ということだ。

 

 

「ヒ、ヒヒヒヒヒ…ヒァハ――――――ッツ!!」

 

「なッ!?」

 

その時だった。

下を向いてなにやら、

ブツブツ呟いていた苗木が突如、パーカーを頭に被り雄たけびを上げた。

 

「へへへ、名探偵さんYO~~~あんた大事なこと忘れてないか?

証拠だYO、しょ・う・こ!証拠がなければ、その推理はただの妄想だYO !

このオレ様を犯人と断じることなんてできないんだYO~~~~~~~~ッ!!」

 

パーカーを被った苗木は、まるでラッパーのような語尾を用いて反論した。

その形相は、あの優男のそれではない。

その顔はまさに、己が欲望のために舞園さんを殺めた殺人鬼のものだった。

 

「ヒャハハハ、オレ様の勝ちだ~~~~~~~~ッ!!」

 

高らかに勝利を宣言し、私に向かって両手でダブルファッ○を決める苗木。

私は奴に心臓に向けて、ゆっくりと右手を銃のように掲げる。

 

 

 

 

          “工具セット”――――ッ!!

 

 

 

 

「ギィヒ~~~~~!?」

 

 

私が放った言弾が苗木の心臓を撃ち抜いた。

 

「あなたは、支給された工具セットでシャワー室のドアノブを壊して侵入したのよ。

だから、あなたの工具セットには、使用した形跡が残っている。

それこそが、あなたが犯人である動かぬ証拠よ!」

 

初日に部屋においてあった張り紙の内容を思い出す。

女子には裁縫セットが、男子には工具セットが配ったと。

裁縫セットは、包装を破らなければ使えない仕様だった。

ならば、工具セットも同じ仕様のはずだ。

脱出口を探すための捜査において、苗木が工具を使用したと

いう話も聞いたことはない。

ならば、苗木の工具セットに使用した形跡があるならば、

それは、シャワー室のドアノブを壊した時しかない。

 

これで、全ての謎は…ああ、ダイイングメッセージが残ってた。

だが諸君、安心して欲しい。

あれは、謎でも何でもなかったのだ。

これを見て欲しい。

 

“11037”

 

最初の3つの数字に注目して欲しい。

“110”つまり、110番(ひゃくとおばん)だ。

盾子ちゃんが串刺しにされた時、私はパニックを起こして救急車を呼ぼうとしたように、

舞園さんも刺されてパニックを起こして“警察を呼んで欲しい”と思い、

とっさに壁に書いてしまったのだ。

いや~考えると単純なことだったんですねぇ~HAHAHAHAHAHAHA。

 

 

「あ、あああ…」

 

苗木は魂が抜けたようにヘナヘナと床に膝を崩した。

それは言葉なき敗北宣言であった。

 

「すごい、すごいよ!智子ちゃん!!一人で事件を解決しちゃった!!」

 

朝日奈さんが、飛び跳ねながら歓声を上げた。

 

「うひょ~~カッコいいでござる黒木智子殿!まるでアニメの名探偵のようですぞ!!」

 

山田君が巨体を揺らしながら、興奮する。

 

「ウフフフ、やりますわね、黒木さん。やはり只者ではないと思っていましたわ」

 

セレスさんが私に、好意の瞳を向ける。

 

「見直したぜチビ女…いや、黒木の姉御!」

 

大和田君が“グッ”と親指を立てる。

 

「凄いぞ、黒木君!宣言しよう!僕は生涯、君のことを尊敬する!」

 

石丸君が暑苦しく感涙する。

 

「黒木さん、凄いなぁ…僕、憧れちゃうよぉ」

 

不二咲さんが、目を輝かせる。

 

「うぬ…さすが黒木よ。我には真似できぬ」

 

大神さんが、目を閉じ頷いた。

 

「フ、黒木智子よ。貴様、我が十神財閥の専属探偵になる気はないか?」

 

十神君も遠まわしであるが、私のことを認めてくれたみたいだ。

 

「キィイイイ~~~黒木のくせに生意気よ!でも、悔しい…尊敬しちゃう!」

 

腐川さんはハンカチを噛みながら、背反した感情を吐露する。

 

「凄すぎるべ!智子っち!後でサインくれ!オークションに出すから!」

 

葉隠君が、私に尊敬の眼差しを向け…てるよね?

 

「カッコいいぜ、黒木智子ちゃん!俺、ファンになっちゃったよ!」

 

桑なんとかさんも、ようやく私のフルネームを覚えてくれたようだ。

 

「黒木さん…」

 

霧切さんが私の前に進み出る。

 

「ごめんなさい…!調子乗ってリーダーぶってあなたの捜査の邪魔をして。

全部、漫画やアニメの名探偵の真似をしていただけなの。

ああ、私はなんて迷惑な中二病だったのかしら…うう」

 

霧切さんは、床に膝を崩し、シクシクと泣き出した。

ようやく、自分のレベルを理解したようだ。うん、いろいろあったが、彼女を許そう。

 

「やったじゃん☆もこっち!」

 

「うぉ!?」

 

突如、床の扉が“ガチャリ”と開いて、飛び出てきた人物を見て、私は驚きの声を上げた。

 

「もこっち、久しぶり~~」

 

「じゅ、盾子ちゃん…!?」

 

そこには、串刺しになって死んだはずの盾子ちゃんがいた。

 

「天国から見てたよ。いや~凄いじゃん、もこっち!」

 

どうやら彼女は天国から私の活躍を見てくれていたようだ。

言われてみると、彼女の頭の上に死んだ証明?となる天使の輪が浮いていた。

 

「私もみていましたよ!黒木さん!」

 

「うわぁ!?舞園さんも!?」

 

盾子ちゃんの隣の床の扉が開き、そこから被害者である舞園さんが出てきた。

その頭には、盾子ちゃんと同じように天使の輪が浮いていた。

 

「事件の真実を解いてくれて、本当に…ありがとうございます!」

 

「ま、舞園さん…」

 

彼女の笑顔に胸が熱くなり、私は声を詰まらせる。

私の推理によって、彼女の魂を救うことができたみたいだ。

 

(でも、盾子ちゃんに、舞園さん…天国って地下にあるんですかねぇ…?)

 

そんな些細な疑問が胸の奥に残った。

しかし、今はそんなことに気にしている場合ではない。

 

 

 

「まだ、コロシアイ学園生活を続ける気なの?モノクマ!」

 

「ヒッ!?」

 

私は端に隠れて様子を窺っていたモノクマを睨む。

今回の件で、知性における格の違いがわかったはずだ。

これからいくら殺人事件が起きようとも、

私がいるからには、それは事件にも裁判にもなりえない。

これからコイツが仕掛けること全てがまったくの無駄になるのだ。

 

「ぐ、ぐぬぬぬぬぬ」

 

状況を理解し、モノクマは歯軋りをする。

また何か仕掛けを使って、私達を脅迫するのだろうか?

だが、そんなことは、ただ恥の上塗りとなるだけだ。

モノクマにできることは、もはや何もなかった。

 

「…ボクの負けです。皆さんを解放して自首します…」

 

ショボーン。

そんな感じでうな垂れながら、モノクマは敗北を認めた。

 

 

――――ゴゴゴゴゴ

 

 

モノクマの敗北宣言と共に、玄関の鉄の扉が轟音と共に開き始めた。

 

(眩しいな…)

 

光りが…十日ぶりに見る太陽が私達を照らす。

 

「おかえり!智子!」

 

「お母さん!」

 

外には、お母さんが待っていた。いや、それだけじゃない!

 

「お父さん!智貴!ゆうちゃん!」

 

みんなが…みんなが私を待っていてくれた!

 

「おめでとう」

 

智貴がそう言って拍手する。

 

「おめでとう」

 

ゆうちゃんもそれに続く。

 

「おめでとう」

 

お父さんとお母さんも拍手する。

 

「おめでとう」

 

朝日奈さんも山田君もセレスさんも。

 

「おめでとう」

 

大和田君も石丸君も不二咲さんも。

 

「おめでとう」

 

葉隠れ君も十神君も腐川さんも。

 

「おめでとう」

 

霧切さんも桑なんとかさんも。

 

「おめでとう」

 

盾子ちゃんも舞園さんも。

 

「おめでとう」

 

苗木もモノクマも。

 

みんなが私の周りに輪となって集まり、私のことを祝福してくれる。

 

「みんな…」

 

その気持ちに応えられるのはこの言葉だけだ。

万感の思いを胸に、私はその言葉を口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

       “ありがとう”

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへへへ」

 

「おい…オイ!」

 

「うひひ、ありがとう…みんな、ありがとう」

 

「オイコラ!チビ女!ヤクでもキメてんのか、てめーは!?オイ!!」

 

「え、ハッ…!?」

 

耳元で騒がしく響く大和田君の声で私は現実の世界に戻ってきた。

どうやら、自分の推理に酔いしれるあまり妄想の世界に足を踏み入れてしまったようだ。

見ると目の前には、大和田君と大神さんがいた。

だが、その様子は先ほどとは違う。

大和田君は、真っ青になり、顔に汗をかき、

大神さんは、険しい顔をさらに険しくして、私から距離をとる。

それはまるで敵に対して戦闘態勢に入るかのように。

 

(え、何で…?)

 

状況がわからずに困惑する私。

だが、大和田君の次の言葉で、全てを理解することになった。

 

 

 

「てめーチビ女、こんな所で何、ニヤニヤ笑ってんだ!?」

 

 

(え…こんな所って…)

 

私は顔を上げて、部屋を見渡す。

そう、ここは苗木の部屋であり、殺害現場。

私の目の前には、被害者である舞園さんの遺体が…

 

 

(ぎゃぁああああああああああああああああああ~~~~~~~)

 

 

私は心の中で絶叫した。

 

舞園さんの遺体。そして、その前でニヤニヤと妄想しながら笑う私。

 

ハイ、完全にサイコパスです。

 

「てめ~何、笑ってたんだ!?ハッ!まさか、舞園はお前が…」

 

「黒木、お主は…」

 

彼らの発言により、状況が最悪の方向に向かっているのは疑いようがなかった。

大和田君と大神さんから見れば、私は現場に戻って遺体を確認して嗤う殺人鬼

にしかみえない。

 

「ち、ちちちちち違うんです!誤解です!ちょっと、思い出し笑いをして―――」

 

「あん?こんなところでかよ?てめーは頭、湧いてるんのか!?」

 

私の言い訳に大和田君は、血管を浮き立たせて激昂する。

だめだ。今は言い訳を聞いてくれる精神状態じゃない。

 

(あ、そ、そうだ!)

 

私は部屋の机に目を向ける。

あれには、動かぬ証拠となる“工具セット”が入っているはずだ。

私の勘が確かなら、工具セットはまだ机の引き出しにあるはず。

あれを大和田君と大神さんに見せて、先ほどの推理を話そう。

そうすれば、ついでに私の疑いも晴れるはずだ。

 

「オイ、チビ女、どこ行く気だ」

 

私は、大和田君の声を振り切るように机に向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 

その時だった――――

 

 

「大和田君、何かあったの?」

 

誰かが、部屋に入ってきた。

その声を聞いた瞬間、私は歩みを止めた。

クラスメートの声を知っているのは当たり前だろう。

だが、その人物は、私にとってただのクラスメートではなかった。

そいつは、敵。舞園さんを殺した殺人鬼。

 

「おう、また来たのか、苗木」

 

苗木誠。

犯人であるこの男は再び殺人現場に戻ってきたのだ。

 

(な、なんで、こいつがここに…?)

 

背中に冷たい汗が流れる。

私は恐怖のあまり振り返ることなく、その場で固まってしまった。

 

「苗木、まさかてめー、この現場を荒らしにきたのか!?そうはさせねーぞ、コラ!」

 

「ち、違うよ、落ち着いてよ、大和田君」

 

大和田君は、相変わらずの早とちりで短気を起こした。

だが、今はそんな彼がとても頼もしい。

苗木が何かしよとしても、彼と大神さんがいる。

私は僅かな安心感を取り戻し、このまま彼らの会話を盗み聞きすることにした。

 

「大和田君、僕は舞園さんを殺してなんかいない!」

 

「ああん?ここはお前の部屋だろ!どう考えても犯人はお前しかいねーじゃねーか!」

 

「今は、まだ証明できない。だけど、学級裁判で、必ず僕の無実を証明してみせる!

殺された舞園さんのためにもね!」

 

(フ、名優だね、苗木君)

 

彼らのやりとりに私は推理の時の台詞を思わず呟いてしまった。

現実の苗木も、推理の時の苗木と変わらぬ名優ぶりである。

だが、そんな演技に騙される人など…

 

「チッ…その目、どうやら本気みてーだな。おめーの言葉、とりあえず信じるぜ!」

 

(だぁ~~~信じるのかよ、お前は!?)

 

大和田君は、あっさり信じてしまい、私は心の中で頭を抱えた。

 

「それで苗木よ、お主は再び、ここに何しにきたのだ?」

 

二人のやりとりを聞いていた大神さんが口を挟む。

そうだ、コイツ…何しにきたんだ?何か嫌な予感がする。

 

 

 

「うん、実は殺された夜の舞園さんの行動を調べていた時に、朝日奈さんに聞いたんだ。

厨房に向かう彼女を見た、と。だから、話を聞きにきたんだ…黒木さんに」

 

 

 

電流が奔った。

苗木が…殺人鬼が私と話を…?

恐怖に震えながら、ゆっくりと振り返る。

そこには、私に向かって歩いてくる小さな悪鬼の姿があった。

 

(なんで、なんで私に!?)

 

わけがわからない。

私は事件とは何の関係もない。

その私に何を聞きたいというのだ!?

 

(ハッ…まさか)

 

私は最悪の可能性に気づく。

苗木は、この殺人鬼は、野獣の感により、

私が事件の真実を知ったことに気づいたのではないか?

だから、私に話を聞きたいなどと嘘をつき、

どこか人気のない場所に連れ出して、口封じのために私を殺し…

 

(う、うあ…)

 

どっと毛穴から汗が吹き出る感覚に襲われる。

視界には、迫る苗木とシャワー室が映る。

あのシャワー室の中には、舞園さんの遺体が…

 

 

(わ、私も、舞園さんのように、こ、殺される…!?)

 

 

次の瞬間、世界が揺れだす。

いや、揺れているのは私だ。震えているのは私だ。

このままドリルのように穴を掘れるのでは?思うほど私は震えている。

その様子に、苗木は焦りの表情を浮かべる。

 

「あ、あの黒木さん、聞きたいことがあるんだけど…」

 

「こ、この…ごろ、し」

 

「え?何を言って…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

     ”この…人殺し”~~~~~~~~~~~~~~

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「え…ッ」

 

苗木の横をすり抜けて私は走り出す。

苗木の瞳には、真っ青な顔した私が映っていた。

 

「な、なんだ!?」

 

驚く大和田君の横を駆け抜け私は部屋を出る。

食堂の方に向かって私は走っていた。

顔を下に向けながら全力で、無我夢中に。

 

言ってしまった。

言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。

言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。言ってしまった。

 

人殺しに“人殺し”と言ってしまった!

 

隠れなきゃ。

どこかに隠れなければ。早くどこかに。

学級裁判までどこかに隠れるのだ。

早くしなければ、アイツが追ってくる。アイツが…苗木が私を殺しに来る。

だから、早くどこかに…

 

私は全力で走りながら、苗木の顔を思い出していた。

“人殺し”私がそう言った瞬間のアイツの顔を。

 

 

アイツは…絶望していた。

私の言葉に確かに絶望していたんだ。

 

 

それはまるで無実の人間が冤罪により、死刑判決を受けた時のように。

愛する人間に誤解され恨まれた時に見せるような表情で。

苗木は、私の言葉に深く傷ついていた。

なんで、何でよ!?

舞園さんを殺したのは、お前だろ!?

そのお前が、何であんな顔をするんだ!?

名優?名優だからなのか!?

 

 

(うう、何なんだ、この気持ちは…?)

 

 

それはまるで人を傷つけてしまったことによる罪悪感のように、

私の心を掻き毟った。

 

 

 

 

「うげッ―――ッ!?」

 

全力疾走のままに食堂に入ろうとした瞬間、

“柔らかい壁”にぶつかり、私は、モヒカンの雑魚キャラのような悲鳴を上げる。

そのままお約束のように頭を床に打ちつける私。

 

「大丈夫…?」

 

「は、はい…」

 

ぶつかった誰かの声に私は応える。

頭を打ったために、視界がグラグラと揺れている。

思考も鈍く、誰の声かよくわからない。

 

「手を貸すわ」

 

「す、すいません」

 

私の様子を窺っていたその人は、私に向かって手を差し出した。

私は好意に甘え、その手を掴んだ。

 

 

 

―――ヒヤリ。

 

 

(え…?)

 

その感触により、私の思考は急速に戻ってきた。

私はこの感触を知っている

差し出されたその手には本来あるはずの体温が感じられない。

その手には、黒い革の手袋がはめられていた。

 

黒革の手袋から伝わる独特の冷たい感触は、その所有者を端的に表現していた。

 

 

 

 

「ちょうどよかったわ。黒木さん…あなたに聞きたいことがあったの」

 

 

 

 

 

そこにいたのは…霧切響子だった――――

 

 

 

 

 




もこっちがやらかさずに何が私モテの2次作品だ!
次回はVS霧切さんと学級裁判開始。

すいません。
マジ、仕事が忙しくて平日書けません。
ギアスと同時連載してますので、あまり早く更新はできません。
もし更新を待っている方がいましたら、大変申し訳ありません。

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