私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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新世紀銀河伝説再び! 装甲勇者を大地に立て! 中編①

平和である・・・。

 

ぼーとこたつで頬杖をつきながらそんなことを考えていた。

あれから殺人は起きていない(まあ、起きていたなら私は生きてはいないのだが)。

部長とやらに無理矢理任命させられたが、

だからと言って何かやるわけでもなくダラダラと数週間が経っていた。

 

   いつ殺されても構わない・・・!

   

などと息巻いていた頃が遠い日のようだ。

最近は、このままクズとしてダラダラと生き続けてもいいのでは・・・?

そう考える自分がいる。

 

セレスさんは・・・こたつに顔を伏せている。寝てるのかな?

山田は・・・寝転んでこたつに半ば顔を入れている。コイツは完全に寝てるな。

 

ああ、今日も平わ・・・

 

 

 「クサイですわぁああああああああ~~~~~~~~~~~ッ!!!!!」

  

 

「なッ!?」

 

平穏を切り裂くように突如、セレスさんが立ち上がり、絶叫した。

 

「もう無理!もう限界ですわぁアアアアア~~~~~~~~ッ!!!」

 

ムンクのように顔を押されて、セレスさんは半狂乱で叫ぶ。

な、なんだ!?一体、何が起きて・・・!?

 

「ずっと耐えてきましたが、もう無理です!ええ、もう耐えられませんわ!

優雅で華麗で孤高の存在であるわたくしが

このような言葉を吐くのはふさわしくないと思い、今までずっと我慢してきました。

ええ、我慢しましたわ。

おわかりですか?黒木さん!このわたくしが、ですよ!」

 

顔を歪めながら私を指差すセレスさん。

どうやら、私が何かやらかしたようだ。

 

「いつですか?黒木さん!」

「え?」

「貴方がお風呂に入ったのは、いつなのか聞いているのです!」

「お、お風呂・・・?」

 

お風呂という単語を聞いて固まる。

それが何なのか一瞬本当にわからなかった。

 

「お、お風呂というのは、あの、お湯に入ったり、体を洗ったりする、アレのこと?」

「当たり前ですわ!」

 

一般的なお風呂の認識を確認する私にセレスさんは声を荒げる。

う、うーん。すっかり忘れていた。

 

「う、うん、いつか、と言うと、えーと・・・」

 

いつくらいだろうか?

たぶん、あの学級裁判の日から入ってないはずだから・・・

 

 

「・・・1ヶ月くらい前かな」

「ウグワァッ・・・!」

 

私の発言の直後、セレスさんは口を押さえた。

吐くほどって・・・そんなに酷いのだろうか?

改めて自分を見直してみる。

 

まったく手入れしていないボサボサの髪。

ずっと着ていてヨレヨレのジャージ。

 

その姿はもはや花の女子高生ではなく、プロの浮浪者。

全身からはプーンと擬音が出てハエが飛んでそうである。

自覚すると、急に体が痒くなってきた。

 

「え、えへへ、そ、そんなにクサイかなぁ?」

 

ぎこちない笑顔を浮かべてぽりぽりと頭とお尻を掻きながらセレスさんに近づく。

 

「ヒィイイイイ~~~それ以上近づかないでくださいましィイイ~~~ッ!!」

 

セレスさんは恐怖に顔を歪め、絶叫する。

 

「クサイなんてもんじゃありませんわ!

サ○ンです!VXガスです!もはや人間化学兵器ですわ!」

 

鼻をつまみながらセレスさんはまくし立てる。

私の今の匂いを非人道的な毒ガス兵器に例えている。

実物は案外、無臭らしいよ・・・とツッコミを入れてみようかと思ったが、

とてもそんなことを言える雰囲気ではない。

その引きつった顔からガチであることが伝わってくる。

 

「見なさい!

好奇心からコタツに顔を突っ込んで匂いをかいだ山田君の哀れな最期を!」

 

恐る恐る山田を揺すってみると、パタッと仰向けとなったまま動けかない。

死、死んでる・・・!?

火曜サスペンスのBGMが脳裏を過ぎる。

え、私って、そんなにクサイの・・・!?

 

「おわかりですか、黒木さん!それが貴方の現状ですわ!

もはや、貴方は人ではなりません。汚物です!歩く細菌兵器ですわ!」

 

酷い罵倒であるが、山田の最期を見ると、悔しいが間違っていないと思えてくる。

やはり1ヶ月というのは相当なものなのか。

鼻が麻痺しているのか、自分では全然気がつかなかった。

 

「仮にも貴方は私が名誉顧問を務める部の部長!

それがこのような汚物であるなど、私の沽券に関わりますわ!

このまま放置しておくことは、私のプライドが許しません!

起きなさい、山田君!例の計画を実行しますわ!」

 

「アイアイサー!」

 

セレスさんの指打ちを合図に、山田が飛び起きた。

 

「え、なッ!?」

 

山田は私に突進し、そのまま私を肩に担ぎ上げ走りだした。

 

(ちょっ一体何を!?)

 

娯楽室を出て、階段を駆け下りる山田。デブとは思えないスピードだった。

その後ろをマスクを着用したセレスさんが追いかけてくる姿が見える。

 

「グエッ!?」

「ウゲェ~~~ッ!!」

「グッジョブですわ!山田君!」

 

どこの部屋のドアを開き、私を投げ捨てると、山田は力尽きたように倒れた。

 

「痛ててて、山田、お前、一体何を・・・」

 

頭を押さえながら、辺りを見渡す。

 

ピンク色の壁紙、天井にはシャンデリア。

大きな鏡とゴスロリの服や化粧用品の数々が置かれている。

え、この部屋って・・・

 

「ここからは、わたくしの仕事ですわね」

 

ドアが閉じる音が聞こえた。

そこにはこの部屋の主であるセレスさんいた。

どこか下卑た笑みを浮かべながら。

彼女は私に近づき、2つの腕を私に向けて伸ばした。

 

ビリィイイイーーーッ

 

セレスさんはジャージを掴んだ瞬間、力任せに引きずり下ろした。

ジャージのチャックが弾け飛んでいくのが見えた。

私の下着が露になった。

 

「い、嫌ァアアアアア~~~ッ!!」

 

床に倒れた私は叫ぶ。エロ漫画で襲われるヒロインのように。

 

「や、やめて、何をする気なの?」

 

両手で胸を隠しながら、セレスさんを見上げる。

言葉遣いも若干、変わっていた。

エロ漫画で襲われるヒロインのように。

 

「げへへ、大人しくするですわ」

 

セレスさんは、エロ漫画の暴漢の笑い声を出しながら近づいてくる。

もうこれ、完全にレ○プだろ!?

 

「・・・って、これではわたくしがまるで暴漢みたいじゃないですか!」

 

直後、セレスさんは自分にツッコミを入れた。

もう、何がなにやら・・・

 

「いいから、さっさと脱げよ!オラ!」

「グエッ!?」

 

私のお腹にセレスさんのボディブローが突き刺さる。

 

(こ、コイツ・・・いつの間にボクシングをここまでものにして・・・)

 

動けなくなった私にセレスさんが襲い掛かる。

ブラジャーもパンツも引きちぎられて、素っ裸にされた。

 

(いよいよ犯されるのか・・・)

 

レ○プ目になった私は、もはや処女を諦め始めていた。

まさかこんな形で奪われることになるとは思わなかった。

ゆうちゃんにセクハラを続けた罰が当たったのだ。

 

「オラァアア~~~~ッ!!」

 

セレスさんは額に血管を浮かべると雄叫びと共に私を持ち上げた。

それはプロレスでいうとリストアップスラムの体勢。

5kgまでしか持てないという設定とは一体・・・。

え、ここからどんなプレイをする気な・・・

 

「ウりゃァアアアーーーーッ!!」

「グエッ!?」

 

セレスさんはその体勢で浴室まで歩くと、浴槽に向かって私を投げ捨てた。

 

「ブふぁッゲホゲホ」

 

私は水面から咳き込みながら顔を上げる。

 

「泡・・・?」

 

目の前の浮かぶシャボン玉に自分の顔が映る。

お風呂にはすでにお湯が張っており、ほどよい暖かさを感じた。

だが、何ともいえないヌメヌメとした感触を感じる。

おそらく石鹸やらボディソープやらを大量に投入しているのだろう。

 

「さて、汚物は消毒ですわ」

 

セレスさんはブラシを構え邪悪な笑みを浮かべる。

それはまさに、漫画やアニメのいじめシーンのように。

ブラシである。

あの床とかをこするあのブラシである。

いくら私が汚物だからといっても、辛うじてまだ人間。

あんなもので擦られたら、肌がズタズタになってしまう。

 

「ヤメ――うッ!」

 

私の声も空しく、ブラシは無慈悲に私の肌を擦った。

 

(グわ~~~って・・・あれ、痛くない?)

 

確かに痛くなかった。

まるで切れない髭剃りのCMのように。

よく見ると、ブラシの先がボディウォッシュに付け替えられていた。

そう言えば、昨日、山田がモップを手に何やらガチャガチャと怪しげな作業をしていたが、

それはこのためだったのか。

これならば、肌は傷つかない。むしろ気持ち・・・

 

「オラオラ!どうだオラ!!」

 

・・・よくありませんでした。

所詮、道具とは使う人間の心を反映する。

セレスさんは、汚物を消滅させるがごとく全力で擦り上げる。

ゴシゴシ、ゴシゴシと。

 

「痛てえ!クソ痛てえ!!助けて!誰か~~ッ!!」

 

 

30分後・・・。

 

「まあ、こんなものですか」

 

「・・・・・・。」

 

額の汗を拭うセレスさんの後ろで

薄汚れたお湯にプカプカと死体のように浮く私がいた。

 

「あ、髪がまだだったか・・・チッ」

 

舌打ちをしたセレスさんは、

私に風呂から上がることを命じ、浴室から出て行った。

私は風呂椅子に腰を下ろし、一息つく。

壮絶な体験だった。

肌はヒリヒリし、赤くなっていたが、垢は綺麗に落ちていた。

 

「さあ、次は髪ですわ!黒木さん」

 

その姿を見てドキリとした。

セレスさんは髪を束ね、Tシャツにショートパンツに着替えていた。

あのセレスさんが、である。

 

「普段の正装では汚れてしまいますので、まったく忌々しいですわ」

 

私の視線にセレスさんは若干イラついているようだ。

ゴスロリとのギャップに思わず目が釘付けとなってしまった。

厚着で隠された肌が、太ももが露となった。

透き通るような白さ。

本物のフランス人よりも白いかもしれない。

華奢だが均整のとれた身体は女の私から見ても美しいと思う。

普段、大口を叩いているだけのことはある。

セレスさんは、なんだかんだでやはり、美少女だ。

思わず赤くなってしまった。まあ、でも・・・

”女は度胸”と文字が書かれたTシャツでいろいろ台無しとなっているけどね。

そんなことを思っていると、

セレスさんは私に、シャンプーハットを被せた。

直後、暖かい水が頭に降ってきた。

いつ以来の感覚だろう。

シャンプーでワシャワシャするのは、なんともいえない快感がある。

それが他人の手ならなお更である。

まるで美容院にいるような感覚に陥る。

セレスさんは頭を洗うのが上手かった。

 

「うーん、もう少し右かな」

「・・・ここですか?」

 

痒い部分をレクチャーする。セレスさんはその指示に従い動く。

 

「あ~そこ、いいかんじ」

「うふふ、お客さん、ここがいいので・・・って」

 

直後、頭上に電撃が奔る。

 

「グハァ!?」

「違うだろ!違うだろ~~~ッ!!」

 

長い前振りの後に、私の頭に肘が突き刺さる。

 

「なんでわたくしが貴方の召使にみたいになっているのですか?

主人は、わたくし!召使は貴方!おわかりですか?黒木さん!」

 

勿論、途中で気づいていたが、

正直、どこまでいけるか試してみたいという気持ちがあった。

ちっやはり気づかれたか。

 

「調子に乗っていないで、後は自分で洗いなさい!まだ後が控えているのですから!」

 

意味深なセリフを残してセレスさんは浴室から去っていった。

彼女のセリフが気にはなるが、考えていてもしかたないので、

私は、頭を洗い流し、浴室から出た。

浴室の前には、タオルとパジャマ(セレスさんのお古?)が置いてあった。

どうやらこれに着替えろとのことらしい。

パジャマを着て、タオルで頭を拭きながら、浴室を出ると、

その異様な風景に一瞬たじろいだ。

 

部屋の真ん中にシーツが敷かれ、その上に椅子が設置されていた。

 

「さあ、椅子に座りなさい。うふふ、何も怖がることはありませんよ」

 

そう言って笑みを浮かべる彼女の手にはハサミが握られていた。

抵抗する気力はなかった。

蜘蛛の巣にかかった蝶のように私は運命を受け入れた。

 

「このわたくし自ら貴方の髪を整えて差し上げるのですから、その栄誉に感謝しなさい」

 

セレスさんはなんの躊躇もなく、私の髪にハサミを入れていく。

ジョキジョキ、ジョキジョキと。

私はそれこそカマキリに捕獲されたように、固まりガタガタと震えながら、

落ちていく自分の髪を見つめていた。

最悪、髪の毛は諦めよう。下手に動いて耳を切り落とされることだけは避けるのだ。

 

「安心しなさい。わたくしは髪を切ることに関しては、そこらのプロには負けません。

なんせわたくしは普段から自分で髪を切っていますから」

 

意外だった。

美容室で数万かけてあの髪形を維持してると思っていたが、

まさか自分でセットしていたなんて。

言われてみると、手際はいい。確かに慣れているようだ。

セレスさんはゲームに限らず何でもこなす才能がある。

 

これなら、少しは安心して・・・

 

 

「あ、やべ・・・ッ」

 

 

パツンという音が部屋に響いた。

 

 

 

    

 

 

 ◆  ◆  ◆

 

 

 

「山田君、もう部屋に入っていいですわよ」

 

セレスさんに招かれ、山田が部屋に入ってきた。

 

「おお~~黒木智子殿、すげーーーッ!うひょ、うひょひょひょ」

 

山田は私を見るなり爆笑した。

 

「う、うるせー山田、殺すぞ!」

 

山田のリアクションに私は顔を赤くした。

山田が笑う理由が自分でもよくわかっていたから。

 

「いやいや、意外にも結構似合ってますぞ、黒木智子殿」

「くっ・・・!」

 

急に褒められて言葉を窮してしまった。

山田が言っているのは、今、私が着ている服のことだ。

 

「せっかくここまでして、またジャージを着せるのも面白くありませんわ」

 

そう言って、セレスさんが私に半ば無理矢理きせたのは、彼女のゴスロリ服だった。

 

「まあ、なんつーか、結構かわいいですぞ」

「なっ・・・!?」

 

冗談を言っているのはわかっているにも関わらず、ついドギマギしてしまう。

だって、ゴスロリ服なんて着たことねーもん。

 

「まあ、若干、前髪パッツンなんだけどね」

「プッ」

 

オチはそこだったか。

山田の指摘にその犯人が口を抑えた。

誰のせいでこんなことになったのですかねぇ~?

 

「もういい!やっぱりジャージに着替え・・・」

 

恥ずかしくなった私がそう言いかけた時だった。

パシャリという音が聞こえた。

 

「いい表情ですぞ~黒木智子殿」

 

見ると山田がアニメの柄が入ったデジカメを構えていた。

というか、撮れられた!?

 

「これ、さっきガチャガチャで取ったんですよ~しかもメチャレアなやつ」

 

どうやらモノモノマシーンのガチャガチャで取ったらしい。

そのアニメは例のブー子の柄だったので、山田のテンションはやたら高い。

 

「何を隠そうこのデジカメ、その場でプリントができるのですぞ」

 

デジカメの表示を指差しながら山田は説明する。

最近のデジカメってスゲーな。

 

「黒木智子殿の変身?記念に、みんなで記念撮影しましょう!せっかくの娯楽部なんですし!」

 

山田はそう言うなり、私をパシャリと撮った。

 

「黒木智子殿、表情が硬いですぞ。さすが陰キャって感じ」

「う、うるせー!お前こそ、どうなんだ!貸せ!」

 

逆にパシャリと山田を撮る。

 

「あれ~山田君~どうしたのかな?こんな表情を固くして」

「クッ・・・!」

 

今度は山田が黙る。

ふん、お前だってやっぱり慣れてねーじゃねーか。

 

「うふふ、これだからコミュ障の方々は嫌ですわ」

 

私達の醜い争いを見てセレスさんが嘲笑する。

 

「わたくしのように普段から舞踏会で一流の殿方達と共に・・・」

 

いつものように自慢話を始めたので、パシャリとセレスさんを撮った。

 

「イッ・・・!?」

 

完全に不意を突かれたようだ。

引きつった表情がデジカメにしっかりと記録された。

 

「これは・・・慣れてませんな」

「うん、慣れてないね」

 

山田と相槌を打つ。

 

「な、慣れていますわ!

当然ですわ!ええ、魅せてあげますわ!本当の自然な笑顔というものを!」

 

セレスさんのその言葉から、

誰が一番自然な笑顔大会が始まってしまった。

勝負となれば、嘘の笑顔でも問題ない。

勝てばいいのだ。

主題から完全にズレているが、全員が同じことを考えていたのか、

様々な怪しい笑顔がデジカメに写る。

30分ほど使い、いかにバカらしいことをしていたか気づいた。

せっかくだからと記念に全員が納まった写真をプリントした。

バカをした後でいい感じに力が抜けたのか、

3人とも主題通りの一番自然な笑顔だったのが、この話のオチだった。

 

「なんかちょっとに部活らしくなってきましたね」

 

山田がコルクボードに写真を貼りつけながらそんなことを言った。

確かに、これがあるだけで”部室”という雰囲気が出てきた。

 

「そうですわね。だからこのまま終わるのは勿体無いですわね」

 

セレスさんが私を見ている。なにやら嫌な予感がする。

 

「せっかくですから、黒木さんには部長として部に貢献してもらいましょうか」

 

邪悪な笑顔だった。もう予感なんてもんじゃない。

 

「黒木さんには、その姿のまま部員の勧誘に行ってもらいましょう!」

「なッ・・・!?」

「おお~~!名案ですぞ、さすがセレス殿!」

 

完全に的中した。

私を指差し、わけのわからない提案をするセレスさん。

山田はそれに同調し、はしゃぐ。

 

「い、いや、いやいやいや!マジ無理!無理だから!」

 

私は拒絶する。

当たり前だ。私が部員の勧誘・・・?できるわけねーだろ!

 

「黒木智子殿、今、メチャクチャおいしいですぞ!ヤッチャいなよ、YOU!」

「ふ、ふざけんなよ!や、ヤダよ、絶対!」

 

完全にオモチャにしてやがる。誰が行くものか!

 

「イメチェンでモテモテになるかも!楽しんでくればいいじゃないですか」

 

「・・・・・・。」

 

その言葉に私は言葉を止めた。

 

「楽しい・・・とか、ダメだろ」

 

「え?」

「私が・・・楽しいとか・・・そんなのダメだろ」

「え、黒木智子殿・・・?」

 

そうだ・・・そんなのダメだ。

何をやってるのだ、私は。

ゴスロリをして、煽てられて・・・何を浮かれているんだ、私は。

 

「山田・・・ダメだよ、私は」

 

空気を察したのだろう。山田は言葉を止める。

 

「知ってるだろ?私のせい・・・なんだ。

私のせいで・・・みんながあんなことになって・・・全部私のせいで」

 

そうだとも。

全部私のせいだ。ちーちゃん達がああなったのは、全部私のせい。

 

「その私が楽しい・・・なんて・・・そんなこと・・・許されるわけないじゃないか」

「く、黒木智子殿・・・」

 

山田は私の言葉に聞き入り、同情の視線を向けた。

その視線が、心の傷に染み込み、少しだけ心地よかった。

 

そうとも。

私は罪人だ。決して許されることは無い。

私以上に罪深い者はここにはいない。

誰もあの絶望はわからない。

わかるはずがない。

ここに私以上に不幸な人間などいない。

この苦しみを、この絶望を理解できる者などいないのだから。

 

 

「・・・・・・。」

 

 

彼女の視線に気づいたのはその直後だった。

セレスさんは、ジーと私を見つめていた。

赤い目を見開き、私を無言で見つめていた。

 

「え、な、何かな、セレスさん・・・?」

 

得も言われぬプレッシャーを感じた私は思わずセレスさんに聞いた。

 

「え・・・あ、ああ、わたくしとしたことがうっかりしていましたわ」

 

私の問いかけにハッしたセレスさんは、頭を振るしぐさをした。

 

「いえ、黒木さんが余りにも退屈な話をしていたので、目を開けたまま寝てしまいました」

「絶対嘘だろ、それ!」

 

私は即座にツッコミを入れた。

何言ってんだ、この女!シリアスな雰囲気がぶち壊しじゃねーか。

 

「黒木さん、貴方が暗い人間であることは知っています。

陰キャでコミュ障で、ゲスで品性のひん曲がった下劣な、

まさにクズであることは、わたくしも良く存じ上げております。

だから、その性格に関して、貴方を責めるつもりはありません」

 

突如、私の性格を理解していることをアピールするセレスさん。

確かに・・・私は、クズを自称しているが、それでも限度というものがある。

さすがに泣くぞ、それは!

 

「ですが、だからと言って、自らを貶めることの正当化にはなりません。

おわかりですか?黒木さん!」

 

セレスさんは、私を指差す。

その距離が、あまりにも眼前だったので、おもわず後ずさりしてしまった。

 

「仮にも貴方はわたくしが名誉顧問を務める部の部長。

ならば、その役職に相応しい最低限度の品格が求められます。

わたくしの前で、自分を卑下することは止めなさい。

貴方のために、ではなく、このわたくしのために、です。

反論は許しません。これは命令です!」

 

「は・・・はいッ!」

 

一気にまくし立てられて思わず返事をしてしまった。

 

「わかればよろしいですわ」

 

セレスさんは、満足そうに頷き、いつもの微笑を浮かべた。

彼女はまるで傍若無人な暴風雨そのものだった。

私が作ったシリアスな空気は、

彼女に蹂躙され、一切合切吹き飛ばされてしまった。

暴風雨の後には、カラッと晴れて太陽と小鳥の鳴き声が聞こえる。

今の私の心境はまさにそんな感じだ。

 

セレスティア・ルーデンベルク。

彼女は、超高校級の“ギャンブラー”であり、

高飛車で高慢な女帝であり、傍若無人な暴君であり、この娯楽室の絶対君主。

徹頭徹尾、勝手気ままに自分のためだけに動く。

その言動に、私も山田もあの日から今まで振り回され続けている。

本当に迷惑極まりなかった。

だけど、それが不快でなく、

むしろ吹き抜ける夏の風のようにどこか爽快感があるのは、

彼女がその全てにプライドを賭けているからだと思う。

嘘まみれの彼女のただ一つの真実。

十神のように生まれに恵まれず、一般人として生まれた彼女が、

ただギャンブルの才能のみで己が信念を貫いてきた。

決して卑屈になることなく、思うがままに我がままに。

だからこそ、彼女の言葉には力があった。

私の作ったシリアスの空気を鼻で笑い、軽く吹き飛ばしてしまうほどの。

過去などくだらない、と。

それは、私の心を覆う雨雲を吹き飛ばすかのように、

 

どこか清清しく、何か救われたような気がして・・・

 

(・・・ってダメだろ!救われちゃ!)

 

何を言っているんだ、私は!

ダメだ!ダメだ!私は罪人。私は罪人。私は罪人。私は罪人。私は罪・・・

 

「何を一人でブツブツ呟いているのですか?キモいですわよ」

 

セレスさんの罵倒も含めたツッコミで私の意識は現実に帰還する。

 

「さあ、話を戻しましょう。山田君、募集の広告作りに取り掛かってください」

「もう準備できましたですぞ!」

 

山田が”新入部員募集!”と派手に書かれた紙を両手で掲げる。

前言撤回。

全然救われない!ただの性格最悪のクソ女ですよ、コイツは!

 

「ぜ、絶対に嫌だぞ!だ、誰が行くもんか!」

 

私は全力で抗議する。

当たり前だ。

私のようなボッチ属性のコミュ症が、ゴスロリ服のコスプレで部員の勧誘?

恥ずかしくて死ぬわ!完全に公開処刑じゃねーか!いっそ、今ここで殺してくれ!

 

「どうしても嫌・・・というなら、仕方ありませんね」

「どうしても・・・というなら、アレしかありませんな」

 

クズどもがアイコンタクトをとりながら頷く。

ヤツらが何を言おうとしているのか、私にもわかっていた。

この娯楽部におけるただ一つのルール。

押し通したい何かがあるならば、それは力を持って、他者を捻じ伏せるしかない。

 

つまり―――勝負(ギャンブル)だ。

 

「さぁ、勝負ですぞ!黒木智子殿!」

 

両手を組み、ポキポキと音を鳴らしながら(実際できてないが)山田が前にでる。

 

「じゃ、じゃんけん・・・で!」

 

私は運を神に任せた。

セレスさんは、その才能のハンデとして最後に戦うことになっている。

そのため、敗北者が勝者に服従するという条件においては、

山田と私は2回チャンスがあることになる。

だが、それは建前。

ギャンブルでセレスさんに勝てるはずもなく。

実質は、この山田との対戦がラストチャンスだった。

 

「山田君、つまらないオチだったら、殺しますわよ!」

 

セレスさんが、ふざけた檄を飛ばす。

 

「わかってますぞ!こんなおいしい展開、逃す手はありませんよ!」

 

山田はその檄に応える。このクズどもが・・・!

 

私は神に願う。

 

(神様・・・一生のお願いです。私に・・・ただ1度の勝利を」

 

じゃんけーん――

 

瞬間、脳裏に神の啓示が下りた。私はそれに従い、右手を差し出した。

 

「やった~~~笑いの神様、ありがと~~~~!!」

「ぎゃぁあああああああ~~~~~~~ッ!!!!」

 

山田が拳を握りジャンプした。

私は、チョキをしたまま、絶叫する。

 

(しまった~~~ギャンブルでは負けフラグの神に祈ってしまったぁあああ~~~~~)

 

某ギャンブル漫画の主人公のセリフが頭を過ぎる。

 

「うふふ、次はわたくしとですね。結果は見えているので、止めますか?」

 

ラスボス登場。

ギャンブルの魔王が満面の笑みを浮かべている。

 

(う、うう・・・)

 

私は追い詰められる。

このまま戦わなければ罰ゲームは決定してしまう。

窮鼠猫を噛む。

もはや、この最強相手に勝つしか道はなかった。

 

「ゆ、遊戯キングで・・・勝負だ!」

 

私が選んだのは、某漫画から発生した大人気カードゲーム。

何を隠そう、私はこのゲームで”クイーン”と呼ばれた女(駄菓子屋で、小学生に)

魔王に人間の女王の力を見せてやる!

 

「じゃあ、始めましょうか」

 

セレスさんは私の気合を他所に、ゲームの準備を始める。

だが、その目はすでにギャンブル師のそれだった。

ゲームが始まり、十数分後。

 

「また強いモンスターを引いてしまいましたわ」

 

セレスさんのフィールドにはすでに3体のモンスターが召還されていた。

どれも生贄によって強化された怪物達。

次のターンで私に総攻撃をかけて、一気に終わらせるつもりだろう。

さすがに引きが強い。

だが、私も”クイーン”と呼ばれた女(駄菓子屋で、小学生に)

まだ逆転の策があった。

手元のカードには「引きこもった者」のパーツが揃っていた。

あとは「引きこもった者の右腕」さえ引けば、”人生逆転”が発動。

このデュエルは私の勝利となる。

だが、そんな都合よくそのカードを引けるだろうか?

この土壇場で、だ。

それが・・・あるのだ。

私は、そっと袖口に視線を移した。

ここに例のカードが仕込まれていた。

これが無敗のクイーンの必勝法(駄菓子屋で、小学生相手に)!

カードを引くふりをして、袖からカードを引く。

それで、このデュエルは私の勝ちだ!

もちろん、相手はギャンブル魔王。

このような手が通じるとは正直思えない。

だが、万が一はありえる・・・!私はそれに全てを賭ける!

 

私はカードを取るふりをして、袖口に手を・・・

 

「おい」

「え・・・?」

 

ほぼ同時腕を掴まれた。

 

「ん?お前、まさかそんな古典的なイカサマする気じゃないよな?」

「え、えーと・・・」

 

セレスさんは微笑を浮かべているが、目は笑っていなかった。

 

「お前まさか、このわたくしに・・・超高校級の“ギャンブラー”に

万が一でもこんなくだらねー手が通じると思ってないよな・・・?」

「イッ・・・!?」

 

掴まれた腕がギュッと締まる。

 

「ん?おう?」

「ぎゃぁあああああ~~~~~~ッ!!」

 

セレスさんの手から血管が透けて見える。

次の瞬間、”メキリ”という音が聞こえた。

 

 

「すいませんでしたぁあああ~~

勧誘してきまぁあああすぅうううう!何でもやりまぁあああすぅううう~~ッ!!」

 

「ん・・・?」

 

 

 

新入部員勧誘決定―――

 

 

 

 





【あとがき】
本来ならば次話も含めて1話で投稿しようとしましたが、
字数が予想を超えて多くなったために、2話に分けました。
中編に突入し、今回がある意味最後の日常回となります。

個人的に、仕事が忙しくなってきまして、
なかなか書けない日が続いています。
更新できるだけマシと考えて、少しずつでも書いていきたいです。


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