モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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すみません。リアルの事情で少し遅れました!


5月5日「子どもの日」

 一人の少女がアイドルになるために必要なのはなんだろうか。煌びやかなステージか、人を惹きつける歌声か、あるいは演技力か。そんなわけはない。いくら、それらを用意したところでアイドルにはなれない。

 

 アイドルとはそれを応援するファンがいてこそアイドル足り得るのだと、私は考えている。

 

 そして、加蓮も奏も、ファンをとても大事にしているアイドルだ。そんな二人の努力と笑顔は、多くの人に希望を与えてくれる。だから、

 

「今日もたくさん届いたぞ」

 

 私は喜び勇みながら、手にいっぱいの便箋を抱えてオフィスへと戻った。それらは全て、ファンの皆さんが贈ってくれたものだ。

 

 色とりどりの手紙、今どきは珍しい手書きの文章、記念切手も貼られている。一目見ただけで、どれだけ心が込められているのかが伝わってくる。

 

 二人のアイドルへと真心を込めた贈り物。

 

 加蓮も、奏も、それを見つけた瞬間に、明るく笑顔を咲かせる。

 

「ありがと、Pさん!」

 

「嬉しいわ、たくさんいただいたのね」

 

 それらを机の上におくと、二人は楽しそうに広げ始めた。奏は一枚目、特に白い色が鮮やかな便箋を開くと、目を丸くして頬を緩める。

 

「あら、このファンの人、新婚旅行ですって。ふふ、私たちのライブで知り合ったそうよ。ほら、ハワイからポストカード」

 

「え! ほんと!? あ、ほんとだ……、幸せそうだね」

 

 私も見させてもらうと、そこには綺麗なドレスに身を包んだ女性と、それを支える男性。美しい海のポストカードが一緒だ。二人が言ったように、熱心にプレゼントを贈ってくれていたファンの名前がそこにあった。

 

 二人が縁となって絆を結んだというのは、とても不思議で、そして嬉しい思いになれることだった。

 

「気が早いかもしれないけど、お二人にお子さんが生まれたら、二人のファンになってくれるだろうね」

 

「その時、一緒にライブに来てくれたら、嬉しくて私、泣いちゃうかも」

 

 なんて加蓮は嬉しそうに、その手紙をしまう。私もその時が楽しみだった。

 

 同じように言葉を尽くした手紙を一つ一つ、丁寧に読み進めていくと、少し珍しいものがあった。

 

「これって」

 

 それは画用紙で作られた便箋だった。まだまだ形が整っていない字で書かれた住所と宛名。中には同じように丸く大きい字で書かれた手紙と、クレヨンで書かれた二人の似顔絵。

 

「ふふ、かわいいわね」

 

 なんて、奏は愛おしいものを見つけたように、その似顔絵をじっと見つめた。この間のライブで来た、白と黒のドレス姿。そして、それを書いたのが、

 

「まだ小学生1年生だって……」

 

「しかも、女の子。ほらほら、見てよ奏! 奏のことが大好きだって」

 

 奏の似顔絵のほうには大きなハートマークが書かれていた。手紙を読んだ加蓮は少しからかう目線でこのこのっ、と肘でちょいと奏をつつく。

 

 この間の恐竜展の仕事の時に二人を知って、ライブの映像を見てくれたのだそうだ。まだまだ親はライブに連れて行ってはくれないが、大きくなったら見に行きたいと、そう書いてくれている。

 

 その手紙を見ながら、お互いに褒め合ったり、からかいあったり。そんな二人を見ていると、自然と言葉が出てきた。

 

「……その子に会いに行ってみる?」

 

「いいの?」

 

 奏が驚きながら尋ねてくる。私は苦笑いをしながら、もちろんと頷いた。前には、もっと大変な無茶ぶりもあったじゃないか、と

 

「前にも、沖縄まで行った事があるだろ? この子の場合は関東だし、しっかりスケジュール調整すれば時間はとれるはずだよ。今から企画するとして、ちょっと先になるだろうけどね」

 

 1,2カ月くらいなら待ってもらえるだろう、これだけ熱心な手紙を書いてくれたくらいだ。それを聞くと、

 

「それじゃあ、その時は私のファンにもなってもらえるように、いっぱい誘惑しないとね♪」

 

 なんて、加蓮は挑発的に奏へ視線を送る。すると、奏も対抗して、

 

「あら、こんなに小さいのに私の魅力がわかる子だもの、加蓮に扱いきれるかしら?」

 

「ふふ、それじゃあ、勝負だね、どちらの魅力が届くかって」

 

 笑いながらバチバチと火花を散らしあう二人を見て、私は少し不安に思ってしまった。この二人の本気の誘惑を受けたら、その後の成長に影響を与えてしまうのではないか、なんて愉快な不安を。

 

 

 

 そんなやり取りから少しして、私が少しの外回りから帰ってくると、奏は部屋で一人、先ほどの手紙を見つめていた。先ほどとは違う、少しだけ悩むような表情。

 

「奏、どうかした?」

 

「Pさん……、ううん。少しだけね」

 

 そう言うと、奏は私を隣に座るように促す。私はそれに従ってソファへと腰を下ろした。

 

「この子が私に会いたくて、必死に絵を書いてくれたと思ったら、ね。感傷的になっちゃったの」

 

「不安になった?」

 

「やっぱり分かっちゃうのね。……この子が見て、憧れたのは、テレビの向こうのアイドル『速水奏』。けれど、偶像でない私と出会った時に、この子の憧れを壊してしまわないかって。

 

加蓮にはああ言ったのに。……情けないかしら?」

 

 そんなことはない。

 

「そんな風に不安に思っているのは奏がファンの方のことを大切に思っているからだろう?」

 

 一人待つファンただ一人のために、その場所へと行ける奏だからこそ、幼いファンへと思う気持ちは強く重いのだと思う。

 

「子どもだからこそ、きっとそんな純粋な奏の思いが伝わるはずだ」

 

 だって、私がファンになったのは、そんなアイドルである速水奏なのだから。それを見せれば、この子はきっと奏を想い、応援してくれる。

 

 そう伝えると、奏はくすりと可憐に笑った。

 

「……ほんと、Pさんは時々鋭くて、ずるい言葉をいうんだから」

 

「まあ、普段が不器用だからね」

 

 奏みたいにうまいせりふ回しが思いつかないだけなのだ。

 

「わかってると思うけれど、私だって不器用なのよ? それを、必死に隠しているだけ。そんな普通の高校生が速水奏だもの。そんな私がアイドルになるには、Pさんくらいに不器用でロマンの塊がプロデュースしてくれないと、ね。

 

 理想のアイドルを示してくれるのは何時だってプロデューサーさんだもの。……そうね、それを見せることができたら、この子もきっと喜んでくれるわね」

 

 そう言って奏は似顔絵を大切に眺めて、楽しそうに笑顔を浮かべるのだった。

 

 数か月後、サプライズで手紙の子の元へ訪問した奏と加蓮は、小さい女の子に大切な思い出を残すことに成功する。その子がライブに笑顔で訪れてくれるのは、それから数年後のことであった。




それでは、明日も二人への投票をよろしくお願いいたします!!
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