連休の初日といっても、芸能の世界では稼ぎ時。ただ、まだまだ学生の二人には少しは羽を伸ばしてほしいと思って今日明日はオフとしている。
誰もいないオフィスという珍しい場所。仕事を粗方終わらせた夕方。そして、私はこんな機会だからと荷物の整理を行うことにした。5月の3日は「ゴミの日」。掃除にはぴったりの日だろう。
とはいっても、
「案外片づけるものはないな」
必要なのは私の机周りくらいのものだ、と苦笑いが出てしまう。それも中身を確認して、捨てるもの、保存するものに分けていけば直ぐに終わり。じゃあ、部屋の周りでも掃除しようか、とあたりを見回す。
加蓮も奏もきれい好きなので、雑貨品などはきれいに整理されていた。特に、お気に入りの物が飾られている棚は、写真に撮って見せびらかしても構わないくらいに。
こうしてみると、加蓮は神谷さん達の影響か、花を模したものや、キャラクター雑貨が多い。一方の奏は、これは当初は意外ではあったのだが、ピンク色のものを選んでいることが多いのだ。
本人が公言しているわけではないが、そう言うところも可愛らしいとは思っている。
そんな個性豊かな小物といい、観葉植物と言い、壁にかけられた写真といい。私の周りは彼女たちが用意してくれたものであふれている。折を見ては、それらを持ってきて、二人は部屋の中をにぎやかに、豊かにしてくれてきた。
そんな最初の一つは小さな額縁に収まっている写真。
「……懐かしい」
私が真ん中で困った顔で立ち尽くし、その両脇でお互いに目線をそらしている仏頂面の二人。加蓮が初ライブを終えたことで私が正式にプロデューサーとなり、そして奏をスカウトしたことで、この部屋を与えられたのだ。
私たち、モノクロームリリィの始まりの一日。そのころはユニット名も決まっていなかったのだが。
いつか加蓮が語ったようにあの頃の二人は冷戦状態というか、一触即発というべきか、常に妙な緊張感を伴っていた。奏をスカウトしたときなど、加蓮は「嘘つき」等と涙目で訴えてきたし、奏には「私だけじゃなかったのね」等と冷たい目で見られる始末。
私に原因の大本があるのは理解している。二人とも機嫌を直してくれるまで結構な時間がかかった。
「よく落ち着いてくれたもんだなあ」
と一人ごちる。今も秘密とされているユニット結成前夜。二人の秘密会合がきっかけ。
何が起こったのは私は教えられてはいないが。きっと、知るべきではないのだろう。私がいろいろと走り回っている間に、少女たちは互いに影響を受けて成長していた。
それを壁から外して、布で磨く。折を見て綺麗にはしているので、そこまで埃もたまってはいなかった。
続いて、後に撮影された写真も同じように掃除を。衣装合わせ、初ライブ、その後の打ち上げに、合同ライブでの大役を果たした時や、旅行を行った時の写真。
こうして考えると、いくつもの写真が私たちの日常を見守っているのだ。それだけ長く皆で続けてこれているのはありがたく、そしてこのままもっと多くの思い出を残していきたい。
ただ、だんだんと険が取れて仲良くなっていく二人は可愛らしいのだが、それに比例して、からかわれて汗を流す私の写真が増えていくのは、笑っていいのやらなんやら。最新の写真などは、何がどうしてやら、私は変な仮装をさせられてしまっている。
思い出を一つ一つを丁寧に。そして、掃除を終えて、一息をついたころ、ドアがノックされた。誰かお客様だろうか。いや、ノックの調子から見ると、きっと。
「はいどうぞ!」
声をかけると、
「「来ちゃった」わ」
と、予想した通り、二人がひょっこり顔を出した。私が驚く顔を浮かべると、悪戯成功といつもの笑顔。見事なまでにドッキリ成功という顔。
「二人とも、せっかくのオフだったのに」
私がつぶやくと、奏は手に提げていたいくつかのビニール袋を示し、
「しっかりオフは楽しんだわよ。加蓮と二人でショッピングしてきた帰り」
「それでPさんにもお土産ー!」
一方の加蓮は袋から小さな紙の箱を取り出して、にやり顔。それは近場でも有名なケーキ店のものだった。それを机の上に置き、「どうぞ!」と言って開かれるそこには色とりどりのカップケーキ。
「そろそろあのパフェが恋しくなる頃でしょうけど、我慢しなくちゃいけないPさんへ」
「Pさんも私たちも甘味が恋しいお年頃だから、ね?」
「ほんと、君ら最高」
私に用意されたのは、フルーツと生クリームがたっぷりのそれ。あと1週間は我慢をしなくてはいけなかったので、少しの糖分補給は待ちわびていた。
「よし、すぐ食べよう、すぐに! 飲み物、紅茶でいい?」
コーヒー派の奏も、甘いケーキには紅茶が良いだろう。テンションを上げて言う私に二人は苦笑い。
そうして私は整理していた荷物を脇に放り出して、カップを用意した。
「そういえば、掃除でもしていたの?」
紅茶を注ぐ私に、奏が目ざとく質問してくる。
「うん、二人も休みだし、自分の机の周りとかね。二人の私物とかはもちろん動かしてないから、安心して」
「そんなに気にしなくても良いのに。で、何か面白いものとか出てきた?」
加蓮は少し目を面白そうな色に変えて聞いてくる。面白いものってなんだよ。
「ほら、前に宝の地図が出てきたじゃない?」
「とんでもないところから柿ピーも出てきたわね」
「私の机の中は四次元ポケットじゃありませんよー」
ただ、
「壁の写真を見ていたら、懐かしくなったよ。昔と今じゃ、二人の表情とか全然変わったしね」
「あの頃の写真? 私は改めて見るのは恥ずかしくなっちゃうなー。ひどい顔していたし」
「たまには昔を思い返すのも良いけれど、未熟な頃を見返すのは中々勇気がいることだものね」
「二人が気になるなら、外すけど? どうする?」
「ふふ、大丈夫」
「そうそう、飾って置いたら、なにか、ご利益ありそうだし」
確かに、ご先祖様よろしく見守ってくれている感じはするな。
「それよりも、」
と奏と加蓮はちょっと座り方を直すと、私へと笑顔を向けて言う。
「明日も私たちオフよね?」
「うん? もちろん」
「Pさんもオフよね?」
「いや、そんなことないけど」
何を言っているのだ、と疑問に思ったら、
「ふっふー、オフにしたの」
加蓮は少し得意顔で、千川という署名が入った有給休暇の承認届を取り出す。その取得者はもちろん私となっていて。
「何時の間に!?」
やられた、と頭を抱える。
「せっかくのお休みを仕事尽くしにするなんて、もったいないじゃない?」
「で、ちひろさんに相談したら『いいですよ』って言ってくれたの」
あの人に頼ると、後々が少し怖いのだが。まあ、それは良い。確かに二人が休んでほしいというのなら、休むべきなのだろう。この間も仕事溜めてへばってしまったし。
「そっか。じゃあ、何をするかな」
とはいえ、休みだからとやることはないのだが。
そう言うと、二人は綺麗な笑顔で告げる。それはとても魅力的で、ある種恐ろしい言葉だった。
「Pさん、デートしましょ♪」
「もちろん、私たちとね!」
「……え?」
モノクロームリリィと小物
加蓮は学校のバッグにうさぎのキーホルダーが着いていたりと、かわいらしい小物が着いていますよね。アイマス世界はしっかりとキャラクターの好みやブランドが設定されているのが面白いとは常々思っていたり。加蓮もそういった好みは友人の影響を受けていそうです。
一方で奏がピンク色のグッズを好んでいる可能性があるというのはちょっと意外で、普段とのギャップが破壊力あります。
ここにきて、デレステでモノクロームリリィがそろって背景へ出てくるという嬉しいサプライズがありましたね。筆者は現状、盛大に爆散しております。
さて、そんなリアルは無視した前振りの本日。明日はみどりの日ということで、のんびりとデートでもしてもらいましょう。
それでは、明日も奏と加蓮への投票を、どうかよろしくお願いいたします。