「ボンジュール!」
「ぼんじょるのー!!」
などと奇妙な挨拶と共に我がオフィスを訪ねてきたのは、事務所の暴走娘ことレイジー・レイジーの二人。昼下がりののんびり時間の強襲だった。
私はそんな彼女たちを見て、しばし、目を白黒させた後、はあ、と小さくため息。今は奏も加蓮もレッスン中でこの部屋にはいないのだ。ストッパーがいない。
もはや、私の運命は天に任せるしかないのだ。
諦めきった私の様子を見ると、
「ちょっとちょっとー! フレちゃん達が遊びに来たんだよー。もっともっと喜んでくれてもいいんだよ?」
「そうだー、特別待遇を要求するー!!」
途端に腕を振り上げて笑顔で抗議を始める一ノ瀬さんとフレデリカさん。突然やってきたのに傍若無人なことだが、それでもまったく腹が立たないのは、この二人の独特の雰囲気のせいだろうか。本当に人に好かれる空気を纏っている。
きゃんきゃんと、抗議を続ける二人はそれで可愛らしい。だが、怒られて喜ぶ趣味は持ち合わせていない。そうだな、と私は引き出しの中を漁り、
「それじゃ柿ピーとか食べる?」
今あるものはそれくらいしかないのだ。差し出すとぴょんとジャンプで奪われた。
「やった! 私ピー食べよ」
「んー、それじゃあ志希ちゃんは柿ね」
食べよ食べよ、なんてポリポリとげっ歯類のように懐かしスナックを食べ始める二人は見事なまでに小動物のようで。そのままじっとしてれば深窓の令嬢そのものだ。柿ピー食べてるけど。
いや、やっぱり騒いでないとどこか物足りないな。
あっという間に食べてしまった二人がまた話を脱線させる前に、こちらで主導権を握らないと。と、考え、私は口を開く。
「それで、お二人さんはどうしたんだ? まだ奏たちは戻ってきてないけど」
時間を見るにあと三十分ほどで戻ってきそうではあるのだが。そういうと、二人はちょっと笑って。
「ちがうよー、今日は、Pさんに用事!」
「そーそー、びっくりした? 志希ちゃん達の気まぐれ行動なのであーる!」
ほう。それはまた珍しい。
「そりゃまた、ちょっと恐ろしくもあるんだけど嬉しいな。……けど、まさか、人体実験とかしないよね?」
「んー、してほしいならやってあげるけど?」
と一ノ瀬博士はにやりと邪悪な微笑み。
「……、やっぱり止めときます」
まだまだ生身のプロデューサーでいたい。そう言うと、「だと思った、にゃははー」と楽しそうな一ノ瀬さん。ひとしきり楽しそうに笑った後。二人は、
「さぷらーいず!」
なんて言って、小さな包みをくれるのだった。
「……で、それがこのスズランの花、だったのね」
嵐のような二人が去って、少し後、レッスンを終えた二人が戻ってくると、共用机に小さな花瓶が置かれ、そこに小ぶりで可愛らしい花をつけたスズランが活けてあった。花瓶は私が用意したものだが、花のほうは一ノ瀬さんとフレデリカさんのプレゼント。
「ありゃりゃ、Pさんもスミおけないなー。いつの間にあの二人も落としちゃったの?」
なんて、からかい笑顔で花をつんつんとつつく加蓮。
その言い方は心外である。私はスケコマシでも何でもない!
「それがどうやら、社内のP達全員に送ってくれたみたいなんだ」
「珍しいわね。担当さんはともかく、事務所のみんなになんて」
「今日がそう言う日なんだって」
二人が花を渡す時に言っていた言葉を思い出す。
『5月1日はフレちゃんの第二の故郷フランスだと、スズランを送る日なんだって! たぶん!』
よく調べずに贈ってきたのかい、と内心ツッコミを入れた。
ただ、彼女らが去った後に調べてみたのだが、そういう風習がフランスにあるのは本当らしい。スズランの花ことばにちなんで。
「お世話になった人に改めて感謝を伝える日らしいね」
「へー、それでスズランを送るんだ。おしゃれなこと考えるんだね」
「あの二人が贈ってくれたのが、ちょっと意外だけどな。その分、嬉しいもんだ」
時々、あのチームに巻き込まれて困ったことにもなるけど、こうして感謝されると、そんな日常も可愛らしいものである。私たちのところでこの大きさだと、あのPのところには結構大きな花が送られたではないか。
「明日は天変地異が起こるかもしれないわよ?」
天変地異よりは一之瀬博士の気まぐれの方が恐ろしいので大丈夫だ。事務所内バイオハザードは二度と勘弁してほしい。
「それもそうね、ふふ」
三人でしばしの間、スズランを見つめる。意外と本物を見る機会というのは少かったりする。じっと見ていると、釣り鐘のような小さな花は、本当に可愛らしい。贈呈用の花として人気があるのも頷ける。
「『幸福の再来』って面白い花言葉だよな」
それがスズランの意味。
「そうね。ただ単に幸福がやってくるのでなくて、一度慣れてしまった幸福を見つめ直して、改めて感じる。少し謙虚で、健気な言葉ね」
「花だけじゃなくて、言葉も可愛いんだね。私、これずっと見てられるかも」
しんみりと呟く奏と、気にいったのか花を指でつつき続ける加蓮。と、奏は唐突に、
「加蓮、触った後はちゃんと手を洗わないとダメよ」
と、少しからかう様な口調で注意。
「どうしたの? 学校の先生みたい」
「スズランね、毒があるのよ」
「え!?」
ぎょっと花から手を離す加蓮。奏は面白そうに言葉を続ける。
「スズランはこんなに可愛らしいけれど、全身に猛毒が含まれているの。下手な毒物よりも強力なものがね。気をつけないと、おなか壊しちゃうわよ?」
「……うわー、こんなに可愛いのに、意外と怖いんだね」
あはは、と苦笑いを浮かべながら加蓮は手をナプキンで拭う。可愛い花には棘があるというが、まさか猛毒まで持っているとは。と、そんな奏の説明を聞いていると唐突に頭の中に嫌な予感が浮かび上がってきた。
「……一ノ瀬博士、まさかスズランでバイオテロなんて考えてないだろうな」
ぽつりと漏れた言葉に、再びぎょっと驚く加蓮。
「……きっと大丈夫よ。フレちゃんもいるし」
そう言う奏も、少し冷や汗をかいている。きっと、大丈夫だ。大丈夫。私たちは必死に自分に言い聞かせるのだった。
そんな風に、少し嫌な予感を纏って一日が過ぎていった。幸いにして、誰一人として被害が出なかったことに安堵した5月1日。ちょっと危ないプレゼントで感謝を表そうとするのもあの二人らしいといえる。
ちなみにうちのお姫様たちは、あのスズランが気にいったのか、後日、造花を入れた小さなガラスボールを贈ってくれた。今は机の上におかれているそれは、ふとした拍子に私の心を癒してくれている。
『幸福の再来』
二人と出会えた幸せを、これからも忘れず、大切にしたいものだ。
モノクロームリリィと感謝の言葉
感謝の言葉というのはいくら言われても人の心を温かくするものですが、加蓮も奏も、カードやコミュなどで折に触れては素直な言葉を贈ってくれます。
意外と言葉に出そうとすると恥ずかしがったりもしてしまいがちですが、そんな素敵な二人と出会えたことに、Pとしても感謝の言葉を贈っていきたいですね。
それでは、のこり1週間。加蓮Pが逆ガチャブーストという気合が入るなど、まだまだ先が見えない総選挙ですが、二人がよい結果になることを祈って。
明日も二人への投票、応援、よろしくお願いいたします。