私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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新世紀銀河伝説再び! 装甲勇者を大地に立て! 前編③

どうしてこうなった・・・?

 

どうしてこうなっててしまったのでしょうか?

 

もう昼をとうに過ぎた頃、私は重い足取りで部屋から出る。

 

「はぁ・・・」

 

深い溜息をつく。というか溜息しか出ない。

夢に描いたクズライフが始まろうという時に、まさかこんな事になろうとは。

 

これから毎日、娯楽室に顔を出す。

 

それが、あの命賭けのギャンブルで勝ったセレスが私に課した条件だった。

 

なんで?どうして!?

 

そんな反論を許さないかのようにセレスはあの後、さっさと娯楽室を出て行った。

 

(あの女・・・一体何を考えてんだ?)

 

そう自問したところで答えなど出ないのは明白だった。

あのギャンブルを通して改めて体感した。

あの女・・・いや、超高校級の才能を持った者は明らかに”普通”ではないことが。

故に、普通の具現化とも言える私がいくら考えてもわかるはずなどない。

まあ、せいぜい察するに、友達いそうにねーから、寂しいとか・・・?

いや、まさか・・・HAHAHAHA。

 

(はぁ~)

 

何はともあれ、初日くらいは出るしかない。

その後、どうなるかはしらないが、初日から約束を破るのは気が引ける。

いくら私が超高校級の”クズ”と言えど・・・だ。

 

ク~ン・・・

 

ハッとして振り返る。

一瞬、廊下の端に悲しそうな目でこちらを見つめる狼さんの幻が見えた。

 

(わかっていますとも・・・狼さん)

 

たとえ隷属の身に落ちようとも私は超高校級の”クズ”!

その心までは囚われはしない。

顔を出す・・・とは言った。

ククク、だが、いつまでに来るとは言っていない・・・!

 

こんな遅くに、しかも寝起きバリバリで、娯楽室に現れる・・・まさにクズ!クズの所業!

 

そんな私を見て、セレス達が許すはずがない!

 

 

「黒木智子殿、アンタ、こんな時間に来るなんて非常識すぎますぞ~!」

「信じられません!黒木さん、貴方は本物のクズですわ!それも超高校級の!」

「そうですぞ!このクズ!クズ~~~~~~~!!」

「ええ、召使の件は、当然白紙です!というか、首です!クビ!クビ~~~~!!」

 

 

・・・とそんな展開になるに違いない。ククク、まさに、クズにふさわしい末路だ。

 

(はぁ~)

 

また溜息が出た。

何はともあれ、今日で終わることを祈りながら、私は、重い足取りで娯楽室に向かう。

まるで夏休み明けの学校に行くかのような気持ちで。

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

「クズゥ~~」

 

娯楽室の扉を開けて、最初に発したのがその言葉だった。

誰も・・・誰もいやしねー。だれも来てねーじゃねーか!?

茫然と娯楽室の真ん中に立ち尽くす。

驚いた・・・。

アイツら、まさか超高校級の”クズ”たる私以上にクズだったとは。

 

「おや、黒木智子殿じゃないですか!」

 

もはや、聞き慣れたその声に振り返る。

そこには、ぶ・・・いや、超高校級の”同人作家”山田一二三が巨大な体を揺らし、立っていた。

 

「やっと来ましたか。こんな時間に来るなんて黒木智子殿は本当にクズですな~~」

「あ?」

 

その言葉とケラケラ笑う山田の顔にカチンときた。

 

「何言ってんだよ。私より遅れてきたくせに、クズはお前だよ!このクズ!」

「いやいや、最初に来たのは僕ですよ!このクズ!」

「嘘ついてんじゃねーよ、このクズ!」

「嘘じゃないですよ、このクズ!ク~ズ!」

「証拠出してみろよ!このクズ!クズ!クズ!」

「ホントだってば!さっきからクズクズうるせーな!このクズクズクズ!」

「クズ!クズ!クズ!クズ!クズ!豚!(ボソ)クズ!クズ!クズ!」

「このクズ!クズ!クズ!クズ・・・って途中何か別のが混ざってなかったですかな!?」

 

そんな不毛なやり取りを五分ほど続けた後、

疲れたので、とりあえず山田の言い分を聞くことにした。

 

「いや~アンタ達、待ってても全然こなくて・・・そしたら気づいたんですよ。

この部屋、ちょっと寒くね?って」

 

なるほど、言われてみると少し寒かった。

この娯楽室は結構広い。そのため、ヒーターが部屋全体までは効きにくいようだ。

拉致された時期から考えれば、季節は恐らく冬となっているはずだ。

寒いのも道理だ。

 

「そこで倉庫で見つけたこれを持ってきたのですよ!」

 

そう言って、山田は廊下からあるものを引っ張ってきた。

 

「なッそれは・・・!?」

「フフフ、そう・・・

日本の冬にはなくてはならないもの・・・それこそ、このコタツですぞ~~~!!」

 

野郎・・・!とんでもないものを出してきやがった!

 

コタツ・・・それはまさに日本の冬の象徴。

 

驚く私を尻目に、山田は、鼻歌を歌いながら、コタツを組み立て、あっという間に完成させた。

コードを入れ、スイッチをつけるとコタツに明かりが灯る。

 

「ふう・・・」

 

山田は上掛けをめくり、コタツに入り、一息つく。

 

「クッ・・・!」

 

その至福の表情を見て私は狼狽える。

 

「あれ、黒木智子殿は入らないのですか?暖かくて気持ちいいですぞー」

 

どこか上から目線の山田のその言葉に私は素直に従うのは屈辱だった。

故に心にも無いことを口にした。

 

「マ、マズイんじゃないかな。セレス・・・さんが来たら、きっと怒られる・・・と思うし」

「フ~ン」

 

山田は私の言葉にまったく聞く耳を持たない。

それどころか、どこからか篭一杯に入ったみかんを取り出し、コタツの台の上に置いた。

 

コタツでミカン・・・コイツは犯罪だぜ・・・!

 

「も、もうやめろよ!セレスさんに怒られる・・・ぞ!」

 

誘惑を振り払うかのように私は叫ぶ。

セレスが来たら怒るというのは本当だが、それ以上に、私がこの光景に耐えられない。

 

「へたっぴ」

「え?」

「クズを自称してるのに、息抜きが下手ですな~黒木智子殿。そんなんじゃもたないよ、ん?」

「グ・・・ッ!」

 

そんな私に対して、山田の上から目線はますます強くなる。

ミカンを一房、私に差し出す。

 

「黒木智子殿も食べますか?甘くて美味しいですぞ~」

「うッ・・・」

 

今、あの瑞瑞しいミカンを口に入れたら、どんなに甘美だろうか。

 

「で、でも・・・」

「あ、そう。ムシャムシャ、モグモグ、あ~美味しい!」

「クッ・・・!」

 

この豚が・・・!

クソ!私の欲望を見透かされオモチャにされている。

タイミングを失った。最初から一緒にコタツに入っていれば、こんなことには・・・

 

そんなことを思っている時、ふいに後ろに気配を感じた。

 

「確保!」

「なッ!?」

 

山田がいつの間にか私の後ろに回りこんでいた。

 

「黒木智子殿、意地を張ってないで一緒にコタツに入りましょう」

「や、ヤメロ―!ハナセー!」

「フフフ、口ではそう言っても、体は正直ですぞ」

 

山田が何やらエロいことを言っているが、確かにその通りだった。

悔しいが、言葉とは裏腹に、私の体は大した抵抗を見せず、ゆっくりとコタツに向かっている。

もはや、コタツに入るのは不可避のようだ。

だが、体は屈しても、心まではそうはいかない!

 

(コタツなんかに・・・コタツなんかに負けない!)

 

そう心に誓いながら、私はコタツに足を入れた。

 

「あひぃ~~」

 

負けてしまいました。

瞬殺です。ダブルピースです。

 

 

黒木ダム・・・決壊ッ!!

 

 

その後は、山田に薦められるままにミカンを貪り、駄菓子に手を出す。

 

「最近、新しい駄菓子が入ったんですよ」

「丸い棒に、モノクマ味が出たんだ・・・あ、結構うまい。なぜかカニみたいな味がする」

 

 

豪遊

 

 

「これ、コーラっぽい味がして結構好きなんです」

「へー名前はビールモドキか・・・うわ!?泡が飛び出てきた!」

「ハハハ、何やってるんですか」

 

 

豪遊・・・!

 

 

「やっぱり冬と言えば鍋ですな!今朝はいい豚が入ったんですぞ」

「いいのか?お前の親類が混じってるかもしれないのに」

「こいつ~☆」

「えへへ」

 

 

まさに豪遊・・・!

 

 

・・・1時間後。

 

「そろそろマズイですよ、黒木智子殿」

 

ほろ酔い気分が醒めたのか、山田は狼狽え始める。

見るとコタツの周りは、駄菓子だの鍋だのゴミが散乱していた。

 

「もう少しだけいいじゃねーか。この黒木の酒が飲めねーのか?んん~?」

「いやいや、酒じゃねーし。ていうか、なんで黒木智子殿酔ってんだよ!」

「別に気にすんなって!あははは!」

 

ビールモドキを飲んでる内に、本当に酔った気分になってきた。

セレスさんがいつ来るかとビクビクしていたが、もうどうでもいい。

ああ~いい気分。まさにクズって感じ。

 

「もう、マジでヤバイですよ。早く片付けないと」

「チッわかったよ、うるせーな」

 

せっかく人がいい気分になっていたのに・・・まあ、山田の言うことも一理ある。

あの人がこの状況見たら怒りそうだな。

 

そう・・・きっとこんな風に。

 

「山田君に、黒木さん・・・貴方方は本当にクズですわね」

「お、何か始まった!?」

 

私は立ち上がり腰に手を当てる。

 

「おわかりですか?皆さん」

「お、結構似てますぞ!」

 

口調を真似てポーズをとる私に山田は爆笑する。

 

「まったく信じられませんわ。わたくしの別室にコタツを持ち込むなんて」

 

私は調子に乗ってセレスさんの真似を続ける。

 

「もちろん、却下ですわ!即刻、片付けなさい!」

 

うん、我ながらなかなかの演技だった。本人に見られたら殺されるけど。

 

(・・・ん?)

 

ふと見ると、先ほどまで爆笑していた山田が目を逸らし、顔を青くしていた。

 

え、一体、何があ・・・

 

 

「山田君に、黒木さん・・・貴方方は本当にクズですわね」

 

 

その声にゾッとして振り返った。

視線の先には、いつの間にか、セレスさんが・・・セレスティア・ルーデンベルクが立っていた。

 

「おわかりですか?皆さん」

 

これこそが本物であると言わんばかりの言い方だった。

もう、見られていたのは確実だ。い、一体いつから・・・!?

 

「まったく信じられませんわ。わたくしの別室にコタツを持ち込むなんて」

 

私に当て付けるかのように、同じセリフを言うセレスさん。

もう結末は見えている。

この後、こっぴどく叱られて、コタツの片付けと掃除をさせられるのだろう。

 

だが、その予想は直後、覆された。

 

「まあ・・・あり、ですわ」

 

 

――――!?

 

私と山田は顔を見合わせる。

セレスさんが何を言ったのか一瞬、わからなかった。

 

「わたくしもコタツに入ってよろしいですか?」

「あ、は、はい!どうぞ、どうぞ!」

「では、失礼します」

 

そう言って、コタツに入るとセレスさんは”はぁー”と深い溜息をついた。

 

「一杯・・・頂けませんか?」

「あ、はい!」

 

私は慌てて、コップを用意し、ビールモドキをつぐ。

セレスさんは、それを一気に飲み干した。

 

「ヒック・・・ですわ」

 

ノンアルコールなんだよなぁ・・・。

顔を赤らめてまるで焼け酒を飲むかのようなセレスさん。

心配する私達に、意を決したようにその理由を話し出した。

 

「わたくしは、長考することはあっても、悩むことはありません。

だから、この問題に直面した時に、すでに答えは出ていました。

ですが、なんとかそれを避けることができないのかと夜通し考え、

そして、先ほど目覚めました。

ええ、わたくしは悪くありません。全ては山田君と黒木さんのせいです」

 

開幕から煽ってきやがった・・・!

お、落ち着け私。とりあえず、話を最後まで聞いてみよう。

 

「ええ、知っての通り、わたくしは、容姿端麗、頭脳明晰、絢爛豪華。

気高く、気品に満ち溢れ、舞踏会の殿方全てを魅了する才色兼備の結晶・・・etc。

ええ、だからこそ、このような悲劇が起きてしまったのです!

おわかりですか?皆さん!」

「ヒッ!?」

 

俯きながら自画自賛していたセレスさんが突如、顔を上げた。

うわぁ!?ビックリした!心臓に悪いわ。しかし、悲劇とは一体?

 

「正直・・・わたくしが、貴方方をこの部屋に招いたことには、大した理由はないのです。

”ギャンブル”・・・と少々格好をつけてしまいましたが、

そこのゲームをしたり、お茶を飲んだりと、貴方方と交流を楽しむことで

この変化のない退屈な日常のささやかな潤いになればいい・・・そう考えていたのです」

 

見るとテレビの脇に旧型のゲーム機が置かれていた。

倉庫はなかったので、「モノモノマシーン」のガチャガチャで当てたのだろうか?

 

「ええ・・・ですが、それは無理なのです」

 

セレスさんは悲しそうな表情を浮かべた。

いよいよ悲劇とやらの核心に入るようだ。

 

「ええ、わたくしはあまりにも美しく、あまりにも気高く、あまりにも完璧過ぎます。

それに比べて、山田君と黒木さんは、取るに足りない愚物、いいえ、ただのゲテモノですわ!

例えるなら、月とスッポン。豚に真珠。

ええ、並び立つはずがありません!

貴方方がわたくしに合わせることなどできません。何度転生してきてもありえません!」

 

そう言って苦悶するセレスさん。

スゲェなコイツ・・・全方位、360度から煽ってきやがった・・・!

何が、凄いって、本人は正直に話してるだけで、煽ってる自覚がまるでないことだ。

 

「想像してください!私達がお茶を飲んでいる姿を!」

 

セレスさんは、カードゲームや山田が執筆で使っているテーブルを指差す。

 

「そこで私達は優雅にお茶を飲んでいます。

ええ、もちろん会話などありません。雰囲気に飲まれた貴方方は固まってしまいました。

お地蔵さんのようにカチンカチンに」

 

言われてみるとなんとなくその光景が見えてきた。

 

「緊張に耐えかねた山田君がガマカエルのように大量の汗をかき始めます。

それを見て、黒木さんが持ち芸の過呼吸を開始します。”ハアハア”、”ハアハア”と。

そんな貴方達を見て、わたくしは微笑を続けます。

それが何時間も続きます。毎日、毎日、終わることもなく、繰り返して・・・

嫌ですわ!どうしてギャンブルで勝ったのに、そんな地獄を味わわなければいけないんですか!?

絶対に嫌ですわ!嫌!イヤ・・・!イヤァァァ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ッ!!」

 

「ヒィイイ~~ッ!!」

 

ムンクの叫びのようなポーズでセレスさんは絶叫する。

私もつられて恐怖の声を上げた。

見えてしまった。セレスさんが見た地獄のイメージが一瞬、明確に。

ありえる・・・!

というか、それこそが私がもっとも懸念していたことだったのだ。

 

「ええ、ですから、わたくしは諦めました」

 

顔芸を止めたセレスさんの表情にはどこか諦観のようなものがあった。

 

「貴方方がわたくしに合わせることができないならば、

わたくしが貴方方に合わせるしかありえません。非常に不愉快ですが、それしかありません。

それに比べたら、このコタツなどなんの問題にもなりません。

いいじゃありませんか。

あのテーブルに比べて会話がしやすい位置取り・・・まさに古き日本の知恵ですわ」

 

言われてみると・・・確かにテーブルよりも落ち着ける。

コタツに入る貴婦人という違和感半端ねー点を除けばだけど・・・。

 

「少し・・・酔ってしまいましたわ。おやすみさないまし」

 

ノンアルコール・・・とツッコミを入れる間もなく、

セレスさんはストンと背を後ろに倒し、スヤスヤと寝始めてしまった。

なんと勝手な女なのだろうか。

山田に同意を求めようとすると、山田もすでにzzと寝ていた。

 

「ふぅ・・・」

 

私もバカらしくなり、大の字に寝そべって天井を見つめる。

ここでどう振舞おうか、などと、考えていた自分が今はバカらしく感じる。

 

(なんだ、全員クズじゃないか・・・)

 

天井がボヤけてきた。

私はそのまま眠りにつくことにした。

 

 

 

 

 

  

    本日より・・・”クズ”事始――――

    

    

    

    

    

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

そんなこんなで私は娯楽室通いを続けていた。

基本、メンバーの集まりは遅い。

午前中はまずありえない。

午後過ぎに、各自がぞろぞろと僅差で集まってくる。

クズたる私は、基本寝起きで現れる。

山田あたりは、遅めの昼飯をとった後のパターンが多い。

セレスさんはなにやってるかわからないが、どうやら着こなしに時間をかけているようだ。

一番遅くに来た者に対して「クズ」と罵るのが最近私達の中で通例となっている。

まあ、セレスさんに対して面と向かって言うとブチキレそうで怖いので、

セレスさんが最後の時は、横の山田を「クズ」と罵る。

”なんですと!?”とリアクションをとる山田を見るのが楽しい。

ああ、そうだ。

最近は、メダルを集めてモノモノマシーンのガチャガチャを引いた後に娯楽室にくるのが

ちょっとしたブームとなっている。

私は2回連続で「動くこけし」を引いて山田に爆笑された。

 

それともう1つブームになっていることは・・・

 

 

「フ、どうしてもというなら、貴様らの申し出を検討してやらんでもないぞ」

 

 

壁に寄りかかりながら、山田がキメ顔を浮かべた。

 

「えーと、確か今は山有学園大学に転入した後でしたわね」

「うん、そのために十神のヤツ、ハルバード大学を中退したはずだし」

「フフフ、さあどんな状況か当ててみたまえ、探偵諸君!」

 

 

ことの始まりは、換気のためにドアを開けた時だった。

 

「ハアハア!」

 

十神が凄い速さで娯楽室を横切った。

アイツ・・・まだ逃げてたみたいだ。

それどころか、走法が短距離から長距離に変わっていた。綺麗なフォームだった。

なにやら陸上の本を図書室で読んでいるのを見かけたが、

そこまでして逃げるのを諦めないのも、まあ十神らしい。

そんなことを思っていた時だった。

 

「ハアハア!」

 

山田が突如、その場で走る真似を始めた。

綺麗なフォームだった。先ほどの十神そっくり。

 

爆笑だった。

 

それから山田は十神の物真似に磨きをかけ、

私とセレスさんは独自のストーリーを付け足した。

 

殺人鬼に追われる内にマラソンの魅力に目覚めた十神白夜。

彼は悩んだ。

このままハルバート大学に進学し、十神財閥の総帥を継ぐ。

輝かしい成功の道。

だが・・・はたしてそれでいいのか?

彼の本当に求めているもの・・・それは・・・!

 

そして十神は周りの反対を押し切り、ハルバート大学を中退。

箱根山駅伝の常連である山有学園大学に転入するに至ったのだ。

 

「ヒント!ここは陸上部の部室前ですぞ」

 

そう言って、山田は、体勢をより急な角度に変えた。

 

「なぜ十神君は部室に入らないのでしょうか?難しいですわ」

 

マラソンのために大学まで変えたというのに、

十神のヤツは一体何をやっているのだろう?

さっさと入部すればいいものを・・・いや・・・ヤツは十神白夜だぞ。

そんな常人の行動をとるはずがない!

 

あっわかった・・・!

 

 

「自分から入部するのはプライドが許さず、

勧誘されようと陸上部の部室のドアの寄りかかり、部員達が部室に入るのを妨害する十神白夜!」

 

「正解!」

 

直後、笑いが起きた。

 

「どこまでプライドが高いのでしょう。あなたの才能はマラソンではありませんわ」

「さっさとどけよ。部室に入れねーじゃーか!ていうか、お前誰だよ」

「貴様ら・・・この俺を誰だと思ってるんだ・・・!俺は超高校級の”御曹司”十神・・・」

「マラソンと何も関係ねーじゃん!バカ言ってないで、早く入部届け書けよ」

「それにもう貴方、大学生じゃないですか」

「ウヌッ・・・貴様ら・・・!」

 

十神の真似をする山田相手に私達は好き勝手に罵声を浴びせる。

 

物語はさらに加速する。

舞台はいつの間にか、箱根山駅伝本番。

十神の所属する山有学園は、トップを争っていたが、悲劇は往路の9区で起きた。

山有学園の選手が突如、故障。トップと大きな差がついてしまった。

 

「貴様!何をしている!さっさとこい、クズめが!」

 

最終10区の選手である1年、十神が

足を引きずり必死に走る4年生に対して腕を組み、檄を飛ばす。

 

「貴様のミス程度でこのプロジェクトを失敗させることなど許さん!

足が千切れても構わん!死ぬ気で走れ!」

 

わずかな期間で強豪校のエースとなったのはさすがと言える。

だが、所詮、十神は十神だった。

それは先輩選手に対する叱咤激励というより、ただの罵倒。

まるで、ブラック企業のパワハラ上司が年上の部下に対して行うかのように。

これ・・・正月のお茶の間に流していいのか?

 

「何だその走りは?だから貴様は凡人なのだ!ククク、見ろ、まるでゴミのようだ。クハハ!」

 

ゴミはおめーだよ・・・。

そんなことを思っていると、ついに4年生が十神の前に辿りついた。

ふらふらで襷を手渡そうとする4年生。

ケガをして必死で襷を繋げても、その相手はあの十神白夜。

最悪である。

きっと、戦犯として一生罵倒されるんだろうな・・・。

 

「・・・よく走った。襷は確かに受け取った。

後はこの俺に任せておけ。ククク、安心して休んでいろ。必ず勝つ・・・十神の名に賭けてな!」

 

「おい、どうした!?カッコいいじゃねーか!?」

「よくわかりませんが、成長してますわ!?」

「そのキメ台詞初めてカッコいいと思っちゃたよ!」

 

なんだよ、そのツンデレは!?

十神が颯爽と走りだしたところでCMが流れた。

CM明け。

そこにはトップを独走する十神の姿があった。

 

「ダメじゃん!完全にインチキじゃねーか!」

「区間新記録どころか、人類の新記録出しちゃいましたわ!」

「実況もツッコめよ!何、和やかに語ってんだよ!いくら積まれたんだよ!」

 

先導の車もいつの間にかロール○ロイスに変わっていた。

十神の周りを黒人のSPが取り囲むような形で走っている。

 

「もはや完全にアメ○カ大統領のジョギングになってるじゃねーか!」

「返してください!市民の箱根山駅伝をどうか返してくださいまし!」

 

笑いすぎて腹が痛い。

まさか、十神をネタにしてこんなに笑える日が来るとは思わなかった。

次はどんな展開に・・・ん?

 

「貴様ら~一体、何をしている!?」

 

その声の方を見ると、そこには、箱根白夜・・・じゃなかった。

本物の十神白夜が怒りに満ちた表情で立っていた。

なんという偶然だろう。

たまたま換気のためにドアを開けていて、

たまたま十神をネタにして遊んでいたところを、

たまたま通りかかった十神に目撃されてしまったのだ。

 

「クズどもが・・・!この俺を侮辱するなど絶対に許さん!」

 

ガチ切れだった。

まあ、コイツの人生で同級生にネタにされて笑い者にされたこととかねーだろうしな・・・。

しかし、ネタの後でご本人のキレ芸とか反則だろ。面白すぎる。

私と同じことを思っていたのだろうか。

セレスさんも山田も十神から目をそらし、プルプルと震えている。

 

「貴様ら~~~ッ」

 

十神は血管を浮かべ、いまにも襲い掛かってきそう。

だが、私には対十神用の必殺の呪文があるのだ。

 

「あ、ジェノサイダーだ!」

「何!?クッ・・・!」

 

十神は部屋に入るのを即座に止め、脱兎のごとく駆け出した。

本当に綺麗なフォームで。

その10秒後、本当にジェノサイダーが走ってきた。

 

「頑張れ!ジェノサイダーもしくは、腐川!」

「結婚式には呼んで下さいまし!」

 

私とセレスさんが声援を飛ばし、それにジェノサイダー?が手を振り答える。

まるで箱根山駅伝のように。

 

うん・・・本当にバカだなアイツら。

バカ同士、殺し合って死ねばいいのに。あ、でも、それだと私が困るな・・・。

 

(うーん・・・)

 

特に十神に対してなんとも言えない気持ちとなった。

なんというか、RPGの初期の強敵が後半で雑魚になったような・・・そんな残念な何か。

 

え、もしかして・・・

 

 

(十神って・・・もう安全なのでは・・・?)

 

 

 

    

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

「面白そうなモノを当てましたわ」

「あ、それ!スマッシュ姉妹の最初のやつじゃん!」

 

セレスさんが本日、ガチャガチャで当てたきたのは、64時代の初代スマッシュ姉妹。

CDではなく、カセットという歴史を感じさせる代物だった。

最近引いたものの中では、これは大当たりに該当する。

この前引いたのは16ポンドのボーリングの球だったか。

5キロ以上は持てないとかいう設定とは一体・・・?

”そんなもの何の役に立つの?”そう問う私に対して、セレスさんは

 

「いつか何かの役に立つかもしれないじゃないですか」

 

微笑を浮かべてそう答えた。

 

「まあ、凡人の貴方では勿論、何もありませんが」

 

と勿論、最後に煽りを入れるのも忘れなかった。

しかし、前述の言葉が、

超高校級の”ギャンブラー”セレスティア・ルーデンベルクを

語る上で意外に重要なものとなってくる。

セレスさんは、勉強熱心・・・いや、違う。本能的に知識欲が旺盛なのだ。

先ほどのボーリングの球をコタツで寝ながら、3時間以上観察していた。

彼女がボーリングの球から、何を感じ取っていたのか知らないが、

そんな行動は凡人は決してとらないだろう。

この前は、「ボクシング入門」という本を引いてきて、ずっと読んでいた。

ボクシングが好きなのだろうか?

問いかけて見ると、まるで興味がないという。

敢えていうならば、やはり”いつか役に立つかもしれない”らしい。

凡人はそんなことは考えない。

そんな凡人たる私が、敢えて彼女の行動理由を推測するならば、

その”いつか”とは、ギャンブルであり、何か発想の転換や逆転のヒントを得ようと

日々、いろいろな情報を収集しようとしているのではないか。それも自然に本能で。

あくまで凡人の推測である。

だが、それが真実を突いていたなら、何と恐ろしい女であろう。

絶対に敵に回したくないわ。

ただ、あれだけは他のものと反応が違ったな。

壁にかけてある城の絵を見る。

あのなんの変哲もない西洋の城の絵。

あれを引いてきた日は、終日彼女の機嫌がよかった。

嬉しそうにずっと、あの絵を見ていた。

まあ、ゴスロリをしている彼女が

中世ヨーロッパの城が好きなのはごく自然なことなんだけどね。

 

・・・話がやや脱線してしまったようだ。

今日は山田が来ていない。本日のクズはアイツのようだし、

そのままの流れで、セレスさんとスマッシュ姉妹を対戦することになった。

このゲームの対戦において、私には勝機があった。

この最新版に関しては、ネット対戦でやり込んでいる。

だから、バージョンが古くてもだいたい動きはわかる。

リアルな友達と対戦・・・?

いやいや、この時代、必要ないでしょHAHAHHAHA・・・。

なにより、何気にセレスさんには、ゲームでただの1度も勝てていないのだ。

 

「わたくし、ウメなんとかさんという方と対戦して勝ち越しましたわ」

 

絶対、嘘だろそれ。

だが、彼女は、確かにゲームが上手かった。

天性の才能もそうだが、私や山田の対戦を見て学習しやがるからタチが悪い。

なんだかんだで、彼女との対戦で勝ったことがない。

だからこそ、このスマッシュ姉妹において、なんとか雪辱を晴らそうと心に決めた。

私はこのゲームに慣れている・・・だけではない。

初代のみに存在する必勝法を知っているのだから。

 

「とりあえず、やってみましょう。まあ、わたくしの勝ちですけど」

 

セレスさんは電気ネズミを選び、私はキャプテンコンドルを選んだ。

序盤は一進一退。いや、私が押され始めた。やはり上手い。

だが、ここからだ。もう少しで時間が来る。

 

「あ!?」

 

セレスさんは声を上げた。

突如床が崩れて、電気ネズミが落下した。

キャプテンコンドルはそれを予期していたかのように華麗にジャンプした。

 

(勝った・・・!)

 

穴から脱出しようとジャンプする電気ネズミを叩き落す。

まるでもぐら叩きのように。

そうこれは初代のみに存在するクソステージ。

1度嵌ったらそこで試合終了のクソ仕様。

私は、この存在を某動画サイトのなつかしゲーム実況で知った。

まさか、その時は私がこれを利用することになるとは思わなかった。

 

「クッ!」

 

状況を即座に理解したセレスさんがコントローラーを連打する。

またしも、負けじと連打する。

 

(無駄だ。もう勝負はついているのだよ!)

 

横で連打するセレスさんを見てなんとも言えない優越感に浸る。

私は今、

あの超高校級の”ギャンブラー”セレスティア・ルーデンベルクを手玉に取っているのだ。

 

「セレスさんどうしたのかな~~あれ、出られないの?あれ~~」

 

鼻歌を歌いながら、煽る。

立場逆転である。

 

「今回は私の勝ちだね!イエ―イ!セレスさん、ウェーイ!」

 

セレスさんは顔を伏せ、プルプルと震えていた。

効いてる。効いてる。

どうだ!凡人もやる時はやるのだ!

これにコリたら、今後は私の扱いをもっと丁重に・・・

 

「・・・クソッタレ」

「え?」

 

 

「クソッタレですわ~~~~~ッ!!!」

 

 

「ちょ!?」

 

一瞬耳を疑った。

あのセレスさんの口からそんな言葉が出るはずが・・・。

ブチキレていた。

血管を浮かべ、セレスティア・ルーデンベルクは完全にブチキレていた。

 

「舐めてんじゃねーぞ!ピチグソがぁああああああああ!!」

「なッ!?」

 

彼女は突如、コントローラーを床に固定し、ボタンを中指で連打し始めた。

ちょ、アレってまさか、伝説の16連打!?

 

「オラァアアアアーーーミンチにそんぞコラァアアーーーー」

「ひ、ヒィイイ~~~~」

 

豹変した彼女に怯えながら、プレーを続ける。

電気ネズミが凄い勢いで跳ねている。

これって、まさか、連打に処理が追いついていない!?

 

「オラァアアアアーーーーーッ!!」

「あッ!」

 

ほとんどバグみたいな動きで電気ネズミの化物が穴から這い出てきた。

たじろぐキャプテン・コンドル。

その後、制限時間一杯まで、凄惨な虐殺が行われたことを、敢えて語ることもないだろう。

対戦が終わった後、場を静寂が支配した。

私は、完全に引いていた。

突如、セレスさんが立ち上がり、本体からカセットを抜いた。

無言だった。

一体、どうするつもり・・・

彼女は、カセットを床に静かに置くと、

ボーリングの球を持ち上げた。

 

「ああ、重いですわ」

 

今さら、その設定・・・!?

そうツッコミを入れる間もなく、球はカセットを破壊した。

もはやどうすればいいのかわからねえ。

 

「ね、言ったじゃないですか」

 

そんな空気の中、彼女は微笑む。

 

 

「いつか役に立つ・・・と」

 

 

 

 

 

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

ゲーム対戦が終わった後も山田はまだこなかった。

 

「喉が渇いてしまいましたわ。お茶を入れてください、召使さん」

 

まあ、あれだけ騒げば、そりゃそうだろな・・・。

そんなことを思い、お茶を用意する。

召使と煽ってきたが、そもそもそういう話でここにいることを思い出し、我慢する。

我儘な彼女はロイヤルミルクティーしか認めないから、結構めんどくさい。

山田もまだこないことなので、

テーブルでお茶しながら、2人きりでいろいろ話すことになった。

女子会みたいで、新鮮だった。

結論から言おう。

 

セレスティア・ルーデンベルクは天性の嘘つきである。

 

彼女自慢話は大体が嘘だった。

 

「ルールは知りませんでしたが、メガネの名人に将棋で勝ったことがありますわ」

 

嘘だ。

余談だが、将棋はラッキーで勝つことはありえないらしい。

 

「ある富豪と自分の血液を賭けて勝負しました。わたくしは一時的に血液を・・・」

 

これも嘘。

それ、20年以上勝負が続いた有名な漫画じゃねーか。

 

だが、彼女の話術は真に迫ってくるものがあり、思わず引き込まれる。

ただ嘘をつくのではない。

嘘の中に真実も混ぜてくる。

その逆に真実の中に嘘を仕込むことも。

元ネタを知らなければ、私はあっさり騙されていただろう。

これも彼女の才能。

相手を欺く、ギャンプラーとしての才能なのだ。

 

私は彼女が何を考えているかなどわからない。

その本心を知ることなどないだろう。

 

まあ、嘘でも面白いから全然OKなんだけどね。

 

そんな彼女に2つの質問をしてみた。

超高校級の”ギャンブラー”セレスティア・ルーデンベルクにインタビュー!

 

その①「セレスさんのライバルはどんな人?」

 

「ライバル・・・ですか、ええいますわ。彼女のことは片時も忘れません」

 

おお!?いないと答えると思っていた。

彼女・・・ということは女の人のようだ。

 

「彼女の名前はじゃ・・・」

 

そう言って彼女は固まった。

 

「じゃ・・・じゃじゃ?」

「え?じゃ・・・?」

「じゃ・・・ジャジャジャ・・・はい、黒木さん!」

「え!?私!え、じゃ・・・ジャジャジャーーーン!」

「ハァ~貴方は本当につまらないですわね」

「いや、知らねえし。つーか、振ってくんな!」

 

そんなこんなで”宿命のライバル”とやらの名前を思い出すのに15分ほど要した。

わかった。

コイツ、私だけじゃなくて、本当に人の名前を覚えないんだ。

なんとも言えない安堵感の中、会話を再開する。

 

「彼女の名前は・・・蛇喰夢子さんですわ」

 

蛇喰夢子。

 

なんという苗字だろうか。

でも、その奇抜な苗字で思い出した。

当時ネットで話題になっていた超中学級の2人のギャンブラーのことを。

一人はもちろんセレスさん。

そして、もう一人は彼女であった。

どちらも名前が面白いということで話題になっていた。

特に、蛇喰夢子さんの方は本名らしい。

 

「彼女と会ったのは、入学前でしたわ。ここで彼女と会いました」

 

お、なにやら面白そうだ。

 

「わたくし達2人は、超高校級の”ギャンブラー”の座を賭けて勝負するために呼ばれました」

 

その話は、ネットにはなかった。

スゲェ・・・そんなことやってたのか。

まあ、結果はセレスさんの勝ちというのはわかっているけど。

 

「わたくしは彼女を見て、その勝負を辞退しました」

 

 

――――!?

 

意外すぎる事実だった。

あのセレスさんが勝負を降りた!?

 

「その時のコンディションに運。全てを計算して、彼女に勝てないことを悟りました」

 

嘘だろ・・・?セレスさんが敗北を認めた!?

 

「彼女を一目見てわかりましたわ。”あ、コイツ、わたくしに惚れてるって”」

 

当時を思い出したかのうように、セレスさんはクスリと笑った。

 

「わたくしはギャンブルの天才です。まさに比類なき天才。ですが、わたくしは人間です。

彼女は違いますわ。彼女は人間ではありません。

蛇喰夢子・・・彼女はギャンブルそのものです。

ええ、ギャンブルの闇が擬人化した化物・・・そう言って間違いありません。

ねっとりとした視線で見られました。

体のあちこちを嘗め回すように。あんなトコやこんなトコまで。

その精神の奥まで。

彼女は、超高校級の称号が目当てできたのではありません。

わたくしに会いにきたのです。

わたくしと抱き合いながら、ギャンブルの深遠まで堕ちるために来たのです」

 

あのセレスさんをして”化物”と言わしめるなんて・・・

蛇喰夢子・・・恐ろしい子!

しかし、それから一体どうなったのだ!?

 

「そんな彼女とのギャンブルが普通に終わるわけがありません。

青天井までいきます。どちらかの命が尽きるまでギャンブルは続くでしょう。

ですが、わたくしには夢があります。

たかだが、超高校級程度を賭けて、蛇喰さんと死合う気になれませんでした。

そのことを正直に彼女に伝えました。

もし、貴方とやり合うならば、

それこそ、全てを賭けて全身全霊で戦いたい・・・そう告げました。

彼女、残念そうな顔をしていましたわ。

あ、余談ですが、私と彼女が見つめ合っている時、

なにやらレーザーみたいなものが出ていたらしいですわ」

 

ああ、なんか想像できるわ、それ。

そんな場に居合わせたくないけど。

 

「結局、彼女は辞退しました。

そして、わたくしは、予定通り、超高級の称号を手に入れました。

わたくしは、勝負は降りましたが、その権利を手放すとは言っていませんので」

 

(不戦勝かよ・・・)

 

「ずるい・・・そう思っていますわね」

 

私の心を見透かすようにセレスさんは笑った。

 

「ですが、誰が何と言おうとも、わたくしは高らかに宣言します。

わたくしこそが、超高校級の”ギャンブラー”であると

だってわたくしは・・・」

 

 

  ”あの蛇喰夢子相手に生き延び、その称号を勝ち取ったのだから・・・!”

 

 

 

武の勝利・・・!

 

超生物相手に死んだふりで生き残った某海王のセリフが頭を過ぎった。

わずかな判断ミスや意地によって、もしかしたらセレスさんは死んでいたかもしれない。

ならば、当初の目的を達成し、生き延びたセレスさんは、

ギャンブラーとしては、誰が何と言おうとも勝者なのだ。

 

「その後、彼女はギャンブルを最上の価値とする高校に行ったと風の噂で聞きましたわ」

 

ギャンブラーはどこまでもギャンブルを求めるらしい。

”蛇喰さんとまた会いたいか?”と質問したところ

 

「嫌ですわ」

 

とセレスさんは即答した。

命賭けのギャンブルをしなければならないから・・・ではないらしい。

 

「あの方・・・わたくしと完全にキャラが被っているのですわ・・・!」

 

あ、それ知ってる。

どちらもお嬢様キャラだって。

しかも、どちらかと言えば、セレスさんがパクリと・・・

 

「それだけじゃありません!キメ台詞まで同じなんです!瞳の色まで!

ネットではわたくしがパクったと・・・違います!わたくしが最初なんです!

オリジナルはわたくしなんですぅううう!!どうして!?嫌!イヤァアアアアアアアーーー!」

 

地味に深刻な理由だった。

キャラって大切だもんなぁ・・・

 

「お、なにやら面白いことやってますかな?」

「遅せーよ、このクズ!」

「本当ですわ、このブ・・・クズ!」

「え、今・・・」

 

本日のクズも合流し、次の質問に移る。

 

その②「ギャンブルで勝つ秘訣とは?」

 

「悩まないことですわ」

 

セレスさんはあっさり答えた。

 

「わたくしは、基本悩みません。即断即決。常にそれを心掛けています」

 

ギャンブルの秘訣は意外にもシンプルなものだった。

 

「何かに囚われることにより、正常な判断を失い。敗北を招きます。

動かないことは生物として死んでいるのと同じです。

勝負とは常に動き続けます。それに対応するには悩んでる暇はありません。

知っていますか?幸運の神様は前髪しかないのですわ」

「え、モヒカンみたいな?」

「まあ、そんな感じですわ」

 

私は凡人だからこれを真似するのはちょっと無理なようだ。

 

「セレスさんの出身はどこですかな?」

 

山田がいきなり質問を始めた。

 

「栃木県宇都宮市ですわ。ルーデンベルク家は宇都宮の大名でしたわ」

 

即答した。

明らかな嘘を加えて。どこのキリシタン大名だよ。

それが本当なら栃木県ルーデンベルク市になってるじゃねーか。

 

「好きな食べ物は?」

「餃子ですわ。わたくしはあの庶民の下品で臭い餃子が好きなのですわ」

 

これは本当そうだな。

しかし、本当に即断即決だな。迷いがない。

 

「今日のパンツの色は?」

「もちろん、わたくしのトレードカラーのく・・・オラァアアアーーーーッ!!」

「グハァッ!?」

 

直後、セレスさんは華麗なステップで山田の懐に飛び込み、左のボディブローを決めた。

 

「いいパンチだ・・・世界を目指せるぜ・・・!」

 

そう言って、山田はガクリと倒れた。

スゲェな・・・本当にどこで役に立つかわからないや。

 

「まあ、わたくしの真似は貴方には無理ですわ。ですが・・・」

 

セレスさんは私の方を振る向く。

 

「黒木さん、今の貴方は他の方々よりは、ほんの少しですが優秀なのですよ」

「え・・・?」

「貴方はここから出ることを諦めました。

いい心がけですわ。下手に希望を持つよりずっといい。

それはギャンブラーのわたくしが保障しますわ」

 

彼女に言われて・・・改めて思い出した。

そうだ・・・私はここから出ることを諦めたのだ。

 

「下手な希望を持つから出ようとして、あのような事が起きたのですわ。

だったら、はじめから希望など持たなければいい。ここで、助けを待てばいいのですわ」

 

「そうですな~下手に動かず、警察が来てくれるのを待った方がいいかもしれませんな」

 

セレスさんの意見に山田も頷く。

 

「最悪、助けがこなくても、ここで楽しく暮らせばいいじゃないですか。

それをわたくしは以前から、何度も皆さんに訴えていますわ。

あの方々は、なぜ聞き入れないのでしょう。それに何の不都合があるのでしょうか?」

 

セレスさんの言う通りだった。

希望を持ったから・・・私が希望を抱いたから・・・あんなことに・・・。

 

「さあ、全てを諦めなさい、黒木さん」

 

セレスさんが顔近づける。

大きな赤い目で私を見つめる。

 

「絶望するのです。全てを諦め、絶望に身を委ねなさい」

 

その赤い目を見ているとグルグルと目が廻ってくる。

 

「ちょ、洗脳してますぞ!?」

 

山田の声でハッとする。え、私、洗脳されていた・・・!?

 

「話は変わりますが、山田君、貴方さっきから何を作っているのですか?」

 

山田が大きめの紙になにやら書いていた。

 

「ああ、これですか。

いやね、毎日集まってるから、もう部活みたいだなって。

だったら、いっそ、本当に部活にしちゃおうかな・・・と思いまして」

 

その張り紙には「娯楽部」と書かれていた。

 

「希望ヶ峰学園”娯楽部”・・・いい感じじゃないですか。部長はもちろん僕で!」

「却下しますわ」

「ふぁ!?」

 

山田の提案をセレスさんは即座に否定します。

 

「部活動のことでありません。貴方が部長であることを許可しません」

「え、なんでですかな!?」

 

山田の問いにセレスさんは哀れみの表情を浮かべる。

 

「山田君・・・部長は人間しかなれませんわ」

「豚っていいたいんだろ!そうなんだろ!?」

 

山田が即座にツッコミを入れる。

もう伝統芸みたいになってきたな。

 

「なら、セレス殿が部長ということですな?」

「いいえ、違います」

 

またもセレスさんが否定する。

 

「わたくしが、部長などという低俗な役職に就くわけがありません。

わたくしにふさわしいのは、そう・・・名誉顧問ですわ!」

 

セレスさんが胸を張る。

まあ、流れでそう言うと思ってたのだけど。

 

「じゃあ、決まりですな」

「ええ、そういうことですわ」

 

セレスさんと山田が頷く。

え、一体何を・・・?

 

 

「部長は黒木智子殿で決まりですな!」

「まあ、他にいないので仕方ありませんわ」

 

 

「え・・・?」

 

えぇえええええええええええええ~~~~~ッ!?

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、な、なんで私が!?」

「別にいいじゃありませんか。結構似合っているかもですぞ」

「仕方がありませんわ。他に人間がいないのです」

「で、でも・・・」

 

私が部長・・・!?

な、なんだこの展開は!?

 

「じゃあ、部長さん、それをドアに貼っておいてくださいな」

「ついでに部屋の掃除をお願いしますですわ、部長さん」

「あ、ちょ、ちょっと・・・!」

 

そう言って、山田とセレスさんは部屋から出て行った。

しまった。クソ!やられた。

 

部屋に一人取り残された私は、渋々と掃除を始める。

一人だと娯楽室がやたら広く感じた。

 

(私は何をやっているのだろうか・・・これでいいのか?私)

 

確かに、クズらしい生活をしている。悪友と呼べるアイツらと楽しく遊んで。

 

最近・・・あの声が聞こえてこない。

自分を呪う自分の声が。

 

「ふぅ・・・」

 

掃除が終わり、最後はこの張り紙を貼るだけとなった。

ドアの前に立つ。

”娯楽部”そう書かれた張り紙を貼った時、ふと思い出した。

 

あれは、希望ヶ峰学園に転入する前にいた高校の夏休み前だったか。

何をするわけでもないけれど何だか楽しい部活動。

そんな居場所が欲しくてある日、「日常部」という部活の申請書を出してみた。

次の日、それはあっさり否決された。

理由は活動内容不明。

まあ、当然と言えば当然であった。

その日、校庭から日が沈み、あかりが灯る校舎を眺めた。

あのあかりの中で、部活動をしている他の生徒が羨ましかった。

 

私は、ただ仲間とバカなことをして遊び、笑い合える・・・そんな場所が欲しかっただけだ。

 

そんなことをなぜ今、思い出したのだろうか・・・?

 

張り紙に触れる。

 

 

(ああ、そうか・・・)

 

 

 

 

 

       夢が・・・叶ったんだ。

 

 

 

 

 

 





絶望の中、夢叶う。


【あとがき】

ダンガンロンパで言えば、今回は日常回となります。
わたもての方も原作での部活を作ろうとした時のことを使わせて頂きました。
原作だと、2学期だったとは思いますが、
この物語だと夏休み前の出来事にしました。
悪友達とのクズで切ない物語がテーマですので、最後はしんみりしてます。
前編も終わり、もこっちは、目を背けてきたものと向き合うことになります。
まあ・・・なんというか、応援してあげてください。



■「絶対やベー少女」について

わたもての”ヤンキー”こと吉田さんが主役の第2回学級裁判直後の”外”の世界の出来事。

今回、読みきりSSとして描こうと思っていましたが、
ページ数が増えたので、短話として次話で投稿します。
本来は、最終話でナレーションでも使って語ろうとした外の世界の状況の話です。
意外と重要な情報もでてきます。
そのため、読みきりではなく、ちゃんと本編の1つとして扱うことにしました。


■来年のスケジュール

・絶対やベー少女

・中編(2話)

・後編(2話)

・学級裁判(1話)

・終劇(1話)


3章、あと6話。来年には終わるか・・・微妙。


■もこっちの”おしおき”を活動報告で募集(予定)

予定では採用したものを作成者様公認の上、作品にそのままコピペ。
または、規約に触れるかもしれないので、少し改良して載せる。

・・・ようなことを企画しようかと考えています。
時期は後編が終了した後・・・くらいでしょうか(予定)



以上、

今年最後の投稿になります。
ちょっと仕事が忙しくなってきてあまり書けなくなってきています。
来年はもう少しペース上げられるように頑張ります。

読んで下さいましてありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
よいお年を!

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