私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

30 / 66
第2章 週刊少年ゼツボウマガジン (非)日常/非日常編
週刊少年ゼツボウマガジン 前編①


「希望ヶ峰学園は学級裁判を乗り越える度に新しい世界が広がるようになっています!

適度な刺激を与えないとオマエラみたいなしらけ世代はすぐにブーたれるし!

てなわけで、探索はどうぞご自由に!」

 

モノクマのアナウンスと共に2階へ続く階段の前の鉄格子が音を立てて上がっていく。

 

「まさに餌だな。

外への希望を与えることで新たな殺人を誘っているのがみえみえだぞ」

 

「え、で、でも、これ以上はなにも起きないよ!」

 

不敵な笑みを浮かべながら、不穏なことを呟く十神君に、朝日奈さんが反論する。

いつも笑顔の朝日奈さん。だけど、その声はどこか自信のなさを感じた。

 

「ククク、まだそんな甘いことを考えているなら、次死ぬのは貴様だな、朝日奈」

 

彼女の怯えを見抜いたのか、そう言って十神君はより愉快そうに笑う。

 

「舞園さやかが口火を切ったからね。もう誰も信じられるわけないじゃない・・・!」

 

腐川冬子が呻くように呟いた。

その事実を前に反論する者はいなかった。

 

沈黙と不安と不信の中、私達の新たな学園生活が幕を開けた。

 

 

それから3日後―――

 

私は食堂の中いた。

沈黙と不信と不安から始まった新たな学園生活。

そんな中、こんな気持ちでいられる私は、

もしかしたら、この学園で一番幸せな生徒かもしれない。

そう、私は、一人でここお茶をしているわけではない。

ぼっちというわけではないのだ。

 

 

そうとも!私は…ある人をここで待っているのだ!

 

 

「やあ、もこっち」

 

モノクマが手を振りながらトコトコと歩いてくる。

 

そうとも!私はここであのクマ野郎を・・・

 

「”人”だって言ってんだろがぁああああああ!!!

クマはお呼びじゃねーんだよ、クマはよぁおおおおおおお!!!」

 

「うぉおおおおおおおおおお!?びっくりした~~~~~~ッ!?」

 

私のノリツッコミにモノクマは盛大に仰け反った。

 

「開幕からお前と話すなんて縁起悪いだろうがよぉおおおおお~~~ッ!!」

 

メタ発言かもしれないが、まあ、多少はね?

モノクマと待ち合わせるなんてありえない。

度々、話題に上がるスパイじゃあるまいし。

 

「なんだい、そのリアクションは!?

ぼっちでいるから構ってあげようとしただけなのにさ!

うぬぬ、もこっちの分際で少し調子に乗りすぎてないかな・・・?

ボクの恐ろしさをもう忘れたの?」

 

血管を浮き立たせ、鋭利なツメを突き出しながら、モノクマは怒る。

言葉とその武器で恫喝し、私を萎縮させる魂胆のようだ。

ああ、忘れるものか。

お前がどんな奴であるか。

どんな、悪魔じみた殺人鬼であるか。

一瞬、学級裁判の光景が頭を過ぎり、私は表情を曇らせる。

 

だけど・・・だからこそ気づいたことがある。

 

「だ、だから何?今、私は一体何の規則を違反したのかな・・・?」

 

「え・・・?」

 

モノクマがピタリと止まる。

 

 

―――ビンゴだ。

 

「んん~~~あれ~?

まさか規則を守っている生徒に危害を加える気なのかな、”学園長さん”は?」

 

「う、うう・・・そ、それは・・・」

 

モノクマは明らかな狼狽を見せた。

そうなのだ。

こいつは鬼畜じみた殺人鬼ではあるが、なぜが規則を重視している。

それは学園長という肩書きをはじめ、

奴のこれまでの言葉の節々から読み取ることができた。

 

 

つまり、直接暴力でも振るわない限り、

奴に何を言っても”おしおき”されることはないのだ!

 

 

「ぼっちで暇してるのは同情するけどさ・・・帰ってくれない?

正直、邪魔なんだよね。

今、ある人と待ち合わせしてるから。クマじゃなくて、人とさ」

 

「な・・・ぐ、ぐぬぬ」

 

シッシと手で追い払うジャスチャーを見せる私に、モノクマはプルプルと体を震わせる。

何か反論しようとしているが、言葉が見つからないようだ。

もはや奴が何を喚こうとも、

待ち合わせをしている私に絡んでくる可哀相なぼっち、という構図は変わることはない。

 

「もこっちのくせに・・・もこっちのくせに~~!

ちょっと”クラスメイト”と仲がよくなったからって調子に乗るなよ~~~」

 

捨て台詞を吐いてモノクマは逃げるように背を向けて走って行った。

去り際に奴の瞳に見えた液体は、オイルだったのでしょうか?それとも・・・。

まあ、モノクマのことなどどうでもいい。

私は忙しいのだ。

 

 

そうなのだ!私はあるクラスメイトと待ち合わせをしているのだ!

 

 

 

「おう!チビ女!」

 

威勢のいい声の方に振り向く。

そこには漫画のような金髪のリーゼントがトレードマーク。

日本中の不良が憧れる存在。

超高校級の”暴走族”である大和田紋土君がいた。

 

「相変わらず陰気くせー顔してんな、チビ女!」

 

事実かもしれないが、

人に気をつかうというのがまったくないのがさすがは暴走族。

だが、悪気はないのだろう。

”ニカッ”とした裏表のない彼の笑顔がそれを証明している。

 

「お、大和田君、あ、あの・・・あの時はどうも」

 

私は慌ててペコリとおじきする。

私には、彼に盾子ちゃんの死体に

大事な学ランをかけてもらった・・・という恩があるのだ。

 

「よせって!どうってことねーよ、あんなもんはよぉ」

 

大和田君はぶっきら棒に返事しながらも顔を赤らめる。

そうのだ。

大和田君はこう見えて、すごくいい人なのだ!

 

「オメーこそスゲーじゃねーか!あの事件を解いちまうんだからなあ!

まさか”あの女”が桑田を殺そうとしてたとはなぁ・・・」

 

「う・・・うん」

 

もしかして、一部の人にはあの事件は私が解決したことになってる・・・?

本当はあの事件は、苗木君がほとんど解いて・・・それ以前に霧切さんが・・・。

”あの女”というのは、舞園さんのことだよね?

超高校級の”アイドル”である彼女を”あの女”呼ばわりとは

さすがは恐れ知らずの暴走族だ・・・本当は優しい奴だけど。

 

「しっかし、オメーここで一人で茶をシバイてるのか?

似合い過ぎて正直ビビッたぜ・・・さすが超高校級のなんたら?の才能だな」

 

「ち、ちがう・・・!わ、私は待ち合わせをして・・・」

 

なんたらじゃなくて喪女だよ!喪女!などとツッコミを入れても涙が出るだけだ。

私はありのままの真実を告げた。

 

「おおお!?なんだオメーもか!?」

 

驚愕の表情を見せる大和田君。

うん・・・時に正直は美徳ではないからね。

 

「ま、まあね。あ、そ、それと私をチビ女と呼ぶのはちょっと・・・」

 

「ああん?」

 

「いや、いいすっよ!全然、OKっす!!」

 

大和田君が眉間にしわをよせただけで、私は言葉を覆した。

クソ怖ええよ。誰だ?優しいなんて言った奴は!?

 

「まあ、確かにな・・・ここの暮らしも長くなってきたしな。

チビ女の意見ももっともだな。で、オメーの名前なんだっけ?

モノクマが黒森だか黒山だとか言ってたよな」

 

「黒木です・・・黒木智子です。どうぞお見知りおきを」

 

「おう、これからもよろしくな!チビ女!」

 

うん・・・もうなんでもいいや。

 

「しかし、連れはまだこねーみてーだしな。仕方ねーから時間潰しに少し話すか」

 

限りなく面倒くさそうに頭を頭を掻きながらそう切り出す大和田君。

うん、ここまでくると無言でいてくれた方が嬉しいかな。

 

「おう、チビ女!オメー単車は何乗ってんだ?」

 

「乗ってるわけねーだろ!?」

 

開幕を飾る話題じゃねーだろ!?

まだ確認できないが天気の話とかの方がましである。

 

「ああん!?オメー高校生にもなって単車持ってねーのかよ!?どんなシャバ僧だよ!?」

 

「いやシャバ僧とかわかんねーし。女子高生が単車乗るわけないでしょうに」

 

「何!?俺の周りの女どもはレディースで気合が入った奴ばかりだからな。

当たり前のように化けモンじみたマシーンを飼いならしてたぜ」

 

ここら辺の認識のズレはさすがというしかない。

日本一の不良の周りには、それに続く怪物達が集まってくるようだ。

だが、それらと私を一緒にしないで欲しい。

 

「ちなみに単車といったらKAWASAKEしか認めねーからな!

ああ、クソが!3分くらいもつと思ったんだけどな、この話題!」

 

そう言って、大和田君は怒りの表情で、壁に拳を叩きつける。

あの・・・なんか・・・その、申し訳ありません。

 

「じゃあ、次の話題だ。おう、オメー犬と猫どっち派よ?」

 

(う・・・!)

 

ここでいきなりルート分岐が発生した。

犬派と猫派。

長年続く争いの種。

シンプルにして究極の問題。

その血を血で洗う歴史を考えれば、簡単に答えるわけにはいかない。

慎重に考えろ。

彼は不良。不良といえば雨。雨といえばダンボール。

ダンボールの中で鳴いているのは・・・!

 

「ね、猫・・・!」

 

「ああん!?」

 

「なんてニャ!犬だワン!犬しかないワン!」

 

「だよな!犬しかねーよな!」

 

しまった!ダンボールの中で鳴くのは子猫でなく、子犬の可能性もあったか。

優しい不良のテンプレのイメージが強すぎて安易に猫を選んでしまった。

 

「俺はチャックっていうマルチーズ飼ってたんだけどよぉ。

チャックはかわいくて頭が良くて毎朝新聞もってくんだよ」

 

大和田君は語る。愛犬チャックのことを。

この人のイメージからするとドーベルマンかブルドックだと思ったが、

まさかマルチーズとは。

 

「だけどよぉ・・・チャックは9歳の時に・・・うう、チャックゥ~~。

クソが!テメーのせいでチャックのこと思い出しちまったじゃねーか!!

ぶっ殺すぞ!」

 

「なんで!?」

 

愛犬の死を思い出し突然切れる大和田君。

何が発火点になるか、もうわかりません。

 

「ところでよぉ、黒木。マジな話、オメー高校を卒業したらどうするんだ?」

 

急に大和田君の声のトーンが変わる。

チビ女ではなく、初めて黒木と呼んだことから、これはまじめな話のようだ。

 

「わ、私は大学に進学するかな、たぶんだけど」

 

なんだかんだで、私は成績はいいのだ。

1流大学は五分五分だが、2流レベルならまあ大丈夫なレベルだ。

 

「そうか・・・俺はオメーみてーに頭はよくねーからな。大学にはいけねーな」

 

そう言って大和田君は少しうな垂れる。

 

「俺は楽しくてしかたなかったんだ。

”暮威慈畏大亜紋土”の仲間と暴走ってる”瞬間”が楽しくてしょうがねーんだ。

・・・でも最近よく思うんだよ。

この高校生活が終わったら、俺はどーなっちまうんだってな。

全てを捧げた暮威慈畏大亜紋土を卒業したら、俺はどこに向かえばいいのかってな」

 

真剣な話だった。

日本一の不良である彼がまさか将来について考えているなんて。

 

「だから俺はここに”逃げて”きたのかもな。

こえーんだよ。チームがなくなった時のことを考えるのが、将来のことを考えるのが」

 

「大和田君・・・」

 

彼の言葉からあの時の舞園さんを思い出した。

超高校級の”アイドル”である彼女ですら、将来のことについて真剣に悩んでいた。

見えない未来に対する不安に、超高校級も何もないのだ。

この問題に答えなどないのだろう。

答えはきっと自分で見つけるしかないのだ。

 

「まあ、オメーなんかに相談してもしょーがねーけどな。

我ながら何言ってんだよ、お前って感じだぜ」

 

顔を上げ、大和田君は”ニカッ”と笑う。

 

「実は将来なんになるかはもう決めてるんだけどな!

大工になるぜ!

今までぶっ壊してばっかりだったからよぉ!

今度は作る側にまわるのもいーかと思ってよ!」

 

「大工かぁ・・・なんだか似合いそうだね」

 

「おう!世界一の大工になってやんよ!」

 

もう完全にいつもの大和田君に戻っていた。

彼にも一般人と同じ悩みを

抱えているのが分かっただけでも話せてよかった気がする。

なんだかんだで彼はいい人なのだ。

犬好きに・・・動物好きに悪い奴はいない。

 

私と大和田君がちょっとだけ打ち解けた時だった。

 

 

食堂に犬猿の仲の彼が勢いよく入ってきた。

その服は彼の心情を表すように清廉潔白の白。

燃えるような瞳は彼の意思を体現していた。

 

大田君と犬猿の仲である

超高校級の”風紀委員”である石丸清多夏君が

こちらに向かってドシドシと歩いてくる。

 

1Fエリアの時から度々、怒鳴りあいの喧嘩をして、

2F開放直後も、さっそく掴みあいの喧嘩を始めた2人。

大和田君が犬なら、石丸君は猿。まさに犬猿である。

なんということだ。

ここでこの2人が会ってしまうなんて。

 

「石丸ゥ~」

 

大和田君の額に血管が浮き出る。

 

「大和田君!」

 

目を背けることなく、石丸君はまっすぐ大和田君に向かっていく。

あわわ、一体どんな喧嘩が起きてしまうの~?

 

 

 

「遅かったじゃねーか”兄弟”!!」

 

「いやいや時間通りだ!君が時間を間違えたのだよ”兄弟”!!」

 

 

 

 

―――――――!?

 

 

 

これこそまさに!?であった。

なんだ一体何が起きているのだ!?

 

 

「え、何で二人は仲が悪くて・・・」

 

 

「はあ!?何言ってんだよ、オメーは?なあ兄弟!」

 

「ああ、まったくだ兄弟!」

 

 

相槌を打ちながら二人は肩を組み合う。

え、何?なんか気味が悪い。

 

 

「だ、だって、いつも喧嘩して・・・」

 

「そんなもん昔の話だ!なあ兄弟!」

 

「うむ!忘れろ、忘れろ!忘れろビーム!」

 

「ッ!!?」

 

「おお、ナイスだぜ!兄弟!!」

 

わ、訳がわからない。

え、何?何なの”忘れろビーム”って!?

 

「おお、しまった!バスタオルを忘れちまったぜ!

ちと取りに行ってくるぜ兄弟!

例の場所で落ち合おうぜ!!」

 

”バスタオル””例の場所”と意味深な台詞を残し、

大和田君は自分の部屋に戻って行った。

食堂には石丸君と私の2人きりとなる。

 

「大和田君・・・彼は本当に”気持ちのいい男”だよ」

 

「え・・・?」

 

大田君の後ろ姿を見つめ、石丸君はニヤリと笑いながら意味深な台詞を放つ

石丸君に私は驚愕の表情で振り返る。

 

え、何、その台詞・・・?

 

 

「黒木君・・・僕は・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――友達がいなかったんだ。

 

 

 

 

 

――――重ッ!?

 

 

 

 

 

大和田君の後ろ姿を見つめながら放った石丸君の衝撃の一言。

あまりの重さに私は返答を窮した。

ちょ、重い!いきなり重過ぎるよ~~ッ!!

 

「君は友達が少ない。または、まったくいない人間だと見込んで

僕のありのままの心境を話したいのだ」

 

フッと笑いながら、石丸君は振り向いた。

フッ・・・じゃねーよ!悪気はないかもしれないけど、すげー失礼だよ!

いるもん!私、友達いるもん!ゆうちゃんとか盾子ちゃんとかいるもん!

 

「僕は皆が等しく努力できる場を提供したいと考えて、その一念から小学生の頃に

風紀委員に立候補したのだ!それから時が経ち、周りから超高校級の”風紀委員”

と呼ばれるようになってもその熱意は変わらなかった。

世界を動かすのは、天才ではなく、努力を続ける凡人なのだ!

それこそが僕の信念だ!だからこそ、僕は風紀委員の仕事にのめりこんだ。

だけど・・・どの学年でもどのクラスでも、

僕と”本音”で語り合ってくれる生徒はいなかったんだ。

僕がいくら真剣に話しても、本音で語っても彼らが返すのは建前だけだった」

 

表情を曇らせ、石丸君は過去を語る。

当時の石丸君の奮闘と周りの落差を簡単に想像することができた。

いくら彼が努力しようとも、本音で語ろうとも、

彼は風紀委員・・・つまり、教師側に属する存在であるのだ。

その彼に、本音を語ることは難しいだろう。

それも、石丸君のように真っ直ぐで真面目な

悪く言えば融通の気かなそうなタイプならなおさら距離を置かれるだろう。

そこに妥協しなかったからこそ、彼は超高校級の”風紀委員”となったのだろうけど。

 

「だからかな・・・彼のような、大和田君のような人間は初めてだったんだ。

逃げることなく、妥協することなく、本音をぶつけてくる・・・こんなにも

本音をぶつけられる人間に出会ったのは初めてだったんだ。

ただの無法者だと思っていた彼らにも、

彼らなりの”流儀”があることを大和田君に教えられた。

自分がいかに小さな世界で生きていたのか、思い知ったよ」

 

いつの間にか和解して友達になった背景には、こんな想いがあったのか。

優等生だからこその苦悩。

それに答えたのが、不良である大和田君という意外性に私は聞き入ってしまった。

 

「フフ、大和田君のことを考えたら”あの時”のように”熱く”なってきだぞ!

彼も”サウナ室”に着いている頃だ。

さあ、”男勝負”と行こうじゃないか!」

 

突如、テンションを上げた石丸君が、そう叫びながら食堂を出ていった。

呆然と彼の後ろ姿を見つめる私。

先ほどから出てくる不穏なキーワードが頭の中を駆け巡る。

 

 

”気持ちのいい男””あの時””熱い””サウナ室””男勝負”

 

 

な、何だこのキーワードは・・・ま、まさか!?

 

刑務所ではよく”それ”が起こると聞いたことがある。

 

この希望ヶ峰学園という監獄の中で憎み合う2人。

だが、本音をぶつけ合い、憎しみはいつしか愛情に変わり、2人はサウナ室で・・・

 

 

 

 

 

        大和田 × 石丸

 

 

 

なんということだ~~~ッ!?

超高校級の”同人作家”山田すら血を吐く事態が今、まさに!?

 

 

 

なんということだ!

私は、ここで”友達”と待ち合わせしていただけなのに!

 

 

 

 

「やあ、黒木さん」

 

「な、苗木君・・・!」

 

声の方を振り返ると

そこには超高校級の”幸運”の持ち主である苗木君が立っていた。

 

「苗木君、大変だ・・・大変だよ~~~ッ!?」

 

「え・・・!?」

 

「大和田君と石丸君がアッー!アッー!ウホッ!ウホッ!」

 

 

私はこの恐るべき事態をありのままに苗木君に告げた。

 

 

「ち、違う・・・それは違うよ!」

 

 

真っ青になりながら、苗木君は学級裁判での名セリフを放つ。

え、私何か間違えたのでしょうか?

 

「黒木さん、落ち着いて!実は昨日、大和田君と石丸君はサウナで・・・」

 

苗木君は昨日の出来事を語る。

喧嘩を始めた二人はサウナの我慢比べで決着をつけることにしたこと。

それの審判を苗木君がしたこと。

決着がつかず、夜時間になったので苗木くんは先に帰ったこと。

そして次の日、あのように仲良くなっていたこと。

 

「・・・だから、黒木さんが心配するようなことないよ、たぶん」

 

苗木君は語る。その瞳に哀れみを浮かべながら。

なんだ・・・勘違いか、え、でも、たぶんて!?

 

「石丸君はきっと嬉しかったんだよ。本音を語れる友達に出会えて」

 

苗木君は石丸君についても教えてくれた。

自分の祖父に対する複雑な感情。

天才というものに対する憎悪に近い感情。

凡人だからこそ、誰よりも努力してきたこと。

 

石丸君は多くのことを苗木君に語ったようだ。

それを語った石丸君の気持ちがよくわかる。

苗木くんには、何か心を開きたくなる・・・そんな不思議な魅力があった。

 

私はあの裁判を通して、彼の強さと優しさの一端を知ることができた。

苗木君は、同い年で私が初めて尊敬することができた人なのだ。

 

その彼を嫉妬から罵倒したネットの馬鹿どもは本当に見る目がない。

 

「いや、アンタも!?」

「お前も散々罵倒してただろ!?」

 

どこからかそんな声が聞こえてきたが、無視だ。

苗木君の横顔を見ると、ちょっとカッコいい。

目が合うと、恥ずかしくて、そらしてしまう。

 

 

苗木君ともっと仲良くなりたい。

 

 

それが嘘偽りなき私の心境だ。

 

「黒木さん・・・これから一緒に2Fの探索に行かない?」

 

「え・・・?」

 

突然の嬉しいお誘い。

まさにサプライズだった。

 

「霧切さんも一緒に探索するんだけど、一緒にどうかな・・・と思って」

 

霧切さん付きかよ・・・。

まあ、でも彼女には助けてもらったし、霧切さんとも話してみたいな・・・。

本当に魅力的なお誘いだ。

 

でも・・・

 

「・・・ごめん。わ、私、今、”友達”を待ってるんだ。だから・・・」

 

「そうか・・・じゃあ、また今度ね」

 

私のその言葉を聞いて、苗木君は嬉しそうに笑いながら、食堂から出て行った。

 

 

そうなのだ!私はここで”親友”と待ち合わせをしているのだ!

 

 

「もこっち~~~」

 

 

どうやら来たようだ。

 

 

「遅れてごめんよぉ~~」

 

 

彼女が遅れたのではない。

私が嬉しくて早く着いただけなのだ。

そう、私の親友は業界で知らぬ者がいない超高校級の”プログラマー”

 

 

 

では、皆さんに私の”親友”を紹介しましょう!

 

 

 

 

私の親友である”ちーちゃん”こと――――

 

 

 

 

          ”不二咲千尋”ちゃんです!!

 

          

 

 

 

 

 




”希望”の物語のはじまり――――



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。