モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

24 / 99
5月2日「交通広告の日」

 電車の中吊り広告というのは、意外と勉強になる。短い時間で人々の印象に残るようにレイアウトを工夫してあるし、世間で話題になっている情報をすぐに知ることができる。

 

 そして、時折あるのだが。

 

「お、今日は羽衣小町か」

 

 通勤の途中、少しの間の満員電車。私は見上げる先にそれを見る。

 

『よっしゃ京都へ行こう』

 

 というえらく気合の入ったキャッチフレーズが添えられて、和服美人の二人がポーズをとっている広告。はんなり笑顔の小早川さんと、少し悪戯しそうな塩見さん。あの写真を見ると、確かに京都へ行きたいと、そんな気分になってくるのが不思議だ。

 

 それにしても、職業柄、知り合いが身近なところで活躍しているとことが多くある。あの暴走婦警は時々、防犯広告に出てくるので、ぎょっとさせられることもあるし、資格習得の広告では新田さんは引っ張りだこ。そういう同僚たちがふと見ると近くにいる、というのは少し不思議な感覚もあり、もちろん嬉しくもあるのだ。

 

「京都、行ってみるか……」

 

 なんてぽつりとつぶやくと、いきなり後ろから。

 

「その時は私たちも連れて行ってくれるのよね」

 

 と、耳元でささやかれる。

 

「!?」

 

 電車内で叫ばなくて、ほんとよかった。こんなとこで目立ったらいろいろとまずいことになること請け合いだ。かろうじて叫びを飲み込んだ私は、後ろで微笑みを浮かべる奏と加蓮を認め、大きくため息をついた。

 

「…っ、二人とも、いたの!?」

 

 たしかに今の時間は学校終わりで事務所に向かうのと同じくらい。だが、これまで鉢合わせることはなかったのだ。

 

「ふふ。たまたまだよ、たまたま。駅のホームでPさんを見つけたから、あとを追いかけちゃったの」

 

「そうしたら周子達をみて、旅行したいだなんて言うのだもの、ちょっといたずらしたくなっちゃった。」

 

 そんなことを言って笑う二人。こうして偶然に会えるというのは嬉しいが、心臓に悪いのは止めてくれ。

 

 事務所の最寄り駅までは後10分ほど。珍しい機会なので3人での出勤を楽しむ。とはいえ、目立たないように小声で囁くように。奏はつい先ほどまで私が見ていた広告を見上げると、少し微笑んで、

 

「けれど、ほんと綺麗な広告よね。桜の舞う中に着物でしょ? 羽衣小町の名前の通り。Pさんが京都へ行きたくなるのも分かるわ」

 

 そうは言うが、

 

「奏も負けてないと思うけどな。この間の初詣の仕事、すごい好評だったぞ?」

 

 着物姿という点では負けていない。

 

「そうね、でもやっぱり地元出身っていうステータスは大きいわよ? 二人とも和服美人に加えて、京都のお嬢様。雅さと妖しさ、京都の二面性にもぴったりじゃない」

 

 私が少しムキになったのが面白かったのか、くすりと笑って奏はそう言う。

 

 そう言われると、京都での仕事という点で羽衣小町というユニットに勝てるアイドルはそうはいないだろう。

 

 ちなみにモノクロームリリィでも、こうした中吊り広告の仕事はよく来ているのだが。

 

「何時だったっけ? 刺激的過ぎるからってお蔵入りになっちゃったの」

 

「ああー、あの話だね」

 

 加蓮がいうのは口紅の広告に奏が採用されたときの話だ。抗議というわけではなく、むしろ話題になりすぎてしまったので早々に下ろされてしまったあれ。

 

「結局、その騒動で逆に話題になったんだよな」

 

 奏の唇だけしか写っていないのに、刺激的過ぎるとは。気持ちはわかるが、世の人々はもう少し耐性を持ってほしい。本気出すともっと凄いのだから。

 

「それは体験談かしら?」

 

「ノーコメントで」

 

 公共の場所で唇を寄せてくるのはやめなさい。

 

 ちなみに加蓮が出た中吊り広告で一番面白い展開に転んだのは、ポテトの広告だ。某ファストフード店のポテト強化月間の時。

 

「あれは面白かったな」

 

 と、横目で加蓮をからかってみる。そうすると加蓮は少し顔を赤らめて、頬を膨らませる。

 

「うっ、ちょっと羽目を外しすぎただけじゃない!」

 

 大量のポテトに囲まれて満面の笑顔を浮かべる加蓮という、普段のお洒落や美人な加蓮を見ている人からすれば、さぞ意外だっただろう絵。広告は大ウケしたのは良いが、その後しばらくポテトのCMに引っ張りだこだった。

 

「あの時ばかりはポテト食べ過ぎで大変だったよ……」

 

「行く現場全部で、律儀に食べちゃうんだもの、しょうがないわ」

 

 奏は少し呆れたようにつぶやく。

 

 ちなみに奏も巻き添えをくらって、ポテトを食べさせられたのは補足しておく。ついでに私も。しばらくポテトは見たくもなくなった。

 

 そう考えると、いろいろな広告やらに出てきたものだ。と感慨深い。

 

「Pさんはどうなの? 街を歩いて、電車に乗って、そうしたら私たちが写っているの」

 

 と、奏はそんな質問を意味深に投げかけてくる。

 

「そうだね……」

 

 広告とか、街角のスクリーンとか、そういう媒体を通して二人を見れる。それは、二人の日ごろの頑張りの賜物だ。それが形となって私の周りに広がっていると考えると、それは。

 

「もちろん、嬉しいさ。もっともっと、二人がいろいろなところで見れるようにしたいってそう思うぐらいに」

 

「ふふ、そうなったらいつでもどこでもPさんを見てられるわね。……なんて言ったら重すぎる?」

 

 言い方!?

 

「ごめん、なんか想像したらワクワクしてきちゃった。Pさんの隠し事も全部わかっちゃうのか……」

 

 加蓮まで!? いや、奏よりも加蓮の方が真剣みが高くないか!?

 

 全く、と私は大きくため息を吐く。

 

 そんな風な日常の延長は電車がついた音で一時停止。さてさて、私が毎日監視される、そんな少し怖くて嬉しい未来が訪れるようにお仕事を頑張らないとな。

 

 私たちは電車を降りて、事務所へと向かうのであった。 




モノクロームリリィと広告

加蓮も奏もファッション広告なんかは容易に想像がつきますが、意外性のあるCMというとなんでしょうね?
奏は学習塾の先生役等も似あいそうですし、加蓮は大自然の観光ツアーとかではしゃいでいる姿も見てみたいです。
アイドルが日常にあふれているアイマス世界の住人は本当に羨ましいな、と思いますね。


それでは明日も加蓮と奏への投票をお願いいたします!!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。