私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第1回学級裁判 中編②

学級裁判が開始され浮かび上がった2つの容疑。

苗木犯人説と黒木犯人説はどちらとも霧切さんの活躍によって阻止された。

危うく犯人にされそうになった私は、とりあえず容疑が晴れたことに胸を撫で下ろした。

だが、それも束の間。

すぐに私の心を陰鬱な気分が覆い始めた。

それはそうだ。

私はといえば、苗木君を犯人だと決めつけ、間抜けな推理を作り出して、

大迷惑をかけただけではなく、たまたま舞園さんと厨房で会ってしまったおかげで

一躍犯人候補になり、つい先ほど失神しかけていたのだ。

だが、それは陰鬱な気分の理由の50%にも満たなかった。

その大部分は舞園さんの件にあったのだ。

私の容疑を晴らしたメモの内容は、別の誰かを部屋に呼び出すものだった。

それはつまり、私の人生相談をキャンセルして別の誰かと話した、ということだ。

 

(ああ、ショックだなぁ・・・)

 

厨房で話して少し仲良くなれた、と思っていた。

閉じ込められた不安やここを出た後の希望を話し合い打ち解けた…と思っていたのに。

それは全て私の思い込みだったようだ。

私は結局、舞園さんに信頼されていなかった、ということだ。

だからこそ、彼女は私との人生相談をキャンセルし、別の誰かを呼び出したのだ。

 

(ああ、なんかもうやる気なくなってきたなぁ…)

 

なんとも言えない気だるさが全身を包み込む。

舞園さんの仇を取る、などと息巻いて学級裁判に挑んだことのなんと滑稽なことよ。

もう私…この場にいらなくね?

 

「私の仇討ちは――――ッ!!?」

 

そう叫ぶ、頭の上に天使の輪が乗った盾子ちゃんが見えた気がしたが、まあ多少はね?

そもそも私のできることはもはや何もないのだ。

後は、霧切さんにでも任せておけば、それでよくね?

というか、あの人だけいればそれで十分だと思うのですが。

霧切さんをチラリと見る。

重度の厨二病と疑っていた彼女は、実は推理の才能を持っていた。

そのおかげで私は容疑から免れることができた。

彼女は見かけによらずいい人のようだ。

だが、冗談は通じなそうだな。

もし、私が

 

「気分が悪くなったので、部屋で休みたいのですが」

 

と、まるで学校の保健室に行くかのようなことを言おうものなら、

 

「今の状況をあなたは理解しているのかしら…?」

 

と霧切さんは冷静にキレるだろう。

まあ、彼女の言うとおりだろう。

命がかかっている以上、やる気云々で退場することなど許されない。

役には立たないだろうけど、私は最後までこの場に残ることにしよう。

 

「う~ん、う~ん」

 

そんなことを心の中で思っていると、誰かの悩み声が聞こえてきた。

赤いジャージがトレードマークの朝日奈さんが、腕を組んで何かを考えているみたいだ。

その表情は真剣そのもの。額に汗を浮かべている。

 

「うるさいですわね、朝日奈さん。気が散りますから、早くトイレに行ってくださいな」

 

「ち、違うよ!ちょっと気になることがあって」

 

セレスさんの勘違いに朝日奈さんは顔を赤らめて反論する。

 

「何ですか?脳みそまで筋肉のあなたが知恵を絞ったところで汗しか出てこないはずですが」

 

「ひ、酷い!?」

 

それを聞いても、セレスさんは相変わらず無礼な発言を連発する。

ああ、この人、私以外にもこんな態度なんだ。なんか安心した。

 

「じゃあ、もういいもん…」

 

朝日奈さんはシュンとうなだれる。

体育会系なはずだが、意外に打たれ弱かった。

水泳の天才らしいが、内面は私と変わらないカワイイ女の子なんだな。

 

「朝日奈さん、何か気になることがあるなら話して。ここはそういう場なのだから」

 

躊躇している朝日奈さんに、霧切さんが助け舟を出す。

確かに、私の容疑が晴れた以外、特に進展がない現状を考えれば、

何が突破口になるかわからない。

それが、朝日奈さんの疑問から始まるかもしれない。

 

「え、じゃ、じゃあ…コホン」

 

「頑張るのだ、朝日奈」

 

朝日奈さんは意を決して呼吸を整える。それを横から大神さんが応援する。

この殺伐とした空間の中で微笑ましい光景だった。

 

「えーと、あの…私が気になっていたのは、舞園さんが呼び出した人。

たぶんクロなんだろうけど。その人、本当に舞園さんの部屋に辿りつけたのかな?

だって、舞園さんと苗木は部屋を交換してたんだよね?

だったら、クロは苗木のいる部屋に行ってしまったんじゃないのかな?」

 

――――――――!!

 

 

「た、確かにそうでござる」

 

「うん、そうだよねぇ」

 

「ああ、犯人は舞園君の部屋に行けないぞ!」

 

「オイオイ、どうなってんだ、オラァアア!?」

 

その事実に再び、皆が騒ぎ始める。

確かにその通りだ。

朝日奈さんの言うとおりだ。

舞園さんは苗木君と部屋を交換していた。

だから、犯人は舞園さんの部屋、つまり苗木君がいる部屋に行ってしまう。

 

 

(いや…そうじゃない。そうじゃないんだ!)

 

 

その刹那、私はあの事実を思い出した。

 

「あなたにしてはまともな質問でしたわね、朝日奈さん」

 

「そ、そう?でへへへ」

 

半分馬鹿にしているセレスさんの賞賛に、朝日奈さんは顔を赤くして喜ぶ。

 

「そうね。いい質問だと思うわ」

 

それに霧切さんも同意する。

 

「でもね、犯人は舞園さんの部屋に行くことができたのよ。それは――――」

 

「ネームプレートが交換されていたから、そう言いたいのだろう?霧切響子」

 

霧切さんが、朝日奈さんの質問の答えを言いかけた時にそれを阻む者がいた。

その凛々しい外見と存在感はその人間の圧倒的な財力を連想させた。

 

超高校級の”御曹司”十神白夜が不敵な笑みを浮かべて霧切さんを見つめていた。

 

「ええ、その通りよ、十神君」

 

霧切さんは十神君の挑発めいた口調に静かに同意した。

 

(や、やっぱり…!)

 

私の思った通りだった。

 

部屋のプレートは取り替えられていたのだ。

だから、犯人は部屋を間違えることなく、舞園さんに会うことができたのだ。

 

「な、なんですとーーーー!?」

 

「ええ~そうなのぉ?」

 

「マ、マジかよ!?」

 

「それは本当かね!?」

 

「ほえ~全然、気づかなかったよ!」

 

「うぬ…」

 

その事実にそれに気づかなかった皆は一斉に驚愕の声を上げる。

 

「フン、こんなことにも気づかないから貴様らは凡人なのだ」

 

十神君は皆を蔑んだ目で見下ろす。

それはクラスメイトを見る目ではなかった。

それはまるで支配する対象を見つめる支配者の眼差し。刹那、私はそう感じた。

 

「おい苗木、一応聞いておくが、プレートを取り替えたのはお前か?」

 

「…違う。僕じゃない」

 

「ククク、だろうな。どうだ?脳みそがミジンコ並みのお前らもこれで気づいたろう?」

 

苗木君の返答に、もはや邪悪とも言える笑みを浮かべた十神君は私達を振り返る。

 

彼は一体、何が言いたいのだろうか?舞園さんについてだろか?

予想していた通り、プレートを取り替えたのは、舞園さんだった。

それは、苗木君の無実が判明した瞬間に決まっていたことだった。

 

部屋の入れ替えを知っているのは、苗木君と舞園さんの2人だけ。

 

苗木君がシロならば、プレートの取替えは舞園さんがやったということになる。

呼び出した人のために一時的にプレートを交換したのだろうか。

だが、それはあまりにもリスクが高い。

プレートの交換をしているのを、例の変質者に見られてしまうかもしれない。

その作業の間に変質者に襲われてしまうかもしれない。

そもそも彼女は変質者に怯えていたのだ。

だから、苗木君に部屋の交換を依頼したのだ。

包丁を持ち出して、自衛を考えるほど怯えていた。

それなのに、苗木君との約束を破って部屋にクロを招き入れた。

部屋の交換が無意味になることを承知で、だ。

何だろうこれは…?何かがおかしい。

まるで舞園さんが2人いるかのように。光と影。ジキル&ハイドのように。

先ほどからとてつもない嫌な胸騒ぎがする。

私は懸命に胸を押さえ、それを沈めようとしていた。

後でこの時の心境を考えてみると、私は恐れていたのかもしれない。

この胸騒ぎの理由を考えることを。

いや、きっと恐れていたのだ。それを考えることはまるで希望なきパンドラの箱を開けるように。

きっと、そこには一欠けらの希望もないことを、私は本能レベルで察知していたのだろう。

 

舞園さんはいい人で、舞園さんは礼儀正しくて、舞園さんは優しい人で…。

 

ああ、なんでだろう?彼女のあの本当の笑顔が思い出せない。

夢を語った時の宝石のような笑顔を思い出すことができない。

今思い出せるのは、そう…あの”仮面”のような笑顔。

 

その時だった――――

 

「うふ、うふふふふ」

 

沈黙を切り裂くように不気味な笑い声が場に響く。

驚いて顔を上げると、その先にはセレスさんがいた。

 

超高校級の”ギャンブラー”セレスティア・ルーデンベルクは

込み上げてくる笑いをひたすら耐えているようだった。

 

「わかりましたわ。わかってしまいましたわ」

 

そういって彼女は目を見開き、口を三日月のように広げた。

それはまるで命掛けのギャンブルでポーカーフェイスを気取る対戦相手の心を

見抜いた時のように。真実を見抜いた、そういう表情だった。

 

 

「あの方、カワイイ顔してなかなかやるじゃないですか」

 

 

三日月のように口を広げたセレスさんは、そう呟いた。

 

(あ、ああ…)

 

その三日月のような口を見て、私は思い出した。

 

 

 

「本当に…ありがとうございます」

 

 

 

昨夜、そう言って顔を上げた刹那、彼女の口はまるで三日月のようだった。

もしも、だ。

あの部屋の死体が彼女でなかったら、どうなっていただろうか?

彼女は果たして、苗木君との部屋の交換を正直に告白したのだろうか。

もし、しないならば、やはり容疑者は部屋の持ち主である苗木君ということになる。

この裁判の場において、必死に弁明する苗木君を前に、彼女はただ涙を流せばいい。

 

「なぜ、そんな嘘をつくのですか?」

 

そう言うだけでいいのだ。

 

超高校級の”幸運”と国民的人気を誇る超高校級の”アイドル”

 

果たして、皆はどちらの声を信じるだろうか。

 

「どうやら、セレスはわかったようだな。貴様らはまだかボンクラども!

ならば、特別に俺が教えてやろう!よく聞け!」

 

 

業を煮やして十神君が声を上げる。

 

 

じゃ、じゃあ、彼女は、舞園さんは――――

 

 

「舞園さやかは殺人を計画していたんだよ。

呼び出した人間を包丁で殺害して、その罪を部屋の持ち主である苗木に被せるためのな!!」

 

 

いや、あの女――――――――

 

 

(私のことを殺そうとしていたのかぁあああああああああ~~~~~~~~~~~ッ!!!?)

 

 

 

黒木さん…お願いがあります。

 

今夜…

 

――――私の部屋に来てくれませんか?

 

 

ゾクリとした。

いや、ゾクリどころではない。全身を悪寒が襲う。

嫌な汗が体中から溢れるような感覚に囚われる。

 

あの時、舞園さやかは、私をターゲットとして狙っていたのだ。

 

この場でなければ、うぉおおおおおおおおおお、と叫び声をあげたいくらい気持ちだった。

 

 

「部屋の交換相手に苗木を選んだのは、

お人よしで中学の同級生の苗木ならばいざと言う時に自分を庇ってくれると計算したのだろうな。

いや、なかなかの女優ぶりじゃないか、なあ苗木?」

 

「…。」

 

肩を震わして笑う十神君に苗木君は肩を落とし、ただ沈黙するだけだった。

 

「だが、奴は獲物の選択を間違えた。結局はノコノコやってきたそのバカに逆に返り討ちに

されたのだからな」

 

そう言って、十神君はチラリと私を見た。

そ、そうだ。

その通りだった。

なぜ、舞園さやかは私をターゲットに選ばなかったのだろう。

私もそのノコノコやってきたバカと同様、直前まで彼女の部屋に行く気満々だったのだ。

それを舞園さやかが直前になってキャンセルしたから、今こうして生きているのだ。

 

一体、なぜ…?

 

 

「ま、舞園さんの部屋には何時くらいに行けばいいのかな?

お、遅ければ、遅いほどいいのかな?私は大丈夫だけど…」

 

「…。」

 

 

そう問いかけた時、彼女は何か考えるように背を向けてその場に立ち尽くした。

彼女はあの時一体何を考えていたのだろうか?

どんな表情を浮かべていたのだろうか?

 

 

「マ、マジかよ、あの女がそんなことを…!?」

 

「舞園さやか殿が殺人を計画ですと~~~!?」

 

「だ、だから包丁を持ち出したんだねぇ…」

 

「うぬぬ…信じられん!」

 

「コイツはびっくりだべ!」

 

「苗木と舞園なら、舞園を信じるに決まってるじゃない!だってアイドルだもん!」

 

「ほえええ、そんな~」

 

「うぬ…」

 

 

この驚愕の真実を知り、皆が騒ぎだす。

そ、そうだ。今はこのことを考えている場合じゃない。

私には、いや、私達にはまだやらなければならないことが残っている。

 

「舞園っちの正体を暴くとはさすが俺達だべ」

 

突如、自信満々に葉隠君が自画自賛を始める。

お前は何もしてねーだろ!?この超高校級の”詐欺師”が!!

 

「で、真犯人は誰だべ?もったいつけないで早く教えてくれ!」

 

 

 

――――――――!!

 

 

「え、真犯人って…」

 

「誰なんでしょうね?」

 

葉隠君の質問に場が一瞬、氷付いた。

舞園さやかの真実を暴き、進展したと思った推理は、再び元の位置に戻ってきた。

だが、前回は苗木君という容疑者がいたのとは違い、今回は容疑者の検討すらつかない。

その事実を、不二咲さんと山田君が声に出した。

 

「え、あの霧切っちと十神っちは?」

 

「…。」

 

「フン…」

 

焦る葉隠君の問いに霧切さんは目を閉じ、十神君は何故か不貞腐れた態度を取る。

いやいや、”フン…”じゃねーよ。ちょっと待って、え、これって…!?

 

「え、ちょっと、この状況はマジでまずくねーか?」

 

葉隠君の顔が急激に青くなっていく。

 

 

「え、犯人が見つからなかったら、ボク達は…」

 

「も、もしかしてこれでオワリですか!?」

 

不二咲さんが泣きそうな声を上げ、山田君が頬を押さえて叫ぶ。

 

「まだだ、まだ今までの手掛かりを洗い直してだな…」

 

「どの手掛かりですか?そんなものあるんですか?」

 

「ぐう、では、やはり挙手だ!みんな目を瞑れ!犯人は挙手を―――」

 

「挙げるわけねーつってんだろ!!やっぱりバカだろ、お前!?」

 

提案をセレスさんに否定された石丸君は、再び挙手を提案する。

それを大和田君にまたツッコミを入れられる。

まるでデジャブを見ているかのようだ。

 

「…て言ってももう新しい手掛かりはないしなぁ」

 

桑田君が頭を掻きながら呟く。

 

 

「それは違うよ!」

 

 

「わぁあ!?びっくりした。なんだよ、苗木!?」

 

「まだ手がかりは残っている。あの”ダイイングメッセージ”だよ」

 

「はぁ?ダイ…なんだ!?」

 

「ダイイングメッセージ。舞園さんの後ろの壁に書かれた血文字のことよ。

”11037”と書かれていたわ」

 

しっかりとした声で苗木君は桑田君の言葉を否定した。

否定された桑田君は慌てて問い返す。

桑田君の問いに、霧切さんが冷静な態度で答えた。

 

 

                 ”11037"

 

 

その数字が最後の手掛かり。

 

(え、これって110番じゃないのでしょうか?)

 

これが最後の手掛かりという事実に私は顔を青くする。

 

「オイ、何がなんだかわからねーぞ!?オイ、そこの女、”チビ女2号”!!」

 

「え、ボ、ボクのこと!?」

 

「ああ、お前だよ!お前、”プログラマー”だよな?こういうの詳しいんだよな!?」

 

大和田君の指摘に、皆は一斉に不二咲さんを見つめる。

 

「そ、それが…全然なんだよね。

どうやってもこの数字列に意味を見いだせなくて…ゴメンナサイ」

 

不二咲さんは、涙を瞳に一杯に浮かべる。

 

「模擬刀の先制攻撃だべ!!」

 

「え、いきなり何言ってるの?」

 

「え、いや、もう一回推理をやり直そうかと思って」

 

「いきなり間違ってんじゃねーか!ふざけてんのか、てめーは!?」

 

突如、葉隠がわけのわからない台詞を言い出す。

朝日奈さんは、驚きの声を上げ、大和田君は本気でキレる。

ま、まずい。皆、焦っておかしくなってきてる。

 

「おや、あれー?おかしいな。推理が止まっているように見えるけど、プププ」

 

裁判長の席でモノクマがさも可笑しそうに笑う。

 

「ヒッ…!!」

 

その声を聞き、私は小さな悲鳴を上げる。

わたしだけではない。

皆、顔を青くしている。想像しているのだ。自分が死刑にされる映像を。

 

「嫌よ、嫌…いや~~~~~~死にたくない、助けて白夜様!!」

 

「ええい、こっちに来るな、気持ち悪い!」

 

「誰でもいいですわ、何か思いつきませんか?」

 

「ちょ、まったく思いつきませんぞ!!」

 

「犯人は今すぐ出て来い、本当にぶっ殺すぞ!!」

 

回る。廻る。学級裁判はまわりだす。

クルクルと、繰る狂ると、奈落に向かってマワリだす。

 

「う~ん、そろそろかなぁ、プヒヒヒ」

 

私達の断末魔の中、モノクマは静かに笑う。

その姿は、本物の死神のようだった。

 

 

(え、本当にこれで終わりなの?私…死ぬの?)

 

 

景色が灰色に見えてくる。

その刹那、あの槍が…盾子ちゃんを貫いた槍が天井から私達に向かって降り注いできた。

苗木君も霧切さんも、桑田君もセレスさんも、不二咲さんも山田君も、大和田君も石丸君も、

大神さんも朝日奈さんも腐川も十神君も、一応葉隠君も。

みんな、みんな死んでしまった。槍で体を貫かれて死んでしまった。

そして…私も。

 

「あ、ああ」

 

一瞬、みんなが殺され、自分の手を貫いた槍の幻影が見えた。

これが現実になるのはもうすぐだった。

 

「ヒ、ヒヒヒ、ウヒヒ、破滅よ、おしまいよ~~みんな死ぬのよ~~!!」

 

腐川がついに発狂した。

 

「あーうるさい!狂うのは後にしてくれませんか!?」

 

あのセレスさんが大きな声を上げて怒鳴った。

そうなのだ。

もうオシマイなのだ。

今さら、こんなダイイングメッセージなどわかるはずがない。

 

「ヒヒヒ、ウヒヒ」

 

「ああ!黒木さんまで!!」

 

「あなたもですか!?」

 

腐川に釣られて私も絶望の笑い声を上げる。

それを見て、不二咲さんは小さい悲鳴を上げ、セレスさんが頭を抱える。

 

「ウヒヒヒ…ヒぐぅ」

 

狂ったフリを止めた途端、涙が出てきた。

下を向いたら止め処なく出てくるので、私はとりあえず上を向いた。

照明の光が嫌に眩しかった。

 

これが人生最後の光景となるかもしれない、そう思った時に

私の中に残った望み…それは

 

 

太陽の中を歩きたい、だった―――――――

 

 

ああ、インドアな人間であり、夏休みの大半を家の中で過ごした私がなんという様だろう。

まあ、人間らしいといえば人間らしい。

太陽の中を生きる。それこそが本来の人のあるべき姿なのだから。

ああ、最近お日様の中にいた記憶…それは前の学校の体育の時間になるかな。

記憶を遡り、私は過去の自分を幽体離脱したように眺める。

人生でも数えることしかない掛替えのない体育の時間。

過去の私はいつものように体調不良を理由に皆がサッカーをやっているのを見学していた。

 

(ぎゃぁああ~~何やってんだ、私は!この限られた貴重な時間を何してんだよ!?)

 

見学に退屈しだしたのか、過去の私は蟻の巣を発見して、巣の入り口に埋め始めた。

 

(止めて~高校生にもなって止めてくれぇえええええい)

 

客観的に見ると、いかにゴミのような人間だったかがよくわかり泣きたくなる。

ああもしかしたら、この蟻の怨念によって今、こうして閉じ込められてしまったのかもしれない。

ごめんなさい!蟻さん、ごめんなさい!

 

(お、また何かし始めたぞ…)

 

こやつ…あまりに暇なのか、地面に絵を書き始めたようだ。

ああ、よくやるよねこれ…ってそんなことやる余裕があるなら今の私と入れ替わって欲しい。

ん、なんだ?今度は文字かな?

ひらがな、漢字、数字、アルファベット。

それらを何も見ないで書くことにチャレンジし始めたようで、後ろ手で書き始めた。

ああ、そうだった。

私は後ろ手で見ずに完璧に文字をかくことができるのだ。それもかなり高速に!

まあ、それだけこんな無駄なことをやっていたことを意味するのだけどね…。

一見、漢字の方が難しそうだけど、意外にアルファベットの方が書きにくいんだよね。

そういえば…舞園さんも後ろ手で壁にあの数字を書いたんだよな。

でもなんで数字だったんだろう?

 

ダイイングメッセージといえば、犯人の名前だよね?なら普通は漢字かひらがなかアルファ…。

 

その時、私に電流が奔った。

後ろ手で書いたなら、あれは「 11037」ではなく「73011」と書きたかったのではないか。

それに…そもそもこれは本当に数字を書いたのだろうか?

 

もしアルファベットを書こうとしたなら…

 

 

   7→L 3→E 0 → O  11はもしかしたらNなのでは?

 

 

「LEON。逆さまにしてアルファベットに直したら…レオン?」

 

 

誰だ…?ハリウッドの俳優の誰かかな?

舞園さんは、ハリウッドにも進出を考えていて、そのマネージャーの名前とか?

 

(え…!?)

 

いつの間にか、私は独り言を口に出していたようだ。

それを皆に聞かれてしまったらしい。

だが、その光景を見て私はぎょっとした。

 

 

全員がじっと私を見ていた。真剣な表情で私のことを見つめていた。

 

 

苗木君も、十神君も、あの霧切さんでさえ、驚きの表情で私を見つめていた。

そして次の瞬間、全員の視線は一人のクラスメイトに集まった。

 

「へ…?」

 

そこにいたのは、桑田君だった。

 

「あ…!」

 

今になって私はようやく彼の名前を思い出した。

 

彼の名前は―――

 

 

           桑田…桑田怜恩(れおん)!!

 

 

 




早いです。
自分でも信じられないくらいに早く書けました。
内容的には今作の方が書きづらいはずでしたが、あっさり書けました。
前作の方がはるかに書きにくかったです。

今回嬉しかったのは、全員がそれなりに動いてくれるようになったことです。
2話のNPCぶりと比べて見てくださいw

もこっち ぼっち体験からまぐれで正解も状況がよくわかっていない。

桑田 1話ごとにジワジワ追い詰められるもとうとう。

苗木 覚醒は次話か!?

誤字脱字は見つけ次第修正します。変な文章は書き直します。
では、また次話にて
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