「いぃいゆーだーなー、あははん」
なんて、相当に間の抜けた歌を歌いながら暖かいお湯の中へと体を沈める。
体を包む暖かさ。触れ合う空気さえぬくもりを感じる。少し手を体に添わせるとすべすべとした気持ちよさが広がるのだ。
日本人に生まれてよかったと思うのは、こういうときである。ああー、体に沁みるー、心が潤うー。
私は日々の疲れをお湯の中に絞り出すように、湯の中で大きく伸びをした。
今日は二人のラジオ番組の公開録音ということで、有名な温泉街へとやってきている。出張録音に、来てくれた人向けにミニライブ。
それが終わったので、私たちは温泉宿に宿泊することとなった。普段の一人旅なら決して宿泊できる値段ではないが、そこはアイドルが泊まるということでプライバシーには人一倍厳しいところを選んでいる。
こういう時、会社が宿泊料金を出してくれるというのはありがたいことだ。そして、二人が頑張ってくれているので、おまけにあずかれる。
「かんしゃ、かんげき、ありがたやーありがたやー」
感謝の気持ちがあふれて、なむなむと拝んでみる。体が蕩けていく中で極楽浄土にいる気分となっていた。
と、仕切りの向こうから聞きなれた声が響いてくる。
「Pさーん! そっちどう!?」
と加蓮は大きな声で呼びかけてきた。周りを気にしない声に、向こうにも誰もいないのだろうかとちょっと疑問。
だが、こちらも今はだれもいないので。
「きもちいいんじゃー!!」
等と湯だった頭で返事をしてみる。
「あはは! ほんとにおじさんみたい!」
と笑い声。それが途端に、
「きゃっ!? もー、そんなとこ触らないでよ奏!」
「せっかくの裸の付き合いじゃない。たまには女の子らしく、スキンシップしましょ?」
「あ、もう! そんなとこダメ!」
そんな声が響いてくるものだから、私は途端に居たたまれない気分となってくる。事実として本来聞いちゃいけないものなのだろうが、あの二人のことだ。私がいるとわかった上でわざとやっている。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
座禅。あの小悪魔たちの手に乗るか。私はもっと温泉を楽しみたいのだ!
だが、
「じゃあ、私も!」
「ふふ! 大胆ね!! じゃあ、どちらが先にまいるか、勝負しましょ」
「よーし、それじゃあ、こう!!」
なんて、可憐な乙女二人の声に、私の瞑想等は役に立たず。
「出るか……」
いそいそと温泉から撤退するのだった。
そうはいっても十分に温まった後。少し扇風機に当たりながら火照りを冷ますと、自販機からコーヒー牛乳を買う。昔懐かしのビンにテンションを上げて。
男湯の暖簾から出てしばらく待っていると、二人も上がってきた。
「あ、Pさんだ。声聞こえなくなったけど、やっぱり出ちゃったんだね」
「残念ね、待っていれば珍しい声も聞けたのに……」
「そんな手には乗りません!!」
加蓮も奏も浴衣に半纏をまとった姿。やっぱり女の子であり、ふろ上がりも身だしなみはしっかりと整えている。
けど、風呂上がりの色気というべきか、上気した肌やら何やらはとても刺激的で私は少し頬に熱を感じる。
それを見た二人は少しにやり。
「Pさん、まだ体に熱が残ってるの、さわって、みる?」
なんて奏は私の隣でおもむろに首元を開いてみたり。声につられてそちらを見てしまった私に罪はないと弁解したい。
白く、なまめかしい肌が見えた瞬間に回れ右。
「あ、私がいいんだー。ふふ、見せてあげよっか?」
と逃げた視線の先には加蓮が。ちょっと赤みを帯びて、しっとりとした胸元を少し開いて。
「No!」
私は目を閉じて上を向き叫ぶ。
「あはは! もー、誰もいないんだし、ちょっとくらいならいいのに」
「ほんと、Pさんは思った通りに反応してくれるんだもの。からかいがいがあるんだから!」
あはは、ふふふ、と楽しそうな二人の声が瞼の向こうから。ところで、ちょっと離れてくれないだろうか。ちょっと温かい温度が、感触が!
もう少しからかわれて、開放される。温泉に入っていた時よりも汗をかいてしまった。
「まったく、もう少しは恥じらいってものをだね」
誤魔化すためにコーヒー牛乳をぐびぐびと飲んでいく。同じ長椅子に座る二人も手にはフルーツ牛乳。
「あらひどい。私たち、Pさん以外にはこんなことしないわよ?」
「私にもしないでください」
「だーめ♪」
「だめですか、そうですか」
最後の一口。すぐにレトロな味は喉元を通り過ぎていく。ふいーっと心を落ち着かせるために息を吐く。小さいころ、コーヒー牛乳が大好物だったな。
二人も同じように、けど少し上品に懐かしの甘い飲み物を飲んでいく。
懐かしい味、なんて奏は独り言ち。
「ノスタルジックって不思議よね。泣きたくなるような、ほほえましいような、そんな不思議な感覚。どこから来るのかしらね」
「そりゃあ、胸の奥だろう」
この感情がどこから来るのか、ある人は脳というかもしれないが、私はこの高ぶりをくれる鼓動こそを信じたいものである。
「やっぱり、そういうと思った!」
「Pさんの答えはわかりやすいものね」
「お、とうとうロマンがわかってきたか!」
二人が私の趣味嗜好を理解してくれるとなると、嬉しいもの。そういうと、二人は少し苦笑い。
それはちょっと、なんて。
むう、残念だ。
待合室を出ると、窓からきれいな夕焼けが広がってくる。高台にある宿の夕日は絶景だと聞いていたが、なるほど。息をのむほどの美しさだ。
二人も楽しそうにそれを眺めて。加蓮が小さな声で歌いだす。
「ゆーやけこやけー♪ いいよね、この町。温かくて、ふわふわして、ふふ、また来たいな」
「そんなに好きになってくれたなら、仕事とってきた甲斐があったな」
「ほんと!? 嬉しいな!」
そういう嬉しい顔を見せてくれるので、私も頑張れるのだ。なんて。忙しい仕事の合間の、ほんの一休み。素敵な温泉、綺麗な夕日に、立派な宿。そしておいしい夕食。
そんな素晴らしい経験を二人と共有できる喜びを感じながら、一日が終わる。
はずだったのだが。
「奏……」
「ふふ、なあに?」
「その手にあるのは何なんだ?」
「いいもの♪」
私の部屋に押し掛けてきたのは見るからにわくわくしている奏と、どこか顔色が悪い加蓮。大丈夫、体調が悪いわけじゃないのはわかっている。
「明日は午後からでしょう? 場所も近いし、朝までのんびりできるじゃない。それじゃあ、どうやって楽しもうかって、そう思ったの」
だからって、君、君ねえ。
「さあ、映画を観ましょう」
「B級はやめろぉ!!」
奏の手にあるのはサメやらワニやらゾンビやら。より取り見取り。よく集めたなあ、そんなゲテモノラインアップ!
私たちのノスタルジックはどうすればいい!
「大丈夫、きっと懐かしい思い出がよみがえるはずよ。映画の不思議なところよね」
「そりゃ思い出すのは悪夢だよ!?」
ずいぶんと長くB級を禁止してきた。その反動が来たのだろうか、奏はえらくテンションを上げていた。
「か、加蓮!」
「ふふ、Pさん。私はもうあきらめたよ。……ねえ、奏。せめて私に選ばせて」
なんて、うつむいた加蓮はあきらめ顔で。さっきまであんなにはしゃいで、歌まで歌って。
「そんなあ。あんまりだぁ」
神様はいないのだろうか。
「ちょっと! そこまで言わなくてもいいじゃない!!」
もう、失礼! なんて奏の抗議は無視する。そして、加蓮はDVDをデッキに入れ。
少しの黒画面を待ってロゴがテレビに映し出されていく。
これから一時間ほどの悪夢が始まるのだ。私は覚悟を決め、身構えて。
「ほら、始まるわ、よ?」
奏が言葉尻をすぼませる。
そこに映るのは何時の間にやら見慣れてしまったB級のロゴではなく。
「ふふふ、甘いよ奏。私が何の対策もしてないと思ったの……」
「か、加蓮、あなた!」
「すり替え、成功!!」
よくやった加蓮!! ひゃっほうとジャンプしてハイタッチを交わす私たち。
「奈緒セレクトの甘い甘い少女漫画原作映画集!! 付き合ってもらうわよ、奏!!」
よく考えたら、それ私もつらいやつ!
「ほらほら、観念しなさい。始まった映画だもん、最後まで見ないと罰が当たるよ!!」
「……せめて、終わった後に一本でいいから見させて」
なんて、奏の敗北宣言。珍しい勝利の余韻に浸りながら、私たちのにぎやかな夜は更けていくのだった。
モノクロームリリィと温泉
デレステでの絡みが多い二人ですが、カードのシチュエーションも結構似ていますよね。恒常はPと二人でデートのような。そして限定は温泉シチュエーション。
普段は見れない姿というのはいいものです。
さて、皆様もそろそろGWですね。そんな時にも頑張らないといけないプロデューサー業というのも大変ですが、アイドルたちの笑顔が待っていると思うとつらくないのが不思議です。
それでは、明日も二人へ投票をお願いいたします!!