モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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新妻加蓮、新妻奏。

想像するだに恐ろしいパワーワードです。


4月22日「よい夫婦の日」

「理想の夫婦像?」

 

「そう。来週の取材で、それが聞かれるから、ちょっと考えてほしくてね」

 

 私はそう言って、二人に紙を渡す。ブライダル雑誌から送られてきた、取材の質問書。ある程度当日までに考えておいてほしい、とのことだった。その内容を見て、少し二人は困惑顔。

 

 奏は顔をあげて質問をしてくる。

 

「……これ、どんな答えを用意すればいいのかしら? アイドルや高校生らしい結婚観か、それとも私たちの素直な考え方か」

 

「私たち二人とも、ちょっとひねくれているからね」

 

 加蓮は少し皮肉っぽく、にやりとしながら言う。

 

 確かに、二人とも少しばかり独特な考え方を持っているだろうが。

 

「そこは、二人の素直な考えを書いていい。私たちに聞いてきたのだから、そういう答えがほしいんだろう」

 

 世間一般が求める結婚像を述べるのも、それはそれで普段とのギャップが魅力的に聞こえるかもしれない。ただ、二人とも、そんな型に収まるアイドルじゃない。少しくらい変わった考えを述べてくれたほうが話題にもなるだろう。

 

「Pさんがそう言うなら。そうね、素直に答えてみましょうか」

 

「けど、どう書けばいいかな。私、そんなに結婚生活のイメージとかないんだよね。小さい頃はあれだし、ついこの間までは捻くれちゃってたし」

 

「それなら、こうすればいいんじゃないかしら?」

 

 と言うと、奏と加蓮は顔を突き合わせながら小声で何事かを話し始める。困惑する、というよりも嫌な予感に冷や汗をかき始めた私をよそに、およそ一分ほど。

 

 顔をあげた二人は、見惚れるほどの笑顔で私を見るのだった。

 

「た、タダイマー」

 

 私はひたすらに感情を殺した声でドアをくぐる。『大根、ここに極まれりね』なんて奏の声は無視した。

 

 と、私の前に駆け寄る影。どん、と軽くタックルを受けると同時に柔らかい感触。

 

「か、かれん!?」

 

 腰に抱き着いてきた加蓮は小悪魔のように笑うと、妖艶な声で、私を見上げる。

 

「なぁに、あ、な、た」

 

 君、ほんとにこんな結婚生活が理想的なのかい!?

 

 雑誌の趣旨からは明らかに離れていっているような気がするのだが、加蓮は私の言を聞かなかったようにふるまう。ちょっとシナを作って、唇へ指を添え、

 

「こんな可愛い新妻加蓮ちゃんを前に、そんな態度なんて、ひどいわ、あなた」

 

 絶対に、そんなこと思ってないだろ。

 

 ぞわりぞわりと冷や汗だけが量を増す中、あんな提案を受けるべきじゃなかったと、改めて後悔する。

 

『結婚生活をシミュレーションしましょう。もちろん、相手はPさんで』

 

 なんて奏の提案。やめておけばいいものを、二人の勢いに押し負けてしまった。

 

 そして加蓮を相手に、新婚夫婦の真似をさせられているのだが。加蓮は何を思ってか、こてこての色っぽい新妻演技。

 

「そんな演技、どこで覚えたんだよ」

 

「んー、奈緒の漫画♪」

 

 神谷さんには今度、教育的指導をしなくては。

 

 そんな憤りの思いも、体に密着する加蓮の感触にどぎまぎとされる私の中では形になろうとしない。

 

 赤面が広がり、汗をかき続ける私を満足げに見上げると、加蓮は勢いよく離れ、その場でくるりと一回転。

 

「よし、Pさん成分も回収したし、離してあげる!」

 

 かわいい。

 

「……」

 

 奥から私を見つめる奏の目は無視することにした。断じて邪な思いは抱いていない。

 

「それで、どうする? ご飯も用意できてるし、お風呂もあるよ?」

 

 と、再び新妻演技とやらを始めたのか、無駄に色っぽく言う加蓮。私はなるべく感情を表に出さないようにして淡々と答えた。

 

「ご飯で」

 

「それじゃあ、ご飯ね。はい、上着ちょうだい。疲れたでしょう?」

 

「……ありがとう」

 

 言葉だけならとても優しい奥さんのはずなのだが、いちいち指で体を触ったりするのはやめてくれ。あ、こら、息吹きかけるな! そういうのは奏の役回りだろ!!

 

「それは流石に抗議の声を上げさせてもらうわよ」

 

 私の番、覚悟しておいてねと、奏。加蓮は私の態度を見るたびに満足げに笑いかける。

 

 さて、食卓なのだろう、私の机まで加蓮に手を引かれて移動すると二人、向き合い座る。この歳になってままごとをしているようなシチュエーションに私はそわそわとさせられる。

 

 だが、完全に悪ノリモードとなった小悪魔は、私の顎に手をかけると、

 

「そ、れ、じゃ、あ。私の愛情をたっぷり込めた料理。……食べさせてあげるね」

 

 と、突然、唇を寄せてきて。

 

「っ……!?」

 

 と、私が情けなく顔をのけ反らしたのを見て、ケラケラと笑い始めた。

 

「もー、むりだよ! Pさん、顔が面白すぎ!!」

 

 腹を抱えてしまった加蓮に私は言い返す言葉もなく、憮然とするしかない。さんざんにもてあそばれた私の純情はどうすればよいのか。断固抗議する。警察はどこだ!

 

「ふふふふ、あーだめ。こういうのはやっぱり似合わないね、私。礼子さんや美優さんみたいにアダルティにならないと」

 

 あの人らにやられたら、男でまともに立ってられるものはいないだろう。

 

 むしろ、無理して大人ぶるよりも今の加蓮のほうが魅力的ではある。そんなことは今は言わないのだが。

 

「さて、じゃあ、次は私の番ね」

 

 忘れてた。

 

 笑みをこらえていることが伝わる、そんな奏の声が地の底から響いてきた。

 

「お手柔らかにお願いします」

 

「ふふ、さて、どうしましょ」

 

 まずは帰宅のところからね、と言われ、私はなすすべなく、再び扉の前へと向かわされる。

 

 加蓮のあれを受けて奏がどう出るのか、私には想像できなかった。ただ、ここで逃げるわけにもいかないので、素直に扉を開ける。

 

「ただい、ま!?」

 

 私は声を裏返す。奏はすでに扉の目の前にいたのだ。俯き、そっと私の胸に手を添える奏の姿は私が想像していたものではなく。私はうろたえを隠すことができない。

 

「おかえりなさい。……寂しかったのよ」

 

 奏はそっと体を寄せてくると小さく囁く声を体に染み渡らせる。

 

 脳髄が痺れる。か細く、壊れてしまいそうな様子に、演技を忘れてしまいそうになる。

 

 が、加蓮の。

 

「Pさん、演技、演技」

 

 という楽し気な声が私の意識を現実へと引き戻した。

 

「ご、ごめんな、奏」

 

 必死にそんな声を出すと、さらに奏はせつない声で囁いてくるのだ。

 

「ううん、良いの。あなたは悪くないわ。……悪いのは、私よ。貴方と離れるのを、一時も待てない。よわい、わたし」

 

 と声に涙が混じり始める。

 

「ごめんなさい。こんな姿、あなたの妻としてふさわしくないわよね」

 

 わたし、わたしと。肩を震わせ始めた奏。理性の内では演技のことも、加蓮が笑い転げていることも認識しているのだが。

 

「そんなことないって、奏は、その、」

 

 反射的に言葉を告げようとした私の唇を奏が指で制する。

 

「いいの。わかってる。言葉はいらないの。

 

……貴方は優しい人だから」

 

 

 だから、唇で教えて、私が、貴方の妻だって。

 

 

 私はその言葉に息を呑み、唇が吸いこまれそうになって

 

「なんてね♪」

 

 とにっこりと金色の瞳を細めた奏を前に正気を取り戻した。

 

「心臓、に、悪い!!」

 

 私はどうしようもなく動悸を高まらせながら大きく息を吐く。

 

「さっきの加蓮の番の時、ひどい言葉を言うのだもの。お、か、え、し」

 

「アハハ、もー、おなかくるしい!!」

 

 加蓮へと向くと、彼女はぴくぴくと震えながら、ソファーの上のマットに頭をうずめていた。その中に隠れた顔は、声だけでわかる。

 

 私はそんな二人の小悪魔に弱らせられながら、せめてもと頼みごとをした。身から出た錆とはいえ、もう、精も根も尽き果てていた。

 

「たのむから、取材の時は素直に答えてくれよ」

 

 二人の返事を背中に聞きながら、屋上で気分転換するか、と私は部屋を出るのだった。

 

 

 

「ねえ、奏。どこまでが演技だったの?」

 

「加蓮こそ。作った口調はともかくとして、態度は本物に見えたけど?」

 

「ふふ、ナイショ」

 

「私もよ♪」




モノクロームリリィとの結婚生活

ウェディングのカードが初出となったモノクロームリリィ。そんな彼女たちの結婚生活、どうなるでしょうか?
私は案外二人とも寂しがり屋だったりしたら可愛いかなって思ったりしています。



大変遅くなりましたが、何とか日付が変わる前に投稿ができました。

明日は通常通りに投稿予定です。とうとう中間発表当日ですね。奏と加蓮、二人の飛躍を祈って!!
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