私が希望ヶ峰学園から出られないのはモノクマが悪い! 作:みかづき
超高校級ってやつは一目見ればわかるんですよ。
オーラって言えばわかりますかね?
”才気”迸るっていうか、見た瞬間ビビビとくるんですよ。
この学園を遠くから見てもなんか学園全体が光を纏って見えたし、
クラスに入った時は眩しさに目が慣れるまで大変でした。
え、クラスで誰が一番才気があるか…ですか?
…江ノ島盾子殿ですかねぇ。
才気の量がハンパねぇんですよ。
もはや人間じゃねーつーか、ここまでくるとなんかもう別の生き物ですよね。
逆に量が少ないと言えば、苗木誠殿ですね。
”幸運”の才能だからなんですかねぇ。
それでもここ一番という時は眩しくなるほど才気迸りますから全然気にすることはないです。
皆さん、さすが超高校級ですよ
…ただ一人を除いてね。
この才気溢れるクラスにおいて、まったく才気のないクラスメイト。
今思えば、それに気づいた時があの人の存在を意識した最初の瞬間だったのかもしれません。
黒木智子殿。
超高校の"喪女"
この訳のわからねー超高校級の肩書を持つ彼女を僕は最近気になっていました。
…いえいえ、興味はないですよ。
異性としてはまるっきり、これポッチも1ミリもありません。
でも…気になるんですよね。
それは何故かというと…
答えを言う前に隣の席に座る人物の容姿と行動に視線を奪われてしまいました。
高校の教室で真剣にナイフを磨く残念なその姿に。
それが男であれば重度の厨二病かサイコ野郎。
女であればより一層残念に違いありません。
しかもその顔があの超高校級の”ギャル”と瓜二つとなれば尚更に。
それは全て彼女の才能のせい。
戦刃むくろ殿。
あの超高校級の”ギャル”江ノ島盾子殿の双子の姉でもある超高校級の”軍人"はただ黙々とナイフを磨いていました。
”喪女”と”軍人”
負のオーラ漂うこの2つの才能が隣り合わせになった日には…
高校生活が開始してからの黒木智子殿はいつもビキビキに緊張して白目を剥いており、戦刃むくろ殿は無言で虚空を見つめていました。
そんな二人が普通の女子高生のようにワチャワチャ盛り上がるはずもなく…。
超高校級のキラキラオーラが充満するのこの教室の片隅に突如暗黒大陸が出現した!?
…と2人から放たれる負のオーラ量に当時は絶句したのをよく覚えています。
浮いている、ていうレベルじゃなかったですねえ。
特に戦刃むくろ殿は表情筋がないんじゃね?と思うほどにまるで能面みたいに表情に変化がなく、彼女の才能も合わさり何か得体のしれない怖さを感じました。
そんな様子を見た実の妹である江ノ島盾子殿は
3Z(絶望的に臭い!・絶望的に汚い!・絶望的に気持ち悪い!)コンビ
と爆笑しながらほとんどただの罵倒に近いあだ名をつける始末。
(え、コンビって私も…?)
巻き添えを喰った黒木智子殿の絶望の表情からそんな心の声が聞こえてきました。
いやいや、マジでシャレになってねーし。
陽キャで冗談好きの江ノ島盾子殿じゃなかったらただのイジメじゃん。
まあ、もちろん超高校級が集う我がクラスにイジメなんて低俗なする輩などいるはずもありませんがね。
それになんだかんだで苗木誠殿と江ノ島盾子殿が上手くフォローしてくれるので
彼女達が疎外されるようなことはありませんでした。
それから僕もいろいろと忙しくて2人に関してはそれ以上は気にすることはありませんでした。
というか、すっかり存在を忘れていました。
ですが、1ヵ月ほどたったある日、ふと気づいたのです。
いつの間にか2人から発せられている負のオーラが薄くなっている?
っていうか、いつの間にか話すような仲になっている!?
本当になんというか、普通の女子高生のように。
あまりにも意外だったので時々観察しました。
その結果わかったことは、どうやら黒木智子殿が話しかけ、それに戦刃むくろ殿が答えるパターンがほとんどだということでした。
いつもドギマギと怯えたような態度をしている黒木智子殿がその時ばかりはやたら態度がでかいというかふてぶてしいというか
雑魚が自分より雑魚を見つけて粋がっているような…何かイラっとする顔でした。
その黒木智子殿が今まさに話したそうにチラチラと戦刃むくろ殿の様子を伺っています。
ついでといってはなんですが、このままちょっと様子を見てみましょうか。
「あのさぁ、昨日夜中テレビで見てたんだけどさぁ」
「ヤダ~もこっち、ウケる~」
「――――なにが!?」
会話は開始2秒で終了し、黒木智子殿は驚きの声を上げた。
「一体何がウケたの?どこにウケる要素があったの!?言ってない!まだ何一つ言ってないから!」
「え、でもテレビで見た日本の女子校生はみんなこう言ってるし…」
「それ、会話の最後に言うセリフだよね!?最初に言ってどうすんだよ!フライングってレベルじゃねーぞ!日本の女子高生に憧れてるからって焦りすぎなんだよ!!」
「え、でも話しかけてきた時のもこっちの顔は面白かったし」
「これが普通の顔なんだよ!そこはウケちゃダメだろ!?お、お前喧嘩売ってんのかよッ!!」
「何よ!最終的にもこっちが面白い話をすればいいだけじゃない!さあ話してよ!」
「なんで逆ギレしてんだよ!?ていうかハードル上げるのやめろよ!そ、そんな面白い話じゃないんだからさぁ…」
ドン!と机を叩きプンスカと逆ギレする戦刃むくろ殿にうろたえる黒木智子殿。
なんでキレた方が逆に追い詰められてるんですかねぇ…。
この理不尽さ、なんとなくシンパシー感じますね。
上がったハードルをどう飛び越えるか、僕もちょっと興味が湧いてきましたぞ。
よし!せっかくだから最後まで聞いてみましょうか。
「し、深夜の通販番組見てたんだけどさぁ。マットスリーパーって商品知ってるかな?
あ、あのマットみたいな薄っぺらいベッド」
ああ、よく深夜宣伝しているアレか。
確かに一度は欲しくなりますが、たぶんすぐ飽きますよね…て、
ん?すでにこの段階でなんか雲行きが…。
「そ、それの最新作がさぁ!なんとベッドを丸めて抱き枕にできるんだって!
す、凄くない!ベッドなのに枕になるんだよ!ベッドなのに枕!
これ買えばもう枕いらないじゃん!こ、これ革命じゃね?
それに抱き枕に飽きたら普通の枕として使えばいいし…
あ、で、でも人に見られたら”お前の枕デカすぎじゃね?”って言われちゃうかな、ウヒ」
最後に自分で言ったことにウケながら黒木智子殿は話題を終えた。
(…クッッッッッッッッッッッッッッッッッソくだらね~ッ!!!)
マジでくだらねえ…!たぶんここ数ヶ月で一番くだらねー話ですよ。
盗み聞きしてなんだけど、マジで時間の無駄だった。
返せよ僕の十数秒!
上がったハードルの地面の下を掘ってきやがって!
アーなんかもういろんなものに怒りが湧いてきましたぞ!
まずなんだよそのベッドは!抱き枕になってどうすんだよ!その間どこに寝ればいいんだよ!?
丸めるなら体育館のマットでもできるわ!
ただメーカーが性能向上の努力を放棄しただけじゃねーか!!
必要なのはベッドで枕じゃねーんだよ!
メーカーもメーカーなら、アンタもアンタだよ!
怪しい集会で壺を騙し売られるじいさんばあさんじゃねえんだからさあ!
そんなあからさまな嘘に騙されてんじゃねーよ!
バッッッッッッッッッッカじゃねーのッ!!
それになんだよそのオチは!?枕がでかいから何だよ!
自分で言って自分でウケてる顔がむかつきポイントが高いですね…!
解説していたら余計にムカついてきました。
許されるなら通り過ぎ際にかち上げ式のラリアット喰らわしたい心境ですよ…!
こんなどうしようもない話題、あのクールビューティな戦刃むくろ殿がまともに相手にするわけが…え?
「…う~ん」
一呼吸置き、戦刃むくろ殿は目を閉じ、顎に手を当てながらこのクソくだらねぇ話題に返答するため考え始めた。
その刹那、息を飲みました。
僕を驚嘆に至らせたのはその行動ではありませんでした。
もちろん表情でもありません。彼女は相変わらず無表情のままです。
驚いたのはその瞳。
はじめは自分で言ったことにウケている黒木智子殿を一瞬、汚らしいゴミを見るような視線で。
そう例えるならば、飼っているバカ犬は誇らしそうにわけのわからねーゴミを咥えて家の入ってきたのを見たような…
”あーあ、なにしてくれてんだよ、このバカ犬は…。”
と、そんな飼い主の落胆の気持ちから
”まあ、叱ってもバカだから理解できねえだろうし、とりあえず適当に相手してやるか”
と、諦めと慈愛への感情の移り変わりを瞳のみで表現したからでした。
(あの人、表情ないくせに目の表情はめちゃくちゃ豊かだな…!)
もしかして見た目に反して優しい人なのか…?
超高校級の”軍人"の意外な一面を見たような思いがしました。
そんなことを考えている最中、戦刃むくろ殿の返答が始まりました。
「ダメだ…」
黒木智子殿の存在自体のことか、と思ったが違うらしい。
「入らない…」
グヒヒ、一体ナニが入らな…ゴホン!ゴホン!何でもありません!
「ダメだ…そのベッド、私の寝室に入らないや」
「はい…?」
戦刃むくろ殿の意外な返答に黒木智子殿は怪訝な顔を浮かべた。
確かに寝室にベッドが入らないとは一体…?
「食料とか武器とかテントの中必要なもので一杯だからこれ以上余計なもの入れる余裕ないんだ」
「えーと、キャンプか何かの話かな。
む、むくろちゃんは軍人だからそういう時もあるか、ソロキャンとか流行ってるし。
ま、まあ、それは置いておいて今話しているのは日常生活の家の中の話で…」
「家…うん、わかってるけど」
「ん、んん?今住んでいる部屋が狭いとか?」
「いや、郊外に一軒家借りてるよ。部屋もかなり広いかな」
「べ、ベッドは置けるよね?」
「家の中には普通に置ける。寝室には無理だけど」
「寝室が狭い、と?」
「100平米くらいかな」
「広!?え、じゃあ…ん、んん?」
「さ、さっきから言ってるじゃん、狭くて寝室には無理だって」
「え、だ、だってそんなはずは…」
嚙み合わない。
お二人は頭に”?”を浮かべながら
”何言ってんだ、この馬鹿は?”といった感じで見つめあっている。
”普通”に考えたら頭がおかしいのは戦刃むくろ殿の方ですが、僕はなんとなくわかっちゃいました。
会話の前半と彼女の才能を鑑みれば…恐らく彼女は…
「なんでわかってくれないかな~!私はテントで寝てるって。それは家の中でも同じだから」
その後幾度かのやり取りの後に戦刃むくろ殿は回答を口にした。
これが嚙み合わなかった答え。
何処だろうが彼女はテントで寝る。それがたとえ家の寝室であろうとも。
「”常識的”に考えてそんなこと”普通”はわかるわけねーだろ!!」
直後、黒木智子殿は大声でツッコミを入れた。
「どうりで話が噛み合わないと思った!バッッッカじゃねーの!」
「え、何で!?なんで私、もこっちに怒られてるの!?」
「いないから!普通、寝室でテントで寝る人いないから!」
「え、そうなの!?みんなテントで寝てるんじゃないの!?」
「ない!あり得ない!」
「そ、そんな…他の人の寝室見たことがなかったから知らなかった」
驚愕の事実?を知り、戦刃むくろ殿はワナワナと震えだした。
その光景を見て、僕も自分の体が微かに震えているのを感じた。
あの会話の中にこそ、僕の求めているものがあったから。
「で、でもテントって慣れると快適だよ。もこっちもこれを機にテントで寝なよ!」
「や、やだよ。何でこれを機会に私が異常者側に行かなきゃなんねーんだよ」
「そうだ、もこっち!今度部屋に泊めてよ!そのテント持っていくから!ま、枕投げ…というのもやってみたいし」
「やだよ…ま、枕投げてもテントに跳ね返されるイメージしか沸かないし…全然楽しくなさそう」
「だから、もこっちもテントを」
「嫌だ!それ、キャンプじゃん!私の寝室で2人でキャンプしてるだけじゃん!」
「それ、いい!薪とかして語ろうよ!」
「家が燃えるわ!」
ワチャワチャと話続けるお二人を見ながら…黒木智子を見ながら僕は”それだ!”と某バスケット漫画の監督のように叫びそうになった。
そう…僕が求めているのはそれですよ、黒木智子殿。
あなたのその”普通”さを、その”常識”に囚われた感性を今の僕は求めているのですぞ!
ここは希望ヶ峰学園。
才能のみを絶対の価値とする世界。
そこには常識などない。普通などありはない。
才能…それが全てを決める。
だからこそ、僕は戦刃むくろ殿の話を聞いた時、何も思わなかった。何の疑問も起きなかった。
そういうものなのか…と素直に思いました。
舞園さやか殿あたりがこの話を聞いていたなら、
「戦刃さん、さすがは軍人ですね!プロ意識が凄いです!」
とその行動を絶賛したことでしょう。
才能のみを絶対とするこの場所において、むしろその感性が正常であり、
外の世界の常識だとか、一般人の普通さとか…そんな尺度を持ち込む方がここでは異常なのだ。
黒木智子殿…故にあなたは才能がない。
”才気”を見ずとも、貴方の言動でそれこそ一目瞭然ですぞ!
きっと…間違いだったのでしょう。
近年の希望ヶ峰学園は才能の新規開拓に焦っていました。
だからこそ、僕の”同人作家”をはじめ、”暴走族”だの”ギャンブラー”だの”占い師”だのそんなマニアックな才能まで手を伸ばしていました。
黒木智子殿はその過程で起きた悲劇。
そもそも”喪女”とかただの罵倒であって才能じゃねーし。
黒木智子殿…貴方はただの凡人です。
この才能のみの世界に紛れ込んだ一般人。
唯一、外の常識と普通さを持ったクラスメイト。
だからこそ、貴方に興味があります!
この学園に来て数ヵ月。
才能のみに染まってしまった僕が無くしたものを…感性を貴方が持っている。
その無くしてしまったものが、最近の僕の同人活動の停滞と関係しているはずです!
貴方のツッコミを見てそれを確信しました。
僕は忘れてしまっていたんです!普通さを!常識を!
だからこそ、貴方と話したい!
貴方が傍にいれば、きっと再びインスピレーションが沸き上がるはずです!
だから黒木智子殿――――
…なんちゃって。
いろいろ理詰めで全ては作品のため!みたいに語っちゃいましたけど、ぶっちゃけなんだかんだであの人、面白そうなんだよね。
見ていて飽きなそう。イラつくこともあるけど、最終的に笑いに昇華できそうだし。
…あの人が隣だったらどんな会話になるのでしょうか。
ちょっとだけ妄想してみましょうか。
夕暮れの放課後、教室にいるのは僕と黒木智子殿の二人きりだった。
僕はある相談をするために黒木智子殿に残ってもらったのだった。
「黒木智子殿、実は――――ってオイ!」
振り向くと隣の席の黒木智子殿はリアルより明らかに美少女になっていた。
「アンタ、なにやってくれてんだよッ!!」
「わ!?え、な、なんだよ急に!?」
「人の妄想の中で何やってんだよ!アンタ、どんだけ図々しいんだよ!!」
まったく、油断も隙も無いですな。
すぐにビジュアルを元に戻しました。
「い、言ってることがよくわからないけど、なんかムカつくな」
黒木智子殿は本来のビジュアルに戻り舌打ちした。
「は、話ってなんだよ、山田。ハッお前、私のこと今から“ビィーーー”しようとしてるだろ?」
「え?あ、う、う~ん」
黒子智子殿の問いを相手にせず、曖昧な笑顔でスルーする。
なぜか既視感があった。
懐かしい、とすら感じる侮辱だった。
それはいつだったのか…・その源泉を辿ろうとするも直後ストップする。
それよりも僕は黒木智子殿の提案しなければならないことがありました。
「黒木智子殿はコミケを知っていますか?」
「ん?ま、まあ、名前くらいは。行ったことないけど…それがどうした?」
コミケとは世界最大の同人誌即売会だ。
漫画・アニメ好きなら名前くらいは知っているはず。
黒木智子殿もそっち系好きそうな顔しているし。
「僕は毎回参加しているのですよ。人気サークルで常連なので」
「す、すごいな…って自慢話かよ!帰っていいかな」
そう言って黒木智子殿は席を立とうとする。
ホント、一般ピープルは余裕がないですな。仕方ない。
僕は彼女の背に弾丸を放つように指差し、
「黒木智子殿、僕は貴方を”売り子”にスカウトしますぞ!」
本題を放ちました。
「え、う、売り?売り…子。サセ子?え、売春?」
怪訝な顔で振り返る黒木智子殿。
全て下ネタにしか持っていけないこの馬鹿に
僕は用語の説明も含めてことの成り行きを説明しました。
同人に関しては天才である僕はもちろんトップサークルで売り上げは上位。
そりゃあ、毎回毎回凄い行列ですよ。
ですが人見知りの僕は販売を全て一人でやっていました。
忙しくて飯どころかトイレ行く暇もねえ。
もちろん打ち上げに参加する余裕もないから同人仲間に知り合いすらできない…そんな状況です。
それを改善すべく売り子…つまり販売員を雇おうと思いました。
「…そこで貴方に売り子をやって貰いたいのですぞ」
そして、話は本題に戻りました。
「な、なるほど、つまりカワイイ私で集客したい…と?」
「全然違うじゃねーか!話聞いてたのかよぉおおおお!!」
黒木智子殿の回答に僕は大声でツッコミを入れた。
コイツ、全然理解してねえ。ていうか、どんだけ自己評価が高いんだよ。
サークルの人気はあり過ぎてるって言ってんだろ!
オメーはバカみてーに突っ立って販売だけしてればいいんだよ!!
「な、なんだよ、ムカつくな!こっちだってお断りだよ!じゃあな」
「…山分けでどうですか?」
「え?」
「売り上げの山分けで、どうですか?」
再び席を立とうとする黒木智子殿に僕は意味深な言葉を投げる。
その問いかけに黒木智子殿は立ち止まる。
「僕のコミケの毎回の売り上げは数千万になります」
「す、スゲー!さ、さすがは超高校級の”同人作家”!」
僕の実力の黒木殿は感嘆の声を上げる。
超気持ちいい…!
これだよ!これ!こういうの待ってたんだよ!
超高校級の中では僕の稼ぎなんて低い方でむしろ話題にする方が恥ずかしいですが、黒木智子殿相手では違う。
この一般人丸出しの反応に僕の自尊心が満たされるのを感じます。
「その売り上げを山分け…て、え、そんな…マジ!」
ようやく理解が追いつき、黒木智子殿は驚愕でガタガタと震える。
もちろん、常識で考えればたかが販売で数千万など破格も破格だ。
でも僕はお金目的で同人作成してるわけじゃないですし。
お金なんてあんまり興味ないんですよね。
それよりこの人のリアクション見てる方が面白いし。
「で、でも…わ、私、販売なんてやったことないし。そ、そんな大勢の人の前でとか…無理」
ドギマギとしながら顔を赤らめ、黒木智子殿は僕の申し出を断りました。
その仕草はちょっとだけかわいいな。
「別にただ販売するだけですよ。僕もできるだけサポートしますし」
「え、で、でも…」
「そうだ!せっかくだからコスプレしてみてはどうですか?」
「こ、コスプレ!?わ、私が!?」
「猫耳とか定番のやつでいいですよ」
「ね、猫耳か…。か、かわいいかな…?」
「いや全然、たぶん何の需要もないと思いますよ」
「テメー!テメーこの野郎!!」
そんなこんなでワチャワチャと話して最終的に黒木智子殿からOKを貰いました。
「では、今から僕が黒木智子殿の雇用主…ということでいいですね?」
「え、あ、う、うん」
「フン!所詮、金で体を売ったということですか…このビッチめ!」
「ぐ…ッ!お、お前」
主となった僕はさっそく下僕に立場の違いを理解させるべく行動を開始する。
「ここにおやつのボッキ―があります」
「え、うん?そ、そうだね」
「…食べさせてください」
「は?」
「一本一本、雇用主…いや、”ご主人様”たる僕に食べさせてください」
「な、え、ええ!?」
「さあ、早く!」
「う、うう…」
僕は口を開け催促する。
(まあ、本来このシチュエーションはもっと美少女で試してみたかったのですが
仕方がありません。100万歩譲って黒木智子殿で我慢しますか)
「テメー、ブッ殺すぞ!」
僕の心の声を読んだ…!?ま、まあ、気のせいでしょう。
黒木智子殿は躊躇していたが、恐る恐るボッキ―を摘み、僕の口に近づける。
緊張のせいか、赤らめた顔と微かな吐息が黒木智子殿の分際で微妙にエロい。
「ハアハア、さあ早く」
僕も興奮して涎をたらしながら大きく口を開ける。
次の瞬間だった。
「グハ――――ッ!?」
口に入るはずのボッキ―が鼻に入った。
「グエェ!!ゲホゲホッ!!」
一瞬息が止まり、僕は盛大に咳き込みました。
「プププ、フフフ、アハハハ」
僕の醜態を見て黒木智子殿は笑いました。
「山田のくせに調子に乗るからだよ、ば~か」
べーと舌を出し、黒木智子殿は逃げて行った。
「やったな!待って~」
僕は両手を挙げながら黒木智子殿の後を追う。
それはまるで下手なラブコメのワンシーン。
(デュフフ…黒木智子殿、待つでござる~)
おっと涎が出てしまいました。
妄想の最後の方はなんかラブコメみたいになってしまいました。
でももし黒木智子殿と隣の席になったら、きっとなにか面白いことが起こりそうな気がするんですよね…デュフフ。
「ナニを…しているのですか…?」
突如、耳元でささやくその声に驚き振り返る。
そこにはセレス殿が立っていた。
いつの間にか教室に戻っていたようだ。
「山田君、ナニをしているのですか…?」
少し大きな声だった。
周囲にいたクラスメイトは振り返り僕達を見る。
「え…セレス殿?」
セレス殿はいつもの笑みを浮かべていた。
いつもと変わらぬ笑み。
だからこそ、ゾクリと背筋が凍った。
その笑みはまるでこの世の不吉なもの全てを内包しているように感じたから。
「山田君、黒なんとかさんを見ながらナニをニヤニヤしているんですか…?」
教室全体に響くほど大きな声だった。
ザワつきが起きる。
クラスメイト全員が僕達を見つめた。
(チョッ!?あ、アンタまさか!?)
刹那、頭を過ったのは
”覚えてなさい!”
涙目で捨てゼリフを吐くセレス殿の顔と
”報復”
その2文字だった。
そして…セレス殿は僕を終わらせる最後の言弾を放った――――
「アレですか?”いつものように”クラスの女子の制服の中を ”透視”しようと頑張っていたのですね!!」
刹那、刻が凍り付いた。
(や、やりやがった…ッ!こ、コイツ…ありえないことを…本当に言いやがった…ッ!)
否定しようと僕は声を上げようとしました。
”そんなわけないじゃないですか!””ふざけないで下さい!”
だが、その言葉が僕の口から出ることはなかった。
全員が僕を見ていた。
ありえないものを見る目で僕を見ていた。
クラスの男子達の目は…あの苗木誠殿ですら、
”まさかアイツが…”ではなく”やはりアイツが…”
という目で僕を見ていました。
黒木智子殿は…白目を剥いてガタガタと震えて、
戦刃むくろ殿は磨き上げたナイフを手に彼女を守るかのように僕と彼女の間に立った。
不二咲千尋殿は今にも泣きだしそうで。
腐川冬子殿はドン引きして。
朝日奈葵殿は敵意を剝き出しに僕を睨みつけ。
大神さくら殿は低く構えをとり。
舞園さやか殿は顔を下に向け、表情は見えないが針のような拒絶のオーラを。
霧切響子殿は表情こそは変わらないけど、明確にゴミをみるような眼差しを。
江ノ島盾子殿は今までみたことないような笑みを見せ。
全員が僕を見ていた。
一言だけ――――
許されるのはたった一言だけ。
本能がそう告げていた。
それをミスれば、その後何を言い訳しようとも聞いてもらえることはないだろう。
ミスれば…
(お、終わる…終わってしまう…僕の3年間が…)
そのプレッシャーは死刑の判決を前にしたような…などという生易しいものではなかった。
それは空腹の蟻の王を前にしたような…絶対の死を前にした最後の刹那。
頭部が禿げ上がり、一気に老化したと錯覚するほどのプレッシャー。
全細胞が生存の可能性を模索し、全力で稼働する。
今までの全ての記憶を遡る。
中学時代、小学時代、幼稚園…幼子として母の手に抱かれ…子宮に…そして…宇宙が…神…が。
そして僕がたどり着いたのは、本来ならありえない…いや、必然の言葉だった。
二次元…?
なぜ疑問形…?と後に自分でも思った。
だが、その刹那、そこにいた全員の脳裏に清らかな春の光景が描かれた。
「に、二次元しか興味ねーし、三次元?なにそれおいしいの?ぼ、僕、二次元しか愛せないからッ!!」
自分でももう何を言っているのかわからなかった。
だけど、その場を支配していた氷は溶けていた。
そう、ここは希望ヶ峰学園。
才能のみが全てを決定する。
常識など通じない。普通など意味を為さない。
僕のその言葉は僕の才能により保障された。
石丸清多夏殿と大和田紋土殿は肩を組んで、僕に”グッ”と親指を立てた。
不二咲千尋殿は笑顔で胸をなでおろした。
朝日奈葵殿は頭を恥ずかしそうに頭をかき。
大神さくら殿は構えを解いた。
舞園さやか殿は笑顔になり。
霧切響子殿の眼差しは普段通りとなった。
黒木智子殿は…
”私は山田にすら相手にされないのか…”
といった感じで肩をおろし。
戦刃むくろ殿は笑いを堪えながら黒木智子殿を励ましていた。
江ノ島盾子殿は露骨に”チッ”という顔をしていた(ア、アンタ、もしかして性格悪い!?)
生き延びた…!
みんなのリアクションで僕はそれを確信しました。
一件落着である…ってちょっと待ってください!
ということは、
僕は休み時間に二次元の美少女を妄想して涎を流す奴だとクラスメイトに認識されている…?
完全にキモくてアブねー奴じゃねーか!!
ふざけんじゃねーぞ!
助かったけど、全然嬉しくねーよ!
「ぷ、プププ、どうしたのですか、山田君?」
僕の心情を見透かしたセレス殿が笑いを堪えていた。
そう、全て…全てこのアマのせいだ…!
「…のくせに」
「え、何かいいましたか?」
「…ちゃんの…くせに?」
「え、よく聞こえません。もっと大きな声で言って下さい」
負け犬の遠吠えを聞こうと、セレス殿は北斗の〇のモヒ〇ンのような顔で耳を傾ける。
”たえちゃんのくせに…!”
そのささやかな反撃の直後、僕の脇腹に”世界を獲れる右”が深々と突き刺さった。
(り、理不尽すぎる…)
そして僕は記憶の海に落ちていく。
記憶のカケラに様々なセレス殿が映る。
怒った顔のセレス殿。
澄まし顔のセレス殿。
慌てるセレス殿。
最高の笑顔で微笑む…セレスティアルーデンベルク。
何度も喧嘩したけど、なんだかんだで僕達は…友達になったんですよね。
「あ・・・ああ」
黒木殿の声が…聞こえる。
「いるぞ!私はここにいるぞ!山田!」
必死で僕を呼んでいる。
僕なんかのために…また泣いている。
「黒木智子殿・・・僕達は出会う前から出会ってたんですね・・・」
黒木智子殿…アンタ、思った通りの人…だったよ。
面白くて…一緒にいて楽しかったよ。
「あ、あの人を・・・止めてあげてください」
セレス殿…きっと泣いちゃうから。
ああ見えて、あの人…そんな強くないから。
大好きなクラスのみんなを殺してまで外に出ても…
そこに絶望しかないことを思い出したら…
きっと…泣いちゃうから…だから…。
”もう…たえちゃん、バカなんだから…”
【あとがき】
サクラエディタ壊れるのを初めて体験しました。
いくつかバックアップとってたのは我ながらナイスだったけど
書き直しはちょっと大変だった。
山田の話がここまで長くなるとは当初は予想してませんでした。
またここでの希望ヶ峰学園の定義は5章においてかなり重要になるでしょう。
(書けたら…ですが)
今年はあまり書けなかったけど、
続けることが大事だと思って少しずつ書いていきます。
次話はセレスの話。
では、よいお年を。