私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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ようこそ絶望学園(中編)

「う、う~ん」

 

体がだるい。頭がズキズキする。

目を開けるとそこには机があり、顔を上げると黒板があった。

どうやら、机の上でうつ伏せになり、寝てしまっていたようだ。

周りに誰もいないのは、午後の授業で昼寝して、放課後になってしまったようだ。

やべえ…涎がついてる。

ああ、そうか。全て夢だったのか。

 

私が超高校級の“喪女”として希望ヶ峰学園に入学する―――

 

どんな夢を見てるんだよ、私は。

まだ、ゲームのイケ面と付き合う夢の方が嬉しいわ。

ユニークすぎて我ながら呆れる。

 

「さて…じゃあ、帰るか」

 

いつまでも、教室にいても仕方ない。さっさと家に帰ろう。

私は帰宅部だ。こんな時間に学校にいる理由はない。

結構、熟睡した気がする。外が気になるな。

外はもう、日も暮れてい…

 

「―――ッ!?」

 

その瞬間、私は絶句した。

窓には、青い空も、太陽も、夕暮れも、そこにあるべき光景は何もなかった。

全ての窓という窓が鉄板で固く閉ざされていた。

 

「な、何これ…」

 

その異様な光景に後ずさりした私は、天井から私を見つめているものに気づく。

 

「監視…カメラ?」

 

本来、防犯のために付けられているはずの監視カメラは、教室の中に付けられ、

私を見ていた。

 

「どこなの…ここ?」

 

血の気が引いていくと共に、眠気が消え、意識がはっきりしていく。

 

私が超高校級の“喪女”として希望ヶ峰学園に入学する―――

 

そんなふざけた悪夢は、現実だったのだ。

そうだ。

私は、玄関ホールで、貧血を起こし、倒れたのだ。

じゃあ、ここは、希望ヶ峰学園の教室の中…?

 

「ん…?」

 

振り返り、今更、教室の全体を眺めると、後ろの教室の入り口付近の席に

一人の男子高校生が、机にうつ伏せで寝ているのに気がつく。

男子高校生の体型は、一般のそれよりも小柄で、制服の中にパーカーを着込んでいる。

 

在校生かな…?

 

そりゃそうだ。

希望ヶ峰学園は「学園」なのだ。

そこで、学ランを着ているのだから、この学園の生徒に間違いない。

現状がまったく掴めない私は、とりあえず、この人を起こすことにした。

 

「あ、ああの、す、すいません」

「ウ、う…ん」

 

軽く揺すると、すぐ反応があった。

男子高校生は、頭を抑えながら、立ち上がり、辺りを見渡す。

 

「ここは…?君は…?」

「え…?」

 

つい、さっきの私のリアクションをそのまま再現されたことに私は一気に不安になる。

 

「わ、なんだこの鉄板は!?監視カメラ!?」

 

そうだよね。まずそこに驚くよね。

 

「あ、あの…在校生の方ですよね?わ、私は、今日、入学してきた者なんですが…その」

 

わずかな可能性に賭け、私は質問する。

 

「え、ゴメン。実は、僕も今日、この学園に入学したんだ。玄関ホールまでは覚えてるんだけど。その後、確か眩暈を起こして…」

 

だろうね。そう思ってたよ。

その反応見れば、誰だってルーキーだってわかりますぜ旦那。

チッ…使えねーな。

だいたい、男のくせに眩暈くらいで倒れるなよ。

 

そんなことを思っていると、男子高校生は、一枚の紙を手に取っていた。

どうやら、彼の机の上に置かれていたようだ。

 

なになに…入学案内?

 

 

“新しい学期が始まりました。

心機一転、これからは、この学園内がオマイラの新しい世界となります“

 

 

「何…これ?」

 

私達は同時に呟いた。

それは、安っぽいパンフレットに手書きで書きなぐられていた。

 

“オマイラ”て何だよ…書いた奴はネラーかよ。

 

こんな言葉遣いをリアル世界で使われるのを見たのは、初めてだ。

察するに、在校生か誰かのイタズラだろうけど、空気読めと言いたかった。

つまんねーんだよ。

 

「あ…8時!」

 

心の中で私が悪態をついている傍らで男子高校生が声を上げた。

時計を見ると、針は8時10分を示していた。

 

8時…そうだ!集合時間!

 

「マズイ!玄関ホールに行こう!」

「あ、は、はい!」

 

男子高校生は、教室の出口に向かって走りだす。

声をかけられ、ハッと現実に戻った私は、慌てて彼の後についていく。

廊下は、紫やら緑やらと気味の悪い色でライトアップされている。

だが、そんなものに気をとられている訳にも行かず、私達は全力で玄関ホールに向かう。

 

初日から遅刻とは最悪だ…。

 

そんなことを思いながら、私と彼は玄関ホールの扉を開いた。

 

 

―――扉を開けた瞬間、“超高校級”のオーラが私を吹き抜けた。

 

その眩い輝きに私は一瞬、目を覆いそうになった。

そこには、テレビやネットで見たあの“超高校級”の高校生達が集っていた。

 

「おめーらも…ここの新入生か?」

「じゃあ、君達も…!?」

「うん。今日、希望ヶ峰学園に入学する予定の新入生だよ」

「これで16人ですか…キリも…よくないけど、これでそろいですかね」

「ちょっと待ちたまえ、入学初日に遅れるなど言語道断!学校側に報告を…」

「はあ?アンタ、何言ってるの…?しょうがないじゃん。こんな状況なんだからさ…」

 

待機していた彼らは、私達を取り囲むと一斉に喋りだした。

リーゼントに、100KGは超えるデブ。真面目君に、ビッチと個性豊かな面々。

私も彼も、誰にどうしていいか、オロオロしていた。

 

「そうだ!それより、改めて自己紹介しない!?

遅れてきたクラスメイト君たちの為にもさ!」

 

そんな時に赤色のジャージを着ている女の子が提案する。

 

「自己紹介だぁ?んな事やってる場合じゃねーだろ!」

「ですが、問題について話し合う前に、お互いの素性がわかっていた方がよろしいでしょう。なんてお呼びしていいのかわからないままでは、話し合いもできないじゃありませんか…」

「それも、そうだよねぇ…」

 

無駄に吼えるリーゼントに対して、ゴスロリの女の子が反論し、それを小動物みたいなカワイイ女の子が支持する。

いや~そうしてもらえるとマジで助かるわ。状況がまるで掴めないしさ。

 

「じゃあ、まず最初に自己紹介って事でいいですか?話し合いは、その後という事で…」

 

キターーーーーーーーーーーーー

 

私は心の中で叫び声を上げた。

自己紹介を提案した彼女は自己紹介など必要ない存在。

お茶の間では知らぬ者がいない国民的アイドル。超高校級の“アイドル”舞園さやかだった。叫び声をあげたい衝動を私は必死に抑えた。

 

いかん、いかん。今はそんな状況じゃねえや。ミーハー心を抑えろ私!

 

「じゃあ、とりあえず自己紹介ってことで…」

 

そんな私を尻目に男子高校生は一歩前に進み出た。

 

「はじめまして“苗木誠”っていいます。いろいろあっていつの間にか寝ちゃってて…」

 

その瞬間、私は目が点になった。

 

(お、お前が“苗木誠”だったのかよッ!?)

 

なぜはじめに気づかなかったんだ私は!

他の入学生ならば、ネットやテレビで見たことがあるから、一発で気づく。

逆に言えば、知らない入学生ならば、超高校級の“幸運”と謎の超高校級しかいない。

だが、謎の超高校級は女子であり、“幸運”は男だ。

ならば、男子高校生は超高校級の“幸運”の苗木誠ということになる。

クソ、こいつがあの忌々しいくじ引き野郎か…チッ起こすんじゃなかったよ。

 

苗木の傍ら、心中で毒づきながら、私は苗木と他のクラスメートの自己紹介を

モブ化しながら聞いていた。

 

うん、うん、なるほどな。

じゃあ、紹介しよう。これが私のクラスメート達です。

 

 

超高校級の“アイドル”舞園さやか

超高校級の“プログラマー”不二咲千尋

超高校級の“スイマー”朝日奈葵

超高校級の“御曹司”十神白夜

超高校級の“文学少女”腐川冬子

超高校級の“格闘家”大神さくら

超高校級の“野球選手”桑田怜恩

超高校級の“ギャル”江ノ島盾子

超高校級の“ギャンブラー” セレスティア・ルーデンベルク

超高校級の“占い師” 葉隠 康比呂

超高校級の“暴走族” 大和田 紋土

超高校級の“風紀委員” 石丸 清多夏

超高校級の“同人作家” 山田 一二三

超高校級の“幸運”苗木誠

超高校級の“?” 霧切 響子

 

以上が私を含めて16人の超高校級の入学生達。

 

そして自己紹介も終わり、今の話題は主に二つに絞られていた。

 

一つ目は、私と苗木のように全員が一時、意識を失っていたという事実だ。

16人全員が貧血なんてどんな確率だろう。もはや完全な異常現象だ。

正直、気味が悪い。この学園に悪い病原菌が蔓延しているのかな?

 

二つ目は、玄関ホールの入り口についてだ。

玄関ホールは、あの教室の窓のように、いや、それ以上に厳重な鉄の塊で閉ざされていた。

どんなイリュージョンだよ!?さっきまでこんなのなかったはずだぞ!?

だが、現実に巨大な鉄の扉は私達の行く手を阻んでいる。

まるで私達の逃亡を防ぐかのように…。

 

「ところでさ、苗木っち。おめーの横にいる女の子は誰だべ?」

「え…?」

 

そんな中、突然、葉隠君が私を指差し、苗木は驚きの声を上げた。

 

(しまった!苗木だけじゃなく、誰とも自己紹介できていない!?)

 

苗木の隣でモブ化しながら、自己紹介をすませた気になっていた私は今更慌てた。

その声に視線が私に集まっていく。おまえ…誰?そんな視線が。

逃げ場なし。私は意を決した。

 

「あ、あの、その…はじめまして、黒木…智子…です」

「あ、知ってる!“喪女”だべ!超高校級の“喪女”だべ!」

 

(だーーーーうるせーぞ鳥頭!騒ぐな!)

 

何の配慮もなく大声で騒ぐ葉隠に私は心中で罵倒する。

 

とにかく、黙れ!私に注目が集まるだろが!

 

その悪い予想はすぐに現実に変わる。

 

「マジっすか!?君が喪女!?どんな奴かと思ったら意外と普通の子じゃん!」

 

葉隠の声を聞き、茶髪のチャラ男が会話に割って入ってきた。

 

(おお、君は確か桑田君…だったかな。チャラ男のくせによくわかってるじゃないか)

 

「あ、でもあれか、性格が最悪ってことか!マジこえーッス!」

 

(ハイ、死んだ。チャラ男…お前今、死んだからな)

 

一瞬、私の中でストップ高となった桑田の評価は、直後、ストップ安に変わった。

だが、一人騒ぐ桑田のせいで、どんどん私に注目が集まっていく。

15人全員が私に視線を注ぎ始めた。それはまるで珍獣を発見したように。

 

(あ、あわわわ)

 

汗が止まらない。

たかが自己紹介なのに絶体絶命の大ピンチ。

そんな目でこのまま見られていたら、私の心臓は止まってしまう。

 

そんな状況の渦中…突然“それ”は始まった―――

 

 

キーン、コーン…カーン、コーン…

 

 

「あー、あー…!マイクテスッ、マイクテスッ!校内放送、校内放送…!大丈夫?聞こえてるよね?ではでは…」

 

突如、チャイムがなり、モニターが画面に砂嵐が映った。

そして、響き渡る場違いなほど、能天気で明るい声…。

その声に私は強烈な不快感を覚えた。

それは例えるなら事故現場に鳴り響く笑い声のように、思わず眉をしかめたくなるような不快感。

 

「え、新入生のみなさん…今から入学式を執り行いたいと思いますので…

至急、体育館までお集まりくださ~いって事でヨロシク!」

 

それを最後にモニターの砂嵐は消えた。

 

「はあ?なに…?なんなの、今の…?」

 

超高校級のビッ…いや“ギャル”である江ノ島さんは、絶句していた。

それもそのはずだ。わけがわからない。

 

「入学式…なるほど、これは入学式の催し物の一部だったってか」

 

葉隠君が一人、そう呟く。

 

ああ、なるほど、その可能性が一番高いな。やるじゃないかウニみたいな頭してるくせに

 

私はその意見に同意し、うん、うん、と頷く。

だが、周りは納得しないようだ。ざわざわと各自が話し始める。

 

「俺は先に行くぞ…」

 

そんな中、ひとりの男子が体育館に向かって歩いて行く。

おお、あれは十神君か…協調性のない奴だな。まあかっこいいから許すけど。

彼の行動が口火となったようだ。皆が次々と、体育館にむかって歩き始めた。

だが、私はすぐには動けなかった。

頭に浮かんだ嫌な予感がどうしても頭から離れなかったせいだ。

だけど、その考えは私だけではなかったようだ。

 

「本当に…大丈夫なんでしょうか?」

「今の校内放送にしたって、妙に怪しかったしね…」

 

舞園さんは不安そうに俯き、江ノ島さんも動揺していた。

ギャルの分際で意外に臆病だなこの子は。

 

「でも、ここに残ったとしても、危険から逃げられる訳じゃない…それに、あなた達だって気になるでしょ?今、自分達の身に何が起こっているのか」

 

そう言って、彼女は胸元で腕を組んだ。確か名前は霧切 響子…さんか。

クールな子だな。こんな状況なのに落ち着いている。同じ歳とは思えないや。

 

「先に進まぬ限り何もわからぬままか…ならば行くしかあるまい」

 

大神さくらさん、か…同じ歳とは思えないや。

 

「確かにそうだよ…行くしか…ないか」

 

便乗かよ。苗木、お前も残ってたのか。お前はさっさと行けよ。

 

こうして、最後に残っていた私達も体育館に移動することになった。

この時の私は、催しなどさっさと終わらして、早く寮に案内してもらい、

とりあえず、部屋でゆっくりしたいなどと暢気なことを考えていた。

ああ、私は何て甘いのだろう。“奴”が言うところの“デビル甘”だったのだろう。

 

私はほんの少しも気づくことはなかった。

私達の学園生活は…私達の絶望はまだ始まってすらいないことに―――

 

 




うん、15人いると全員と絡ませるなんて絶対無理だな(笑)
ちょっと、喋っただけでこの字数。各章をなんとか前、中、後編で収めたいけど、
実際書いてみないとなんともいえません。
期待せずにお読み下さい。

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