モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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デートという名のお遊び回。

甘くしすぎず、けれど甘くというのは中々配分が難しいものです。


5月4日「みどりの日」

 5月4日、GWも半ばの呑気な休日。私は久しぶりの休日の朝、駅の出口に立ち、少しの待ち時間を楽しんでいた。

 

 集合時間まであと30分。こういうときは早めに辿り着くものだ、と少ない経験ながらも弁えてはいる。

 

 あたりは少なくない人だかりだ。中でも、たくさんの子ども達が親御さんと笑顔を浮かべ、手に可愛らしい荷物を下げながらスキップしている。とある自然公園の最寄り駅。天気も良いので良いピクニック日和だろう。

 

 昨日、2人から『デート』の提案を受けたときは大いに狼狽えたのだが、まあ、実情はたまには3人で遊びに行こうというもの。若い娘たちの中に私が入っても楽しくないかもしれないが、2人に押し切られてしまった。そして、提案がピクニックというのも意外ではある。

 

 街中でショッピングや映画というのなら、よく誘われることがあるが、アウトドアというのは初めての経験だ。

 

 そうして少し待っていると、

 

「あ、Pさん!」

 

 と加蓮の大きな声が聞こえた。声のしたほうを向くと、加蓮と奏が手を振っていた。

 

「待たせてしまったかしら?」

 

 と、奏。私は笑いながら答える。

 

「いや、さっき来たとこだよ」

 

 むしろ、2人を待たせるよりはずっといい。

 

「乙女としては待ち人に焦がれるというのも、やってみたいけれどね」

 

「けど、Pさんにしては気が利くし、早く来てくれたのは素直に嬉しいな」

 

 2人はそう言って満足したように笑ってくれる。と、私は2人が抱えている大きなバスケットに気が付いた。結構大きそうな荷物に興味が引かれる。

 

「それ、持つよ?」

 

「紳士的なところは素敵だけど、せっかくだから私たちで持つわよ。そうね、帰りがけはお願いしても良いかしら?」

 

 そう言ってくれるのなら、無理にとは言わないけど。

 

「それにしても、本当に私服で来たんだね、Pさん」

 

 加蓮はそう言うと足先から天辺までじっくりと私の服装を見てくる。昨日あれだけ念を押されたからか、スーツは止めて私服にしたのだ。

 

「ど、どうかな?」

 

 少し緊張しながら見せてみる。加蓮も奏もファッションセンスが抜群だ。その2人からどんな評価を受けるのか、というのは気になるし、若干の不安もある。

 

「……」

 

「……」

 

 2人とも少しの間、私の服装を見て。真剣な表情がふと解ける。

 

「良いんじゃない? もっと無茶したPさんも見てみたいけど、お洒落にまとまってると思うよ」

 

 加蓮がそう言って私の肩を軽くたたく。

 

「もっと普段から私服にしてもいいんじゃないの?」

 

「流石に仕事中はね。でも、たまの休日くらいにはいいのかな?」

 

「ふふ、その時はまた見せてほしいわね。定期的にPさんのセンスをチェックしないと」

 

 そういう加蓮と奏はいつも以上にお洒落で眩しいばかり。意外だったのは加蓮が動きやすそうなパンツスタイルであるのと、一方の奏がフリルが多めのお嬢様のような恰好であること。

 

「せっかくだからいっぱい遊びたかったの」

 

 加蓮はそんなことを言って少し照れ臭そうに笑うのだ。

 

 3人で並んで歩き、入場券を買う。入場すると、豊かな植物に目を奪われながら中央の広場へ。一面柔らかい芝生に覆われたそこには多くの親子連れが遊んでいたが、幸いにも無事に木陰にスペースを取ることができた。

 

 私が持ってきた大きいシートを広げて、荷物を置くと、小休止。普段がビルと人混みの中で生活をしているからか、こういう一面の緑は珍しく、何でもないことなのに満たされていくのを感じる。

 

「やっぱり、植物の緑は心を休ませてくれるわね。この一瞬だけはアイドルも普段の生活も忘れて、童心に帰れそうだもの」

 

「けど、気を抜きすぎてばれちゃったら後が大変だからな」

 

「あのお花見の時みたいに? ふふ、あの時は苦労したわね。楓さん達が歌いだしちゃって」

 

「周りを誤魔化すためにPさん達が踊りながら「お願いシンデレラ」歌ったんだよねー。あれ、ほんとに笑い死んじゃうかと思ったんだから」

 

 私たちの苦い歴史である。しかも高森さんがその様子をベストショットしてくれたものだから、社報に乗って全体に共有されてしまうというおまけ付き。

 

「う、過去のことは思い出さなくてもよろしい! にしても、人は多いけど、しっかり運動できそうだな。どうする?」

 

 ちなみに私のバッグの中には加蓮がリクエストした通りに色々な遊び道具を揃えてきた。バレーボールに、サッカー、バドミントン。何でもござれだ。

 

「それじゃあ、まずはこれ!」

 

 加蓮はバドミントンを指す。まずは、という所から、本気で遊びまくるつもりらしい。体力持つのかしら? なんて奏のからかう言葉に、

 

「ふふん、見てなさい」

 

 と謎の自信を見せていた。

 

 さて、それじゃあお手並み拝見と行こうか。私たちは均等に広がって羽を突き始める。とりあえずはラリーで肩慣らし。私自身、ちゃんとラケットを扱うのは久しぶりなのだが、うまく返すことはできるようだ。

 

 少しの間のラリーが終わると、自然とスピードが上がり、何ともなしに三人での勝負が始まった。

 

「よしっ!」

 

 私が絶好球をスマッシュすると、奏はそれを掬いあげるように難なく加蓮へ。加蓮はそれを力いっぱいに私の方へと叩きつける。

 

「くっ!?」

 

「やった!!」

 

 加蓮が喜びの歓声をあげる通り、私は大きく空振りし、羽は地面へ。というか、これって。

 

「これ、二対一になってないか?」

 

「なんのことかしら」

 

「あ、一番多く落とした人は罰ゲームね!」

 

 やっぱりそう言う展開か! と戸惑いながらも、俄然燃えてくる私であった。だが、ひたすら技巧的に私のスマッシュを捌く奏と、それを受けて後先考えない剛速球で返してくる加蓮というコンビは、ライブでのそれと同じくらいに息のあったコンビであり、

 

「ひぃ、ひぃ、くそう……」

 

「はい、Pさんの負けー。はぁ、はぁ」

 

 結局私は、多少の善戦はしたものの、数の不利を覆すことはできなかった。

 

 同じように大きく肩で息をする私と加蓮へ、涼しい顔した奏がタオルをくれる。一種目目だというのに2人とも熱中をしすぎてしまった。

 

「もう、2人ともヘロヘロじゃない」

 

「ご、ごめーん、奏お母さん」

 

「誰がお母さんよ、もう。ほら、少しお昼のお休みにしましょう? 加蓮もこの後動けなくなったら勿体ないじゃない?」

 

「はぁはぁ、そうだね、休みにしようか」

 

 実は私も二の腕がきつい。普段使わない筋肉はこれほどに体を蝕むのか。

 

 幸いなことにふらつきながら逃げ込んだ木陰は涼しいくらいで。少し休めば再び動くこともできそうだった。加蓮と2人、汗を拭きながら休んでいると、その間に奏がいろいろの準備を進めてくれていた。

 

「それじゃあ、お昼にしましょう。さあ、どうぞ」

 

 奏は楽しそうにバケットの中身を開く。2人が持ってきたそれには色とりどりのサンドイッチや、唐揚げ、そしてポテトが入っていた。

 

「もしかして、これって?」

 

「そう、私たちの手作り。昨日加蓮と2人で作っていたの」

 

 ポテトがあるのが加蓮らしい。これだけ用意するのは大変だったろうに。

 

「男の人の食べる量って、ちょっと分からなかったから。少し作りすぎちゃったの」

 

「Pさんは存分に食べていいからねー」

 

 なんて優しく言ってくれるのに感動を隠せない。最近は自炊といってもトン汁ばかりだった。外食以外で人の温もりを感じる料理は久しぶりだった。あらんかぎりの感謝の言葉を贈った後に、手を合わせる。

 

「いただきます」

 

「はい、どうぞ」

 

「……奏、今日は本当にお母さんみたいなんだけど」

 

「……そんなこと無いわよ」

 

 そう言う奏は少し耳が赤くなっていた。ともかくとして、私は2人のお弁当に舌鼓を打つ。加蓮は以前、料理も勉強していると言っていたが、奏も同じだったそうで。どの料理も食材の良さが引き出された極上のものだった。

 

「美味しい……」

 

 思わずこぼれてしまった感嘆の声。2人はそれを聞くと、嬉しそうに笑ってくれる。

 

「そう言ってくれると頑張った甲斐があったよね」

 

「そうね。……あら、Pさん泣いてる?」

 

 泣いてないやい! けど、泣くほど美味しいのは事実であった。

 

 存分に食べて、笑って、そして私はバドミントンの罰ゲームを受けて。その内容は割愛しておく、が、日ごろならともかくとしてこういう人のいるところではやられるのは恥ずかしいものだと言っておく。

 

 そんな風に存分に遊び、楽しんだ一日も、ゆっくりと終わりを迎えていき、夕方。

 

「はー、よく遊んだ!!」

 

 私は盛大に体を伸ばす。もう体中がバキバキであった。明日は筋肉痛が確定的。後先考えずに遊びほうけたのは何年ぶりだろうか。

 

「もう無理、限界……」

 

 そして、奏に少し支えられるように立つ加蓮も、私と同様にへばりきってしまっていた。口をへの字にして、足が少しがくがくと。そうしているのも小動物のようで可愛いのがすごいと思い、奏と共に苦笑いを浮かべた。

 

「それで、Pさんも今日は楽しめたかしら?」

 

 帰りの駅へと向かう途中、奏がそう尋ねてきた。もちろん答えは決まっていて、その言葉を告げる。

 

「そう言ってくれると、私たちも誘ってよかったって、そう思えるわ」

 

「2人はどうだった?」

 

「あら、言葉にしないと分からないほど、鈍感じゃないでしょ?」

 

 と、軽く叩かれる。まったくその通りだ。

 

「私たちはアイドルとプロデューサー。もちろんお仕事の関係が基だけど、それでも今までの思い出や関係性はそれだけじゃ計れないじゃない? きっと、こうして個人個人の関係を深めていくのは、大事だと思うの」

 

「私は奏みたいに難しいことは言えないけどね。でも、Pさんがスポーツやっているところなんて初めて見たし、いろいろとPさんのことが知れて嬉しかったよ」

 

「そんなかっこいいとこ見せられなかったけどね」

 

 と私は苦笑いする。結局、どの種目でも2人のコンビを崩すことはできなかったのだ。

 

「そういうところも可愛げがあっていいじゃない」

 

「そうそう。必死になってるところも、ちょっとはかっこよかったよ」

 

 なんて言ってくれる2人に甘えてみるとするか。

 

「さて、じゃあ、次はいつ遊びに行こうか! Pさんのオフも押さえておかないといけないし、ちゃんと計画しないとだよね」

 

「ちょっと、もう次の計画か?」

 

「当然じゃない。まだまだお互いに知らないことはいっぱいあるでしょ? そうね、今度はサーカスを観に行くのなんてどうかしら? 最近話題の公演があるって聞いたのだけど」

 

「サーカス、いいね! じゃあ、今度はそこにしようか!」

  

 次の計画が着々と進んでいくのに、喜んでいいのか、戸惑っていいのか。ただ、私はそうしてまた3人で過ごす休日を想像すると自然と笑顔が出てくるのだ。

 

 また、こんな休日が得られるように、明日からは新しい仕事が待っている。




モノクロームリリィと休日

公式でカード化されているものだと、私は加蓮と行く遊園地や、奏と行く映画というものに強く惹かれてしまいますね。
それ以外だと、何がいいかなと思うと、加蓮とはバーベキューだったりとアウトドア、奏とは演劇鑑賞等をしてみたいと思っていたり。
二人の出番が増えていくと、きっと、もっと色々な場面が見れるのでしょう。


それでは、明日も二人への応援、投票、よろしくお願いいたします!!
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