私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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第3回学級裁判

「うぷぷぷ、では張り切って行ってみようか!」

 

モノクマに促され、いつもの席に座る。

裁判が始まりしばらくすると掻き毟りそうになるほどの震えは少しずつ収まっていった。

それは覚悟を決めた・・・というよりも、それがクロであれ、私であれ、

いずれにせよこの物語がなんらかの終わりを迎えることに対する

安堵に似た諦めによるものだったのかもしれない。

私は願う。

クロの正体が十神白夜であること。

自分が生き残るためならクラスメイトを・・・

仲間を見捨てると平気で言い放ったアイツがクロであったなら私の心は傷つかない。

私は願う。

クロの正体が葉隠康比呂であることを。

たかが金のために私たちを・・・

仲間を平気で売り払うようなアイツがクロであったなら私の心は傷つかない。

 

裁判が進み、クロが十神でないと分かり、

葉隠ではないことが決まった時・・・私は静かに目を閉じた。

 

聞こえてくるのは・・・悪友の声。

 

ジャスティスロボの衣装は設計ミスで腰が曲がらなくてまるで動けないこと。

ジャスティスハンマ―の番号が偽装であること。

山田が騙されてクロに協力していたこと。

 

霧切さんと苗木君により真実か暴かれていく中、彼女の存在に焦点が当たる。

 

「・・・では、わたくしと山田君が組んでいたと、おっしゃるのですね」

 

そう答える彼女はきっと微笑を浮かべているのだろう。

クロの目撃の証言を指摘されても彼女は可笑しそう笑った。

 

「このままだと・・・全員殺されてしまいます。彼らのように殺されてしまいます。」

 

身の潔白を証明するため彼女は事件当時の発言を繰り返す。

 

 

 

              "それは違うよ!"

 

 

 

絶望の闇を切り裂くような苗木くんの言弾が彼女を貫いた。

その衝撃が自分の心臓まで届くような錯覚に襲われたのは、

心のどこかでまだ彼女の無実を信じていたのだろうか。

 

「ふざけてんじゃね―ぞ、このダボッ!!あぁ!?」 

 

不審者の存在を偽装するためのジャスティスロボの仕掛けを見抜かれた時、彼女は豹変した。

 

「た、たまたま・・・ですわ。

その時だけ・・・下の名前を呼んだのでしょう」

 

山田がみんなの名前をフルネ―ムで呼ぶことを指摘されて、彼女は明らかに動揺した。

 

「わたくしが“やすひろ"なんてダセ―苗字の訳が・・・ねーーーだろがッ!!」

 

彼女は金切り声をあげて叫んだ。

その姿は私が知ってる普段の彼女ではなかった。

私の知る彼女は傲慢ではあったが、いつも自信と気品に満ち溢れていた。

取り乱しても優雅さを忘れることはなかった。

 

「ブチ殺すぞ!ピチグソどもがァ―――!!」

 

その彼女が口汚く吠える。 

あらん限りの罵声を浴びせ足掻く。

醜くかった。

信じられないほど無様で、惨めで、みっともなかった。

 

「なら生徒手帳を見せてよ!」

「そんなもの失くしましたわ!」

 

本名が記載されている生徒手帳を見せることを彼女は拒んだ。

その足掻きは結局無駄に終わるだろう。

このまま投票が始まれば、彼女は間違いなく負ける。

彼女は負けを認めることなく、醜態をさらしながらその最期を迎えるだろう。

 

「"負け"なんて認めてたまるかよ!!」

 

それで・・・いいのだろうか?

彼女の最後がそんなものであっていいだろうか?

 

「いいから!耳、かっぽじってよ~く聞きやがれ!」

 

いや・・・そんなことがあってはならない。

彼女の最後がそんなものであっていいはずがない。

彼女の最後は見た目通り美しくあるべきだ。

フランスの貴族のように高貴であるべきだ。

誰よりも優雅であるべきだ。

 

「わたくしの本名は―――」

 

そのためには私は何をしてあげればいい?

仮初の部活の部長として私がしてあげれることは何だ?

 

「セレスティア・ル―デンベルクなんだよぉ―――!!」

 

たった一人の"悪友"として私がセレスさんにしてあげられること・・・

 

それは―――

 

 

「ねぇ、セレスさん。私・・・知ってたんだ。セレスさんがクロだってことを」

 

目を開くと全員が私を見ていた。

 

「貴方も・・・」

 

沈黙の中、セレスさんが口を開く。

 

「貴方まで・・・わたくしを疑うのですか、黒木さん」

 

苦渋に満ちた声だった。

それはきっと演技であり、もしかしたら・・・ほんの少しだけ本音が混じっていたかもしれない。

私はその問いに答えず、言葉を続ける。

 

「クロが十神じゃなかったなら・・・葉隠じゃなかったなら・・・

クロはセレスさんしかいないと・・・思う」

 

あの時の情景を思い出す。

 

「セレスさん・・・言ってたよね。

希望を捨てるって・・・ここでの暮らしを受け入れるって」

 

そう私を諭すセレスさんの瞳を。

 

「その時、私・・・分かっちゃったんだ」

 

その奥底で輝く光を。

 

「セレスさんの目を見て・・・分かっちゃったんだ」

 

それは私や石丸君が失ったもの。

何度鏡を見つめても、もはや私の瞳に存在しないもの

 

「セレスさんが希望を捨てていないことを・・・ここから出ることを諦めていないことを。

だから・・・」

 

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静寂の中、セレスさんは天井を・・・虚空を見つめた。

 

「そう・・・ですか」

 

その静寂はもしかしたら10秒にも満たなかったかもしれない。

 

「貴方なんかに・・・」

 

でも私には何時間にも感じられたその静寂を破りセレスさんは呟くように語る。

 

「凡人の貴方に・・・何の才能もない貴方なんかに」

 

私だけを見つめながら。

 

「わたくしの・・・超高校級の"ギャンブラ―"の本心を見抜かれていた・・・なら」

 

私だけにその言葉を向けて。

 

「ええ、認めますわ。完全にわたくしの"負け"ですわ」

 

憑き物が落ちたように彼女は笑った。

 

「どうやら決まったみたいだね。それでは投票行ってみようか!」

 

状況を伺っていたモノクマが壇上から投票の号令をかける。

運命のスロットは回りだす。くるくる狂る狂ると。私達の運命を乗せて。

そして・・・スロットはクロを示す。

この事件の犯人を。山田と石丸君を殺した人物を。

私達クラスメイトを裏切った者の顔を・・・セレスさんの顔を。

 

「大正解!山田一二三君と石丸清多夏君を殺した真のクロは、

セレスティア・ル―デンベルクこと”安広多恵子”さんでした~!」

 

クラッカ―のけたたましい音とは対照的に場を静寂が支配する。

 

「やはり他人と組むなんて間違いでしたわ」

 

肩を竦めながらセレスさんはいつもの微笑を浮かべる。

これが日常であるならば、私は本名の件でセレスさんこと安広多恵子さんをいじり、

その微笑を大いに歪ませたことだろう。

だが、今は・・・クロと判明した今の状況において彼女のいつもの微笑は・・・

2人の仲間を殺めてなお浮かべるその微笑は、

私以外のみんなには薄気味悪さを超えて狂気にすら感じるだろう。

 

だけど・・・それでも

 

「セ、セレスさん・・・」

 

私には聞かなければならなかった。

 

「あ、あの・・・」

 

全てが終わる前に・・・どうしても聞かなければならなかった。

 

「ほ、本当に・・・」

「ハイハイ!ストップ!ストップ!くだらないお喋りは後にしてよ~!」

 

(・・・ッ!?)

 

問いかけようとした直前にモノクマが横槍を入れてきた。

 

「せっかく盛り上がってきたんだからさぁ~さっそくいつもの”アレ”にいってみようか!」

 

モノクマの意図を理解した瞬間、ドロリと汗が流れ落ちた気がした。

 

やめろ・・・やめてくれ。

それを見せられたら・・・見てしまったら私たちは―――――

 

 

 

 

 

 

  “殺害VTR"スタ―ト~~~ッ!!

 

 

 

 

「アルたん・・・一体どこにいったのですか」

 

寝室でタメ息をつく山田の姿が画面に映し出された。

 

「誰かが僕から奪ったとしか考えられない・・・ウギギ」

 

ストレスから顔を掻き毟る山田。

客観的に見ると、もはや完全に頭がおかしくなってるのがよくわかる。

ち―たんの魔性の魅力というべきか。

私もそうだったから、あまり山田を悪くいえないが。

こんな状態の奴が”アルたん”と意味不明な言葉を口にしても

さほど気にされないのがある意味、救いといえば救いだけど。

 

「犯人は黒木智子殿か!?いや・・・最近あの人、アルたんと話してないみたいだし」

 

私の名前が出た。

ち―たん消失事件は私がち―たんから離れてしばらくして起きたらしい。

 

「てことは、やっぱり石丸の野郎じゃね―か!何が石田だよ!意味わかんね―んだよ!」

 

枕を投げつけ、いまさらながら山田はツッコミを入れる。

 

「でもアイツと僕が近づくとアラ―トが鳴るはずだし・・・じゃあ誰が」

 

直後、“コンコン”とドアを叩く音が聞こえた。

 

「こんな時間に誰ですか・・・あ」

 

ドアを開けた山田が少し驚いた声を上げた。

 

「山田君、こんばんわ」

「セレス殿・・・?」

 

そこにいたのは・・・セレスさんだった。

 

「一体何用ですかな?僕は今、人と話したい気分ではないの・・・え!?」

 

山田の言葉が終わる前にセレスさんは歩を進め、山田の胸に顔を押し付けた。

 

「え!?セレス殿!?え、ええ~?」

 

「山田君、うう・・・うわぁぁああああん。わああああああ」

 

山田の胸の中でセレスさんは泣き出した。

 

「ど、どうしたんですか、セレス殿!?と、とにかく中へ」

 

うろたえた山田はセレスさんを室内に招き入れる。

 

「みっともないところを見せてしまいましたわね」

 

しばらくして泣き止んだセレスさんはハンカチで涙を拭く。

 

「いえいえ、お気になさらず」

 

山田はドキマキと顔を赤らめていた。

 

「山田君に謝罪しなければならないことがあります」

「へ・・・?」

 

謝罪・・・?あのセレスさんが!?

私と同じように山田も驚きの顔を浮かべていた。

それはセレスさんの口から決して出ないものであり、

だからこそ、何か異常なことが起きていることの証明に他ならなかった。

 

 

「“アレ”を盗み出しのは・・・わたくしですわ」

 

 

「え、ええ~~~~~~!?」

 

山田は驚きの声を上げた。

私も同じだ。なぜ、なぜそんなことを!?

 

「なんで、なんでそんなことをしたのですか、セレス殿!?」

 

直後、山田は私の疑問をそのまま言葉にした。

 

「彼に・・・いえ、あの男に命じられたからです」

 

そう言ってセレスさんはデジカメを取り出した。

そこには誰かの部屋にアルタ―エゴのPCが置かれていた。

あからさまに怪しかった。

 

「アルたん!」

 

だが、今の山田にはそれに気づかない。

視界の先のアルタ―エゴに全てを奪われてしまっていた。

 

「石丸君の部屋ですわ」

 

山田が質問する前にセレスさんは答えた。

 

「やっぱりあの野郎か!!」

 

本当に彼の部屋かはその画像ではわからない。

しかしそれは山田にとって問題ではなかった。

自分が思った通りだった・・・それで十分なのだ。

人は信じたいものを信じる。

私はその事実をまさに目の当たりにしている。

 

「ど、どうしてセレス殿がアイツの言うことを聞くのですか、どうして!?」

 

山田の叫びにセレスさんは顔を逸らす。

 

「・・・仕方がなかったのですわ」

「セレス殿!」

 

何かを隠しているセレスさんに山田が再び声を上げる。

しばらくの沈黙の後に、セレスさんは口を開いた。

 

「わたくし・・・石丸君に無理やり“ビィ―――”されてしまったのですわ!」

 

直後、時が止まる。

は、はあぁぁぁ~~!?と叫びそうになった。

 

「その時恥ずかしい写真をとられて、それをバラ撒かれたくなかったらアレを盗んでこい・・・と。

わたくしは逆らうことはできませんでしたわ」

 

私だけでなく全員が硬直していた。

そんなはずはない。

そんなはずはないではないか!

石丸君がそんなことをするはずないじゃないか!

断言できる!

彼は何があろうとそんなことはしない。

誰よりも不正を嫌う彼が。

それ故に超高校級の"風紀委員"まで上りつめた彼が。

親友を救うためにそれを不正だと信じ込み・・・

壊れてしまった石丸君が・・・そんなことするはずないじゃないか~~~ッ!!

 

「あの野郎・・・僕からアルたんを奪うためにそんなことをやりやがったのか~~ッ!!」

 

だが、そんな当たり前のことを山田は気づかない。

 

「許せねえ!アルたんだけでなく、よくも僕の友達を傷つけやがったな~!」

 

まるで疑うことなく憎しみの炎に身を焦がしていた。

・・・ぶん殴ってやりたかった。

画面の中に入り、それこそバケツ一杯の水をぶっかけて

"正気に戻れ!石丸君がそんなことするわけないだろ!バカ!"そう叫んでやりたい。

でも、いくら願っても時は戻りはしない。

そして山田は口にする。

決して言ってはいけない禁断の言葉を。

 

 

「生まれて初めて言う!殺す!石丸清多夏、ぶっ殺す!!」

 

その言葉を前に・・・

 

「・・・ええ、そうしましょう」

 

セレスさんの瞳の色が変わった―――

 

「え、ええ?」

 

場の空気が変わったことに山田は本能で気づき狼狽える。

 

「貴方の言う通りですわ!屈辱を晴らすにはそれ以外にありませんわ!」

 

まるで舞台の上の様に、セレスさんは感極まった声を上げた。

 

「セ、セレス殿?」

 

急激な流れの変化に山田は戸惑うも後の祭りだった。

私には山田の姿が蜘蛛の巣にかかった哀れな獲物に見えた。

それから・・・セレスさんは計画を語り始めた。

石丸君を殺害した後に偽りのクロを演出し自らも負傷すること。

それを全て葉隠の仕業に見せかけること。

 

「貴方が取り調べを受けている間に、わたくしも誰かを殺しますわ」

 

裁判では語られなかった二人が同時に卒業するための秘策をセレスさんは打ち明ける。

その後もセレスさんは語る。

野望を叶える素晴らしさを。

たとえ他人を犠牲にしても、それがクラスメイトでさえ許される。

熱心に、情熱的にセレスさんは語り続けた。

 

「今思えば・・・娯楽部の一員になり、貴方と親しくなったのは運命ですわ。

全ては二人で脱出するための運命です」

 

「・・・娯楽部、ですか」

 

その言葉を前に、山田は顔を曇らせた。

 

「黒木智子殿は・・・どうなるんですか?

それではあの人まで死んでしまうじゃないですか。

ムカつく時もありますが、悪い人じゃないですし。それに一応部長だし・・・」

 

この時は、アルタ―エゴの件でわだかまりがあった。

それでも山田は私のことを気にかけてくれていたのか・・・。

 

「黒木さんは・・・死を望んでいますわ。それは貴方も知っているはずですわ」

「それは・・・」

「彼女のためにも、この計画は必要ですわ!」

 

私は顔を手で覆った。

見ていられなかった。

セレスさんに利用された・・・などとは思わない。散々吹聴していたことだ。

心の底から願っていたことだ。

だが、それが山田の心を動かしたなら・・・

ほんの少しでも動かしてしまったのなら・・・私はなんて取り返しのつかないことをしたのだ!

 

「さぁ、決断なさい!黒木さんの願いを叶えるために!貴方自身の願いを叶えるために!」

 

セレスさんは畳み掛ける。

山田を・・・仲間を破滅に導くために。

 

「貴方の願いは全てを引き換えにしてでも叶えたいもののはずですわ!」

 

静寂の中、ゴクリと唾を飲み込みこんだ後、山田は小さく頷いた。

 

場面は切り替わり、石丸君の姿が映る。

イライラと時折靴を鳴らし、腕を組みながら、

石田の状態の石丸君が誰かを待っているようだった。

場所は・・・物理準備室だった。

 

「やっと来やがったか、セレス!」

 

セレスさんが扉を開けて入ってきた

 

「"アレ"の話ってのは兄弟のことか!?テメ―何か知ってやがるのか!」

 

その問いの内容から石丸君を呼び出したのはセレスさんだろう。

アルタ―エゴを餌にここに呼び出したのだ。

 

「・・・・・・。」

 

石丸君の問いにセレスさんは答えなかった。

ただ、微笑を浮かべたままだ。

この後の結末は予想できたが、それでも、胃が軋む思いがした。

 

「オイコラ!黙ってないで何か言っ」

「ほあちゃああぁぁぁ~~~ッ!!」

 

石丸君がセレスさんに向かって歩を進めた瞬間、物陰に隠れた山田が飛び出し木槌を振り上げる。

 

「山―――――」

 

振り返った石丸君のこめかみを木槌が打ち抜いた。

ドサッという音と共に石丸君は倒れた。

目を閉じ、ピクリとも動かなかった。

 

「し・・・死んでますよね?」

 

確信が持てない山田がセレスさんに聞いた。

 

「・・・わかりませんわ」

 

石丸君を見つめながらセレスさんは答えた。セレスさんも確信が持てないようだ。

 

「石丸君には確実に死んでもらわなければなりません。

わたくしは他の準備があります。山田君、後のことは頼みましたわ」

 

「チョッ!?あ、アンタ!?」

 

セレスさんは逃げるように物理準備室を出て行った。

どこかコントのような流れの中で取り残された山田は

石丸君にトドメをさすために木槌を振り上げる。

何度も、何度も。

振り上げては躊躇するのを何度も何度も繰り返していた。

木槌が震えていた。

怖いのだ。

当たり前だ。

山田は快楽殺人鬼ではないのだから。

憎かったのは本心だろう。

願いを優先したのは事実だ。

勢いのままに木槌を振り抜いた。

だけど冷静さを取り戻した今、

倒れたクラスメイトにもう一度それを振り下ろすことを山田はついにできなかった。

 

「ぜ、絶対死んでるし…」

 

自分に言い聞かせながら、山田は物理準備室から出て行った。

 

場面は再び切り替わる。

美術室の中で、石丸君の死体の横で佇む山田の姿が映る。

 

「山田君!」

 

扉を開けセレスさんが入ってきた。

 

「今のところ、なんとか計画通りですわね」

「・・・・・・。」

 

文字通り命賭けのギャンブルの最中で興奮を隠せないセレスさんとは対象的に

山田のテンションは低かった。

セレスさんに背を向けたまま、何か思い詰めているように感じた。

 

「セレス殿・・・今さらですが聞きたいことがあります」

「・・・何でしょうか?」

 

山田の変化にセレスさんの声に警戒が混じる

 

「石丸清多夏殿に襲われたという話・・・アレ、本当ですか?」

「当たり前じゃないですか。山田君、一体何を言っ」

「嘘ですよね」

 

セレスさんが答える前に山田は断言した。

 

「あの人がそんなことするはずがないって・・・

そんな当たり前のことに僕はどうして気づけなかったのでしょうか?」

 

山田の大きな身体が震えていた。

 

「石丸清多夏殿を・・・助けることできませんか?

手当すればまだ・・・助けることできるんじゃないですか?」

 

「無理ですわ」

 

「病院に連れて行けばまだ助か」

 

「死んでます。それは貴方が一番よくわかっているはずですわ」

 

山田の言葉を今度はセレスさんが残酷な現実で遮った。

 

「どうしたというのですか、山田君!しっかりしなさい!計画の達成まであと少しですわ!

あと少しで・・・わたくし達は外に出られます・・・願いを叶えることができるのですよ!」

 

セレスさんは山田の欲望に再び訴えた。

 

「外・・・ですか」

 

その言葉に山田が反応した。

 

「なら僕の代わりに・・・」

 

そして山田はセレスさんを振り返り、その言葉を放った。

 

 

「黒木智子殿を外に出してあげることはできませんか?」

 

 

――――――!?

 

山田が何を言ったのかわからなかった。

 

(山田の代わりに私が?え?どうして!?)

 

理解が追いつかなかった。

 

「・・・できません。計画の変更は不可能です」

 

それはセレスさんも同じだった。

真顔でありのままの返答しかできない様子だった。

 

「僕には夢がありました」

「山田君・・・?」

 

突如、夢を語り始める山田にセレスさんは怪訝な表情を浮かべる。

 

「僕が死にそうになった時、好きな女の子が僕のために泣いて悲しんでくれる・・・

それを見ながら眠るように死ねたらいいな、なんて。

何の物語に影響を受けたのか忘れましたが、子供の時からそんなことを漠然と思っていました」

 

「一体何を言っ」

 

「自分でもバカな夢だってわかってます。

僕なんかを好きになってくれるリアル3次元の女の子なんているわけないって。

ましてや泣いてくれる女の子なんて」

 

セレスさんの言葉を遮り、山田は夢の話を続ける。

 

「それに気づいてから、

いつの間にかそんな夢はきれいさっぱり忘れてしまっていました。でも・・・」

 

そして山田の・・・

 

「本当に・・・いたんですね、僕が死んで悲しんでくれる女の子なんて」

 

山田の目から・・・

 

「僕のために泣いてくれる友達が・・・僕にはいたんですね・・・!」

 

大粒の涙が流れ落ちた。

 

「僕は同人作家になってからある目標がありました。

いつかオリジナル作品を書いて世界中の人たちに読んでもらいたい、希望を与えたいと・・・

それは僕の新たな夢といえるかもしれない。

でもここにきてからそんなことすっかり忘れていました。

いつ殺されるか怯え、辛い現実から逃げるためアルたんに依存し続けました」

 

山田は語る。

このコロシアイ学園生活での葛藤を剥き出しの心で。

 

「僕は逃げ出したかった!クラスメイトを・・・仲間を犠牲にしてでも!ですが・・・」

 

そう叫んだ後、

 

「黒木智子殿、覚えていたんですよね」

 

思い出したように山田は笑みを浮かべた。

 

「僕の夢をあの人、覚えていてくれたんですよ。

冗談混じりで話した夢を・・・僕自身が忘れかけていた夢を・・・泣きながら必死で叫んでいました。

女の子なのに、鼻水で顔をグシャグシャにしながら・・・あんなに必死になって」

 

(山田・・・)

 

あの時、私は必死だった。

山田が死んだと思い込み、何か叫ばずにはいられなかったのだ。

 

「アルたんは・・・ブログラムですよね」

 

山田はセレスさんに、自分自身に問いかけた。

 

「ただの・・・ブログラムじゃないですか!」

 

声を震わせて、

 

「僕は・・・何をしてたんでしょうか?」

 

目から大粒の涙を流しながら

 

「石丸清多夏殿を殺してまで・・・」

 

語り続けた。

 

「僕のために泣いてくれる・・・

大切な・・・友達を犠牲にしてまで・・・僕は何を望んでいたんでしょうか?」

 

後悔の言葉を・・・語り続けた。

 

「友達を見捨てるようなヤツが・・・書けるわけないじゃないですか。

そんなヤツに・・・作品が書けるわけない!

こんな気持ちで・・・世界中の人達に希望を与える作品を・・・

書けるはずが・・・ないじゃないですかあぁぁ~~~ああ、ウワァアアンンン!」

 

山田顔を手で覆いは声を上げて泣いた。

山田は悔いていた。

心の底から後悔していたのだ。

 

「・・・・・・。」

 

セレスさんは・・・何を思うのだろう。

山田の言葉を・・・剥き出しの心を前に、何を思っているのだろうか?

後姿からその表情を伺うことはできなかった。

 

「ぼ、僕は自首します。みんなに全て話します。

オシオキは・・・死ぬのはこ、怖いけど・・・

それでもこんな気持ちを抱えたまま・・・みんなを・・・

黒木智子殿を犠牲にしてまで助かりたくない!だからセレス殿――――」

 

涙を拭いセレスさんにそう訴えた山田。

その言葉が終わる前に・・・山田のこめかみに

 

 

ガッ――――――ッ!!

 

 

木槌が振り抜かれた・・・。

 

「もう・・・遅いですわ」

 

セレスさんの呟きの後で、映像は途切れた。

 

「・・・・・・。」

 

誰も、何も言えなかった。

クラスメイトが・・・仲間が仲間を殺す映像を、事実を前に何もいえなかった。

第二回の裁判を思い出す。

大和田君の過ちを言葉では信じることができなかった私に、

モノクマは実際の映像によって、私に真実を突きつけた。

今でもすぐに思い出すことができる。

全身を駆け巡る怒りと憎しみと絶望の渦を。

でも・・・それでも今回、もし救いが・・・ほんの少しの救いがあるとするならば、

それは山田のことだろう。

山田が後悔してくれたこと・・・改心したこと。

それがわかっただけでもこの悪意と絶望しかない真実の中、

それだけは私にとって救いとなった。

だけど・・・私以外のみんなは違う。

殺人を目の当たりにすることにより、

セレスさんへの視線は明確な敵意へと変わっていた。

 

それはまるで私達を破滅に導く魔女を見るかのように。

 

「・・・許せない!」

 

怒りと憎しみと絶望の渦の中、朝日奈さんが声を荒げた。

 

「山田は反省してたのに・・・どうして殺したの!?」

 

朝日奈さんは友情に厚い人だ。

それは大神さんとの関係を見ればわかる。

だからこそ、朝日奈さんは許せないのだろう。

 

「山田君を殺すことも計画の内です。わたくしはただそれを実行しただけですわ」

 

怒りの表情を浮かべる朝日奈さんに、セレスさんは淡々と答える。

 

「山田はあんな泣いて・・・後悔してたのに!可哀想だとは思わなかったの!?」

「あの段階では計画は成功していました。今更、情でそれを変える気はありません」

「どうしてよ!?どうしてそこまでして!」

「黒木さんの言った通りですわ。外に出ること・・・それが私の目的です」

「なんで!わからないよ!」

「当然ですわ。貴方とわたくしでは価値観が違います。それこそ絶望的に。

わたくしは初日に、モノクマさんの話を聞いた時から動いていました。

夜時間を提案したのも、すべてこのためですわ」

「わからない・・・全然わからないよ!人の命をなんだと思ってるの!?」

 

この会話ですでに死語になりつつある“セレスル―ル”・・・夜時間の成り立ちを聞くことができた。

速攻で勝負に動くのはセレスさんらしいと言えるかもしれない。

結局あまり役には立たなかったのは皮肉だが。

激昂する朝日奈さんにセレスさんはいつものペ―スで対応する。

私から見ればようやくいつものセレスさん戻ったように思えた。

だが、その態度は朝日奈さんにとっては挑発以外の何物にも見えなかったのだろう。

朝日奈さんはより大きく声を荒げ、その言葉を放った。

 

「どうして・・・たかが外に出たいだけでそんな酷いことができるのよ!」

 

その瞬間、“ブチリ”という音が聞こえた気がした。

 

「“たかが”・・・だと・・・“だけで”・・・だと」

 

セレスさんを中心に怒気の渦が場を吹き荒れる。

 

「ふざけんじゃねえよ・・・このわたくしに舐めたことを言ってんじゃねえぞ」

 

口調が・・・雰囲気が明らかに変わった。

虎の尾を踏んだ・・・まさにそんな感じだった。

 

「だってそうじゃない!おかしいよ!外に出たいだけで仲間を殺すなんて!」

 

だが、朝日奈さんも引かない。

足に力を入れ、虎の尾を踏み締めた・・次の瞬間、

 

 

 

わたくしはーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

セレスさんは叫んだ。

ありったけの声で、上品さも、体裁も全てかなぐり捨てて。

 

 

「舞園さんよりも!桑田君よりも!大和田君よりも!山田君よりも!

誰よりも・・・この中の誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも誰よりも

ここから出たくてたまらなかったんだよぉおおおおおおおおおおおおおお~~~~~~ッ!!」

 

 

それは・・・魂からの叫びだった。

 

「・・・全て夢に終わってしまいましたが、うふふ」

 

セレスさんは自嘲気味に笑った。

 

「山田君に夢があったように、わたくしにも夢がありました」

 

そしてセレスさんは夢を語り始めた。

 

「わたくしが裏世界で命を賭けて荒稼ぎしてきたのも全てそのため」

 

その夢とは・・・

 

「西洋の・・・お城に住むことですわ」

 

(お、お城・・・!?)

 

娯楽室の壁にかけてあった城の絵を思い出した。

アレか!アレのことか!

やたら熱心に見ていたとは思っていたけど・・・まさかそんな理由があったなんて。

 

「世界中のイケメン達を執事件護衛として雇い」

 

それから話す彼女の夢の話は・・・

 

「ヴァンパイアの扮装をさせて、身の回りにはべらす」

 

破天荒を通り越し、

 

「こうして完成した耽美で退廃的な世界で・・・」

 

常軌を逸しており、

 

「そこで一生を過ごすことこそ、わたくしの夢であり、目標であり、人生のノルマなのです!」

 

聞いているこっちが馬鹿馬鹿しくなるような・・・そんな夢を彼女は堂々と語ってみせた。

 

「あとモノクマさんからのあの100億があれば、夢に手が届きそうだったのですが・・・残念です」

 

場を極寒が支配する。

 

拒絶、理解不能、恐怖、敵意、憎悪

 

様々な視線が彼女に吹雪のように叩きつけられる・・・そんな中、私は一歩前に進む。

 

「せ、セレスさん」

 

最低最悪の雰囲気の中で・・・私は一世一代の

 

 

 

 

「何、その夢?ギャグ?漫画じゃないんだからさぁ~ナイナイありえないわ~」

 

 

 

 

ツッコミを入れた―――

 

ピュ~と風が吹き抜けた気がした。

ヤレヤレと首を振るポ―ズのまま、体が凍っていくのを感じた。

哀れむような苗木君の視線が痛い。

 

(や、やってしまった・・・)

 

私は完全に失敗した。でも・・・

 

「・・・うふふ」

 

私の醜態を見て、セレスさんが手で口を押さえて笑った。

笑ってくれた。

 

「わたくしなら可能ですわ。もっとも何の才能もない貴方では無理ですが」

 

「ま、まあ、それはそうだけど・・・」

 

ほんの少しだけ・・・場が和んだ気がした。

 

「黒木さん、貴方は何かないのですか?」

 

セレスさんは私に視線を向けた。

 

「わたくしに・・・聞いておきたいことは・・・ないのですか?」

 

その口調はどこか穏やかに感じた。

 

(そ、そうだ・・・!)

 

私がセレスさんに聞きたかったことは・・・

どうしても聞かなければならなかったこと

 

 

それは・・・

 

 

 

「セレスさんは・・・本当に後悔してないんだね?」

 

 

 

 

セレスさんの回答を待つその静寂の刻はたぶん数秒ほどだったと思う。

 

「・・・ええ、ありませんわ。貴方もわたくしがどんな人間なのかよく知っているはずですわ」

 

彼女は微笑を浮かべ、そう答えた。

 

「ひどい・・・!」

 

朝日奈さんが叫んだ。

それはセレスの回答に純粋な怒りを覚えただけかもしれない。

もしかしたら、私を憐れんで怒ったのかもしれない。

 

だけど・・・

 

「・・・そう」

 

私は静かに頷いた。

 

(違うんだ朝日奈さん。そうじゃないんだ)

 

即断即決。

その生き方を貫いてきた彼女が・・・

決して振り返らず前に進み続けたセレスさんが・・・

ほんの僅かな時間、答えることを躊躇した。

あの静寂の刻の中、ほんの数秒のあの静寂の刻の中で私の脳裏を駆け巡ったのは、

 

たとえ偽りだったとしても、怠惰で堕落したどうしようもないクズだったとしても、

それでも・・・楽しかった悪友たちと過ごしたあの娯楽部の日々だった。

 

それはもしかしたらセレスさんも・・・。

 

私が欲しかったのは言葉じゃなかった。

私が本当に欲しかったものは・・・きっとあの静寂の刻の中にあったんだ。

 

「黒木さん、貴方に渡しておくものがあります」

 

セレスさんは私に近づき何かを渡そうとした・・・次の瞬間

 

「ハイハイ、ストップ!ストップ!」

 

私の横にいつの間にか、ヤツが・・・モノクマが立っていた。

 

「お涙頂戴の別れの挨拶をするつもりでしょ?ダメダメ!

そんなくだらね―ことにこれ以上時間を使うことはボクが許さないからね!」

 

突如割って入ってきたモノクマは勝手なことをまくし立てる。

 

「モノクマさん!わたくしにはまだ話さければならないこ」

「許さないって言ったよね?」

「ですが」

「シャラァ―プ!」

「きゃあ!」

 

モノクマはセレスさんを押し飛ばした。

悲鳴を上げ、セレスさんは床の上に膝を屈した。

 

「セレスさん、君はいつまで舞台の上にいるつもりなんだい?君は負けたんだよ。

負け犬の君に出番はもうないんだよ」

 

モノクマはセレスさんを見下しながら罵倒する。

 

「君のためにとっておきの"オシオキ"を用意したんだ。君の最後の舞台はそこさ。

出番がくるまで君は端っこで体育座りでもしていなよ」

「・・・・・・。」

 

モノクマは敗者に向かって言葉の鞭を打ち続けた。

勝負の世界に生きてきたセレスさんは、甘んじてそれを受けているように見えた。

 

「ひ、酷いことはやめろよ!」

 

見ていられなかった。 

私は声を上げた。

 

「ん~?」

 

モノクマは首だけを回して私の方を見た。

 

「君の言うとおりだよ、もこっち~~」

「ヒッ!?」

 

直後、急発進し、私の顔ギリギリで停まった。

 

「負け犬には用はない。ボクが用があるのは君なのだから!」

 

ゾクリと悪寒が全身を駆け巡った。

それはあの時に似ていた。

あの・・・第二回学級裁判の時と。

 

「もこっち、またやったね。またまた殺ってしまったね。

君はクラスメイトを何人殺せば気が済むんだい?君こそ死神だよ!

まさに超高校級の"死神"と呼ぶにふさわしい」

「え・・・?」

「え・・・?じゃないよ!何をとぼけているのさ!こうなったのも全部君のせいなのに!」

 

グニャリと世界が歪む。

 

「君が娯楽部なんて作ったからこんなことが起きたんじゃないか。

それがきっかけで山田君とセレスさんが仲良くなりそして今回の事件に繋がった・・・

ボクの言っていること、間違ってる?」

 

反論できなかった。

できるはずなどなかった。

 

「部長と煽てられ浮かれていたくせに、

部員たちが破滅に向かって進んで行くのを

気づきもしなかった鈍感で冷酷なクズは一体誰なんだろうね?」

 

「う・・・あぁ」

 

「それは君だよ!娯楽部部長の黒木智子さん!」

 

「ひ、ヒギィッ!」

 

モノクマに指さされ、まるで心臓を撃ち抜かれような感覚に陥る。

その傷口から絶望が流れ始めた。

 

「君は一体、何度同じ間違いを繰り返すんだい?不二咲君を殺し、

大和田君を殺して・・・それに飽き足らず今度は石丸君に山田君、そしてセレスさんまで殺した!

狂ってるよ!

ボクが震えるほどにね!

君こそ、本物の殺人鬼だよ!」

 

殺人鬼に殺人鬼と言われた・・・だが、それのどこが間違ってるいるのだろうか?

私は何人のクラスメイト・・・仲間を死に追いやってきたのだ。

 

「全ては君がまだ希望を捨てていないことが原因なんだ。

希望を捨てなかったから、君は死ぬことができずこの惨劇は生まれたんだ!」

 

コイツの言う通りだ・・・。

私があの時ちゃんと死んでいれば・・・もっと深く手首を切れる勇気があればこんなことにならなかった。

石丸君も山田君もセレスさんも死なずにすんだはずだ。

あの時私が死んでさえいれば!私が希望をまだ捨てきれなかったから・・・!

 

「ハッヒュ・・・ヒュウヒュウ」

 

苦しい。

上手く呼吸できない。

過呼吸が起きているのか。

 

「やめろ!モノクマ!」

 

モノクマの群れに行く手を阻まれる苗木君の姿が見えた。

 

「君が生き続ける限り、君が希望を抱き続ける限り、

何度でも惨劇は起き続ける!ボクが保証するよ!」

 

モノクマの言葉は続く。

絶望の言葉が・・・残酷な真実の言葉が私を追い立てる。

コイツの狙いはわかっている・・・また私を絶望させるつもりだ。

遊びでやっているのだ。

私の心を破壊することを。

暇つぶしでやっているだけだ。

そんなことはわかってる・・・のに。

絶望が全身を駆け巡る。

あがらうことができない・・・モノクマの言葉に。

もしこれが他の誰かだったのなら・・・

他の誰かが同じ言葉を言ったとしたら、私はこれほどまでに心を掻き乱されただろうか?

ありえない、と断言できる。

乾ききった私の心には、希望を捨てたと思い込んでいた私には今さらそんなものは届きはしない。

でも、コイツの言葉は違う。

全然違う。

響いてくる。

骨の髄まで・・・などという生易しいものではない。

まるで心臓を引き摺り出され、ナイフを何度も突き立てられ、

細切れにされるかのように錯覚するほどに・・・コイツの言葉は私の全てに響き渡る。

これが・・・コイツの才能。

超高校級の"絶望"の力なのか…。

何か・・・何かないか?

刃物じゃなくていい、ボ―ルペンでも、先が尖っていさえすれば。

それがあれば見なくてすむ。

両目に突き立てればこの絶望をもう見ずにすむ。

喉を掻っ切れば全て終わらすことができるのに。

 

ゴメン・・・なさい。

クズですいません!

生きていてすいません!

あの時、死ねなくてごめんなさい!

私みたいなクズのせいで、また死んでしまった!

才能があるみんなが!

人々の希望になれるみんなが!

石丸君が!山田が!セレスさんが!

私みたいな何の才能もないクズのせいで!

 

「何の才能もないクズは生きてる意味なんてあるの?」

 

グニャグニャした視界の中でグニャグニャに歪むモノクマが囁く。

 

そ、そうだよ・・・生きてる意味なんてない!クズは死なないと!

全部私が原因なんだ!

全部わたしのせいなんだ!

わたしの責任なんだ!

 

「さあ、希望を捨て」

「おい」

「絶望を受けいれ」

「オイ!」

 

 

(・・・・・・?)

 

モノクマの演説の途中で何かの雑音が入り上手く聞き取ることができない。

 

「ぜ、絶望こそ」

「オイ!コラ!」

 

モノクマは演説を再開するも、雑音に出鼻を挫かれる。

何が起きているか確認したくてもグニャグニャの視界では状況がわからなかった。

 

「さっきから何だよ!今、一番いいところな」

 

次の瞬間、グニャグニャのモノクマのこめかみ付近が

 

「オラァアアアア――――――――――ッ!!」

 

誰かの雄叫びの中、明確にはっきりと"グニャリ"と曲がった直後・・・

ダルマ落としが飛んでいくように、私の視界からモノクマは消え去った。

 

 

 

ガッチャーーーーーーーーーーーーン!!

 

 

 

衝撃音が室内に響く。

元に戻った視界で慌ててそちらの方を向く。

視界の先にはモノクマが倒れており、

そのこめかみの部分が物理的にグニャリと陥没していた。

私はその原因を作った私の傍らに立つ人物に目をやる。

 

セレスの手には木槌が握られていた。

見つからなかった凶器。

山田を殺した・・・見つけることができなかった最後の凶器は―――

セレスさんが持っていた!

隠していたのだ。

厚手の服のどこかに!

 

「ム、ムググ」

 

モノクマはなんとか上体を起こしつつあった。

セレスさんはツカツカとモノクマの方に歩いて行き、

 

「ヒッ!?」

 

その眼前に木槌を突きつけた。

 

「お前、さっきから何言ってんだよ?」

 

そしてセレスさん怒りの表情で

 

「わたくしに対して何舐めたこと言ってんだよ・・・!」

 

大きく声を荒げながら

 

「わたくし"たち"の部長に・・・何ふざけたこと言ってんだよ!!」

 

モノクマにそう言い放った。

 

「黙って聞いてりゃこのわたくしの前で安い精神攻撃仕掛けやがって・・・

狙いが見え透いてんだよ!この三下が!」

 

「さ、三下!?」

 

セレスさんの罵倒にモノクマは驚愕する。

 

「さ、三下だって・・・?

学園長であるボクが・・・超高校級の"絶望"であるこのボクが・・・」

 

モノクマは屈辱でプルプルと震える。

効いている。

それもメチャクチャに。

恐らく黒幕はこんな悪口を言われたのは初めてのことなのだろう。

 

「オラァアアア―――――――!!」

 

そのモノクマの頭上に木槌の二撃目が炸裂する。

 

「プギャアアアアアッ!!?」

 

額の辺りが陥没したモノクマが盛大な悲鳴を上げた。

 

「や、止めろ!こ、校則違反決定だぞ!」

「シャアアア――――――!」

「ピギィイイイ―――――!?」

 

モノクマの脅しを無視し、セレスは木槌を打ち下ろす。

 

「や、止めろって言ってんだろ!本当にオシオキを」

「ああん?ならさっさとやってみろよ!」

「なっ!?」

 

セレスさんの手は止まらない。

モノクマのアタマをまるでモグラたたきのように乱打する。

 

「わたくしはもう死ぬことが決まってるんだ!今さらそんなもの怖くねえんだよ!

校則違反だぁ?おう、さっさと殺れよ!

江ノ島さんを殺したあのクソみてえな槍を使ってわたくしを殺してみろよ!

でも、いいのかよ?

わたくしのために用意したんだろ?

とっておきの"おしおき"をよ。

それが使えなくてもいいのかよ、ああん!?」

「な!?」

 

押していた。

処刑される彼女が・・・処刑執行人であるモノクマを・・・超高校級の"絶望"を圧倒していた。

 

「わたくしは悪党だ!みんなを裏切ったクロだ!

そのことに関しては何を言われてもいい!言い訳する気はねえ!」

 

セレスさんは乱打を止め、

モノクマの喉元に木槌を突きつけながら、その場にいる全員に響き渡るような大声で言った。

 

「だけどなあ・・・これだけは好きには言わせねえ!これだけははっきり言っておいてやる!

耳かっぽじって聞け!クソ野郎!」

 

 

 

 

わたくしたちの関係は―――――――――

 

 

 

 

わたくしたち娯楽部の"絆"は―――――――

 

 

 

 

 

テメ―みたいな"クズ"野郎が―――――――――

 

 

 

 

 

嗤って語れるほど安くねえんだよ―――――――――ッ!!

 

 

 

 

 

(セ、セレスさん・・・!)

 

それは私が言いたくても言えなかった言葉。

言ってくれた・・・私の言いたかったことを・・・私の聞きたかった言葉を。

 

「わかったなら、わたくしの話が済むまで、テメ―は壁に向かってスクワットでもしてやがれ!」

「ヒ、ヒィイイイイイイ~~~ッ!!」

 

折れた木槌の柄を叩きつけ、セレスさんは吠える。

物理的にボコボコになったモノクマは慌てて壁の前でぎこちないスクワットを開始したのか。

 

「はあはあ」

 

静寂の中、セレスさんの息遣いのみが、聞こえる。

 

「セ、セレスさん・・・」

 

「黒木さん・・・」

 

私の声にセレスさんは振り向き・・・

 

「わたくしは貴方にもムカついているのですよ!」

 

今度は私に向かってブチ切れた―――

 

(な、なんで?どうして!?)

 

セレスさんが何に怒っているのかわからなかった。

 

「貴方が勘違いをしていることをずっと前から知っていました。

ですが、それを言わずに今日までいました。

わたくしには全く関係のないことですし・・・

何より貴方自身で気づかなければならないことだからです」

 

勘違い・・・?私が?

セレスさんが何を言おうとしているか検討もつかなかった。

 

「ですが、バカで間抜けで鈍い貴方は結局、気づくことはありませんでした。

鈍い鈍いとは思っていましたが、ここまでとは・・・

これ以上勘違いを続けられるのは、本気でムカつきますわ!

だから・・・わたくしが教えて差し上げます!」

 

その視線はまるで私の心臓に向かって狙いを定めているかのように感じた。

 

そして・・・セレスさんは語り始めた―――

 

「黒木さん、不二咲君と大和田君の死のきっかけは貴方かもしれない。

石丸君と山田君、そしてわたくしが死ぬきっかけとなったのはもしかしたら貴方かもしれません。

意図せずきっかけを作った貴方は悲劇の加害者かもしれない。

哀れな被害者なのかもしれない・・・ですが、ただそれだけです。

貴方はただのきっかけに過ぎません」

 

ただの・・・きっかけ?

 

「黒木さん、貴方に才能はありません。

何の才能もないただの凡人です。この学園に入学したのは何かの間違いです。

それは傍らで見ていたこの超高校級の才能を持つわたくしが命を賭けて保証しますわ」

 

私に何の才能がないことは自分がよく知っていた。

でもそれが私の罪と一体と何の関係があるというのだろうか。

 

「貴方と違いわたくしたちは超一流です。

舞園さんも桑田君も不二咲君も大和田君も石丸君も山田君もわたくしも

それぞれの分野の頂点です。

結果が全ての世界。

言い訳など許されない結果のみが求められる世界において

頂点に辿り着いた者達・・・それがわたくし達です。

そこに辿り着いた才能と努力に皆等しく誇りを持っています。

おわかりですか、黒木さん?

凡人の貴方に本当におわかりですか?

そんな才能を持った者達が言うと思いますか?

頂点に君臨した者達がそんな言い訳をすると本当に思っているのですか?

全て・・・貴方のせいだなんて」

 

超高校級としての圧倒的なプライドをセレスさんは語る。

それは凡人に対する見下しからではなく、

遥か高み・・・次元の違いすら感じてむしろ清清しささえ感じるものだった。

 

「たとえ貴方がきっかけであれ、なんであれ、

わたくしたち超高校級が必死で悩み、苦しみ、選んだ答えが・・・

たとえそれが間違っていたとしても・・・夢叶わなかったとしても・・・

それはわたくしたちが選んだ答えです。

結果です!

その全てが貴方のせいだなんて・・・

超高校級を舐めるな、凡人!

黒木さん、思い上がるのもいい加減にしなさい!」

 

 

 

 

貴方がやっていることは―――――――――

 

 

クラスメイトの死を利用し自己憐憫に浸る貴方の行為は―――――――――

 

 

 

 

    死んでいった仲間に対する侮辱に他なりませんわ!

 

 

 

(あ・・・)

 

セレスさんが放った言弾が私の心を撃ち抜いた―――――――

 

(わ、私が今までやってきたことは・・・わ、私は)

 

「誰も貴方が絶望に堕ちることを望んでなどいません。なによりわたくしが許しません!

もし私に同じことをしてみなさい!即、天国から降りてきてブチ殺しますわ!

返事はどうした!?」

 

「は、はぃいいい~~~~ッ!!」

 

セレスさんの怒声で、回想する暇もなく現実に引き戻されてしまった。

 

「わかればよろしい」

 

素っ頓狂な声を上げる私に、セレスさんはおかしそうに笑って頷いた。

 

「勝者には報酬を受ける権利があります。

わたくしに勝った奇跡に敬意を表し、黒木さん・・・貴方にこれを差し上げますわ」

「え・・・」

 

セレスさんはそう言って私の手を取り、“ソレ”を握らせた。

 

「・・・餞別として貴方がこれからするべきことを教えて差し上げましょう。

それをすることに才能など関係ありません」

 

 

 

 

 

黒木さん、前に進みなさい。

 

ノロマで、不器用で、泥臭くて、それでも貴方らしく、まっすぐに、ひたむきに

 

希望を信じて歩きなさい

 

 

 

 

 

「それが生き残った者の責務。わたくしに勝った貴方の義務ですわ」

 

「せ、セレスさん」

 

その時の彼女の眼差しは今まで見たことがないほど優しかった。

 

「・・・そろそろ時間のようですわ」

 

セレスさんが振り返る。

そこには中世のフランスの騎兵隊のコスプレをしたモノクマが馬車を用意して待っていた。

 

「では逝ってきますわ」

 

死に向かって悠々と歩いていくセレスさんの後姿を見て

 

「セレスさんは・・・」

 

自然と口から

 

「強いね・・・」

 

その言葉が漏れてしまった。

 

その言葉に振り返り、一瞬目を丸くしたセレスさんは、

可笑しそうに口を押さえた後、見栄を切るように腰に手を当てポーズをとる。

 

「当たり前じゃないですか、何を今更当然のことを言っているのですか?」

 

 

 

わたしくは、誰よりも優雅で、強く、美しい――――――

 

 

 

     セレスティア・ルーデンベルクなのですから!

 

 

 

 

馬車に乗り込む間に、セレスさん私達に向かってスカ―トを摘み、

小さくお辞儀した。

その姿はまるで、終劇の後に観客に挨拶する舞台俳優のようだった。

 

 

 

 

            「それでは皆様、ごきげんよう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

                GAMEOVER

 

 

 

           セレスさんがクロにきまりました。

             おしおきをかいしします。

 

 

 

 

 




悪友に希望を託し、セレスティアル―デンベルク、ここに堂々と退場!


■あとがき

思うことがあり一覧から外していましたが、本日元に戻しました。
誤字脱字などは変な表現等は見つけ次第修正します。
今回の話は約2万字。
最長とはいきませんでしたが、仕上げるまでかなり時間がかかりました。
2章から始まる問題の答えが今回の話となりますが、
自分としては描き切れたのではないかと考えています。
次話で第3章終結となります。
もし、応援して頂ければ嬉しいです。
感想とかも待ってます。

ではまた次話で


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11/27

今回の投稿後、状況を鑑み、申し訳ありませんが今回で本作品を完結とさせて頂きます。
今後2次作品を書くつもりがないので、私も引退ということになります。
今回は2章から始まる物語の答えに該当する話で、
私としては描ききれたと思える渾身の出来でしたが、
多くの人の心に刺さる作品になり得なかったのが、結果であると考えています。
率直に申しますと、私のセンスと現実とでは絶望的にズレがあることが
今回はっきりと痛感し、ある意味踏ん切りがつきました。
個人的には自分でもこの作品が好きなので、出来る限りの多くの人に読んでもらいたいという願望があったのですが、

作品投稿→ジャンル的にダンロン好きの人しか読まない→古い作品なので今更読み始める人がほぼいない→お気に入りやUA増えず→ランキングに載るしか読者を増やす方法がない→ランキングに載るには10か9を1週間以内に必要→よほど心に刺さる作品が必要

・・・というように以前から上記のスパイラルに陥っていたのですが、
今回の話で見向きもされないようでは、どの道先はない・・・かなと思いました。
結局は才能がなかったのかなと実感してます。
まあ、それでもこの作品を好きになってくれた人や、感想をくれた人、評価して下さった方に関しては本当に感謝しております。

本当にありがとうございました。

よくよく考えたら自分の妄想で喜ばせられたなんて夢がある話ですね。
他の作家様には頑張って欲しいですね。
また、私モテは原作はまだ連載中なので、もこっちをそちらで応援して上げてください。
原作様には感謝しかありません。

第3章の最終話がおそらく3000字程度で書けるため、
未定ですがそれで完結となります。
描けない場合は、今回で完結とさせて頂きます。

長々と書きましたが、今までありがとうございました。
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