モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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奏の眼鏡姿はやばい


4月30日「図書館記念日」

 4月30日、図書館記念日。

 

 だからというわけではないが、奏と私は共に図書館を訪れていた。少し先の企画になるが、写真集で使えそうなシチュエーション探し。今日訪れたこの図書館は歴史が古く、演出次第ではかなり幻想的な雰囲気を出せそうとピンと来た場所だった。

 

 館の人々には話を通しており、好きに見ても良いとのこと。平日の昼間だからか、人は少なく、静かな本の香りの空間が少しロマンをかきたてる。

 

 そんな本の間を歩いていくと、いろいろなシチュエーションが思い浮かんでくるが。

 

「鷺沢さんとか、好きだろうな」

 

 うちの事務所の文学少女のことをふと考えた。たとえば、あそこの少し日が入る角の椅子。あんなところで静かに本を読んでいる姿を想像すると、それだけで絵になるだろう。知恵の女神とか。

 

 そんなことを考えると、奏は私の頬をおもむろにつねりあげる。

 

「あら、貴方の素敵な偶像が隣にいるのに、他の子のことを考えるなんて……。失礼な人ね」

 

「いひゃい、いひゃい」

 

 抗議の目を向けようとして、背筋が凍りつく。奏は口元を弧にしてるが、目だけは笑っていない。まずい。久しぶりに怒らせた。

 

「ごみぇんなさい!」

 

「怒っているわけじゃないのよ? 少し、嫉妬と、自己嫌悪。こんなに近くにいるのに、貴方の心を虜にできないなんて、アイドルとしても、女としても自信無くしてしまいそうだもの。……どうしてしまおうかしら」

 

 奏につねられたまま、私は本棚の影へと連れ込まれる。奏は頬をつねるのを止めたかと思うと、今度はがっつりと、私の肩を片手でホールド。寄せられた耳元で、くすぐるように囁かれる。

 

「加蓮との淑女協定もあるから、この先は無しにしていたのだけど、ね。貴方が悪いのよ、Pさん……」

 

「やめなさい、ちょ、奏!? 何するつもり!?」

 

「消せない跡を残そうかと思って、貴方が私だけの虜になるように……」

 

 そう言って、首筋に寄せられる唇。

 

 ほんとに、それはまずいから!

 

「……なんて、ね。今日はここまでにしておきましょうか♪」

 

「……ふぃー」

 

 思わず本棚を支えにうなだれる。今度ばかりは喰われるかと思った。

 

「私は蛇か何かかしら?」

 

 少しはからかいモードが外れたようだが、まだまだ選択を間違えると先の展開へ逆戻り。せめてもと、少しかっこつけて奏をほめる。

 

「とびきり禁断の美の女神さまだよ。相手を石に変えちゃうほどの」

 

「もう、おだてても調子に乗るような安い女じゃないのだけど」

 

 そうは言っても、少し頬が赤くなっているのは黙っておく。ちなみにおだててるわけじゃない。本心だ。

 

「そういうことにしておきましょうか。……そうね、それじゃあ女神の速水奏は、Pさんを石にしたくないから、こうすることにしましょう」

 

 と、奏はハンドバッグから何かを探り、

 

「ふふ、これで良いでしょ?」

 

 紅い縁の伊達眼鏡。

 

「……」

 

「何時だったかしら、眼鏡かけてあげたら、Pさん顔真っ赤にしちゃったじゃない? ……やっぱり、眼鏡、好きなんだ」

 

 といたずらな目が、可愛い眼鏡越しにこちらを見つめてくる。

 

「一つ弁解しておきたい。私は決して眼鏡という無機物が好きというわけじゃなく、眼鏡をかけた奏が魅力的だと判断しているだけだ」

 

「じゃあ、外そうかしら」

 

「……あと少しだけ、そのままで」

 

 素直がよろしい、と。奏はそのまま本棚の間をスキップで。まったく、君は日に何度私の心臓を刺激すれば気が済むのやら。

 

「あら、刺激的じゃない女なんて、つまらないでしょ? 何時だって、特別な人には私だけを見て、私だけの虜になって、私だけの特別になってもらいたいじゃない」

 

「奏……」

 

「一般論として、ね。なんて、予防線張ったほうがいいかしら」

 

 そう言って笑う小悪魔は、窓から差し込む光に照らされて。まさしく女神のように輝いている。ほんと、いつかは彼女に魂まで奪われそうだ。

 

「で、だ。仕事にそろそろ戻ろうか」

 

「あら、そうだったわね」

 

 いくらロマンチックな建物とはいえ図書館だ。少しはしゃぎすぎてしまったよう。

 

「もう、Pさんがいると夢中になっちゃうじゃない」

 

「私のせいかな?」

 

「……もともとのきっかけを考えるとPさんが起点でしょうに」

 

 確かに、鷺沢さんの名前を出したのがきっかけだ。けど、奏が拗ねたりしなかったらよかったのに。

 

「さて? それじゃあ、写真撮影でしょう。こんな大きい図鑑を持ってみたり……、あちらの机でファッション誌を呼んでみたり。そんな場面はどうかしら?」

 

 そうだね。そう言うのも面白そうだけど……。

 

「あら、Pさんはどんなシチュエーションがお好みかしら? なんでも従うわよ?」

 

「児童書コーナー行ってみるか」

 

 あら? なんて奏は少し困惑顔。

 

 そうして、私は奏と共に児童書コーナーへとやってきた。子ども達が靴を脱いで上がれるスペースに、色とりどりの絵本。どんぐりやウサギのクッションが笑顔で私たちを迎えてくれる。

 

「こういう場所にくるのは、本当に久しぶりね……。ちょっと懐かしい」

 

「ちょっと奏、靴を脱いで座ってみないか?」

 

 そう頼むと、奏はちょっと澄まし顔で座ってみる。うん、良い感じかもしれない。

 

「それで? 絵本とか見てみればいいの?」

 

「うん。頼むよ」

 

 そうすると、意図がわかったように少しにっこりと笑顔を浮かべて。奏は小さな絵本をとり、膝の上で開く。普段の大人びた表情がほぐれて、昔を懐かしむ女子高生の笑顔。

 

 私はそれを一枚、ぱしゃりと写真を撮る。

 

「……いいな、これ」

 

 奏の大人と少女の中間のような、そんなアンバランスな魅力がよく現れていると思う。きっと、本職のカメラマンさんなら、もっとずっとよい絵が取れるだろう。

 

 奏にも喜び勇んでそれを見せる。

 

「……ほんと、時々Pさんには驚かされるわ」

 

「時々?」

 

 もっと驚かせたいのだけどな。

 

「そのぐらいのほうが長続きするそうよ? どんな関係とは言わないけれど、ね」

 

 そう言いながら、奏は面白いものを見たように写真を見つめる。どうやら、気にいってくれたようだ。

 

「ねえ、もう少し絵本、読んでもいいかしら?」

 

 ちょっとだけ照れ臭そうに一言。

 

「もちろん。懐かしくなった?」

 

「ええ、Pさんの思惑通りに。せっかくだからPさんも少し座ってみましょうよ。貴方が好きだった絵本とか、教えてくれないかしら? Pさんも、もう少し私の眼鏡姿、見れるでしょ?」

 

 一石二鳥よ、なんて。奏はそう言って、ぽんぽんとゆかいな表情のクッションを叩く。

 

 私はそれに、少し笑みを返して同意した。たまには童心に帰るのも悪くない。

 

 そうして、私は女神と共に、幼い日の思い出に浸りながら、穏やかな時間を過ごすのだった。




奏と本

奏は教養豊かな子ですが。きっと、いろいろな伝記や、神話の本などもよく読むのでしょうね。文香やありすとも、読書談義で盛り上がりそうです。漫画とかも、変に読まず嫌いせずに読んでくれそうですが……。
彼女の好きな本、いつか知りたいですね。
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