「私たちは友達じゃないわ。まして親友でもない。ただの仕事だから、私たちは共にいただけ。……今まではそれが上手くいっていただけよ」
「……そうね、アタシも何時かこんな日が来るんじゃないか、そう思ってた。初めて出会ったあの日から」
暗い室内。奏と加蓮が向き合い、互いを睨み付ける。そこにあるのは紛れもなく敵意であり。譲れない信念を前に、二人の関係は決裂の時を迎えていた。
互いに立場がある。今一時は手を取り合わなければいけない。けれど、その後は……。
(交わることは、二度とないだろう)
「「これが、私たちの最後の……」」
二人の声が重なり、そして……。
「はいカットォ!!」
監督の一声とともに緊迫した空気が弛緩していく。
セットの向こう側に立つ二人も、少し肩の荷を下ろして、一段落。
「ふぅ」
見ているだけでも緊張はするものだ。二人の演技の成功に、私も安心し、大きく息を吐いた。そこへ二人が戻ってくる。
少し汗をかいて、やり切ったという充実感に満ち溢れた輝く姿。私はそんな二人にねぎらいの言葉を興奮気味にかけて、タオルを手渡す。よく冷やしておいたそれを首に当てたりして、気持ちよさそうに肩をすくめる二人。
「いやー、私もえらく緊張してしまった」
「Pさんが緊張してどうするの、もう」
加蓮がからかってくるが、君らの演技は真に迫りすぎていて、時々怖いばかりだ。
「そういう風に演じているのだもの、誰も逃がさない地獄の蓋が開いたように、ってね。もう引き返せない雰囲気、出てたでしょ?」
「ああ、完ぺきだったと思う」
向こうで映像を確認している監督も満足げだ。何といってもドラマのダブル主演、重圧もあっただろうに、よく頑張ってくれた。
『モノクローム 黒と白の迷宮推理』
刑事ドラマである。謎を解くためなら手段を選ばない切れ者と、事件解決よりも被害者感情を重視する人情派。そんな二人の新人女刑事コンビが凶悪犯罪に挑む。そんな二時間ドラマ。
成人の刑事役に未成年のアイドルというのも中々アンバランスに思えるかもしれないが、ぴしりとスーツで決めた二人は脇を締めるベテラン勢に引けをとらない存在感を示している。
きっと、二人の魅力は視聴者にもよく伝わるだろう。放映前から各種媒体で話題はよく広まっている。
ひとまずはクライマックスへと至る山場の撮影は終わり。最後は高層ビルの上で犯人と対峙するラストシーンへとつないでいく。あと少しで長い撮影も終わりだ。
「はい、お疲れ様」
キンキンに冷えたジュースを追加で渡す。クーラーは効いているとはいえ、緊迫した空気を出すためにはとてつもない集中力を必要とする。
早々に堅苦しスーツを外すと、ワイシャツとネクタイを緩めて、二人は休憩を始めていた。
今日はかわいらしさやお洒落さというよりクールさがよく強調されている。スーツ姿も、よく似あっていた。
今の着崩した姿も、少しの色気というか、また違った魅力を醸し出して。今度は、こういう姿での撮影もやってみてもいいかもしれない。
そんな新しい仕事のアイデアが思い浮かんでいくが、ひとまずはこの仕事の成功を祈ろう。
「どうだった? 刑事ドラマって」
ちなみに私は恋愛ドラマを見るよりは好きである。
「楽しいよ。大人っぽくクールにかっこよくっていうのも好きだし、演技力とか、そういう実力出せるのって面白い。
あと、奏はやっぱりすごいね。さっきのシーンなんかピリピリ迫力が伝わってきて、すこし怖いくらいだった」
加蓮は少し興奮気味にそう言う。
「加蓮のおかげよ。演技はお互いのやり取り。どちらかが強いだけじゃ、高められないもの。加蓮のおかげで、いつもより集中できて、いい演技ができたの」
それじゃあ、お互いの勝利だね。と、加蓮と奏は缶ジュースを打ち合わせ乾杯する。
「そういえば、将来的に連続ドラマになるかもしれないって話も出てるぞ。もちろん、視聴率次第だけどね」
「ほんと!? そうなったら嬉しいな! きっと大変だけど、楽しいもん」
「単発ドラマと、連続ドラマだとまた少し表現が違ってくるでしょうけど、それもまた面白そうね」
「ちなみに奏はどちらが好きなんだ?」
と聞くと、奏は少し思案顔を浮かべて。
「単発かしら? 映画と同じように、一本のために全部を注ぎ込めるのは、やりがいがあるわ」
確かに、連続ドラマだと完走するまで走り続けなくてはいけない。力の入れ方も毎回全力とはいかないだろう。
「けれど、たくさんの経験がいただけるというのはありがたいことよ。私だってもっと演技を極めてみたいもの。もちろん、歌も、踊りもね」
「そう考えると、アイドルってほんと大変だよねー。覚えることがたくさんあるもの」
それが本当に楽しい、なんて加蓮は嬉しいことを言ってくれる。
「けど、これで続編作ったら、奏はどんな立場になるんだ?」
今回のドラマのラストでは、奏は警察を辞職し、怪しげな笑みと共に暗闇の中へと消えていく。そんな筋書きとなっている。
果たして続編が作られたとき、奏は敵となっているのだろうか。
きっとネット上では大論争となるだろう。
「私としてはもう少し捻った展開が欲しいところね。単純に敵と味方なんて、シンプルすぎるじゃない?」
「なるほどね。そうなると、味方のような敵のような、謎を探られるキャラってわけだ」
いつも秘密を探って、なんて挑発的な笑みを浮かべる奏だ。きりっとして謎を追い求めるのも良いが、怪しい美人キャラももちろん似合う。
そんなことを話していると、
「それじゃあ、こういう話はどうかな?」
なんて加蓮の提案。
……夜の街の中、小さな街灯の下で二人は出会った。
『久しぶりね、加蓮』
『奏……。探してたんだよ、どうしていなくなったの!?』
『どうしても欲しいものがあったの、あなたといる、心地いい空間ではどうしても手に入らないものが、ね』
『なに!? 貴方は何が欲しいの? 私とは仲間じゃ、友達じゃなかったの!?』
加蓮が涙を流しながら、訴えるも、奏は怪しげな笑みを浮かべるのみ。
『私が欲しいもの……それは』
「貴方よ、Pさん……」
「だから、なんでそうなるの!?」
「だーめ、私がもらってくの」
なんて、いつの間にか二人の寸劇はいつものからかいへと変貌している。クールな刑事ドラマだったはずなのに、殺伐とした昼ドラが始まるような脚本へと変化していた。
にやりと笑った脚本家は少しポーズを作って一言。
「最後に求めるのは、愛なんてアイドルらしいじゃない?」
「そうね、下手な脚本だと陳腐になってしまうけれど……。そんな趣もいいかもね、ドロドロと蕩けていくような女の愛と、嫉妬と、涙の物語」
それ、相手の男は最後どうなるんだ?
「うーん、刺されちゃうんじゃないかな?」
「やっぱり!?」
「刺されるだけで済むといいのだけど……」
奏は何を想像してくれているのだろうか、まったく。
それよりはもっと王道を行く刑事ドラマのほうが良いと思うのだ。もう十分に奏と加蓮のキャラも立っているのだから。
なんて話をしていると、
「その脚本、いいな」
と背後から監督の声が。髭面の監督は何やら腕を組みながら、路線変更、友情出演なんて物騒なことを話し始めた。
「あらら、どうしよ」
「共演相手、Pさんを指定しちゃダメかしら?」
さて、このドラマの行く末は。私は先の不安に頭を抱えるのだった。
モノクロームリリィのドラマ
もし二人が主演のドラマがあったら……
加蓮は恋愛ドラマが見たいですね。ラブデスイベントのようなドロドロの物語でもいいですし、爽やかな学園ドラマでも可愛いでしょう
奏はミステリーなんてどうでしょう? 洋館に住む安楽椅子探偵とか、似あいそうじゃありませんかね?
ミリシタのようにドラマ仕立ての話が作られることが、ひそかな望みです。
少し遅れてすみません!
ですが、今日も無事投稿できました。さて、のこり期間も少なくなってきましたね!
明日も加蓮と奏に清き一票をお願いいたします!!