私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1回学級裁判 中編①

「やった~これで事件解決ダァ~~~ッ!!」

 

 

ガッツポーズで雄たけびを上げなげる桑田君の前に、

半ば意識を失いかけ、今にも倒れそうな私がいた。

 

クラスメイトのみんなの目には、

きっと今の私の姿は、犯行を論破されて泡を吹いている犯人の姿そのものに見えるだろう。

 

ああ、あと十数秒で意識が消えるのがわかる。

そしたら私は二度と目を開けることはないだろう。

 

私はモノクマに殺される。

クラスメイトのみんなも殺されてしまう。

 

「一時はどうなるかと思ったぜ!!」

 

薄れいく意識の中で桑田君の甲高い声が脳裏に響き渡る。

彼はきっと、舞園さんの仇をとれたと思って有頂天になっているのだろう。

 

だが、それは間違いだ。

私は犯人なんかじゃない。

 

(それは…違うよ!)

 

そう言いたかった。そう叫びたかった。

私は犯人ではない。

真犯人は別にいるのだと。

 

だけ…ど、もう…意識…が。

 

「しかし、さすがは霧切さんだぜ!

あのまま苗木に投票したら、俺達全員死ぬところだったぜ!」

 

 

桑田君はハシャギ気味に霧切さんに話しかける。

これまで議論の流れを作ってきた霧切さん。

彼女も私のことを犯人だと誤解している。

この状況を覆せる論拠は今の私にはなかった。

もう考える気力がない。

もはや、状況は決した。

彼女達の姿が私のこの世で見る最後の光景となるのだろう。

 

「つまり霧切さんは苗木ではなく、黒木が犯人だと言いたかったんだよな!?」

 

「違うわ」

 

「だよね!よっしゃ、さっそく投票に――――ってオイ!?」

 

 

(…え?)

 

その流れはあまりにも自然だった。

それはまるで2人が予め示し合わせたかのように。

霧切さんと桑田君が派手な蝶ネクタイとキラキラのスーツを着ていても不思議でないほどの。

 

そんなコントのような完全な桑田君のノリツッコミだった――――

 

「な、何言い出すんだよ!?何言っちゃってんだよ、霧切さん!?」

 

困惑に顔を歪め、桑田君は叫ぶ。

驚いているのは彼だけではない。クラスメイトみんなが驚いている。

当たり前だ。

その一言でこれまでの全ての流れがひっくり返ろうとしているのだから。

それは、気絶寸前だった私の意識を再び呼び戻すほどの衝撃。

全員が驚きの表情を浮かべる中で、ただ一人、

霧切さんは相変わらずの表情で桑田君を見つめている。

 

「あら?何を驚いているの、桑田君」

 

「え、いや、だって、霧切さん、犯人は…その…黒木ってことだよね?」

 

霧切さんの落ち着いた態度に、逆に桑田君がシドロモドロに質問する。

霧切さんが威風堂々としているためか、

それは何かとても後ろめたいことを聞くかのような態度であった。

 

「…いつ、私が黒木さんを犯人だと言及したのかしら?

いつ、どこで、何時、何分、何秒に私がそれを言ったのかしら?是非、教えて欲しいわ」

 

「ちょっ!?そ、そんな小学生みたいなことを!?」

 

またもコントのような流れとなった。

小学生のようなことを聞く霧切さんに桑田君が的確にツッコミをいれる。

ここが学級裁判の場でさえなければ、それは微笑ましい風景となったかもしれない。

だが、クラスメイトの皆は、誰一人、笑うことなく霧切さんの言葉を真剣な眼差しで聞いている。

 

「あなたもなぜ目を回しているの、黒木さん。

起きなさい。あなたがいなければ議論が再開できないじゃない」

 

霧切さんは私の方を向くと、パン、パン、パンと三回ほど手を叩いた。

 

(え…何それ!?)

 

それはまるで池の鯉に餌をやるために合図するかのように。

それはまるで眠りこけている飼っているバカ犬を起こすかのように。

およそ気絶しかけている人間に対するケアとはかけ離れたものだった。

だが、この非人権的なふざけた行動が逆に私の意識を呼び戻した。

意識が少しづつはっきりとしてきた。

彼女は…霧切さんは、何を考えているのだろうか…?

 

「…ごめんなさいね、黒木さん。こうなることは予想がついていたの」

 

霧切さんは、相変わらずの透き通った瞳で私を見つめながら、謝罪の言葉を口にする。

その表情からまったく申し訳なさを感じることができない。

だが、それ以上に彼女が何を言おうとしているのかが、私にはまるでわからなかった。

 

「でも、必要なことだった」

 

霧切さんは、言葉を続ける。

 

 

 

「全ては、この事件の真実に辿り着くため。

そして…ついでにあなたの無罪を証明するために――――!!」

 

 

 

その台詞により、私は完全に覚醒した。

巨大な爆弾が再びこの学級裁判において炸裂した。

凍りついていた刻は再び彼女を中心に動き出した。

 

(え、い、一体どうなって…?)

 

意識は完全に復活したが、何が何やらよくわからない。

霧切さんは私を犯人だと思っていなかった…?

それどころか、私の無罪を証明?え、ついでに?ついでにってちょっと酷くない!?

彼女の台詞に一部文句はあるが、それ以上にその内容に私は驚愕した。

 

霧切さんは私を無実だと思っている――――!?

 

 

「え、黒木さんが犯人じゃないのぉ…?」

 

「一体全体なんですかぁ~~~~~!?」

 

「ちょっといきなり何なのよ、これは!?」

 

驚いているのは私だけではない。

クラスメイトのみんなも一斉に騒ぎ始めた。

不二咲さんも、山田君も、腐川も頭を抱えて困惑する。

 

「話は厨房の場面に戻るけど…」

 

そんな中、霧切さんは語り出す。私の無実を証明するための推理を。

 

 

「ちょっと、待てよ、コラァアアア――――ッ!!」

 

 

だが、彼女の推理を阻む者がいた。

 

「霧切…てめーいい加減にしろよ!!」

 

超高校級の”野球選手”である桑田君が、額に血管を浮き出させながら霧切さんを睨む。

 

「苗木の無実を証明したのは、確かにお前の手柄だよ。

だけど、お前今度は一体何がしたいんだよ!?犯人はどー考えても黒木しかいねーだろ!!

もうそれで終了だよ!投票でいいんだよ!!

それなのに、今更、黒木が犯人じゃねーだと!?

ふざけてんじゃーぞ、霧切!いつまでも”探偵”ぶってんじゃねーぞ!!」

 

怒りに身を任せながら、桑田君はマシンガンのように話し出す。

彼女を”霧切”と呼びつけにして。

彼女の言動を”探偵”ぶっていると罵倒して。

もし、普段の私がこの桑田君の罵倒を聞いていたなら、

「プッ」と吹き出して、心の中で腹を抱えて大笑いしたことだろう。

だが、今は違う。

彼女が…霧切さんだけが、私の無実を信じてくれているのだ。

彼女の推理の才能だけが、今の私とクラスメイトの命を救うことができるのだ。

苗木君の無実を証明した霧切さんの推理の才能は本物だ。

だから、重度の厨二病だろうが、探偵ぶっていようが、今は彼女の才能に賭けるしかなかった。

 

「…改めて、厨房の場面に話を戻すけど」

 

「だから、いい加減にしろって言ってんだよ!!お前、喧嘩売ってんのかよ!?」

 

霧切さんは、当たり前のように桑田君を無視して、推理を再開させる。

その態度にさすがに桑田君もキレたようだ。

机から身を乗り出して、絶叫する。

 

「桑田君、ここであなたの推理を確認したいの」

 

「無視してんじゃねーぞ!!いい加え?…」

 

突如、桑田君の方に視線を移した霧切さんは、質問というボールを桑田君に投げた。

桑田君は驚きながらも、目の前に迫るボールを慌ててキャッチした。

 

「あなたの推理では、嫌がる舞園さんを黒木さんが、しつこく何度も頼み込んで、

彼女の部屋で人生相談する約束を取り付けたのよね?」

 

「え…あ、ああ!そうだぜ」

 

彼女の問いに桑田君は戸惑いながらも大きく頷く。

 

「大神の話じゃ、2人は厨房に小1時間近く一緒にいたそうじゃねーか。

その間中、黒木の奴がしつこく、しつこく嫌がる舞園に迫ったんだろーよ。

ついに根負けした舞園はその場で約束をしてしまった。

黒木が自分を殺そうと目論んでいることも知らずにな。それがどーしたよ?」

 

(う、うう…)

 

完全に”嫌がる舞園さん”の映像が定着していて涙が出そうになった。

私が舞園さんと仲がいいというのは、そんなにいけないことなのでしょうか?

私は彼女と普通におしゃべりできる関係を望んでいたのに、

どうしてこんなことになっているのだろうか?

 

「ここで確認したいのだけど…」

 

私が舞園さんの笑顔を思い出している間にも推理は続く。

霧切さんは、桑田君にさらに質問をするみたいだ。

 

 

「彼女が黒木さんと約束をした時に何も残さなかったのかしら?

ただの口約束で済ませたのかしら?」

 

 

「あ?何だよ、その質問は…?」

 

(…へ?)

 

彼女の質問の意図が分からず、桑田君は、そして私も困惑の表情を浮かべる。

彼女は一体何を言おうとしているのだろうか?

たかが、人生相談の約束にわざわざ証明書のようなものを作成するはずないではないか。

実際、約束はご破算になったが、私達がそんなものを書くことはなかった。

 

(葉隠君じゃないんだからさぁ…)

 

チラリと問題の詐欺師野郎を見る。

あの野郎は、インチキ占いで私から十万円を巻き上げようと念書を書かせた。

あの時の恨みは一生忘れないだろう。

だが、それは今は関係ない。

 

「まあ、普通に考えたら、その場で口約束だろうな。

葉隠じゃねーんだからさぁ。わざわざ舞園が約束の念書を書くことはねーんじゃねーの」

 

桑田君は頭を掻きながら迷惑そうに答える。

その言葉から、葉隠の野郎は、他の生徒にもあの迷惑行為を行っていたことを知った。

マジでコイツが真犯人だったらいいのになぁ。

 

「ああ、でも、もしかしたら黒木が舞園を逃がさないように確約書を作って、

舞園に一筆入れさせたかもしれないな。約束を確実にして、舞園を殺すためにな」

 

そう言うなり、桑田君はキッと私を睨んだ。

ああ、どんどん私が彼の中でとんでもない凶悪犯に成長していく。

しかし、たかが人生相談の約束に念書をかかせるって…コミュ障ってレベルじゃねーぞ!?

一体、私はこれからどんな悪党に変貌を遂げていくのだろうか。

 

「なるほどね。話をまとめると、

もし人生相談とやらの約束を保障する念書か確約書が存在した場合、

それを書くメリットがあるのは黒木さんであり、舞園さんにはない…ということね。

彼女がそのようなものを書くはずがない…それでいいかしら」

 

「さっきから、何が言いたいのか、よくわかねーぞ、霧切!

ああ、そうだよ!舞園がそんなもん書く必要があるわけねーだろ!

結局は、黒木のしつこさに根負けして、その場で口約束したんだろ、それが何だよ!」

 

それは奇妙な問答だった。

それは奇怪な会話だった。

不可解で奇天烈で珍妙なまるで霧がかかったような言葉のやりとりだった。

私達は、霧切さんの真意がまるで読むことができなかった。

だからなのだろう。

私達の頭には桑田君の常識的で具体的な言葉のみが記憶された。

 

つまりは、被害者である舞園さんが何も残すはずがない、と。

 

だが、それは全て霧切さんの描くシナリオ通りの展開だった。

後になって、この裁判のことを振り返ると、

ここに至るまでの全ては彼女の手の平の中から一度でも出たことはなかった。

彼女はシナリオライターであり、舞台設計者であり、この劇の主役だった。

そう、私達はまるで観客のように彼女の演技に釘付けとなった。

 

「そう・・・ならば」

 

彼女はゆっくりと後ろで隠していたものを掲げる。

劇の主役のように。私達、観客に見せつけるように。

 

 

 

「なぜ、彼女はこの”メモ”を残したのかしら」

 

 

 

学級裁判という偶像劇は、今再び大きく動き出す。

彼女の手には私達の部屋の置かれているメモ帳が握られていた。

その最初のメモは、鉛筆で黒塗りにされていた。

筆圧によって浮かび上がった白い部分は文字となる。

 

そこにはこう書かれていた。

 

 

 

”2人きりで話したいことがあります。5分後に私の部屋にきてください。

部屋を間違えないようにちゃんと部屋のネームプレートを確認してくださいね”

 

                             舞園さやか

 

 

 

―――――――――――!!?

 

 

その署名に全員が衝撃を受けた。

そこには殺された彼女の名前が…舞園さやかさんの名前があった。

 

 

 

「なんだよ、それは!?な、なんでそんなもんがあるんだぉおおおお!?」

 

 

 

恐怖に顔を歪め、桑田君は絶叫した。

彼の驚きは当然だ。私も口を開けて絶句した。何がなんだかわからない。

なんだ、それは?なぜ、舞園さんの名前が…!?

 

「これは苗木君の部屋から持ち出したメモ帳を鉛筆を使って

筆圧を浮かび上がらせたものよ。このことは、大和田君と大神さんが証明してくれるわ」

 

「うむ、それは確かに苗木の部屋のメモ帳だ。

霧切はこの裁判の直前に、我ら2人に持ち出しの承認をとったのだ」

 

「ああ、間違いねーぜ。その時はよくわかんなかったけどな。

というか、ぶっちゃけ、今も何がなんだかわかんねーぞ、コラァアア!?」

 

先手を打つかのように、霧切さんは、メモ帳について説明を始めた。

そのメモ帳は、苗木君の部屋…つまり舞園さんが殺害された部屋のメモ帳らしい。

部屋の監視をしていた大神さんは、

霧切さんの言葉に頷き、大和田君も逆キレしながらも同意する。

 

「一応、確認しておきたいのだけれども、

これはあなたが書いたものではないわね?苗木君」

 

「…うん、僕じゃない」

 

「でしょうね。ならば、消去法により、このメモは署名通り、舞園さんが書いたことになるわね」

 

苗木君の証言により、そのメモは舞園さんが書いたものであることが確定した。

まるで外堀を埋めるかのように、

霧切さんは必要最小限の質問だけでその事実を証明したのだった。

部屋の持ち主である苗木君が書いていない以上、

それを書いたのは部屋を交換した人物以外にいない。

そう、これは舞園さんが書いたメモ。

それに対してもはや反論できる者はいなかった。

まるで劇を見るように、私達はただ彼女の推理を見入っていた。

 

「苗木君と舞園さんが部屋を交換したのは、昨夜の18時頃。

大神さんと朝日奈さんが彼女が厨房に入るのを見たのが、21時頃。

18時から21時の間に、このメモを書き、誰かと会ったとは考え難いわ」

 

「ククク、だろうな。それでは部屋の交換の意味はなくなるからな」

 

「そうだよ!彼女は、舞園さんは、怯えていたんだ!だから…」

 

苦笑しながら、十神君が霧切さんの考えを補足しながら同意する。

苗木君は、当時の舞園さんのことを思い出しながら発言し、言葉を濁した。

 

 

だから…そんなメモを書いて誰かに会うはずはない!

 

 

そう言いたかったのだろうか。

 

 

「つまり彼女がこのメモを書いたのは、厨房を出て部屋に戻ってから…ということになるわ」

 

推理は核心に近づく。

霧切さんが発言する度にまるで青いオーラのようなものが見える。

勿論、これは目の錯覚に違いない。

だが、そう感じるほど今の彼女の迫力は常軌を逸していた。

それはまるで狼が獲物を刈るかのように。

桑田君も私と同じようなものを感じたのか、頬に大粒の汗を浮かべている。

 

 

「ならば、あなたの推理はおかしいわね、桑田君。

あなたの推理は舞園さんがその場で黒木さんと”口約束”したのよね?

これはどういうことかしら?」

 

「ウゥ…」

 

(おおおおおおおおおおおおおおッ!!)

 

 

舞園さんの問いに桑田君を呻き声を上げ、私は心の中で喝采を叫んだ。

メモの存在により、桑田君の推理が根底から崩れたのだ。

それは、私の犯人説の否定。

私の無実が証明された…ということなのだ!

 

「あ、ああ!わかった!アレだよ!さっき黒木の奴が言ってたじゃん」

 

「え…!?」

 

「人生相談の約束を直前で舞園に断られたってさぁ。

つまりだ。後から考え直した舞園が、メモを書き、黒木を呼び出した…ってことだよ。

これだったら、メモの件の整合性がつくじゃん!」

 

「なッ―――!?」

 

だが、喜びのほんの束の間だった。

何かを思いついたように手をポンと叩いた桑田君は驚愕の推理を作り出した。

なんと舞園さんは断った後に、再び考え直した…というのだ。

それは私の発言と真実を利用し、都合よく作り上げた推理。

その悪辣さに私は絶句した。

このチャラ男はどこまで私を犯人にしたいのだ!?

 

「…なるほどね。ならば、なぜ舞園さんはわざわざメモで黒木さんを呼び出したの?

そんなことをするよりも直接、黒木さんの部屋で話せばいいじゃない。

殺人をしようとして、人目につくのを避けたいのは黒木さんの方よね。

舞園さんは、なぜわざわざ自分の部屋に呼び出したのかしら?」

 

「そ、それは…そ、そうだ!アレだよ!」

 

霧切さんの質問により、私をメモで呼び出す必然性に焦点が当たる。

そうなのだ!

私と話したいなら、直接、私の部屋を訪問すればいいのだ。

私が犯人で、人目を避けるために彼女をメモを使って呼び出すなら話はわかるが、

彼女がその行動とるのは完全におかしい。

だが、霧切さんの問いに対し、何か閃いた桑田君が顔に不敵な笑みを浮かべる。

 

 

 

「嫌だったんだよ!

黒木みたいな根暗で気持ち悪い奴と話しているのをクラスメイトに知られるのがさぁ!」

 

 

 

(うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~~~~~~~~ん)

 

 

桑田君の放った言弾に、私はついに心の中で号泣した。

酷い、酷すぎる!あまりにも酷すぎるよ~~~~~!!

私は確かに超高校級の”喪女”かもしれない。

だけど、これはあんまりだ。

犯人扱いされただけなら、まだしも、この扱いはないよぉおおおおおお!!

 

「…なるほどね。そういう考えもあるのか」

 

(え、えぇえええええええ~~~~ッ!?)

 

だが、霧切さんはその答えに少し驚きの表情を浮かべ、納得したように頷いた。

ちょ、ちょっと、霧切さん、アンタなんで納得して!?

 

「それでも、あなたの推理には致命的におかしな点があるのよ、桑田君」

 

「な、何がおかしいってんだよ!?」

 

本当にこのまま推理が終わってしまうのかと一瞬、危惧したが大丈夫なようだ。

霧切さんは、再び推理を展開する。

 

「みんなももう一度、メモの内容を見てくれないかしら。

今度は、舞園さんの立場になったと仮定して、そのメモにおかしな点はないかしら」

 

「え、何ですと!?舞園さんの立場で、とな!?」

 

「黒木さんのお願いを断った直後ってことだよねぇ…?」

 

「一体、何がなんだかさっぱりだべ」

 

彼女の問いかけに、クラスメイトのみんなは首を傾げながら、メモ帳を見つめる。

私もわけがわからずもメモ帳を見つめる。

彼女は一体、何を言いたいのだろうか。

このメモの内容のどこに私の無罪を証明してくれるものがあるのだろうか?

 

それから1分ほど経過した時だった。

 

「ああ、なんかおかしいですね、これ」

 

山田君が、メガネを掛けなおしながら、そう呟いた。

 

「うん、おかしいよねぇ」

 

それに不二咲さんが同意する。

 

 

「確かに言われりゃおかしいかもしれねーな」

 

「うん、ちょっとこれはね…」

 

「ウム…」

 

「確かにこれはおかしいぞ!」

 

 

それを皮切りとして続々と他のクラスメイト達も同意する。

 

 

(え、ええ!?)

 

 

その状況を前に、一人取り残されてしまった私はただ動揺するだけだった。

 

「な、なんだよ、お前ら!一体、何がおかしいってんだよ!?」

 

どうやら、取り残されたのは私だけではなかったようだ。

桑田君は額に大粒の汗をかき、みんなに問いかける。

 

「いや、なんていいますか、舞園さんらしくないなぁ~~と思いまして」

 

「はあ!?舞園らしく!?」

 

「いや、だからですね。彼女みたいな礼儀正しそうな人が、謝罪の一つも書かないのは

やっぱりおかしいって思ったんですよ。断ったのに、呼び出すとか自分勝手過ぎますし」

 

(あ…!)

 

山田君の言葉に私は食い入るようにメモを見つめる。

確かにそうだ。

舞園さんは、このクラスの中で誰よりも礼儀と常識を兼ね備えた人だ。

その彼女が私の頼みを断った後に、考え直してメモを書いたならば、

まず書くことは何だろうか。

 

 

 

それは、断ったことに対する”謝罪の言葉”ではないだろうか―――――――

 

 

 

「桑田君の推理だと、黒木さんが一時間近くお願いしたのに断ったんだよねぇ?

ボクがこのメモを書くなら、まずそのことを謝りたいと思うんだよねぇ・・・」

 

「うむ、その通りだ!それこそ、人間関係の基本だ!」

 

「まあ、悪かったの一言くらい書けってんだよな」

 

不二咲さんの言葉に石丸君と大和田君が同意する。

 

「まあ、私は黒木さんのような取るに足らない愚物相手には何があっても謝罪はしませんが…」

 

(なッ…!?)

 

「それでも、小一時間もしつこく迫ったという驚異的な迷惑行為に敬意を称してこう書きますわ」

 

 

 

――――――私”も”話したいことがあります、と

 

 

 

私を罵倒しながら説明を始めたセレスさんの最後の言葉に皆が沈黙した。

 

「そうよ。このメモの内容にはその直前の黒木さんとのやり取りがすっぽり抜け落ちているのよ。

彼女が礼儀正しい人物であることは、クラスメイト全員が認めている事実。

ならば彼女が黒木さんに

長時間お願いされて断ったことに関して、何も言及しないのは明らかにおかしい」

 

 

皆が頬に汗を流す中、霧切さんは涼しい顔でまとめに入った。

それは私が犯人扱いされて10分ほどの出来事。

だが、私にはまるで何時間にも感じられるほどの長い時間だった。

先の見えない長い長いトンネルの先にほんのわずかな光が見えたように。

その瞬間がついに訪れた。

 

「舞園さんのメモの存在とその内容は、直前で会った人物以外を示している。

それは、黒木さん以外の人物をメモで呼び出した…ということを意味する。

恐らく、その人物が舞園さんを殺した人物で間違いない。

ならば、黒木さんは無実ということになる」

 

そう…

 

 

黒木さんは―――――――

 

 

 

               ”シロ”よ―――――――

 

 

 

 

「き、霧切さん」

 

彼女の姿が再び、涙でぼやけてきた。

彼女は、霧切さんは私を犯人だと思っていなかったのだ。

 

「う、うぅ…」

 

黒木犯人説を唱えた桑田君ことチャラ男は小さく呻きながら、下を見つめている。

なんと無様な男だろうか。

人を犯人扱いしやがって…お前が犯人じゃねーのか?

それに引き換え、霧切さん。

私はあなたを誤解していました。

よくよく考えたら、空気が読めない重度の厨二病患者というだけで別に悪い人ではないのだ。

ああ、私には今の彼女が、ギリシャ神話の女神そのものに見える。コミュ障だけど。

私の妄想の中の霧切さんは、ギリシャ神話の布の衣服を着て茨の冠を被り、

 

「褒めているのかしら、それとも馬鹿にしているのかしら?」

 

と呟いている。

 

 

「チッなんだよ、最高に面白い展開だったのにさぁ~~そいつ犯人だって!投票しようよ!!」

 

(うるせー死にさらせクマ畜生が!!)

 

バンバンと鮭を叩くモノクマを私は心の中で罵倒しながら睨む。

あ、それどころではない。

こんな奴を相手にしている場合ではなかった。

 

 

「あ、ありがとう、霧切さん!」

 

 

精一杯声を張り上げ、私は霧切さんに感謝の言葉を述べた。

 

「…別に感謝する必要はないわ。

たとえあなたでない別の誰かであろうと、私は同じ行動をとったはずだろうから」

 

ほんの一瞬、小さく笑った後、霧切さんはいつもの無表情に戻った。

 

 

「私は真実を知りたいだけよ。

私は死にたくない。何も知らずに…死にたくないだけよ」

 

「…?」

 

「プギュヒヒヒ」

 

何か意味深なことを呟いた後、彼女は沈黙した。

それをモノクマが不気味な笑い声を上げながら、見つめていた。

 

 

 




9166字か…。

うぉおおおおお~~~~ん、もこっちの無罪を証明するだけで終わってしまった!!

○もこっちの無罪証明
×舞園さんの真実
×ダイイングメッセージ解読

仕方なかったのだ!
どう考えてもこのままじゃ2万字超え確実だったから。
前回でも1万7千字超えだったのに、もう嫌だ!
うう…全ては私の技量のなさによるものです。
許してください!な(略)

でも…ま、いいか(アカメが斬るの大臣風に)

よくよく考えたら、真面目に書いたからこうなったわけだし。
まあ、不定期のタグがあるから多少はね?

うん、すいませんw
毎度遅く、次数も展開も長いですが、付き合って頂けたら幸いです。



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