「暑いなあ……」
4月28日。私たちは事務所近くの会場で打ち合わせを済ませた後、帰宅の途についていた。歩いて20分くらいの距離。少しくらいは運動しても良いだろう。何て思っていたのだが。
「あつーい」
加蓮が小さくつぶやく。額から玉のように汗をかいている彼女の姿は少し色っぽくは見えるが、少し苦しそうなので、そんな感想は抱けない。
地面から上ってくる熱に、靴の中も暑いし、体の周りを纏う空気も熱を持ってるようだ。
「Pさんも加蓮も、そう暑い暑いと言っていたら余計に暑くなるわよ」
隣を歩く奏は私たちと比べて薄手のシャツだ。だが、奏も涼しそうな顔をして、手で首元を扇いでいる。言葉とは裏腹に暑さを我慢しているのがわかる。
つい先ほどまで、それこそ会場を出るまでは雲がかかっていて、少し涼しいくらいだった。それが、雲が晴れた途端にカンカン照り。アスファルトは熱せられて温度が上がってしまっている。
「加蓮、大丈夫か?」
「うーん。とりあえずは、ね。少し歩きたいなんて提案したの私だけど。ちょっと、失敗かなあ」
加蓮は蕩けてしまいそうなほどに背を丸めて歩く。
「仕方ないわよ。同意したのは私もだし、Pさんもだもの」
「そうそう、歩けるときに歩くのは大事なことだぞ。とはいえ、」
流石にあと10分ちょっと歩くのは私はともかく、二人にはきついかな。流石に暑くなりすぎだ。
「よし、ちょっと休憩しよう」
すぐに決める。
「いいの?」
と加蓮は少し心配そうに。尋ねてくるが、仕事のスケジュールは完ぺきに把握している。彼女が心配することにはならないから安心してほしい。それよりもアイドルの体調管理のほうが大事だ。
「じゃあ、お言葉に甘えて。……やったぁ!」
やっぱり少しきつかったようだ。加蓮は休憩と聞くと見るからに元気になった。
そんな彼女に急かされながら、私たちは近くのショッピングモールに入る。真っ先に向かったのは自販機コーナー。二人とも伊達眼鏡に帽子をかぶることで変装しているとはいえ、人が多いところに行くのは避けるべきだし、下手に店に入ると出るタイミングを失ってしまいそうだった。
「おーラインナップがすごいな」
私は思わずそれを見て感嘆の声を上げる。
コーナーには自販機が5つほどあって、懐かしのジュースから、最新のエナジードリンクまで何でもござれ、といったラインナップ。
少しテンションを上げて、二人に尋ねる。
「二人はどれがいい? もちろん奢るけど」
「たまには私たちもPさんに奢ってもいいんだけどね」
加蓮が嬉しい申し出をしてくれるが、そこは少しかっこつけさせてほしい。
「それは二人が大人になってから期待するよ」
「それじゃあ、」
と奏はいくつかのパネルを見て。これ、と指さす。
「オレンジジュース?」
聞くと、奏は少し恥ずかしそうに笑う。
「子どもっぽいかしら?」
「もちろん、そんなことないよ」
ただチョイスが可愛いと思っただけだ。
「じゃあ、私はこれ!」
一方、元気よく加蓮が示したのがメロンソーダ。もうすっかり元気になったようだ。それにしても、見事にジャンク系だなあ。
「今ね、もう暑さにやられて大変だから、しゅわーとすっきりしたい気分なの」
「加蓮はコーラとソーダが多いわよね」
「流石ジャンク姫」
そう呼ぶと、加蓮はじとーとにらんできて、頬を膨らませる。
「Pさーん、そのあだ名、二度と呼ばないでって言ったはずだよね」
「あーすまん」
そういえば以前に呼んで怒られたっけか。簡単に謝ると、ますます加蓮は頬を膨らませる。
「もっと真摯に謝って! Pさんのことロマン魔人とか呼ぶよ?」
「すみませんでした!」
私は勢いよく頭を下げる。流石に人前でそう呼ばれるのは勘弁してほしい。そう言うと加蓮は胸を張って威厳たっぷりに言うのだ。
「許しましょう。寛大な加蓮ちゃんに感謝しなさい」
ありがたき幸せ。今日はディナーなしに許された。
「で、Pさんはどれにするのかしら?」
問われて考える。
さて、どれにするか。オーソドックスにコーラという手もあるし、疲れた体にエナジードリンクというのも良い。だが、一番下の段のそれを見た瞬間に目が引かれた。
「これにしよう」
私がボタンを押すとがたんと音。このジュースが転がりだしてくる音は結構好みだったりする。それを取り出すと、奏は少し微笑んで、
「あら、それにしたの?」
「懐かしい味が飲みたくてね」
プルタブを開けると、しゅわっと軽い音。選んだのは懐かしのプチプチオレンジだった。一口口に含むと、すっきりしたオレンジ味に内側に入った果肉の感触が心地よい。
「あはは、本当にそれにするなんて!」
加蓮が腹を抱えだした。すると、奏は加蓮に私の勝ちね、なんて勝利宣言。どうしたのだろうか?
「うん?」
「二人で勝負したのよ、Pさんがどのジュースを選ぶのかなって」
なんだと。
「奏がそのプチプチオレンジを選んで」
「加蓮がコーラ」
「惜しい。直前までコーラとの二択だった」
加蓮はもうっ、と悔しそうに唇を尖らせる。
それにしても好みまで把握されてしまっているとは。そんな感想を素直に言うと、奏は不敵にウィンクで返す。
「貴方がアイドルのことを理解してるみたいに、私たちもプロデューサーさんを理解しているの。どう? 素敵な関係性でしょ?」
いい事は言っているし、大まかには同意するけれど、話しているのはジュースの好みの話だろうに。そう言うとさらに笑顔が深くなって、
「ふふっ、Pさん、私たちが知っているのが好みのジュースだけだと思う?」
「……え、怖いんですけど」
そう言われると、どこまで知られているのか不安になる。何まで?
いや、二人のことだ。もう私生活の大部分を見透かされていても不思議じゃない。
「ほらー、奏。Pさん怖がらせちゃダメでしょー」
「はいはい。加蓮お母さんに怒られちゃったわね、ふふ」
「えー私がお母さん? でも、奏が娘は苦労しそうだなー」
「そうでもないわよ? 手間がかからない子供だもの、これでも」
なんて、二人は勝手に話を進めていくが私としては疑問が残されたままだ。けど、ちょっと待って、本当にどこまで知ってるの?
「それはナイショ」
「あ、そうだ、奏は勝者の報酬を手に入れないと!」
そう加蓮が言うと、奏はそうね、なんて少し手を顎に当てて思案顔。
「で、ジュース当ての報酬は何だったんだ?」
「それが特に決めていなかったのだけど……。そうね」
というと、奏は、私の手を引いて自販機の前に連れていく。
少し悪戯っぽい微笑みで、自販機を指さすと。
「これからまた炎天下の中に行くでしょ? もう一本、ジュースほしいと思っていたのだけど」
「それくらいなら、もちろん買うけど?」
「ううん。今度は私たちがお金を出すから大丈夫。ただ……」
なんだろうか?
「うん。Pさんが選んで? 私たちに似合いそうなジュース」
そんなことで良いのか?
「ええ、面白そうだもの。Pさんが私たちの好みをちゃんと把握しているのかどうかってね」
「それなら……」
私は二つジュースを選んだ。
「……当ててくれたのは嬉しいけれど、ね」
「……あんなにあっさり当てられると、少し悔しいわね」
ふふん。君たちが私の好みを知っているように、私も君たちの好みを知っているのだよ。
少し上機嫌な私は二人を連れて、甘い味を口にしながら帰路へと戻るのだった。
モノクロームリリィとフルーツ
加蓮はやっぱりオレンジですね。色合いもそうですが、ちょっと大きいオレンジをもって微笑んでいる姿が似あうと思います。味も甘くて少し酸っぱい、そのバランスも加蓮!って感じ。
奏はブドウかブルーベリーですかね。ブルーベリーという青い果実に、白く可愛らしい花というのも奏の二面性に似あっていると思いますし、ワインの原料となるブドウも、一筋縄ではいかず、妖艶な奏に似合うでしょう。
765と同じく新しい衣装でフルーツ衣装は出ないでしょうかね。
それでは明日も二人の応援、投票、よろしくお願いいたします!!