私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第2回学級裁判 前編② ー読み切りSS『残念な高校生活』付きー

 

 

ジェノサイダー翔。

 

 

今、世間を騒がせている猟奇殺人鬼。その性別年齢本名全て不明。

ただ、誰かがネットでつけたその名がいつしかこの殺人鬼の通り名として定着した。

殺害現場を目撃した人間には、捜査のため守秘義務が課せられるため、

ジェノサイダー翔の手口が報道されることはなかった。

そのため、ネットでは様々な噂が飛び交い、議論は過熱した。

正体不明の連続殺人鬼。

その存在は光に群がる蛾のように、一部の狂信的な信者を生み出すまでになった。

犯行を重ねるごとにジェノサイダー翔の名はカリスマ性を増していく。

噂が噂を呼んだ。

恐怖から幻想が生まれ、その幻想がさらなる恐怖を生む。

その螺旋がジェノサイダー翔の存在をさらに肥大化させ、、

ついには被害者数、数千人規模という都市伝説になるまでに昇華した。

私も時々見る某サイトのジェノサイダー翔の専用スレッドには、

その正体について住民達が好き勝手に話していた。

 

”現役の医学生で研究目的で人を殺しているらしい”

”いろいろな店で食べ歩くのが趣味。実は腕関節も得意とのこと”

”戦ったら誰にも負けないけど、本当は静かに暮らしたい”

 

春休みでやることもなかった私は、暇つぶしのそのスレを眺めていた。

半分ネタとしか思えないものが続く中、ある噂を見て、マウスを動かす手を止めた。

 

 

”ジェノサイダー翔の正体は希望ヶ峰学園に通う高校生である”

 

 

(いやいや、いくら希望ヶ峰学園でも、さすがに殺人鬼まではスカウトしないだろ・・・)

 

そんなことを思い、苦笑した後、少し背筋が寒くなったのを思い出す。

 

 

だって、その噂が本当なら・・・

ジェノサイダー翔はまさしく――――

 

 

 

 

         超高校級の”殺人鬼”に他ならないのだから・・・!

 

 

 

 

 

 

そのジェノサイダー翔がこの中にいる――――!?

 

まるで某有名探偵の孫が主役の探偵漫画のような展開だった。

私も驚く登場人物の1人として見開きに描かれているのだろうか?

それはともかくとして、こんな流れはまるで想定していなかった。

なぜならば、私は今回の事件において、クロがジェノサイダー翔の犯行に

偽装した謎に関して推理を続けていた。

 

なぜ、そんなことをする必要があったのか・・・?

 

その理由、その意味に悩み続けて、ついにその謎に対して納得する回答に辿り着けなかった。

逆に言えば、それは、今回の事件の犯人はジェノサイダー翔ではない。

そう結論づけていたに等しい。

だが、十神白夜の放った一言はそれを根底から覆すものだった。

 

今回のクロはジェノサイダー翔本人。

 

まるでホークやカーブなどあらゆる変化球に対応する練習をしてきたのに、

ど真ん中のストレートを投げられたような心境だった。

私はクラスメイト達を見る。

みんなもそれぞれに視線を送る。

十神の言葉が本当なら、この中にあのジェノサイダー翔が潜んでいるのだ。

一緒に食事し、ちょっとした話で笑い合う・・・そんなささやかな日常を

共に過ごしてきたクラスメイトが実は自分を殺す機会を狙い、密かに笑っていた・・・。

ゾッとしたどころではない。

それは現在も進行中なのだ。

場はまたざわつき始めた。自分以外の全ての者に対する不審の目を伴って。

 

「十神っち!この中にあのジェノサイダー翔がいるって本当かよ!?」

 

葉隠君が真っ青になって、十神に問う。

だが、十神は”ククク”といつものように肩で笑うのみだった。

 

「た、確かジェノサイダー翔は数十人も殺してるような奴だよな?」

 

数千人、というのは悪魔で都市伝説であり、

実際は、葉隠君が言うようにジェノサイダー翔の殺人は数十人らしい(ネット情報)。

まあ、それでも十分過ぎるほど多いとは思うけど。

 

「そ、そんなことができそうなのは・・・」

 

そう言って葉隠君は、恐る恐る大神さんの方を見る。

 

「葉隠!アンタ、何を言ってんの!?」

「で、でもよ、朝日奈っち・・・」

 

葉隠君のその行動に本人以上に、席を隣にしていた朝日奈さんが怒った。

彼女の怒りに葉隠君は怯みながらも、その主張を変えるつもりはないようだ。

 

その時だった―――

 

 

「ジェノサイダー翔は大神さくらではない」

 

その声の主は、この事態の発端である十神白夜だった。

大神さんに助け船を出した・・・なんてこの男がするわけがなかった。

だが、なんだろう?

その言い方だと、まるで十神はジェノサイダー翔の正体を知ってい・・・

 

 

「腐川だ。今回のクロであるジェノサイダー翔の正体は腐川冬子だ」

 

 

 

                !?

 

 

 

 

それはあまりにも唐突だった。

推理のクライマックスにおける華とも言える真犯人への名指し。

難解なトリックを暴き、ようやく発言が許されるこのお約束。

それがこんな冒頭に、あまりにもあっさり行われてしまった。

これこそまさに”!?”である。

 

「え、十、十神さま・・・?」

 

名指しされた腐川は、何を言われたのかわからずポカンとした表情を浮かべている。

いや、私だって何が起こっているのかわからない。

腐川が?あの暗くてジメジメした性格最悪女の腐川冬子が・・・ジェノサイダー翔!?

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

今度も腐川本人ではなく、朝日奈さんが声を上げる。

大神さんの時は友情からだと思うが、

きっと今回は、私と同様に彼女も本当に驚いたのだろう。

 

「腐川ちゃんは、血が苦手なんだよ!血を見たら気絶しちゃうほどに!

だ、だから、腐川ちゃんが犯人なんて・・・ジェノサイダー翔なわけないよ!」

 

朝日奈さんの反論で私もそのことを思い出す。

腐川は生意気にも血を見たら気絶してしまう、という病弱な美少女設定を持っていた。

実際にヤツは、舞園さんの死体を見て、仰向けに気絶して大騒ぎになった。

”言弾”ほどではないが、確かに的確な指摘だった。

だが、十神はそれに対しても冷笑を崩すことはなかった。

 

「・・・ジェノサイダー翔は腐川冬子であり、腐川冬子ではない」

「ハア!?なんですかぁ~!?ナゾナゾか何かですかぁ~!?」

 

わけのわからないことを言い始めた十神に、即座に山田が私と同じ感想のツッコミを入れる。

私は、もはや何がなんだかわからなくなってきた。

 

「・・・解離性人格障害。君はそう言いたいんだよね?十神君」

 

苗木君がその言葉を放ったのはまさにそんな時だった。

 

「図書室のファイルに確かそんなことが書いてあった。

ジェノサイダー翔は多重人格の可能性がある・・・て」

「ククク、その通りだ」

 

苗木君の回答に十神は肩を揺らし笑う。

多重人格・・・確かそれは苗木君が十神に同行した際に、手に入れた情報。

それが本当なら、血が苦手でない人格もいる、ということに・・・

 

「で、でも・・・腐川ちゃんは、ジェノサイダーを怖がって部屋に閉じこもって・・・」

「あれは、閉じこもった、のではない。

これ以上、自分の中の殺人鬼が誰かを殺さないように自らを閉じ込めた、のだ」

 

朝日奈さんの疑問に十神は今度は即座に答えた。

ドアを少しだけ開き、こちらの様子を窺う腐川の表情を思い出す。

 

 

 

「これ以上、アイツの好きには・・・”ジェノサイダー翔”の好きには、私がさせないから!」

 

 

 

腐川のあの言葉の真の意味は・・・自分の内側に巣食う殺人鬼に対する宣戦布告だった・・・?

 

「マ、マジかよ・・・」

 

大和田君が息を呑む。

皆の視線が一斉に腐川に集まる。

腐川は、どこか空ろな目をしながら、引きつった笑みを浮かべている。

 

「ど、どうしてですか・・・?十神さまァ」

 

消え入りそうな声で、腐川は、十神に言葉を投げる。

 

「どうして?・・・というのは、俺がお前の正体をバラしたことか?腐川」

 

その言葉に対して、十神は侮蔑と冷笑をもって答える。

 

「ど、どういうことだ!十神君!?」

 

私と同様に状況についてこれないのだろう。石丸君が声を上げた。

 

「簡単な話だ。モノクマが秘密を暴露すると言った直後、ソイツが俺の部屋に相談に来たのだ。

迷惑この上ないので追い返そうとしたが、なかなかに興味深い話が聞けた。

まさか、ソイツのもう1つの人格があのジェノサイダー翔だとはな。

そして、その直後、この事件が起きた。

ククク、腐川よ。結局、お前は殺人の快楽には勝てなかったようだな」

 

「う、ウウ・・・わ、私は・・・だ、誰も殺したく・・・なかった!

で、でも・・・アイツが!わ、私は止めたのに・・・何度も、何度も!うう・・・」

 

十神の嘲笑に腐川は頭を押さえて苦しそうに呻く。

この状況が未だに現実とは思えなかった。

まるでテレビでサスペンスドラマを見ているような心境だった。

 

「腐川、貴様の役目は終わりだ。そろそろ殺人鬼の人格にご登場願おうか」

 

そしてドラマは一気にクライマックスへと動き出す。

なんと十神は、ジェノサイダー翔の人格を呼び出そうというのだ。

腐川の表情が恐怖で歪む。

 

「や、約束してくれたじゃないですか・・・わ、私を守ってくれるって・・・」

「聞こえなかったのか?貴様はもう用済みだ。さっさとジェノサイダーに代われ」

 

目に涙を一杯に溜めた腐川の言葉を十神は一蹴する。

 

「腐川、お前のことが好きだ・・・十神さまがそう言ってくれた時、わ、私は死ぬほど嬉しくて・・・」

「もちろん、嘘だ。ククク、身の程を知れ」

 

その光景は恋愛ドラマを見ているよりずっと胸が苦しかった。

腐川が十神を好きなのは、もはやクラスメイト全員が知っていた。

いつも十神の後をつけて、顔を赤らめて嬉しそうにニヤニヤと笑っていたのも。

だからこそ、腐川は、十神に悩みを打ち明けたのだろう。

自分の愛する人に悩みを・・・自分の真実を聞いて欲しかったのだろう。

 

「わ、私のことを愛しているって・・・け、結婚しようって・・・」

「この俺がわざわざ貴様如きのために演技してやったのだ。光栄に思うがいい」

 

だが、それは十神にとってまさにどうでもいいことだった。

十神は腐川の恋心を嘲り、騙し、利用したのだ。

内なる殺人鬼の凶行に、怯え、苦しみ、愛する十神に救いを求めた腐川。

それがまさに踏みにじられようとしている。

私がいくら腐川が嫌いでも、今の腐川を罵倒する気にはなれない。

 

「もうお前にビンビンだ!十神Jrを19人作ろう!・・・て言ったじゃないですかァアア~~ッ!!」

「誰が言うか!ええい、ドサクサに紛れて、汚らわしい妄想を混ぜるな!気持ち悪い!」

 

ああ、やっぱり腐川は腐川だ・・・。

少しだけ感傷的になった私が素に戻った直後、ついに決着の時が訪れた

 

「そもそも風呂に入らん女など論外だ!臭いんだよ!俺の前から永遠に消えうせろ、腐川冬子!」

 

「ヒィ、ヒィギャァアアアアアアアアアアア~~~~~~ッ!!」

 

十神の放った言弾?は腐川の心臓を貫いた。

絶叫の中、腐川は仰向けに倒れこんだ。

なんだこれ・・・?

私は一体、何を見ているのだ?

確かジェノサイダー翔の正体がどうとか・・・。

えーと、何がなにやらわからなくなってきた。

それよりも、今回の裁判においてモノクマに主役と太鼓判をされたはずの

私自身の存在感がやたら薄く感じる・・・というか透け始めてる!?

十神と腐川のキャラが濃すぎるだろ!

どうしてこうなった!?

もう、何が何やらわけがわからない。

しかし、本当にわけがわからないことが起こったのは、その直後だった。

 

 

 

――――!?

 

 

腐川はいつの間にか立ち上がっていた。元の場所に立っていた。

腐川がどうやって立ち上がったのか・・・

それがあまりにも自然だったために、私の脳はその異様さを認識することができなかった。

その異様さを認識した瞬間、私の背中に冷たい汗が流れ落ちた。

腐川は”スウゥ”と立ち上がった。

床を手で押すことなく、踵の力だけで。

それはまるでビデオの逆再生を見ているかのようだった。

以前、これと同じものをテレビで見たことがある。

それを実演したのは、体操の金メダルリスト。

彼は、タイミングを計り、背中と踵の筋肉を使い、

瞬発力でなんとか立ち上がることに成功した。

そう、なんとか成功したのだ。体操の金メダルリストが・・・だ!

腐川はそれは遥かに完璧に、しかも容易にやってのけた。

あの腐川が・・・!?

あの文学少女で、運動神経皆無の腐川冬子が!?

信じがたいことだった。

だが、結果として言えることは、

腐川冬子は、体操の金メダルリストを超えるバランス感覚と、

踵のみで起き上がれるほどの類稀なるインナーマッスルを有している、ということ。

 

腐川の雰囲気が一変していた。

普段から根暗でウジウジと暗いオーラを放っていた腐川。

だが、今のヤツから放たれるそれは、もっと禍々しくて・・・

まるでホラー映画で怪物が登場する直前のような・・・何かそんな不吉なものを感じさせた。

それを感じ取ったのは私だけではない。

 

「ヌゥ・・・!」

 

大神さんの表情が変わる。

それは、まるで目の前に戦うべき”敵”が現れたかのように、鋭い眼光を腐川に向けている。

 

「ギャハ・・・ギャハハ、ギャハハハハハハハハハ!!」

 

腐川は笑った。いや、嗤い始めた。

腹を抱えて、大声で、長い舌を出しながら、楽しそうに、本当に愉しそうに。

 

「殺人鬼に代われって・・・それって私のことかしら?」

 

そこにもはや、腐川冬子は存在しなかった。

そこにいたのは、腐川であって腐川ではない別の何か。

言葉ではなく、感覚と本能が訴えてくる。

”危険だ” ”早く逃げろ”そう訴えてくる。

コイツは腐川冬子なんかではない!

 

コイツは・・・コイツの正体は―――

 

 

 

「健全な殺人は健全な魂と肉体に宿る!

私が超高校級の”殺人鬼”ことジェノサイダー翔!本名は腐川冬子ってダセー名前だけど」

 

 

 

殺人鬼はキメ顔でそう言った。

コイツが・・・腐川の内側に巣食う殺人鬼の人格。あのジェノサイダー翔・・・!

場が騒然とする。

だが、目の前の殺人鬼に誰も言葉を投げる者はいない。

私と同様に、他のみんなもこの状況についてこれないのだ。

 

殺人鬼は本当にいた。じゃ、じゃあ、コイツがちーちゃんを・・・?

 

「単純だが、これが事件の真相だ」

 

やはり最初に動いたのはこの男だった。

十神はジェノサイダーを指差し、事件の真相を語る。

 

「モノクマに秘密を暴露されそうになった腐川は、

それを阻止するために、ジェノサイダーに代わり、殺人を行った。

それがこの事件の動機と真相だ。どうだ?実に単純だろ?」

 

十神は、肩を揺らし苦笑する。

 

「おお!スゲーイケメンだ!

あなた様がもしかして、根暗が夢中になってる十神白夜さまですか?」

 

十神を見たジェノサイダーは興奮し、長い舌を伸ばす。

 

「フ、この俺を知っているのか?」

 

十神は一瞬、”ウッ”という顔をするが、すぐ持ち直し、問う。

 

「アタシと根暗は、知識は共有しても、記憶は共有してないからさぁ。

ダセーけど、交換日記やってまして。それで、根暗が、白夜さま、白夜さまってウルセーから

名前だけは知ってたけど、マジでタイプだわ、こりゃ!時間をかけてゆっくり刻みてぇ~~」

 

物騒なことをいいながら、ジェノサイダーはヨダレをたらす。

 

「まあ、それは後の楽しみとして・・・

どうやら、アタシの秘密を知られちゃったってことかしら?」

 

ジェノサイダーが私達の視線を向ける。

蛇が獲物を狙うかのような瞳。

数十人を殺戮した殺人鬼の瞳の中に私達が映る。

 

「1人あたり5秒あればいいから・・・だいたい1分くらいでいいかしら」

 

ジェノサイダーがその言葉を放った直後、

私は、かまいたちに顔を切り裂かれたような錯覚に陥り、思わずその箇所を触った。

モノクマが放つ禍々しいまでの”悪意”から”魔”という言葉を連想するならば、

ジェノサイダーが放つそれは、まさに”殺”そのものだった。

 

 

それは、本物の殺人鬼が放つ、触れれば切り裂かれそうになるほど鋭利な”殺意”

 

 

その殺意の前に、私達は蛇に睨まれたカエルのように一歩も動くことはできなかった。

 

「・・・な~んてね!ギャハハハ、驚いた?今のところはとりあえず、生かしてあげるわ」

 

私達の様子を見て、ジェノサイダーは腹を抱えて爆笑した。

 

「だって、今、アタシ達、ここから出られないんでしょ?

えーと、そこの椅子に座ってるモノタヌキ?に監禁されてるって話じゃない?」

 

ジェノサイダーの視線が裁判長の席に座るモノクマに移る。

 

(おお、殺人鬼と殺人鬼の邂逅だ・・・!)

 

こちらの方がドキドキしてきた。

 

ジェノサイダーVSモノクマ

 

本物のシリアルキラー同士の初対面。

まるでハリウッドの映画のタイトルみたいだ。

 

「タヌキじゃないです。モノクマです。はじめまして!」

「あ、ご丁寧にどうも。ジェノサイダーと申します」

 

ズッコケそうになった。

殺人鬼同士の対決はなごやかな挨拶のみで終了した。

まあ、なんでもいいけど、ちょっと違うんじゃないかなぁ。

なんていうか、これじゃ映画にならないというか・・・。

 

「根暗の日記の情報通りだわ、こりゃ。

アタシも時々、根暗に入れ替わって、

探索してたけど、出口見つかんなくてすぐに諦めたけどね!」

 

(あ・・・!)

 

その場面、私は遭遇したかもしれない。

あれは、夜時間も迫り、図書室を出て、ちーちゃんと廊下を歩いていた時だった。

 

「ギャヒャヒャヒャヒャ~~~~~ッ」

 

だらしなく舌を伸ばした腐川が、スゴイ速さで私達の目の前を駆け抜けて行った。

 

「もこっち、あれって・・・」

「・・・ちーちゃん、私達は何も見なかった。そうだよね?」

 

その当時は、監禁生活が長くなってきたため、腐川の精神がついに・・・。

そう思っていたけど、あれはジェノサイダーだったのか。

今さらながら、ゾッとした。

もしかしたら、私もあの時、ジェノサイダーに始末されていたかもしれないのだ。

 

「外に出たところで、警察はアタシを相手にしてる暇なんてないけどね!

”あんなこと”が起きたら、殺人鬼の存在感が消えちゃうじゃない!キーくやしい!

当分、ここにいた方が安全・安心ってもんよ」

 

(・・・?)

 

ジェノサイダーが何やら外のことについて話している。

警察が動けない?

それほどまでに何か重大な事件が起きている?

いやいや、少なくとも私はそんな”記憶”なんてないし・・・。

 

「1人だけやっかいなのを除けば・・・ここに私の敵はいねーし。好きにさせてもらうわ。

まあ、それと、アタシもアンタ達に言いたいことがあるからね」

 

大神さんとジェノサイダーの視線がぶつかる。

 

史上最強の格闘家と史上最凶の殺人鬼

 

一体、どっちが強いのだろうか・・・?

いやいや、どんどん主題からズレてきているぞ。冷静になれ、私。

今は、学級裁判の真っ最中だ。

そして、ここまでの流れから考えるなら、

やはり十神の推理通り、ジェノサイダーがクロなのか?

 

ジェノサイダーの登場によって、カオスと化した学級裁判。

だが、次にヤツが放った一言は、学級裁判をさらなるカオスに導いたのだった。

 

 

「一体、誰かしら?私の真似をして、私に罪を被せようってふざけた野郎はさぁ~~~!?」

 

 

 

 

                !?

 

 

 

 

クライマックスと思われた学級裁判。

だが、その直後、それを根底から覆す”!?”が私達の頭上に再び出現した。

 

 






主人公不在!
ここにきてまさかの解説役へ!


【あとがき】

お久しぶりです。
だいたい8000字くらいですかね。
まあ、そうです。字数で区切りました。
原作未読の方には、まあ進んでいるかな・・・くらいに感じてくれるかもしれません。
既読の方には、ジェノの登場で終わりじゃねーか!と思うでしょう。
作者としても、前編を終わらしたかったのですが、
ジェノのキャラが濃すぎて、この後の展開(十神の容疑、不二咲の正体、オリジナル要素)が
薄くなりそうなので、やむおえず、ここで区切ることにしました。

お詫びというわけではありませんが、
残姉こと戦刃むくろが動いた記念・・・というか
アニメ『ダンガンロンパ3 未来編/絶望編』を見て、
創作意欲(妄想)が沸き、読み切りSSを書いてみました。
内容的には
『イマワノキワ/絶望の劣等生 戦刃むくろ』(書くかはまだ未定ですが・・・)
の前日譚みたいなものです。
時間があれば、読んでみてください↓

ではまた次話にて



読み切りSS『残念な高校生活』

時刻は午後7時くらいだろうか。
夏であればまだ明るいだろけど、
冬ならばこの時間でもすでに外は真っ暗だった。
冬休みに自宅に戻り、ダラダラ過ごしているうちにもう大晦日。
というか、希望ヶ峰学園に入学して、もう2学期が終わってしまった。
時間の流れが早く感じるのは、成長したためか、それとも徒に年をとったのか・・・。
まあ、なにはともあれ、私は何とか希望ヶ峰学園で学園生活を続けている。
私達、第78期生は、”アイドル””プログラマー””暴走族”など
バラエティに富んだ才能が集結している。
その中で、私が真っ先に思い浮かぶのは、”アイツ”を除けば、意外なことに
当初、その才能を馬鹿にしていた超高校級の”幸運”こと苗木君だろう。
彼がクラスの調整役をしてくれているから、私達はクラスとしてやっていけるのだ。
友達・・・までとはいかないが、苗木君は私にも気をつかって話しかけてくれる。
そのおかげで、私はクラスで浮くことなく、今日までやってこれたのだ。
そしてもう1人は・・・超高校級の”ギャル”江ノ島盾子さん。
彼女のあっけらかんとした裏表のない性格でクラスを引っ張り、
様々なイベントを突如企画する。

「失われた青春を取り戻すのよ~!」

彼女の暴走を苗木君が上手く調整することで、なんだかんだで最後は上手くまとまる。
私は彼女のことが苦手だった(というか、怖い)が、
江ノ島さんと苗木君の2人を中心に、このクラスは機能していた。

私は・・・というと、当初「クラスメイト全員友達計画」を実行に移すべく、
最初のターゲットを物色していた。
その有力候補だった超高校級の”プログラマー”こと不二咲千尋さんは、
なんと大和田君と石丸君と仲良くなり、トリオを結成していた。
(男とあれだけ仲がいいなんて意外にビッチなのかもしれない・・・)
次に、舞園さん・・・と考えていたが、あのオーラを前に消滅しそうになりダメだった。

そんな時だった。
隣に座っている”アイツ”と目が合ったのは。
隣の席で、青い顔をしてカタカタとかすかに震えている超高校級の”軍人”戦刃むくろさん

「まず、このコミュ障から攻略するか・・・」

そんな下心から、私は彼女に近づき、友達申請を行った。
彼女は私の申し出をすんなりと受け入れた。
そんなこんなで私は、高校生で初めての友達をゲットしたのだった。
後日談だが、この時のことをむくろちゃんに話すと、
照れくさそうに笑いながら、

「実は、私もまずは隣の雑魚から狩っておくか、と思ってたんだ」

と言い放ちやがった・・・!

私達はこの現象を”シンクロニシティ”と呼ぶことにした。

その後、私達はどちらが先に友達を作るかの競争したり、
共同作戦で友達作りを行った。

結果はいうまでもなく、無残なものだった。
特にむくろちゃんのコミュ障はすさまじいものがあった。
鼻の下を伸ばし、不用意に近づいてきたチャラ男(桑田君)の喉に
即座に手刀を決め、気絶させた時は、テンヤワンヤの大騒ぎとなった。
この軍事以外からきしダメなこのコミュ障無表情女は、
なぜか私にだけは、馴れ馴れしかった。
それは私が”初めての友達”だから・・・というより、
人間には無愛想な人が、ペットには心を開き溺愛する・・・そちらに近いのではないだろうか?


だから、私はむくろちゃん本気で笑う時、どう笑うか知っている。
それは、クラスメイトの中で私だけが知っていること。
ならば、江ノ島さんは・・・。


まあ、これは私の杞憂だ。
クラスは上手くいっている。何も心配することなどないのだ。

学園の帰り、「マックド」に寄り、むくろちゃんとくだらない話をする。

チャラ男はいつ振られるのか?
山田はどこまで太るのか?

そんな時、姉妹である江ノ島さんの話になった。
気になってはいたけど、彼女達は教室では驚くほど絡みがない。

「この前、デブスの変態貧乳女って盾子ちゃんに言われたんだ~」

そう顔を赤らめるバカ軍人。
どうツッコみを入れるか、私が躊躇していた直後、

「盾子のことを理解してあげられるのは、姉の私だけだから」

シリアスな顔になり、むくろちゃんはそう言った。
それは、そう確信している・・・のではなく、
そうであって欲しい・・・と信じたい。
私にはそんな風に感じた。

思い出の回想を中断し、コーヒーを口にする。
友達作戦は失敗したが、2学期などまだ前半戦!
3学期に巻き返せばいいだけのこと。
今日は、大晦日!朝までネットとテレビ三昧で今年を終えよう!

そんなことを思い、私がふと窓の外を見た時だった。

――――!?

2階の窓に闇の中、"ヌウッ”と無表情の友達の顔が浮かび上がる。

(oh・・・)

生霊か何かな?怖すぎる・・・!
本来であれば、このホラーに悲鳴を上げるところだが、
私にとっては”いつもの”だ。
これで何度目だろう。
この前の夏休みも何度となくこの手口で現れた。

「まず電話しろ!メールしろ!玄関から入れや!」

怒る私に対しむくろちゃんは

「日本では私は呉一族にマークされているから、ダメなの」

・・・などと意味不明な供述を行った。呉一族って何ですか?

コンコン。
窓を叩く音が聞こえる。
私は、無視する。
コンコン、コンコン。
大きくなる音を私は意地でも無視し、コーヒーを飲み込む。
今度は突如、音が止んだ。

(・・・?)

不穏な空気を感じ、私がチラリを窓を見た瞬間、私はコーヒーを吐き出した。
バカが小型のハンマーを窓に向けて今まさに振り下ろそうとしていたのだ。

「やめろ!コラァアアア~~~~」

私は叫び声を上げ、窓を開ける。ヤツは、無音で私の部屋に着地する。

「いや、気づかないみたいだから、もっと大きな音をだそうと思って・・・」
「無視してたんだよ!音が出る前に窓が割れるだろ!殺す気か!破片で私を殺す気か!」

私のツッコミというより、的確な指摘に、
むくろちゃんは、ハンマーを片手に恥ずかしそうに笑う。

「・・・で、何しにきたのさ」

”いつもの”を予感し、私は警戒し、距離をとる。

「もこっち、暇だよね!明日の予定とか絶対ないよね!」

質問ではなく、断言だった。
本当に失礼極まりない女だな・・・。

「私は明日は家族と初詣に・・・」

その瞬間、むくろちゃんの姿が消え、首に鈍い痛みが奔る。

「恐ろしく速い手刀…私じゃなきゃ見逃」

頬を赤く染めて、笑うむくろちゃんの姿を最後に私の意識は途切れた。

ガラガラガラ

(・・・。)

何度目だろうか?
スーツケースの中で目覚めるのは。
このスーツケースが引かれる振動に慣れたのはいつだっただろう。
夏休みもこんな感じだった。
あの時、スーツケースが開いた直後、
私の眼前に広がったのは、青い海。どこかの孤島に拉致されたのだった。

今度はどこに連れて行かれるのだろう?
予め、相談してくれるなら、旅行くらい行ってあげるのに・・・。
きっと、むくろちゃんは満面の笑顔でスーツケースを引いているのだろう。

ああ、なんて残念な女。


ああ、どうしてこうなった!?私の高校生活!




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