私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第2回学級裁判 後編 判決

石丸清多夏 超高校級の“風紀委員”

 

私が彼の名を初めて知ったのは、

希望ヶ峰学園の第78期生が発表された時だった。

きっとその時からだろう。

私が彼に対して”苦手意識”を持っていたのは。

 

“お前は同級生に好意を持つことはないのか!?”

 

・・・とそんな声が聞こえてきそうだが、とりあえず言い訳を聞いて欲しい。

平凡な高校生にとって、

超高校級の才能を持つ彼らは憧れの対象に違いない。

彼らの才能はまさに光。

その光は希望ヶ峰学園に集まり、さらなる輝きを放つ。

それはまるで闇の中に輝く太陽の如く。

日本中・・・いや世界中の人々を魅了する。

事実、希望ヶ峰学園の卒業生は、世界中で活躍し、成功を収めている。

それに比例し、希望ヶ峰学園の名声とブランドはますます高まっていった。

その名声を求める者達は希望ヶ峰学園に集う。

まるで夏の街灯に群がる羽虫のように。

 

たとえ才能がなくてもその名声にあやかりたい・・・!

 

そんな彼らのために“予備科”が設立されたのは

ある意味必然だったのかもしれない。

 

だが、光があれば、闇が生まれる。

光が輝けば、輝くほど、その闇はより濃くなっていく。

 

俺にも才能があれば・・・

なんでアイツだけ才能が・・・

才能だけのくせに・・・!

 

嫉妬。憎悪。

同じ時代に生まれた持たざる者達の焦がれるような黒い感情は確かに存在する。

もちろん、私にも・・・というより、私はより複雑である。

自分で言うものなんだが、間違いなく凡人である私が、

希望ヶ峰学園の酔狂から超高校級の“喪女”などという

わけのわからん肩書きを押しつけられ、

形だけは彼ら超高校級の末席に加えられている・・・屈折しないわけないだろ!

わけわかんねーぞ!!

だから、私が好意を抱いたのは、

以前、回想で述べたようにアイドルとして別格の存在である舞園さんだけであり、

“その他”に関してはどちらかといえば、持たざる者の負の感情を抱いていた。

実際に、親友となるちーちゃんに嫉妬し、

恩人となる苗木君に筋違いのヘイトを抱いた。

・・・まあ、最後は私の愚痴になってしまったが、

つまりは、そんな私にとって

“苦手意識”などまだマシな部類であるということを強調したい。

 

希望ヶ峰学園での新生活が・・・

というよりも、モノクマによる監禁生活が始まり、

石丸君と生活を共にすることで、私の彼に対する“苦手意識”は

消えるどころかますます確信するに至った。

 

石丸君はとにかく規則にうるさかった。

 

朝食の時間に少しで遅れようものなら、生徒としての自覚を刻々と諭された。

お前はお父さんかよ!・・・そう思いながらも、私は反論することができなかった。

 

石丸君はとにかくウザかった。

 

服装の少しの乱れに対して女性としての在り方を刻々と説かれた。

お前はお母さんかよ!・・・そう思いながらも、

私はやはり反論することができず、ただ頷くしかなかった。

 

石丸君はうるさくて、ウザくて、とにかく煩わしくて面倒なヤツであった。

実際に周囲からもウザがられていたようで、

友達がいなかった、と石丸君から過去の告白を聞いた時には、

ああ、やっぱりね、と心の中で頷いた。

 

私は彼に言いたい文句が山ほどあり、

それこそ希望ヶ峰学園女子パジャマ会でもあれば、

朝まで彼に対する文句を語り続ける自身があった。

だが、そんな私でさえも、これだけは同意できる。

 

彼は決して悪い人間ではない。

彼は・・・石丸君はいいヤツである、と。

 

石丸君から注意を受ける時、煩わしさと共に、いつも思うことがある。

 

その真剣な表情。

熱意に溢れる声。

 

それらが嘘偽りなく伝えてくる。

彼は嫌がらせではなく、本当に私のことを思って注意しているのだ、と。

だからこそ、うっとおしいと思いながらも、面倒なヤツだと感じながらも、

それでも私が彼を嫌いにはならず、いまだ苦手意識に留まっているのは、

きっとそれが理由なのだと思う。

 

ある時、私はさらなる考察に踏み込んだ。

 

“そもそもこの苦手意識はどこからくるのだろう?”

 

小一時間ほど考え、私は結論に辿り着いた。

ああ、そういうことだったのか・・・。

 

正しい・・・からだ。石丸君は正しいのだ。

 

そう・・・彼はいつも正しかった。

たとえ嫌われようとも・・・

どんなにウザがられようとも・・・

彼は規則を守ろうとした。

彼はいつだって、どんな場所だって、正しくあろうとしていた。

 

誰よりも正しいから―――

 

いや、正しくあろうとする心を持った彼だからこそ、

超高校級なのだ。

超高校級の“風紀委員”なのだ。

 

私の彼に対する苦手意識は、

きっとその正しさに対する後ろめたさからきているのだろう。

まるで自分の邪な部分を

鏡で見せつけられているかのように感じるから・・・だから苦手なのだ。

 

そう・・・石丸君は正しい。

高校生のだれよりも。

日本・・・いや、世界中の誰よりも。

 

石丸君は正しい。

 

世界がどんなに変わってしまっても、

たとえ絶望に染まってしまったとしても

彼は変わることなく正しく在り続けるはずだ。

 

石丸君は正しい。

 

生まれた瞬間から、そしてその生涯を終えるまで。

 

石丸君は正しい。

 

 

いつだってたとえどこにいたって、

どんな時だって、きっと石丸君はどこまでも正し―――

 

 

・・・だから、それは決してありえない光景だった。

 

私の目の前に石丸君が立っていた。

肩で息をしながら、拳を宙に伸ばし、立ち尽くしていた。

その拳の先には、モノクマがいた。

大の字に倒れて、天井を見つめていた。

石丸君の拳は、血が滲んでいた。

それは、鉄の塊を何の躊躇もなく、全力で殴りつけた証左に他ならない。

 

それは決してありえない光景だった。

 

誰よりも規則を守ってきた彼が・・・

いつだって、正しくあろうとした石丸君が・・・

 

 

 

 

モノクマを・・・ブッ飛ばしたのだ―――!!

 

 

 

 

その光景を前に、口を開く者はいなかった。

この現実を前に、誰もが絶句していた。

それは、クラスメイト全員が、

意識的にせよ、無意識にせよ、石丸石丸清多夏という人間に対して、

私と同じ認識を共有していたことを物語っていた。

 

「ぷぷぷ、プギュフフフフ」

 

静寂の中、邪悪な嗤い声が裁判所に響き渡った。

 

床に倒れたまま、モノクマは愉快そうに嗤い出した。

 

「ぷぷぷ、あの石丸君が、超高校級の“風紀委員”が、

学園長であるボクに“暴力”をふるうなんて・・・ぷぷぷ、プギャハハハ!

予想もしてなかったよ!面白い!面白いな~~!」

 

その嘲りの中、私はあの光景を・・・

無数の槍で貫かれた親友の姿を思い出した。

 

モノクマへの暴力・・・それは“校則違反”を意味する。

 

「石丸君~~“校則違反”決定だよ~!」

 

モノクマは立ち上がりながら、石丸君を指差した。

 

校則違反・・・それはモノクマにより処刑の実行であった。

 

「さぁ!法を破る無法者には、無法者でお相手しようか!

カモン!“モノクマアウトローズ”」

 

モノクマの号令の下、床の扉が開き、様々なモノクマ達が姿を現した。

 

リーゼントで学ランを着たモノクマ。

金髪でスカジャンを着たモノクマ。

モヒカンに肩パッドをつけたモノクマ。

 

手にはバットや鎖、メリケンなどの凶器が握られていた。

それはまさにならず者の集団だった。

おそらく、盾子ちゃんの時とは違い、ジワジワと撲殺する気なのだろう。

 

石丸君は、モノクマの集団を前に、自分に迫り来る死を目前に、

悠然と立っていた。

石丸君は、ゆっくりと振り返り、私達を・・・いや、大和田君を見つめた。

その顔に憂いはなかった。

混乱も、焦りも、狼狽も。

迫り来る絶望に対して、あるべきものが彼の表情にはなかった。

その顔は、いつも以上に、凛々しく、そして、なにより男らしかった。

 

「兄弟は罪を償うべきだ。僕もそう思う」

 

その声は静かだが、不思議とよく響く声だった。

この事態が起きてから初めてとなる石丸君の言葉は、

大和田君に向けられたものだった。

 

「・・・だけど、それはここじゃない!」

 

はっきりと、力強く。

石丸君はそう言い切った。

 

「兄弟、君は罪を償うべきだ。

それに関しては、僕は譲るつもりはない。

僕が兄弟を責任をもって、警察まで送り届ける。

兄弟はしかるべき場所でしかるべき裁きを受けるべきだ。

それは・・・ここじゃないんだ!」

 

石丸君は言葉を続ける。

熱く。

燃えるような熱情を言葉に乗せて。

 

「兄弟は罪を償うべきだ。

外の世界で正しく裁かれるべきだ。

ここじゃない・・・ここじゃないんだ!

兄弟は罪を償うべきだ!

だけど、それはコイツの私刑なんかじゃ断じてない!

そんな法があるものか!

そんな道理があってたまるか・・・!」

 

 

 

 

だから―――

 

 

 

 

 

 

“戦うぞ!兄弟!コイツらを倒して、みんなと外へ出るんだ!”

 

 

 

 

 

瞳に覚悟の炎を燃やし、石丸君はそう宣言した。

 

“モノクマと戦う”とそう言ったのだ・・・!

 

「や、やめてくれ兄弟!」

 

それを唖然として聞いていた大和田君が立ち上がり、石丸君の肩に手をかける。

 

「お前だってわかってるはずだ!だから・・・もういい・・・もういいんだ!」

 

石丸君とは対照的に、大和田君の顔には、焦りが、混乱が、狼狽が浮かんでいた。

 

「俺のためなら・・・もういいんだ!

そ、そうだ!まだ、謝れば間に合うかもしれねえ!兄弟!そうしてくれ!」

 

超高校級の“暴走族”としてクラスメイトの誰よりも

勇ましく、雄々しかった彼の姿はどこにもなかった。

そこにいたのは、親友の行動を憂い、悲しむただの高校生だった。

 

「頼む!石丸・・・!このままじゃお前まで・・・

不二咲だけじゃなく、お前まで俺のせいで・・・なんて・・・・耐えられねーんだ!

だから石丸―――」

 

苦しそうに言葉を紡いでいた大和田君が目を開けた瞬間だった。

 

「ぐわぁああーーー!?」

 

叫び声を上げ、大和田君は床に倒れた。

石丸君に倒されたのだ。

いや・・・石丸君にブッ飛ばされたのだ!

 

何が・・・一体、何が起きて―――

 

 

 

 

「腑抜けたこと言ってじゃねーぞ!紋土!!」

 

 

 

―――!?

 

 

衝撃は続く。

石丸君は髪を逆立てながら、叫んだ。

 

「カラッポの頭でツマンネーことガタガタと考えてんじゃねーよ!」

 

それはまるで石丸君らしからぬ言葉だった。

その言葉はまるで・・・まるで大和田君のような。

 

 

 

「敵が来たなら、ぶっ潰せ!他のことはその後考えろ!それが―――」

 

 

 

石丸君は、言葉を止めて、大和田君を見る。

 

「・・・それが、君が教えてくれた族の“流儀”なんだろ?」

 

そう問う石丸君の表情はいつもの彼に戻っていた。

 

 

 

「大丈夫・・・最後まで付き合うさ。気にするな!僕達、友達だろ!」

 

 

 

親指をを突き出しながら、石丸君はニッと笑った。

 

―――痺れるような笑顔だった。

 

異性を超えて人として惚れてしまうような・・・そんな笑顔。

 

「へ・・・へへへ」

 

顔を押さえながら、大和田君はゆっくりと立ち上がった。

 

「オメーみてーなお坊ちゃんにそんなことを言われるなんてな・・・

どんだけ焼きが回ってたんだよ、俺はよぉ」

 

その顔には、焦りも、混乱も、狼狽もなかった。

大和田君の顔から、“絶望”が消えていた。

 

「そういや忘れていたぜ・・・

モノクマ・・・てめーを一目見た時から、ぶん殴りたくてしょうがなかったんだよ!」

 

自分の血でリーゼントを固め直しながら、大和田君はモノクマを睨む。

 

「魅せてやるぜ!超高校級の“暴走族”の喧嘩ってやつをよ~~ッ!!」

 

「何、わけのわかんないことをゴチャゴチャと・・・

もういい!アウトローズ!殺っちゃえ~~!」

 

「クマ~~」

 

モノクマの指揮の下、モノクマ達は二人目掛けて走り出した。

 

「ダイアモンド兄弟の弟!

暮威慈畏大亜紋土(クレイジーダイアモンド)の二代目!

俺が大和田紋土だ!夜露死苦だ馬鹿野郎!」

 

大和田君は迫り来るモノクマ軍団の真正面へと向かっていった。

 

「プギャアアアアア~~~~~~~~!」

 

両者が激突した瞬間、数匹のモノクマが大和田君の前蹴りで・・・

いや“ケンカキック”で吹き飛んだ。

 

「オラァアアアアーーーーーーーーッ!!」

 

大和田君はモヒカンのモノクマにヘッドバットを叩き込み、

倒した後、その両足を掴み、振り回した。

たぶん、あれはプロレス技の“ジャイアントスイング”だ。

リングではただ相手を振り回して、自分が疲れてしまうだけの

この技も、ケンカなら話は違う。

 

「プギュウウ~~~~」」

 

その場で台風が発生したかのように

大和田君の周りのモノクマ達は次々となぎ倒される。

 

「喰らえ!オラァアアーーーーーーーッ!!」

 

遠心力をそのままに、

大和田君は、モノクマの集団に向かって、掴んでいたモノクマを投げ放った。

 

派手な音を立てながら、

モノクマはまるでボウリングのピンのように吹き飛んだ。

 

(す、凄い・・・!)

 

瞬く間に10匹近くのモノクマが再起不能となり、

床にはモノクマの死体が・・・いや、残骸が重なっていた。

 

これが・・・これが日本一の不良の喧嘩・・・!!

 

一方、石丸君は、モノクマ達から背を向けて、走り出した。

逃げ出した・・・のではなかった。

彼は、モノクマに追われながら、

一直線に、裁判所の隅にあるロッカーを開け、石丸君は何かを取り出した。

次の瞬間、

彼に襲い掛かったモノクマ達は弾き飛ばされた。

石丸君の手には、掃除に使う“モップ”が握られていた。

彼はモップを剣道の竹刀のように構えた。

その姿を見て、私は石丸君が、子供の頃から剣道を続けていることを思い出した。

 

「面!胴!突き~~~ッ!!」

 

そのモップは・・・いや、その剣は彼の性格を反映しているかのように

実直で重いものだった。

大和田君も学ランのモノクマからバットを奪い取り、振り回す。

二人は競うかのようにモノクマ達を倒していく。

 

凄い・・・!本当に凄い!もしかしたら・・・彼らは本当に・・・!

 

「なかなかやるじゃねーか、お坊ちゃん!」

「君こそ、言うだけのことはあるな、不良君!」

 

背を合わせながら二人は互いに檄を飛ばす。

 

(あ、ああ・・・)

 

その光景を前に、胸が締め付けられるような気がした。

それはまるで、普段、いがみ合っている生徒会長と不良の番長が、

他校から乗り込んできた不良達を相手に、学校を守るために共に戦う・・・

 

現役高校生の私がノスタルジーを感じるほどの・・・

 

そんな“青春映画”の1シーンようだった。

 

「ウヌ・・・!」

「さ、さくらちゃん・・・」

 

その声の方を見ると、朝日奈さんが大神さんを心配そうに見つめていた。

大神さんは大和田君達を見つめていた。

前に組んだ腕にありったけの力を込めながら。

それはまるで、

石丸君達を加勢しに行こうとする自分自身を拘束しているかのように・・・。

掴んだ腕は、握力で皮膚が破れ、血が床に流れ落ちていた。

大神さんは正義に厚い人だ。

きっと二人を助けに行きたい気持ちを必死で抑えているのだ。

私だって・・・私だって二人を助けたい!

 

でも・・・でも―――

 

 

ほどなくして・・・その瞬間は訪れた。

 

「うぁあああ~~~~ッ!!」

 

電気ウナギの着ぐるみをきたモノクマに

石丸君が攻撃した瞬間、電流が流れ、石丸君は叫び声を上げ、床に倒れた。

その上からモノクマ達が次々とボディプレスでのしかかっていく。

 

「クソがぁあああああああああ~~~~~~~ッ!!」

 

四方から投げ放たれた鎖が大和田君の体に絡みつき、その自由を奪った。

 

青春映画の終幕はあっけなく訪れた。

 

わかっていたんだ・・・。

こうなることは・・・はじめからわかっていたんだ・・・!

 

黒幕の保有する技術力

 

その前には、たとえ人類最強の大神さんですらあらがうことはできない。

だから・・・こうなることはわかっていたんだ。

それでも・・・大和田君と石丸君の活躍に、

ほんのわずかでも“希望”を見出した私は、

この残酷な現実を前に目を背けずにはいられなかった。

 

「まあ、当然の結果だよね」

 

そう言いながら、いつもの・・・モノクマ達を指揮していた

ノーマルタイプのモノクマがトコトコと石丸君に近づいていく。

 

「ぐぬぅ・・・!」

 

床に押さえつけられ、石丸君は呻く。

 

「もちろん・・・万が一の奇跡が起きて、

ここから出られたら、君は有言実行していただろうね」

 

歩みを止め、モノクマは石丸君の頭上から見下ろした。

 

「でも、なんだかんだで頭のいい君はこうなることはわかっていたはずだ。

ならば、疑問が残る。

“なぜ、そんな無駄なことをしたのだろう?”と」

 

モノクマはさも可笑しそうに嗤いを噛み殺した。

 

「ボクはねぇ~“分析”が得意なんだ!

だから、君の考えてること・・・わかっちゃたよ」

 

モノクマは“ニヤリ”と嗤った。

それはモノクマを通して寒気がするほど明確に伝わってくる黒幕の嘲りだった。

 

「たとえ仮初でもルールを守る超高校級の“風紀委員”である君が・・・

親友を見捨てることができない君が決意したこと・・・それは―――」

 

 

 

ねえ、石丸君・・・キミ―――

 

 

 

 

 

―――最初から死ぬつもりだったんだろ?

 

 

 

 

 

「大和田君と一緒に死ぬことで、

ルールを破った罰を受けた・・・そう自分の中で帳尻あわせするつもりだったんだよね?」

 

その言葉を聞いた石丸君の額から大粒の汗が流れ落ちた。

 

「ぷぷぷ、どうやら図星みたいだねぇ。でもね、石丸君~~」

 

満足そうに頷いた後、モノクマは石丸君にヌゥと顔を近づける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな“希望”・・・誰が叶えてやるかよ・・・!

 

 

 

 

 

 

 

その声はまるで地の底から湧き出たような邪悪に満ち溢れていた。

 

「あ、ああ・・・!」

 

怯える石丸君にモノクマは静かに語りかける。

 

「気が変わったよ、石丸君。

ボクは君を殺さない。ああ、殺すものか。

ボクはルールを破った君に何もしない。

不正を行った君に何の罰も与えない。

だってそうでしょ?

罰をせがむドMに罰を与えるなんて、それって、ただのご褒美じゃん!

だから、ボクは君に何も与えない。

君は不正を行ったまま、のうのうと生きのびるんだ。“あの男”と同じようにね・・・!」

 

“あの男”・・・その言葉を聞いた瞬間、石丸君は顔は真っ青になった。

その瞳にはもはや希望の光はなかった。

その瞳には絶望の闇が浮かんでいた。

 

「そう・・・君はあの男と同じになるんだ!

親友を助けることもできず、ただ不正を犯した君はあの男と同じなんだよ。

不正を・・・汚職を行いながら、権力を盾にして、逃げのびたあの男に・・・

君が心の底から軽蔑するあの男に・・・

そう、君はあの男になるんだよ~~~~!!」

 

 

 

 

 

 君の祖父・・・元内閣総理大臣・石丸寅之助に―――!!

 

 

 

 

 

元内閣総理大臣・石丸寅之助。

教科書でその名前を見たことがある。

そして、その人と石丸君の確執は、以前、苗木君から聞いたことがあった。

 

「うわぁ、うわぁあああああああ~~~」

 

石丸君はついに耐え切れず、恐怖の声を上げた。

 

その直後だった。

 

「石丸!しっかりしろ!そんなクソ野郎の話を聞くんじゃねー!!俺だ!俺を見ろ!」

 

「きょ、兄弟・・・」

 

その声は石丸君を正気に戻した。

その声は大和田君のものだった。

全身を鎖で巻きつけられ、その結末が絶望であることを誰もが予期していた。

きっと、大和田君も・・・。

だが、その絶望の中において、そこにいたのは、かつての彼だった。

 

誰よりも勇ましく、雄々しい超高校級の“暴走族”である大和田紋土君だった。

 

「兄弟・・・初めてオメーを見た時は、気に入らねーボンボンだ・・・正直そう思ったぜ」

 

大和田君は懐かしそうに語り出した。

 

「だが、そりゃ間違いだった。

兄弟・・・オメーは今まで会った誰よりも、根性を持ったヤツだった。

俺なんかより、ずっと強いヤツだった。優しい・・・ヤツだった。

へへ・・・だからよぉ、

最後にオメーと一緒になって乱舞できて楽しかったぜ!」

 

「きょ、兄弟・・・!」

 

「兄弟・・・1つだけ約束してくれ。

たった1つだけでいい。俺と・・・“漢の約束”をしてくれ」

 

「え・・・?」

 

「石丸・・・お前は―――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 “生きろ”―――!!

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺や・・・不二咲の分まで・・・お前は生きろ!頼む・・・生きて・・・くれ!」

 

「お、大和田君~~ッ!!」

 

親友の最後の願いを前に・・・

大和田君の“希望”を前に・・・

 

石丸君は瞳から大粒の涙を流し、声を震わせた。

 

「じゃあ、そろそろ始めようか!

石丸君・・・君はそこで親友の“絶望の悲鳴”を聞きながら、自分の無力さを噛み締めなよ」

 

「・・・ッ!」

 

二人の友情を引き裂くかのようにモノクマはゆっくりと手を広げた。

 

 

「超高校級の“暴走族”である

大和田紋土君のためにスペシャルなおしおきを用意しました!」

 

「やめろ~~!頼む!何でもする!だから、兄弟を殺さないでくれ~~~~ッ!!!」

 

「では張り切っていきましょう!」

 

「やめてくれ!代わりに僕を殺せ!僕が代わりになる!!

だからお願いします!兄弟を・・・大和田君をどうか助けてください・・・!」

 

 

 

「“おしおき”ターイム!」

 

「やめろ~~~~~~~~~ッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!

やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!

やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめろ!やめてくれ~~~~~~!!

 

 

 

 

 

 

こんなに・・・

こんなに頼んでるじゃないか~~~~~~~~ッ!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

      GAMEOVER

 

    オオワダくんがクロにきまりました。

    おしおきをかいしします。

 

 

 

 

「うわぁあああああああああ~~~~~~~~ッ!!!」

 

 

石丸君の悲痛な叫びの中、

モノクマは鎖で縛り付けた大和田君を乗せた単車を発車させた。

大和田君は・・・目を逸らすことなく、ただ、まっすく前を見つめていた。

その瞳からは・・・まるでその先に待つ絶望に挑むかのような・・・

そんな強い意志を感じた。

 

単車の先には“ケージ”があった。

 

前回の学級裁判では、その中に野球のグラウンドが設置されていて、

そこで桑田君への凄惨な処刑が執行された。

 

単車はそのままケージに突入した。

必死で後を追った私達は、ようやくケージの前に辿り着き、その全容を目の当たりにした。

 

(これって、遊園地の・・・)

 

それを見て私が最初に連想したのは、ジェットコースターの1回転の場面だった。

単車はケージの輪の中でくるくると縦に回転を繰り返していた。

その装置は、ハムスターの運動器具にも似ていた。

単純ではあるが、延々と廻り続ける。

止めなければ・・・方向を変えなければ、永遠に廻り続ける仕組み。

 

単車は廻る。

くるくる、くるくる、と。

 

大和田君を乗せて廻り続ける。

 

くるくる、クルクルと。

 

その光景はあまりにも異様で、現実から離れすぎていたので、

わたしはどこか夢を見ているかのような錯覚に囚われた。

 

その直後、

何かが爆発するような轟音と共にケージから雷のような光が放たれた。

それは本当に雷が落ちたような衝撃だった。

私は耳を塞ぎ、その場にしゃがみこんだ。

 

(一体・・・何が・・・)

 

恐る恐る目を開ける。

ケージは黒い煙に包まれていた。

 

「ぷぷぷ」

 

いつの間にか私の横にモノクマが立っていた。

煙に包まれたケージを見つめ、声を殺し嗤っている。

その姿を見て、私は底知れない不吉さを感じ震えた。

 

煙が徐々に消え、ケージの中が見えてきた。

 

“それ”を見た瞬間、その場にいる全員が恐怖で絶句した。

 

ケージの中では、単車が廻り続けていた。

だが、大和田君は・・・大和田君の体は炎に包まれ、激しく燃えていた。

火の勢いはあまりにも強く、

もはや、大和田君の顔を確認することはできなかった。

ただ人影が・・炎に包まれた“黒い人影”を乗せて単車は廻り続ける。

 

クルクル、狂る狂ると。

 

「アレ?あれ~~?」

 

その様子を眺めていたモノクマは首を捻った。

 

「生きながらハンバーグになるように絶妙に火力を調整したはずなのに・・・

どんな絶望の悲鳴を聞かせてくれるかとドキドキワクワクしていたのに・・・

アレ?何で!?何で何も聞こえてこないんだ?

・・・ああ、そうか!あの野郎!気絶しやがったのか!

何が超高校級の“暴走族”だよ!この根性無しが!」

 

その言葉は・・・あまりにも恐ろしくて・・・

とてもこれが現実の出来事であると思えなかった。

 

炎に包まれた大和田君の人影は、

まるで私の想像の中の“クロ”の姿だった。

 

単車はクロを乗せて廻る。

 

狂る狂ると・・・廻り続ける。

 

その光景があまりにも残酷で・・・そして、どこか幻想的で・・・

 

私は・・・悪夢の中にいた。

 

「ち、違う・・・」

 

私は震えながら口ずさむ。

 

「私は・・・望んでいない」

 

後ずさりしながら、弁解の言葉を口ずさむ。

 

 

「私は・・・こんな“絶望”なんか望んでいない・・・!」

 

 

次の瞬間、

再び、激しい雷撃が起きた。直後・・・単車の廻る音が止んだ。

 

煙が少しずつ消えていく。

 

ケージの中には、単車の残骸が倒れていた。

そして、その側には、焼け焦げた彼の学ランが・・・無数の骨が・・・あ、ああ・・・!

 

「絶望の悲鳴が聞けなかったのは残念だけど、まあ、いいや!だって、さぁ・・・」

 

ガタガタと音を立てる何かの装置の前にモノクマは立つ。

 

チーンという音の後、モノクマは装置の扉を開ける。

 

「だって、大和田君・・・こんなに美味しそうになってくれたんだもん!」

 

モノクマが手にした容器には大和田君の写真が貼ってあった。

そして「大和田バター」というプリントが・・・

 

そ、そんな・・・まさか・・・あ、あれは・・・。

 

「きょ、兄弟・・・?」

 

モノクマ達から解放された石丸君が

ふらつきながら、ケージの前に辿りついた。

彼はケージの中を見つめる。

茫然としながら、立ち尽くしていた。

石丸君は・・・何が起きたのか理解できずにいた。

いや・・・理解したくないのだ。

 

「ねえ、石丸君」

 

“ソレ”を手にしたモノクマが石丸君に近づく。

 

「君も食べる?出来立てホヤホヤだよ~」

 

モノクマは容器の中身をパンの上に塗り、石丸君に差し出した。

 

「大和田君、こんなに美味しくなってくれたよ!」

 

血と肉の焦げた嫌な匂いがあたりに立ち込める。

 

血と油の混じりあったその液体は、かつて大和田君であったもの。

 

 

 

「う・・・ウ゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛゛ア゛~~~~~ッ!!」

 

 

 

それを見た瞬間、石丸君は髪を掻き乱し、絶叫する。

 

絶望の悲鳴の中、モノクマは嬉しそうにパンを食べ始めた。

 

ムシャムシャ、ムシャムシャと・・・。

 

私は・・・勘違いしていた。

 

モノクマは、クマなどではなかった。

 

私は・・・間違っていた!

 

黒幕は、人間などではなかった!

 

 

コイツは・・・コイツらは本物の―――

 

 

 

 

 

       

       

  悪魔だ・・・。

            

            

 

 

 

 

 

 

 




悪鬼嗤う中、
親友の心を守るため、
大和田は最後の最後に、
ちーちゃんの憧れた“漢の中の漢”になる。
大和田の“声なき声”は石丸に届く日は来るのか?
・・・次回、絶望は加速する!
もこっちにとって最悪の絶望の中、第2章は幕を閉じる。


【あとがき】

お久しぶりです。
正直、また書けるとは思いませんでした。
仕事の忙しさがピークを終えたのが大きかったです。

今回の話をする前に、手短にダンガンロンパ3の私の感想を述べます。
非常に残念な出来でした。
端的にダメ出しすれば、超高校級の希望である苗木が洗脳に負けたことです。
物語の軸が壊れました。
苗木が勝てないなら、あの世界では洗脳最強だろ!w
正直、物語の完結としては、残念です。

でも、絶望編の七海千秋の最後は物語の本質を体現したものであると、
これだけは、評価しています。

希望と絶望の決着は、その人間の命消える刹那、何を抱いたかで決まる。

私は、希望と絶望の戦いの決着をそう考えています。

ならば、あの絶望の始まりであった七海の処刑において、
敗れたのは黒幕であり、最後まで希望を捨てず、カムクラの心を動かした
七海の勝利であったというのが真実だと思います。

黒幕が初めてその事実に気づくのは、VS苗木の時であり、
だからこそ、圧倒的な絶望の優位の中、徐々に追い詰められていく理由がわからずにいた・・・
と私はそんな妄想をしました。

だから今回も同じです。
圧倒的な絶望の優位の中、それでもなお、勝利したのは希望であり、
黒幕は、また1歩、破滅へと近づいたことを知らずに嗤い続けている。

ダンガンロンパの面白さはそういうところにあると思います。

大和田の処刑に関しては、捏造を加えました。
彼がその最中、何を思ったのかは「イマワノキワ」で描きたいと思います。
100%救済の物語です。是非見てください。

この物語には、圧倒的な主人公の俺ツエーもハーレムもありませんが、
ダンロンの本質である希望と絶望の戦いを描いていくつもりです。
それがわかってくれる方に読んでもらえれば幸いです。

そして・・・すいません。ペースは上げられません。
ですが、質だけは落とさないように頑張ります!

では、また来年!よいお年を!



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