私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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新世紀銀河伝説再び! 装甲勇者を大地に立て! 後編⑤

「それではみなさん、山田君を襲ったクロ・・・通称”ジャスティスロボ”の捜索を開始致します」

 

廊下に集まった私達の前でセレスさんはそう宣言した。

 

「ジャスティスロボを見つけ次第、叫んでください。叫び声は・・・何がよろしいでしょうか?」

 

セレスさんは意外にどうでもいいことに拘っていた。

 

「キャーでもギャァアアアアでもどっひゃー!でも何でもいいよ!」

「ウフフ、どっひゃー!なんてそんなリアクション聞いたことがありませんわ」

 

朝日奈さんの提案にセレスさんは可笑しそうに笑った。

今日はやたらとテンションが高い。

あんなことがあった後だからなのだろうけど。

私は・・・この会話にどこか集中できないでいた。

山田の・・・どこか寂しげな後ろ姿がやたらと脳裏にチラついていた。

捜査が開始されて、すぐにそれは起こった。

 

「どっひゃぁああああああああああ~~~~~~~~~~~」

 

聞いたこともないリアクションが校内に響き渡った。

急いでその声の方に走る。

階段を上がった2Fの踊り場にセレスさんが倒れて・・・というより腰を抜かしていた。

 

「いましたわ!ヤツです。ジャスティスロボですわ!3Fに逃げて行きました!」

 

セレスさんが階段を指差す。

 

「ククク、3Fだな。逃がすか!」

「あ、ま、待って、白夜様!」

 

十神が階段を駆け上がって行く。慌てて腐川がその後を追う。

 

「僕達も行こう!」

 

苗木君がそう叫んだ直後だった。

 

 

    ”ぎゃぁああああああああああああああああ~~~~~~~~ッ!!”

 

 

下の階から叫び声が聞こえた。

 

(や、山田・・・!?)

 

それは紛れもなく先ほど喋っていた山田の声だった。

クロは上に逃げたはずなのに、なんで・・・!?

場に混乱が起きる。

どちらに向かえばいいか、即座に判断がつかないからだ。

 

「・・・仕方ありませんわ。二手に分かれましょう」

 

セレスさんが口を開いた。

 

「クロの確保を優先します!大神さん、十神君の後を追ってください。ついでに黒木さんも」

 

セレスさんは最大戦力の大神さんをクロ確保に向かわせた。

ついでに私も・・・え、私も!?

 

「山田君の方には、私と朝日奈さん、それに苗木君で十分でしょう。それではお願いします」

 

「うむ!」

 

大神さんは3Fに向かって階段を駆け上って行った。

 

「黒木さん・・・?」

 

私は・・・その場に残った。

 

「わ、私は山田の方に行こうかな」

 

山田が気がかりだった。あの後ろ姿が妙に気にかかった。

 

「いや、間に合ってますわ。大神さんを追ってください」

「いや、だから、山田の方に」

「いやいや、だから間に合ってると」

「いやいや、でもやっぱり山田が」

「いやいやいや、ちょっとしつこいですわよ」

「いやいやいや、セレスさんもなんか意地になってない?」

「いやいやいやいや、意地になってませんわ。黒木さんが頑固なだけですわ」

「いやいやいやいや、声が荒くなってない?やっぱりイラついて・・・」

 

お互い合計で何度”いや”と言ったのだろうか・・・?

コントみたいな押し問答がしばらく続いた。

それにしてもなんでこんなに頑ななんだろう?やっぱり意地に・・・

”ぶちッ”という異音が聞こえたような気がした直後だった。

 

「テメーガタガタ言ってねーでさっさと行け!ぶち殺すぞ!」

 

髪を逆なでながらセレスさんがブチ切れた。

 

「は、はぃいいいいい~~~~~」

 

こうなってはどうしようもない。

私は、情けない声を上げながら、3Fへの階段を駆け上がった。

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

 

3Fは思いのほか静かだった。

十神がクロを追い詰め格闘しているなら、

もっと騒がしいはずだから、まだ見つけられていないのかな?

大神さんが見つけて倒してしまったということも考えられる。

人類最強の一撃。

文字通り一撃必殺だろう。

真っ二つになるジャスティスロボが頭に浮かんだ。

その場合、そっちの理由で学級裁判になってしまうな・・・。

そんなことを考えながら物理室の前を通った時だった。

 

「黒木・・・」

 

私を呼ぶ声にぎょっとして振り返った。

物理室の中には大神さんがいた。

 

「こっちだ」

 

そう言って大神さんは奥の物理準備室に歩いていった。

その顔はいつもより怖く、声が張り詰めていた。

ただならぬ雰囲気を感じ、胸が締め付けられるようだった。

大神さんの後を追い、物理準備室に足を踏み入れた瞬間、叫びそうになった。

腐川が倒れていた。

 

(クロに襲われた・・・!?)

 

目立った外傷は見当たらなかった。

 

「ソイツは血を見て気絶しただけだ」

 

壁に寄りかかりながら十神が忌々しそうに説明した。

 

「そこに倒れているヤツを見てな・・・」

 

(あ・・・)

 

十神が指さす先には・・・彼が・・・石丸君がいた。

頭から血を流して・・・石丸君は仰向けに倒れていた。

その傍らに【ジャスティスハンマー4号】そう記された凶器が置かれていた。

 

「あ、あああ・・・・ああ」

 

石丸君が・・・殺されてしまった。

 

「石丸君・・・どうして・・・」

 

私は石丸君の横でがっくりと膝を屈した。

石丸君と最後に会った時のことが脳裏を過ぎる。

あの悲しそうな後ろ姿が。

涙が・・・込み上げてきた。

絶望と戦い続けた彼は・・・結局、最後まで救われることはなかったのだ。

 

石丸君は・・・絶望したまま・・・

 

 

「く・・・黒木・・・君」

 

声が・・・聞こえた。

 

「黒・・・木君・・・」

 

石丸君の声だった。

石丸君はうっすらと目を開け、虚空を見ていた

 

「黒木君・・・そこに・・・いるのか」

 

石丸君は天に向かって手を伸ばした。

 

「いるよ!ここにいるよ!!」

 

無我夢中で私は手を掴んだ。

 

「黒木・・・君」

 

石丸君は私の方を見た。

青ざめた表情。

その表情はろうそくの炎が消える前を連想させた。

それでも私の手を握る力は強かった。

まるでろうそくの炎が消える直前にいっそう激しく燃えるように。

 

「待たせたな・・・黒木君」

 

そして・・・私は確かに見た。

 

 

  ”約束どおり・・・僕は帰ってきたぞ!”

  

 

そこにいたのは紛れもなく彼だった。

いつもその瞳に希望の光を燃やしていた・・・在りし日の彼。

 

そこにいたのは・・・超高校級の”風紀委員”石丸清多夏君だった。

 

「黒木君・・・信じるんだ」

「え・・・?」

 

 

”希望は・・・ここにある。ここに・・・あるんだ!”

    

 

そう言った後で石丸君は言葉を続けたが、聞き取ることはできなかった。

私の手を握る力が抜け落ちてすぐに・・・石丸君は息を引き取った。

 

私は・・・彼が何を言っているのかわからなかった。

彼がなぜこんな満ち足りた笑顔で死ぬことができたのか・・・理解できなかった。

 

「石丸君・・・なんで・・・だよ」

 

君は私と同じはずなのに。

私と同じように絶望していたはずなのに・・・なんでそんな顔で・・・。

 

キーン、コーン…カーン、コーン♪

 

 

 

  「死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、“学級裁判”を始めます!」

 

 

校内にあの忌まわしい放送が鳴り響く。

 

「そんな・・・!石丸君”まで”・・・」

 

その声に振り返る。

そこには苗木君が悲痛な顔をして立っていた。

 

(・・・”まで”・・・?)

 

苗木君の言葉が引っかかった。

 

「黒木さん・・・」

 

何かを伝えようとする苗木君の表情はあの時とそっくりだった。

私は耳を塞ぎそうなった。

 

だって、それはきっと―――

 

 

 

 

    ”山田君が・・・殺された”

    

 

 

 

その後・・・苗木君の後をついて保健室に戻った。

 

「このままでは殺されてしまいます・・・彼らのように殺されてしまいます」

「イヤァアアアア殺されちゃうよ!このままじゃ全員アイツに殺されちゃうよ!」

 

保健室では殺された山田の死体が消えていた。

物理準備室の石丸君の死体もなくなっていた。

朝日奈さんの悲鳴が聞こえる。

霧切さんが合流した。

犯人は葉隠・・・らしい。

周りの声があまり耳に入らなかった。

私は考えていた。

ずっとずっと・・・山田のことを考えていた。

あの後ろ姿が頭から離れなかった。

そんな私を苗木君は気遣ってくれて一緒にいてくれた。

そして私達は山田と石丸君の遺体を捜した。

 

探して・・・探して・・・探した。そして―――

 

「苗木君・・・黒木さん・・・」

 

3Fの階段の前でセレスさんが佇んでいた。

山田と石丸君は美術室にいた。

山田は仰向けに倒れていた。

頭から血を流していた。

私は・・・ようやく山田が死んだことを受け入れた。

膝を屈し、山田に顔を近づける。

青ざめた顔・・・石丸君と同じだった。

 

    ”あの・・・生きてますから”

 

そう言って目を開けてくれるならどんなに嬉しいだろう。

騙されたっていい。笑って許してやる・・・だから

 

「あ・・・ああ」

 

また涙が零れ落ちた。

山田が・・・死んだ。死んでしまった。

 

「だ・・・から・・・しょっぱいって」

「え・・・?」

 

山田が喋った!?生き返った!

 

「また・・・泣いて・・・すか」

 

でも・・・それは神様の気まぐれ。

もう山田は助からないことはわかっていた。

 

「く、黒木智子殿・・・」

「いるぞ!私はここにいるぞ!山田!」

 

石丸君の時のように私は山田の手を握る。

 

「さ、寒い・・・すごく寒い」

「だ、大丈夫だ!もう少しで暖かくなるから!ほら!」

 

必死で手を握る。抱きつくように少しでも山田が温まるように。

 

「黒木智子殿・・・僕達は出会う前から出会ってたんですね・・・」

「うん・・・?そ、そうだ!そうだよ!」

 

山田は意識が混濁してわけがわからないことを言い始めた。

私は必死に叫ぶ。

 

「山田!一体誰にヤられたの!?」

 

合流してきた朝日奈さんが後ろで叫ぶ。

 

「あ、あの人を・・・止めてあげてください」

 

山田は私を見つめた。

 

「や、やすひろ・・・たえ・・・」

 

その直後、山田から力が抜け落ちた。

死んだ。

今度こそ・・・山田は死んでしまった。

私は石丸君を見る。

石丸君は満ち足りた笑みを浮かべたままだった。

 

 

 

”希望は・・・ここにある。ここに・・・あるんだ!”

    

    

 

石丸君・・・君は最後にそう言っていたね・・・でもね・・・

 

キーン、コーン…カーン、コーン♪

 

 

  「死体が発見されました! 一定の捜査時間の後、“学級裁判”を始めます!」

  

 

再び、あの悪鬼の愉しそうな声が聞こえる。

始まる・・・またあの地獄が。

二人ものクラスメートの・・・仲間の死を引き換えにあの地獄が・・・学級裁判が始まってしまう。

 

 

 

 石丸君・・・ここには“希望”なんてないよ・・・。

 

 

 

 

 

 

 

◆  ◆  ◆

 

 

 

 

 

 

 

ドカ!ドカ!とドアを叩く音が聞こえる。

何か重いものをドアに叩きつけ、その衝撃がこちらまで伝わってくる。

ドアの内側はガムテープで雁字搦めに固められ、

バットやら机やら椅子やら小型冷蔵庫やら考えられる限りのあらゆるものが置かれ

侵入する者を拒む防壁となっていた。

私はその防壁を必死に押して侵入者の・・・モノクマの侵入を防いでいた。

 

(誰が・・・誰が出るものか!)

 

誰が裁判なんて出てやるものか。

もう二度と・・・あんな思いはゴメンだ。

あんな思いをするんだったら、ここで死んだ方がましだ。

私がここに居続ければ裁判は開くことはできない。

ずっとこうしてやる。

餓死するまでここでこうしてやる!

直後、音が止んだ。

何が起きた・・・?と耳を済ませた瞬間、爆発音が響き、衝撃で吹き飛ばされた。

 

「う、うう・・・」

 

頭を押さえながらドアを見る。

見るとドアの一部が焼け落ちていた。

 

「ヒ・・・ッ!」

 

小さい悲鳴を上げてしまった。

焼け落ちたドアの隙間からモノクマの鋭い目がこちらを見ていた。

 

「お前さぁ~~~本当はわかってるんだろ?」

 

そういいながらモノクマはキィ~とドアを開ける。

 

「こんなことしても無駄だって・・・本当はもうわかってるんだろ?」

 

倒れている私に近づきながらモノクマを見透かしたように言う。

 

「ねえ、もこっち」

「ヒィッ!」

 

モノクマはヌゥと顔を近づけた。

 

「ボクは今、怒っているんだ。せっかくの学級裁判を前にキミなんかに無駄な時間を使ってさぁ」

 

モノクマは言葉を続ける。

 

「ねぇ、もこっち。キミはもう用なしなんだ。

お姉ちゃんがウルサイから仕方なく生かしてあげていたんだ。

それがキミだけが生き残るなんて・・・本当に残姉だよ、まったく・・・絶望の風上にもおけない」

 

私は・・・コイツが何をいっているのかまるでわからなかった。

 

「ねぇ、もこっち。別に今、ここでキミを校則違反で殺してあげてもいいんだぜ。

でもそれじゃあ、せっかくの学級裁判に水が差される・・・苗木君が怒っちゃうじゃん」

 

苗木・・・君?

 

「苗木君・・・彼、いいよね。ようやく見つけたんだ。

うぷぷ…ボクがずっと探していたのは彼だったんだ!」

 

モノクマは感極まったように叫ぶ。

 

「ねぇ、もこっち。これは劇なんだ。

”絶望の主人公"と”希望のヒロイン”の世界の命運を賭けたラブストーリー!

キミはその舞台の登場人物じゃない。

モブキャラですらない。例えるならそう、劇場の外に転がっている小石だよ!」

 

モノクマは私を見下す。明確に・・・小石を見るように。

 

「そんなキミがさぁ~劇の進行を止めるなんて・・・許されると思う?」

 

手からシャキリと鋭い爪を出した瞬間、私の目の前の床に爪を突き刺した。

 

「さぁ、行った行った!ボクの気が変わらない内にね!」

「ヒィヒィイイイイイイイイ~~~~~~ッ!!」

 

私は無我夢中で部屋の外へ出た。

 

「ヒィ!?」

 

外には夥しい数のモノクマが犇いていた。

その中を私はひたすら走る。

モノクマの列で出来た道を走る。

ふらつこうものなら列をなすモノクマから蹴られ、どつかれ、

あの赤い扉の部屋に向かって走り続けた。

部屋には私以外の全員が集まっていた。

 

「セレスさん!うぁあああああああああ~~~んッ!!」

 

私はセレスさんにしがみついた。

 

「黒木さん・・・あらあらまあどうしたことでしょう」

 

セレスさんはそんな私を抱き止めてくれた。

 

「それじゃあ、始めようか!」

 

モノクマは私達を眺めながら愉しそうに嗤った。

 

ゆっくりと地下に向かうエレベーターは、まるで奈落へ落ちていく棺桶のようだ。

セレスさんに手を握ってもらいながら、私は震え続ける。

 

(嫌だぁ・・・)

 

あの地獄が・・・再び始まる。

 

 

(もう・・・イヤだぁああああああああああ~~~~~~~~~~~~~)

 

 

 

 

始まる。

 

 

 

 

 

命がけの裁判…

 

 

 

 

 

命がけの騙しあい…

 

 

 

 

 

命がけの裏切り…

 

 

 

 

 

 

 

命がけの謎解き…命がけの言い訳…命がけの信頼…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

命がけの…学級裁判が始まる…!

 

 

 

 





【あとがき】
第3章残り2話。
たった1話の学級裁判をお楽しみください。
結果はわかっていてもその過程は予想できない(作者以外)・・・
そんなコンセプトで提供している作品です。
この作品が好きになってくれる読者様が1人でも増えるように超スローペースですが
書き続けていきたいです。


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