例えば、この世界が明日終わるとして、その最後の一日をどうやって過ごすのか、なんてよくある質問を考えたとき、私はやはり、最後まであの二人を見ていたいと思う。アイドルとしてイキイキと、キラキラと輝いている姿が見えれば、きっと私は本望だろう。
5月8日。一月にわたって行われた総選挙期間も明日で終わり。それぞれのチームが、ユニットがそれぞれに奮闘を重ねてきた一月の最後に、事務所で合同のライブイベントが開かれていた。元々競い合うための総選挙でなく、お互いが奮起するため、様々に挑戦を行うための総選挙。
そんな頑張りの最後は、みんなで一つのライブを作りあげ、そして、一緒にアピールを行うのが恒例だ。
広いアリーナのステージに、煌びやかなアイドルたちが舞い踊る。曲目もアイドルらしい明るく可愛らしい曲から、甘々にキュート、カッコよくクールに、燃え上がるほどのパッションを、なんて彩り鮮やかなもの。
そして、奏と加蓮は。
「……さあ、行くわよ加蓮」
「緊張してる? 奏?」
「ふふ、それは加蓮もじゃない? でも、」
「楽しい、うん、そうだね。やっぱり緊張して、ドキドキして、けれど、楽しいんだよね」
ステージの袖で加蓮と奏が不敵に笑う。中間選挙の高順位を反映して、二人の出番はトリのすぐ近く。
その後のセトリに備えるのは、歴代のシンデレラガールズやトップ10の常連組。
そして、最後に待つのは前回のシンデレラガールである高垣さん。
「二人とも、そろそろ準備良いかな?」
私は最後に二人へと話しかける。
「随分と、気合入っているみたいだけど?」
「大丈夫、コンディションは最高潮。いつでも行けるわ」
「久しぶりに大きなライブだもん、楽しまなくちゃ」
自信に満ちた二人の声。けれども少し、緊張で強張って、自信にあふれて、今か今かと待ちわびている、そんな立派なアイドルの顔がそこにある。
今日の二人は、モノクロームリリィの名前の通り、黒と白の華やかなドレス。そして、歌うのはユニットとしてのデビュー曲に、二人のソロ。曲にダンスに、そして、最後には少し長めのMC。
長い長いステージ。そこに飛び出せばいつもと同じく、私にはできるのは見守ることだけ。
「じゃあ、出番だよ。……奏、加蓮、輝いてきて」
だから、気持ちを目いっぱい込めて、言葉を伝える。
「ええ、それじゃあ見ていて、Pさん。貴方のアイドルのステージを」
「終わった後は、美味しいドリンクを用意していてね♪」
そう満面の笑顔をくれた二人は、光り輝くステージへと駆け出していく。爆発するような歓声を浴びながら、モノクロームリリィは妖艶に、可憐に、そして二人が合わさり、何者にも代えられない魅力を広げていく。
そこにあるアイドルの姿を私は見つめながら、私は拳を強く握る。もっと、もっときれいに輝くと。もっと、もっと頑張れと。そして、無事にステージから戻ってきてほしいと。
「……二人とも、すごいステージですね」
すると、背後から、落ち着いて、優しい声が聞こえてきた。
「……高垣さん」
二人のステージを見つめたまま横目で確認する。
高垣楓さんが、二人が憧れるシンデレラガールの姿がそこにあった。イメージカラーの薄緑色のドレスに、シンデレラガールの証であるティアラをつけて。
「こんにちは、プロデューサーさん」
高垣さんは私に微笑みを向けると、ステージの上で歌い踊る二人を見つめて、さらに言葉を続ける。
「二人が今日、あいさつに来たんです。勝ちに行くから、待っていてくださいって」
「……まったく、あの二人らしい」
私は思わず苦笑いを浮かべてしまう。宣戦布告なんて。言い出したのは奏だろうか、加蓮だろうか。いや、きっと二人ともにだろう。絶対に負けない、と。
「でも、このステージを見たら納得です。きっと、会場中の人が二人に魅了されている。……すごいですよね、歌うたび、演じるたびに二人はすごいアイドルになっていく」
私はその言葉に肯いた。
奏も加蓮も順風満帆なアイドル人生を送ってきたわけじゃない。加蓮は体力に課題が残っていたし、奏もそつなくこなしているようで、アイドルとしての自分を確立するまで、多くの悩みを抱えていた。
それでもファンの人たちに支えられて、互いに高め合って、仲間との絆を結んで、アイドルとして一歩一歩ステージを登ってきた。そして、とうとう頂点がつかめる位置までやってきている。
キラキラと、多くの星々の中でも、一際輝くアイドルに。
「けど、高垣さんも負けるつもりはないんですよね」
そう言うと、高垣さんはそんな二人を楽しそうに見つめて、もちろん、なんて、悪戯っぽく笑顔を浮かべた。
「私と私のプロデューサーさんも、皆さんに負けないチームですから」
自信に満ちた顔だった。
そう高垣さんが告げたのと、ステージが終わるのはちょうど同じくらい。
溢れんばかりの歓声に見送られて、二人はいったん、私たちのところまで戻ってくる。汗を流しながらも、その顔は充実感にあふれていて。やり切ったと、言葉はなくとも、それが伝わってくる。
「どうだった、Pさん? それに、楓さんも」
魅了されちゃったでしょ、なんてアイドルらしくウインクする奏。
「もー、ステージ終わるの早すぎ! まだまだ歌いたいのに!!」
なんて昔を感じさせない元気な声でおねだりする加蓮。
私がそんな二人へ返す言葉は決まっている。
「二人とも、」
「「「最高だった!」」」
被せられて少しぽかんと口を開けてしまう私。そして、予想されていたことに気づいて、苦笑い。
「あはは、もー、何度も言ってくれるからわかっちゃうよ!」
「うーん、語彙力をもっと増やした方がいいのかな?」
「下手な言葉で飾られるよりも、Pさんの気持ちの方が嬉しいもの、そのままで良いわ」
「……そうだね」
最高のアイドルによる、最高のステージだったのだから。他に言葉はいらない。
そして、二人のステージを見届けた高垣さんも、
「二人とも、すごいステージでしたよ。……けど、私もまだまだ譲る気はないですから」
なんて、普段とはらしくない挑発的な言葉で二人をねぎらう。
その言葉に二人は少し互いを見つめて、そして、モノクロームリリィは決して逃げることはなく、笑顔で返すのだった。
「勝つのは」
「私たちだからね!」
きっと、何時だって、どんな時だってそう言える二人だからこそ、もっとずっと高みへと昇っていくのだろう。そんな二人の頑張りが形になるのは、あと少し先のことだ。
とうとう最終日が迫ってきて、この小説も終わりを迎えると思うと、考え深いものもありますね。
最後にいう言葉も変わりません。
どうか、速水奏と、北条加蓮、二人のアイドルに清き一票と応援をお願いいたします!!