モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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ウチのPさんは少しロマンチストです。宇宙、いいですよね。


4月12日「世界宇宙飛行の日」

 4月12日、世界宇宙飛行の日。

 

 1961年、ガガーリンが人類で初めて宇宙へたどり着いた日。そして、地球は青かったと証明した日だ。

 

 まだ宇宙旅行は遠い未来の話。そうは理解しつつ、だが、育ちすぎた少年の私には宇宙という言葉はそれだけで興味と興奮を刺激する。

 

 私と奏はそのような日に、某所の科学館で開かれた宇宙展へ招かれていた。奏はプレゼンターの仕事で、私はプロデューサーとして。

 

 そのオープニングセレモニーにて奏は、シックなドレスを身にまとい、星々を背にして有名な童話の朗読を披露した。囁くような、それでいて芯の通ったつややかな声は、さながら空の果てから降りてくるようで。

 

 観客は皆、星を見上げながら、夢の世界に思いを馳せていた。

 

 元々、奏の代表曲「Hotel Moonside」にちなんで、月の石を展示する本会にふさわしい。そんな話題性を見込んでの抜擢だった。言葉の語呂合わせで選ばれた、実力を見ないでの判断。けれど、私たちの目論見通り、そんなオファーの期待を超えたパフォーマンスを奏はしてみせた。

 

 そうしてイベントが好評に終わり、閉館を迎えた展示室。そこを、私たちは隕石やら銀河系の模型やらを眺めながらのんびりと散策していた。

 

 せっかくだから、とスタッフの方が特別に中を回らせてくれたのだ。

 

 密やかに天文を好む私にとっては、降ってわいた幸福である。見て回るすべてが面白く、黙って付き合ってくれている奏にあれはなんだ、これはなんだ、と。気がつけば私ばかりが話してしまう。

 

「ふふ」

 

 不意に隣を歩く奏が笑い出した。

 

「なんだい、急に」

 

「ごめんなさい。でも、目を輝かせているPさんが子どもみたいで可愛らしいんだもの」

 

 どうやら、いささか以上にはしゃぎすぎていたようだ。

 

「いくつになっても男の子は宇宙ってものが好きなんだよ」

 

 ちょっとふてくされたように言う私を見て、奏は面白そうに笑いながら手で口元を抑えた。

 

 かすかな音楽だけが鳴る、二人だけの展示室。ころころと鈴を鳴らすような奏の笑い声が心地よく響く。

 

 それを少し聞いていたくて、ふと声を止めた。瞬間、途端に館内は表情を変える。

 

 広く、夜を迎えて薄暗い、二人きりの世界。それこそ宇宙に浮かぶ箱舟のように静寂を与える。少しばかり怖いくらいだ。

 

「まるで、空の果てみたい……」

 

 奏の静かな声が、空気にしみわたっていく。

 

 空には星。輝く光に照らされて、何も言わず私たちは歩みを進める。そうして、星々の間をくぐり抜けた先。

 

 ふと、奏が足を止める。

 

 目を向けるのは、ひときわ大きく、記念碑のように置かれたパネル。そこに示されたのは歴代の宇宙飛行士と、宇宙開発の歴史。そこには大きな喜びも、同じくらいの悲しみも載せられている。

 

「どうして、人は宇宙を目指すのかしら」

 

「奏?」

 

「昔も、今も、宇宙に行くのは命がけ。

 イカロスのように恐れを知らないわけではないのに。その翼の儚さも、空の果ては、時間も凍り付くような暗闇だと知っていても。孤独も、寂しさも」

 

「……それでも、彼らは飛んだのね」

 

 そう零す彼女の心の内を私は全部わかるわけではない。けど、そこにあったのは、少しの羨望と、わずかの怖さだろうか。

 

「でも、その怖さに打ち勝って、そして未来に夢をつなげてくれてるんだ。彼らのことを詳しく知っているわけではないけれど、それを知ってたから、きっと飛べたんだと思う」

 

 アポロ11号が月に降り立ったのは、もう私が生まれる、遥か昔のこと。いつか、と、ひそかに宇宙旅行を夢見ている私の出番はまだないけれど。

 

 それでも、いつかと夢見れるのは、先人の血と努力のおかげだ。感謝しかない。

 

 そんなことをいうと、奏はそっと、私の袖をつかんだ。

 

「相変わらずのロマンチスト。ダメよ、私たちを置いて宇宙に行ったりしたら」

 

 静かな声。

 

「馬鹿言いなさい。宇宙に行くときは二人を連れて宇宙でライブをする時だと決めてるんだ」

 

「その時、私と加蓮は宇宙のトップアイドル?」

 

「もちろん」

 

 子供っぽいといわれようとも、荒唐無稽と言われようとも、私の夢はそれなのだ。心に決めたのだから、仕方ないだろう。

 

 奏は少しの微笑みを送ってくれた。

 

「そう。そうなのね。私たち、宇宙の果てでも貴方と一緒。……良いの? 一生からかっちゃうけれど」

 

 それはお手柔らかに頼みたいものである。私はえらく哀願するような声を出した。

 

 すると、奏は少し不満げに頬をふくらませる。

 

「もう、雰囲気に合わせなさいよ」

 

「恋愛映画みたいなのは、少し苦手だ」

 

 私はアクション大作のほうが好きなのだ。言うと、奏は年頃のままに笑い出す。

 

「子どもみたい」

 

 少し大人びた少女がいるのだ。少し子供みたいな大人がいたって問題ないだろう。

 

 不意に奏が、隣から離れて。彼女は、星の間を少し手を広げて歩いていく。

 

 夜空を泳ぐ、青い花弁。幻視の中、奏の声が近くから聞こえる。

 

「昔はね、空の果てに行こうなんて、思えなかったの。期待しても、そこにあるのはきっと、空虚と、暗闇だろう、ってね」

 

「今は?」

 

「貴方と、加蓮と、みんなとなら。……きっと楽しい」

 

 ひらひらとゆったりと踊るような奏に惹かれ、私はしばしの宇宙旅行を楽しんだ。火星を抜け、土星の輪を手にすくい。

 

 そのゴールはホールの真ん中、巨大な月のオブジェ。お互い知らない間に、そこを目指して歩いていたのだ。

 

「私ね、宇宙一のアイドルになる前に、行ってみたいところがあったの」

 

 奏は私の手を引いて、オブジェをゆっくりと、踊るように回っていく。

 

「けど、もう着いちゃった」

 

「月の、裏側?」

 

「誰もいない、誰も知らない、そんな場所。けれど、貴方となら簡単に来られるのね」

 

 奏が私の目をじっと見つめる。金色のそこに私の顔が映っていた。そっと、手が肩に回される。

 

「手錠に鍵をかけて、てね。……ねえ、どうする? 今は誰も見てないよ」

 

「それ、は。……でも、まだダメだよ。いつか、本当の月の裏側にだって連れて行って見せるから」

 

 少しの名残惜しさを感じつつ、けれど、お互いに分かり切った答えだった。ふと、お互いに気障な台詞を言ったものだと、少し吹き出してしまう。

 

「ほんと、ムードが台無しね」

 

 けれど、そんなところも、私たちらしさだった。




奏の可愛いところ

大人のようで、クールなようで、そして蒼い。そんな奏ですが、意外とプロデューサーに対しては甘えがちで、とても信頼してくれているのを知っていますか?

彼女との日々は、きっと刺激的で、ロマンチックなものとなるでしょう。

そんな奏に清き一票を、どうかお願いいたします。
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