モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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志希にゃんお手製香水とか、発売しないですかね。


5月7日「博士の日」

 5月7日、昼下がりにオフィスへ戻った私は、少しいつもと違う感覚に足を止めた。

 

 なんだろう、と少し考えて、良い香りがほのかに漂ってくることに気が付いたのだ。爽やかな、花の香りに似ているけれど、これまでに嗅いだことがない。

 

 香りの発生源を探してみると、それが見つかった。

 

「なんだろう、これ」

 

 それは、小さく丸い球だった。私の机に置かれたそれは、半透明で、薄いピンク色。ビー玉くらいだろうか。

 

 原因を発見したのはいいが、触るのにはためらわれた。十中八九、あのレイジー博士の仕業だと勘が囁くのだ。香水に奇妙な物体の組み合わせで外れるわけがない。

 

「ふふ、今回は引っかからないぞ」

 

 等と苦笑いをしながら勝利宣言をした私を、閃光が襲ったのは、次の瞬間であった。

 

 

 

「それで、こうなったと……」

 

「またやられちゃったかぁ……」

 

 奏と加蓮が呆れたようにつぶやく。二人が見るのは、バスタオルを首に下げて、少し濡れた私。シャワーを浴びた私は、水気を取りながら、

 

「あの一ノ瀬博士、いつか見てろよ……」

 

 と呟く。にゃははー、と楽しそうに笑う彼女の姿が脳裏をかすめ、少し歯ぎしりしながら。そうやって唸る私だが、二人は、

 

「いやー、あきらめた方がいいと思うよ、Pさん」

 

「向こうが間違いなく上手だもの」

 

 なんてなだめてくる。確かに、お返しする方法も思いつかないし、逆に反撃されて、今度こそ改造人間みたいにされるのが関の山だ。そんなことはわかっているのだが、せめて思うのくらいは勘弁してもらえないだろうか。

 

「それにしても破裂する香り玉なんて、また変わったものを作ったものね」

 

 奏が言った通り、私の机に置かれていた玉は人を感知すると破裂して、香水を撒くというもの。一ノ瀬博士だけでなく、池袋博士との合作だったのかもしれないが、それをしたたかに浴びた私は、えらく華やかな香りを放つ者となってしまった。

 

 しかも、シャワーでもそこまで香りが落とせていない。せめてもの救いは、他の人の不快になるほどの強さではないことだが。

 

 ただ、一ノ瀬さんも本当に人に害あるものをばらまく子ではないが、女物の香水を使われては、私としては羞恥で穴に飛び込みたくもなるのである。せめて男性用のものにしてくれればいいのに。これから外回りの仕事がなくて本当に助かった。

 

 なんて、疲れてソファへと座った私の隣へ、加蓮が腰かけると、

 

「どれどれ、くんくん、ってほんと、良い香り……」

 

 なんて、加蓮はすっと私の二の腕のあたりに顔を寄せると、どぎまぎする私に構いなしに、香りを嗅ぐ。そして、驚いたようにつぶやいた。

 

「一ノ瀬志希だもの、素敵な香りはお手の物。きっと、それも新作の香水でしょうね」

 

「へー、それじゃあ、もしかして世界に一点ものだったり?」

 

「可能性は高いわよ。けれど、志希のことだから、何となくで作って、作り方は覚えてない、なんてこともありそうね。……♪」

 

 奏も、こら、止めなさい。良い香りかもしれないが、それ、私の腕だから。

 

 二人から何とか逃れようとするが、結局は捕まって、その場から動けなくなってしまう。なんだこの匂い、女性を呼び寄せる効果でもあるのか。私はげんなりとしながら息を吐く。

 

「まったく、そんな貴重なものを炸裂球に使うなんて、贅沢なもんだ」

 

 特許とかにも成るだろうに、それをいたずらに使うのがらしい。

 

「でも、これ本当に取れるのかしら、香り」

 

 確かに、洗っても全然落ちなかったが……。

 

「いや、でも、さ、流石に取れるだろ」

 

 希望にすがるように二人を見るが、どちらも困ったように顔をしかめるだけ。

 

「ほら、Pさんに仕掛けるときって、たいていは向こうのPさんへ悪戯仕掛ける準備じゃない?」

 

「そうね、向こうは耐性ができているから、先にこちらでテスト、っていうパターンが多いわ」

 

 あの同期と来たら、一ノ瀬さん、フレデリカさんの二人掛かりでも、下手な悪戯では動揺しなくなってるからなあ。ただ、うちのPさんはちょうどいい練習台なのかもね、なんて、失礼なことを言うんじゃありません。

 

「そうなると、試作品だから落ちない、なんて欠点があったり、なかったり?」

 

 加蓮は少し楽しそうにそんな怖い想像を話す。下手すると私は一生芳香剤のままなのか? 私は外回りやライブの仕事をしているときにいちいち怪訝な顔で見られる、そんな私がイメージされてしまうのだ。

 

 そうして青い顔になった私へ、奏はにやりとしながら話しかける。

 

「確かに、男の人の香りとしては少し華やかすぎるわよね……。それなら、一つ、解決策があるのだけど」

 

 なんて、甘い言葉には罠があると、そう知っていたはずなのに、狼狽えていた私は愚かにも、それにすがってしまうのだった。

 

 そして数分後、

 

「……一ノ瀬博士ほんと恨むぞ」

 

 私は少し重い体を引きずるようにして、一ノ瀬さん達のオフィスへと向かう。ともかく香りを消す方法を聞きださないといけないのだ。

 

「なるほど、これは名案♪」

 

 なんて加蓮が上機嫌な声を出す。

 

「ええ、これならPさんの香りだってばれないし、他の人の注目も逸らせるでしょ?」

 

 そりゃ香りは誤魔化せるかもしれない。だが、別の視線がズバズバと突き刺さっているのだが。大概の視線が、またか、と告げるそれだったのには安心していいのか、抗議すればいいのか。

 

 なにせ、私は両手に奏と加蓮がひっついているのだから。それもがっしりと。おかげで私は顔が熱くて仕方がない。

 

「こうすれば、私たちの香りだと思ってもらえるし、安心でしょ?」

 

 と奏は楽しくて仕方ないと言わんばかりに本日最大の笑顔を見せる。

 

「どこが安心なんだ、どこが」

 

 どう考えても君たちが楽しんでいるだけだろ。と抗議をしてもいつも通り、二人に敵わない私は、少し二人を引きずりながら先を急ぐしかないのだ。

 

「だいじょうぶ、だいじょうぶ、私、この香り結構好きだから、いつまでもくっついていられるし」

 

「あら、加蓮もそうなのね。ほら、Pさん、もしもの時は一生くっついてあげるから大丈夫よ」

 

「全然大丈夫じゃない!!」

 

 だが、そうして苦労しながら向かった先、肝心の一ノ瀬博士は不在。私は膝から崩れ落ちて二人に大いに慰められるのであった。




ちょっと短いですが、本日は忙しかったのでここまで!

みなさん、投票券は貯まっていませんか? 投票し忘れる前に、早めに奏と加蓮への投票をお願いいたします!
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