モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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いよいよ中間発表! ですが、今日はひとまずいつもどおりで


4月23日「秘書の日」

 これは夢だ。眠っているとき、あまりの現実感のなさに夢だと認識することもあるという。その類だ。

 

 ただ、苦しい夢だった。

 

 私は何者かを引きずって、暗いトンネルの中を歩いていく。大きく、丸いものだった。ロープで結び付けられ、ひいひいと息を吐きながら這いずりながら。

 

 この先にある一筋の光へ向かって。

 

 まったく夢の中とは言え、私は何をやっているのか。理性が訴える。

 

 せめて背負ったものの正体くらいは見てみたい。目を凝らしながら、後ろを振り向くと。

 

『ぴにゃあああああああああ!!』

 

 ……

 

「…さん、Pさん!」

 

「うーん、あっちいけぶちゃいくぅー。……はっ!?」

 

 どこか見覚えのある丸いキャラクターを見て、私は目を覚ました。あわててきょろきょろと辺りを見回すと、心配そうにこちらを見ている二人のアイドルがいる。

 

 私が目を覚ましたのを確認すると、大きくため息。

 

「お昼休みから帰ってきたら、うなされていたのよ」

 

 そうだった。仕事を溜め込んでいてしまったので、大急ぎで昼を食べ、そして机に向かっていたのだ。だが、昨日から徹夜してしまったからだろうか。気絶するように眠ってしまったようだった。

 

「もー、心配かけさせないでね」

 

「あ、ああ。ごめん」

 

「Pさんの体も、私たち以上に健康を守ってもらいたいところだけど……。すごい量の書類ね」

 

「あの蛍光緑の有能悪魔に渡されたんだ」

 

 これ、やらないとだめですよ。と、つみあがった書類を持ってきたアシスタントを思い出す。

 

 それを説明すると、加蓮はちょっと怒った様子でぷんすかと、奏はこめかみを押さえてため息をはく。

 

 私はといえば、二人に心配をかけてしまったことが申し訳なく、頭を下げるしかない。だが、二人は積みあがった書類を私の机から取り上げると、それを共用机に置いた。

 

「まったく、それで徹夜? ……仕方ないか」

 

「そうね。Pさん、私たちで手伝えることある?」

 

「いや、それはさすがに」

 

 今日は午後は二人とも仕事はない。だからといって二人に手伝わせるわけには。

 

「いつだったか、アイドルとプロデューサーは一心同体、なんて言ってくれたじゃない。今日はPさんが困っているみたいだし、少しくらいは手伝わせてほしいわ」

 

 真剣に見つめてくる二人。確かに、心身ともに限界に近い。そうして休んだりすると、今度は二人の活動に支障が出てしまう。

 

「……わかった、ありがとう」

 

 それと、二人の心遣いがうれしかったのも事実だった。

 

「それじゃあ、私がどんどんと書類を見て行くから、それを指示したファイルに閉じこんでくれないか」

 

「それくらいでいいの?」

 

「それをしてくれるだけでありがたいよ」

 

 意外と穴を開けて、中に閉じるという作業も大変なのだ。枚数が多ければなおさら。

 

 その作業がなくなるだけでも、私は書類を捌く速度を大幅に上げることができる。

 

「じゃあ、これ、1番で」

 

「はい」

 

 隣に立つ奏へ書類をわたす。

 

 奏はそれをてきぱきとファイルにまとめてくれる。手馴れているわけではないが、見ていてまったく心配にならない。

 

 そうして収め終えると、また私の隣に来て、次の書類を持っていってくれる。

 

 ふと、そんな様子から秘書をやってもらっているような錯覚に陥った。確かに、OLに間違われるという奏は有能なできる秘書という感覚を与えてくる。

 

 こんな秘書いたらなあ。なんて、まだまだ下っ端のPの愚痴がもれそうになる。けれど、それを閉じ込めて黙々と作業をすることを選んだ。

 

「はい、加蓮。次は3番に」

 

「はーい♪」

 

 一方の加蓮は奏よりも元気よく。ただ、いつもの甘い声は返事だけで、手伝いをするしぐさは真剣そのもの。

 

 そんな風に返事と小さい指示だけが続いて行くオフィスは今まで無かったほどに静かだった。いつもが騒がしいというわけではないのだが。それでも、二人の会話が無いだけで室内の様子が変わる。

 

 時々窓から入り込むかすかな涼しい風の音。それすらも感じ取れるほどに、少しの応答の声を除いて無音が広がっていた。

 

 こういう雰囲気になると、得てして仕事は速く終わるものだ。あれだけ溜まっていた書類も要領よく無くなっていく。

 

「なんだか、こういうのもたまにはいいね」

 

「加蓮?」

 

「だって、普段、Pさんがどんなお仕事しているのか分かるじゃない」

 

「ライブのスタッフさんたちのお仕事は、私たちにも分かりやすいものね。けど、Pさんたちのお仕事って、こういう書類仕事とか、普段は見せてくれないでしょ?」

 

「まあ、そりゃね」

 

 アイドルに裏方の不安ごとを持たせないように働くのがプロデューサーの務めだ。彼女たちがステージできらきらと光り輝けるように、徹底的に準備する。こうした事務仕事に気をとらせるわけにはいかない。

 

「時々手伝ってあげようか? 今日みたいに」

 

「だめ。二人にはアイドルとしてやってほしい仕事が山ほどあるんだ。こういう細々したのはもっと大人になってから幾らでもできる」

 

 もっと、この子達には夢へと向かってきらきらしてほしかった。

 

「……よし、それじゃあ。これで終わりだ」

 

 小一時間ほど。驚くことに、それだけで書類は捌けていった。うまく集中ができ、効率よく処理することができたおかげだろう。

 

 大きく息をして背筋を伸ばす。

 

 肩をまわすとぽきりぽきりと、ひどく凝った音がした。けれど、重荷がなくなったからか、不思議とその硬さも心地よい。

 

 と、その肩にそっと手が置かれた。

 

「うわっ、ほんとにがっちがちじゃない!? お風呂上りとかマッサージとかしてる?」

 

「えっと、加蓮はどうしたんだ?」

 

「うん。揉んであげようと思って」

 

 言うやいなや、細い指先に力がこめられる。少し痛いくらいだけど、どこか心地いい。

 

「ほらほら、おじいちゃん? どこが凝ってますかー」

 

「私はおじさんでもないし、ましてやおじいちゃんでもない!!」

 

 お兄さんだ、まだ!!

 

「はいはい。じゃあ、ここかな? ぎゅーっ」

 

「ぐぅう」

 

 思わず声が漏れる。痛いけれど、確かに気持ちいい。つぼが的確に押されているのがよく分かる。

 

「加蓮、上手なのね」

 

「そこそこ得意だよ。病院にいるとね、こういうことも教えてもらえることあるんだ。ずっと寝てばかりだといろいろほぐさないといけないから」

 

「あー、そこ。気持ちいい……」

 

 ぐりぐりとされるたび、息が抜けて行く。

 

 と、少ししたら手が離されて。

 

「はい、次は奏の番ね」

 

「ふふ。任されましょうか。加蓮、Pさんの弱いところ、教えてくれる?」

 

 また違った指の感覚。加蓮と違って少し探り探りだが、それでも丁寧に凝りをほぐしてくれる。

 

「たまには、感謝の気持ちをこめて労わって上げましょう」

 

「そうだね。また元気になって、いっぱいからかわれて貰わないと」

 

 そんな会話を遠くで聞きながら。私は心地よい刺激の中に落ちていくように意識を遠のかせていく。起きがけとは違って、それはとても心地よい眠りだった。




さて、中間発表。予約投稿ですので、書いている際には結果が分かりませんが。
奏と加蓮がよい順位につけていますように!!

明日からも二人への応援、投票、お願いいたします!!
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