私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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新世紀銀河伝説再び! 装甲勇者を大地に立て! 後編③

「た・い・く・つ・ですわ~」

 

モノモノマシーンで引き当てたであろうだるま落としを

セレスさんはコタツの上で退屈そうに小槌で叩く。

気だるそうな声を聞くまでもなく、

もはや退屈が末期なのはこの光景が雄弁に語っている。

 

「あ・・・ッ」

 

彼女が声を発した直後、コツーンという音と共に私の頭に衝撃と鈍い痛みが走る。

 

「・・・。」

 

何が起きたか顔を上げて確認する必要すらない。

大方、小槌の手元が狂い、

だるま落としがコタツの対岸で顔を伏せている私の頭に激突したのだろう。

 

 

「いつまで不貞腐れているのですか?」

 

加害者の分際で苛立つセレスさんの声が聞こえる。

 

「・・・。」

 

反応はない。

ただの死体のようだ。

 

 

 

  "最低・・・なことをしてしまった・・・"

  

  

昨日の・・・石丸君の表情が思い出す。

クラスメイトを2人も殺したクズが被害者の親友を侮辱した。

苦しみの中それでも希望に向かって

再び歩き出そうとした・・・そんな石丸君を私は酷い言葉で罵倒してしまった

最低も最低。

クズなどという言葉が生易しい。

これ以下の存在が見つからないほど何かだ。

だからこそ、クロにすら見捨てられ朝まで廊下で泣き伏せることになったのだ。

その後はというと、

部屋にこもり拒食を繰り返す定番ムーブ。

また死ぬことも出来ず、恥知らずにもホームであるこの娯楽部へと戻ってきた。

娯楽部には山田の姿はなく、セレスさんがひとり退屈そうに暇を持て余していた。

そして話は今に至る。

 

「久々に姿を見せたと思ったとたん、ドヨーンと負のオーラを垂れ流して・・・

貴方が暗くて陰気な性格であることは熟知していますが、それでも限度がありますわ。

おわかりですか、黒木さん!」

 

加害者が被害者にまくし立てる言葉ではないが、ある意味当然だろう。

久しぶりに部屋に来たと思ったら、負のオーラ全開で、こたつの天板に顔を伏せること数時間。

私ですら立場が逆なら"なんだコイツは・・・?"と思うに違いない。

 

「何かあったのでしょうけど・・・前にも言いましたよね。

それ、わたくしの前ではやめて頂けませんかと」

 

確かに・・・そんなことを言われていた気がする。品格がどうのこうの的なことを。

これ以上、無言でいると怒り出しそうなので私は顔を上げる。

 

「よろしい。では話を聞きましょう。お茶を用意してください」

 

"私がかよ・・・!?"とズッコケそうな感覚は久しぶりだった。

そうそう、セレスティア ルーデンベルクとはそういう女だった。

 

「まずいですわ。材料に問題がなければ、やはり作り手に・・・」

 

ブツブツと文句をいうセレスさんを見て、何か懐かしさを感じる。

 

(何か、本当に久しぶりだな・・・娯楽部)

 

部屋を見渡す。

当たり前だが、娯楽部は何も変わってない。山田の不在を除けば。

 

「そういえば、貴方。モノクマの呼び出しの時、居ませんでしたね?」

「え、う、うん・・・」

 

そういえばあの野郎、体育館に呼び出しをかけてたな。無視したが。

 

「行かなくて正解ですわ。クロになり卒業に成功した者に100億円を与えるそうですわ」

「ひゃ、100億・・・」

 

な、なかなかの金額じゃねーか。貧乏人では生涯にその百分の一すら届くか怪しい。

 

「ナンセンス!このセレスティア ルーデンベルクを動かしたいなら桁を間違えていますわ!」

 

なんかポーズを決めてセレスさんは宣言する。

さすが超高校級のギャンブラー。

金は貰うものではなく、賭けるものということか。

 

「十神君は当たり前として、皆、興味を示しませんでしたわ。ある方を除けば」

「え、葉隠?」

「ザッツライト!」

 

セレスさんが指差すジェスチャーをする。

 

「生まれの卑しさというのか、前世の業というのか、

あの方の目は明らかに$になっていましたわ。次のクロは間違いなくあの方ですわ」

 

葉隠れの目が$になるのが簡単に想像できる。

引きこもってる間にそんなことがあったのか。

そうか・・・いよいよか。

身体が僅かに震えるのを感じる。

心では死を願いながらも身体は拒否している・・・という感じなのだろうか?

 

「貴方・・・最近、"アレ"の所に行ってないらしいですわね」

「え、なんで・・・!?」

 

ギクリとした。

変化球が来るかと思ったら、ど真ん中に剛速球がきたような心境だ。

 

「狭い世界ですからね」

 

セレスさんは溜息をつく。

まあ、2Fしか移動スペースがないしね・・・。

 

「脱落したと専らの評判ですわ。哀れな負け犬野郎と」

「いやいや、前半は認めるけど、後半は絶対アンタが付け加えただろ!?」

 

やっぱり噂になってたか。

それにしても久しぶりにツッコミをした気がする。

 

「あら?少しは元気が出てきたじゃないですか」

「ば、馬鹿にされて怒っただけだが?」

「ドヨーンとされてるよりはましですわ」

 

セレスさんはクスリと笑った。

彼女なりに気を使ってくれたのか?いや、まさかね。

 

「貴方はそれとして、問題は豚さんですわ」

「え、山田?」

 

豚で通じるのはある意味可哀想だが、アイツならまあいいや。

セレスさんの表情が曇っている。

一体何があったのだろうか。

 

「簡単な話ですわ。最後に残った豚さんと石丸君。

仲の悪い2人。勝者は1人。争いになるのは必然でしょう。

最初の方は、お互い時間が多い少ないと言い争っていたのですが、

それが日に日にエスカレート。

ついに、昨日は取っ組み合いを始めてしまいてんやわんや。

苗木君達が止めなければ殴り合いを始めたでしょうね」

 

「え・・・?」

 

「本当に馬鹿ですわね、あの豚は。あんなものに熱を上げて、ここに顔も出さない。

これでは、わたくしがあの豚さんを健気に待つ乙女みたいじゃないですか。

このセレスティア ルーデンベルクですよ!」

 

セレスさんが忌々しそうにお茶を口にする間、

私は山田と石丸君とちーちゃん・・・アルターエゴのことを思い浮かべる。

 

(私がいなくなることで・・・そんなことに)

 

居ても居なくても誰かに迷惑をかける・・・まさに疫病神のような存在だと改めて実感する。

 

「またドヨーンとなってきましたわよ」

 

セレスさんの声で顔を上げる。

 

「貴方が落ち込んでいるのもその辺が関係しているのでしょう?」

「う・・・」

 

上手く誘導された気がする。

まあ、どのみち話すつもりだったからいいけど・・・。

 

そして、私は石丸君とのことをセレスさんに話した。

アルターエゴの件で、石丸君に酷いことを言ってしまったことを。

 

「なるほど、そんなことがあったのですか」

 

基本、自分以外に興味がない彼女が珍しく真剣に話を聞いていた。

覗き込むように私を見ていた。

 

「き、傷つけてしまった・・・石丸君の心を。私が・・・」

 

取り返しがつかない。そう全ては――――

 

 

「私が悪いんだ。全部私が・・・」

 

 

 

ちーちゃんも大和田君も私のせいだ。私が悪いんだ。

 

「ふぁああ」

「え・・・?」

 

見ると先ほどまで真剣に聞いていたセレスさんが

あからさまに大きな欠伸をしていた。

下品に、口を開けて。

"お前の話にはまるで興味がない"そう主張するかのように。

 

「失礼すぎるぞ、コラァアアア―――!!」

 

私はコタツから立ち上がり絶叫する。

 

「あら、退屈な話は終わりましたか」

 

セレスさんは、ケロリとしている。

言いやがった・・・本当に退屈と言い放ちやがった。

 

「アンタが話せって言ったんだろがぁああ!!」

「そうですけど、子守唄とは聞いていませんでしたわ。思わず爆睡してしまいましたわ」

「寝てないだろ!」

「まあ、いいじゃないですか、聞きたいことは聞けましたし」

 

全然よくねーよ、なんだよ、この女は。

普通もっと何かあるよね、同情とか共感とかさあ。まあ、普通の女じゃねーけど。

 

 

「・・・言って差し上げてもいいですが。

これに関しては、やはり貴方自身が気づくべきですわ」

「え・・・何が?」

 

何か意味深なことを言ってお茶をすするセレスさんに私は困惑する。

何なのだ、この女は。

同情どころかわけのわかんねーことを言って煙に巻くしさぁ。

中学時代の親友であるゆうちゃんの顔を思い浮かべる。

彼女がここにいたら、泣きながら私を抱き締めてくれるだろうに・・・。

 

「それより・・・貴方は本当にアレを諦めたんですか?」

「え・・・?」

 

気づくと再びセレスさんが私を覗きこむ。

 

 

 

 

「アレを独占したいと思わないんですか?

何を犠牲にしても・・・アレを手に入れたいと思わないのですか?」

 

 

 

覗き込んでくる・・・大きな赤い目で・・・私の心を。

 

「わ、私は・・・」

 

私は・・・どうしたいのだろう。

 

 

アルターエゴを・・・ちーちゃんを・・・

 

 

 

私は・・・

 

 

 

 

  "ただの――プログラ――――"

  

 

ハッとした。

自分の言った言葉に。石丸君を傷つけた・・・私の本心に。

 

「ううん・・・もういいんだ」

 

私に・・・そんな資格はないんだ。

 

「そう・・・ですか」

 

その言葉と同時に心を覗き込まれるような気配が消えた。

 

「ええ、貴方が正しいですわ」

 

ヤレヤレといった感じでセレスさんは手を広げた。

 

「アレはただのプログラム。不二咲君でも何でもないですわ。

黒木さん、貴方は正しい。イカレてるのはあの豚さんですわ」

「そ、そうなの?」

「ええ、そうですわ。私の召使であるという本分を忘れて、

あんなプログラムに入れ込んで、本当に忌々しい豚ですわ」

 

セレスさんは山田をボロクソに貶す。

つい最近まで山田と同じ立場だった私は笑えなかったが。

 

「そして・・・そろそろですわ」

 

セレスさんはコタツから立ち上がる。

 

「そろそろですわ・・・黒木さん」

「そろそろ?」

「ええ、そろそろ、限界ですわ」

 

え、一体何が・・・?

 

「そろそろあの豚さんをここで待つのは限界ですわ!

これじゃわたくしがあの豚さんに放置プレーされてるみたいじゃないですか!

このセレスティア ルーデンベルクが!こんな屈辱ありえませんわ!」

 

セレスさんは絶叫する。

そういえば、さっきもそんなこと言ってたな。

どんだけプライド高けーんだよ!

そんなことは山田本人はおろか誰も思ってねーよ、アンタ以外は!

 

「というわけで、わたくしはしばらくここに来ません。

では黒木さん、ごきげんよう」

 

そう言って、セレスさんはスタスタと娯楽部から出て行った。

シーンと静寂が辺りを包む。

私はもうまた娯楽部を見渡す。

セレスさんが出て行った娯楽部は、さきほどより広く感じた。

山田もセレスさんもいない部屋を見つめる。

 

突如始まった娯楽部は、突如として終わりを告げたのだ。

 

私は最初にこの部屋に来た時のように部屋の真ん中に立ち、手を広げる。

 

 

見渡す遊戯、全ては私のものだ。私だけのものだ。

 

 

「そうだ・・・ここをわたしのアジトとしよう・・・」

 

 

ダーツもビリヤードも全てわたしのものだ!

全部私が独占して、遊び尽くしてやるのだ!

 

 

アハハハ、アーハッハハハハ・・・ハハ・・・ハ・・・ハ

 

 

誰も居なくなった部屋の中で私の笑い声だけが空しく響いた。

 

 

 




【あとがき】

今後とも細々と頑張ります。
暇な時にでも読んでやってください。


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