私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い!   作:みかづき

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イマワノキワ 山田一二三 前編

こめかみに、それこそ頭がダルマ落としが吹き飛ぶような衝撃を受け、世界がゆっくりと反転していく。

 

何が起きたのかなんとなくわかりました。

この後どうなるのかも。

 

不思議と怖くありませんでした。

むしろどこかで安堵さえしていました。

 

消え行く意識の中でただ思うことは…

 

 

(石丸清多夏殿…本当に…ごめんなさい)

 

 

自分がしでかしたことの後悔だけでした。

 

 

身体が凄い速さでトンネルのような空間を進んでいく。

指すら動かすことができず

意識だけが曖昧なまま残っている。

空間には時折映像が浮かび上がり消える。

 

それらは思い出の欠片。

 

(ああ、これが走馬灯というやつですか…。)

 

そんなありふれた感想を最後に僕の身体は光に包まれました。

 

 

「…田君」

 

 

ん…

 

 

「山田君!聞いていますか?」

 

 

ん、んん…?

 

誰かが僕を呼ぶ声がする。

 

それはどこかで聞いたような声。

 

いえ、いつも側で聞いていた…

 

 

「オイ!山田!聞いてんのか!ブッ殺すぞ!」

 

「は、ハイィイイイ〜〜〜ッ!!」

 

 

その怒声に本能が反応し思わず声を上げてしまった。

ここは一体?この声の主は…?

 

「全く一体何をボケっとしているのですか、山田君」

 

そう言って隣の席のゴスロリツインの美少女はため息をついた。

 

…どうやら…ここは教室のようだ。

 

しかも隣席は美少女。

うたた寝している僕を起してくれた…?

 

まるで夢のようなシチュエーションじゃないですか!

あれですか、ここは恋愛ゲームか何かの世界ですか?

 

なら、さっきの罵声は誰か別の人が…

 

「さっきからボ〜としてキモいですわよ」

 

…いや間違いじゃねーし。

やっぱりこの娘じゃねーか!

 

目の前の美少女は何の臆面もなくむしろ当たり前と言わんばかり堂々とそう言ってのけた。

 

「本当にどうしたのですか?変ですわよ。まあ、いつも変ですけど」

 

口を開けば煽ってくる美少女。

それを前にしてだんだんと状況を思い出してきましたぞ。

というか、なぜ忘れていたのでしょうか。

 

そうですとも!僕はあの希望ヶ峰学園に入学したのですぞ!

それから3ヶ月経って…ここは希望ヶ峰学園の教室…

 

「本当にどうしようもない人ですわ。人…ですわよね?」

「人に決まってるじゃねーか!」

 

完全に思い出した!

くじ引きで隣の席になった日から

僕はこのクソ女に毎日毎日煽られ続けていたのです。

 

この女に…

 

 

「いい加減にして下さい!セレス殿!」

 

 

セレスティア・ルーデンベルクと自称する頭のイカれた女に!

 

「テヘ」

 

セレス殿は戯けた顔で舌を出した。

一瞬ドキュンとしてしまいました。

クソが!カワイイじゃねーか!

なんだかんだ言ってもやはり美少女!

しかし、カワイイから調子に乗っていいということは…

 

「アホくさですわ」

 

セレス殿は真顔に戻りため息をついた。

 

(クソが!)

 

ドキドキしちゃった僕が馬鹿そのものじゃないですか!

 

「山田君が心ここにあらずだったので

心配してあげただけじゃないですか。何を怒っているのですか?」

 

「うッ…」

 

そう言われるとなんだか申し訳ない気持ちになってきた。

セレス殿は口は悪いが僕を心配してくれたのは事実。

僕も少し怒り過ぎて…

 

「アレですか、同郷のお友達や藁の匂いが恋しくなって…」

「それ絶対中学校じゃないよね!?」

 

何が藁だよ!

明らかに養豚場か何かじゃねーか!

 

「馬の可能性もありますわ!希望を捨てるおよしなさい!」

 

コ、コイツ心を読んで…って論点そこじゃねーだろ!つーか、なんで励まされてるんですか!?

 

「ウォオオオーーーもう嫌ですぞ、こんな席!」

 

発狂したよう立ち上がり僕は大声で叫んだ。

なんだこの席は!?

クソガチャってレベルじゃねーぞ!!

僕の叫びにクラスの皆さんは振り返るも、

いつものアレか、といった感じでまた自分達の会話に戻る。

ええ、いつものアレですとも…

 

その時

 

(あ…)

 

ふっとその光景が目に入ってきた。

 

「ハハハ、そうだとも大和田君!」

 

不二咲千尋殿と大和田紋土と話すあの人を…

 

「不二咲君!君はスゴいぞ!」

 

楽しそうに笑う石丸清多夏殿を見て…

 

 

(あれ…?)

 

 

何故か…涙が出そうになった。

 

「それこそわたくしのセリフですわ」

 

セレス 殿の言葉でハッと我に返る。

 

「本来であるならば わたくしはあの席に」

 

そう 忌々しそうに あちらの席を 見つめる。

 

「ウォ!?」

 

セレス殿の視線の先を見た瞬間、思わず目を覆ってしまった。

その光景が今の僕にはあまりにも眩しすぎたから。

 

「ハハ、そんなことないって」

「さすがは苗木君ね」

「ウフフ、本当ですね!」

「苗木、顔赤くなってんじゃん!マジウケる〜」

 

超高校級の"幸運"の苗木誠殿の周りには

あの超高校級の" アイドル"舞園さやか殿と 超高校級の"ギャル"江ノ島盾子殿が。

そしてその二人に決して引けを取らないほど容姿端麗な超高校級の''探偵"である霧切響子殿が隣に座り楽しそうにお喋りしていました。

な、なんだこのメンツは!?

僕の世代の女子最高メンツが一堂に集まっている!?

ギャルゲーの主人公ってレベルじゃねーぞ!

そこには同世代の男子高校生全てが嫉妬する光景が目の前に広がっていた。

 

ぐぬぬ、苗木誠殿…許すまじ!

 

(でも…なんか憎めないんだよな、苗木誠殿て)

 

苗木誠殿と話していると何か心がポカポカ暖かくなるというか、

前向きになれるというか…なんだか"希望"が持てるんだよなぁ。

だからモテる理由はわかりますよ…悔しいけどね!

華やかなあちらの席からふと視線を戻し直後、その光景に息を飲んだ。

 

「グギギギ」

 

苗木殿達を凝視しながら

セレス殿が血管を浮かべながらハンカチを千切れんばかり噛み締めていました。

 

(なんですか、これは…)

 

お嬢様キャラは何処に行ったんだよ!?

キャラ崩壊ってレベルじゃねーぞ!?

 

「どうしてですか?」

「え?」

 

目の前の現実に絶望している最中、セレス殿が何かを呟いた。

 

「どうして霧切さんの隣は苗木君なのに…」

 

そして、張り裂けんばかりの声で

 

 

「どうしてわたくしの隣は養豚場なのですか!?」

 

 

その胸の内にあるものを解き放った。

い、言いやがった。

コ、コイツ、ついに言ってはいけないことを。

 

「ハッ!?」

 

セレス殿は僕の存在に今気づいたかのような驚きの声を上げた。

 

「ハッ!?…じゃねーよ!絶対にわざとやってるだろう!?」

 

何を今更、偶然、真実を聞かれてしまったみたいに演出してるんだよ、このアマ!

もう許せねえ、久しぶりにキレちまったよ…!

このままでヤラレっぱなしでいられるか!

クスクスと可笑しそうに笑うセレス殿を前に僕は復讐を決意しました。

 

「行けばいいじゃないですか、自分から」

「え」

 

セレス殿を見下ろしながら僕はその言葉を投げました。

 

「自分から話をしに行けばいいじゃないですか。何を迷うことがあるんですか?」

「なッ…」

 

突如始まった僕の反撃にセレス殿の瞳に動揺が疾走った。

 

「な、なぜ高貴で至高な存在であるこのわたくしが、わざわざ苗木君の席に自ら赴かなければならないのですか?ナンセンスですわ!

山田君、無礼ですわよ!立場を弁えなさい!」

 

セレス殿は相変わらずの尊大な態度をとってはいたが、声が明らかに上擦っていた。

効いているのがバレバレである。

ギャンブルじゃないと本当にチョロいよな、この人。

 

「違いますよね…セレス殿。本当は怖いのですよね…?」

 

そう言って僕は一歩前に詰め寄った。

 

「な、何を言っているの…ですか。あ、暑苦しいですわよ、山田君」

 

僕の巨体と言葉に威圧され、あのセレス殿の瞳に刹那、怯えの色が浮かんだ。

普段とのギャップになんとも言えない嗜虐心が沸き起こった。

それは行き止まりに美少女を追い詰めてぐへへと嗤う暴漢…じゃねーや!

震える子ウサギを前にし大きな口を開けるライオンのように。

僕はトドメを刺すべく言葉の牙を一気にセレス殿に突き立てました。

 

「アレですよね!中学時代は周りがチヤホヤして群がってくれたから、

自分から話しかけるなんてどうしたらいいか、わからないのですよね!

もし話しかけに行って万が一にも相手にされなかったと考えてしまったら…

怖くて仕方ないのですよね!

散々調子に乗って作ってきたお嬢様キャラが完全崩壊しちゃいますもんね!

わかります!わかりますぞセレス殿…いえ」

 

自分でもかなり酷いことを言っていることはわかっています。

だけどここで"わからせ"をしておかないとこのアマ、

永遠に僕を煽り続けるに決まってる。

僕は心を鬼にして下を向きプルプル震えるセレス殿の耳元で僕はその言葉を…

たまたま雪染ちさ先生が置き忘れた名簿を見て知った禁断の言葉を口にした。

 

 

 

 

      "安広多恵子殿"

 

 

 

―――――ッ!?

 

 

 

次の瞬間、セレス殿の姿が視界から消え、左脇腹に重い衝撃が…

それこそ世界獲れるんじゃね?と思えるほどの右ボディブローが深々と突き刺さっていた。

ズルズルと倒れゆく僕の巨体から拳を引き抜きセレス殿は歩き出しました。

 

「覚えてなさい!」

 

倒れている僕を一瞥し、そんな捨てゼリフを吐いて教室を出て行きました。

 

(え…涙?)

 

去り際のセレス殿の瞳に光るモノが…というより明らかに泣いてたじゃねーか!

何でだよ!?何で本名で呼ばれたぐらいで泣くんだよ!おかしいだろ!

どうしてだよ!?どうして殴られた僕が加害者みたいになってるんですか!?

理不尽だろ、こんなの!

覚えておかなくちゃいけないのはお前の方だろ!

ええ、こっちこそ願い下げですよ、こんな席!

代われるなら代わりたいですよ!

 

僕だって座りたい席くらいありますよ!

 

その席は―――――

 

 

(…その席は案外、あの人の隣なんですけどね)

 

 

それは自分でも意外過ぎる選択だと思う。

ヨロヨロと立ち上がり、後ろを振り返る。

超高校級のキラキラオーラが充満する教室の片隅。

黒い靄のかかったオーラを纏い彼女はそこにいた。

 

 

彼女が…

 

黒…黒…山?黒林…じゃなくて…黒…木…あ、思い出しました!

 

 

では改めまして!

 

 

 

彼女が…

 

 

 

黒木智子殿が。

 

 

 

 





【あとがき】

完全に仕上げるか迷ったのですが、
コンディション的に年内に出せない可能性を考慮して、
また生存報告の意味も含めて2話構成にすることにしました。
イマワノキワだと初めての過去の学園生活の話かな。
山田視点だと慣れてないから描くのが難しいですね…。
内容はほぼギャグですが、最後しんみり…という感じです。

基本完結してますが、まだ続きが読みたい方向けに更新してみます。
お暇な時にでも読んで頂けたら幸いです。

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