モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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祭りの後の寂しさと、これからの決意表明を。


5月9日「告白の日」

 5月9日。

 

 私は最後に自分のアイドル二人へと一票ずつ投票すると、大きく天を仰いで息を吐いた。

 

 ついに、今日で終わりだ、というちょっとの達成感がある。

 

 もちろんこれがエンディングではないし、これからも彼女たちのアイドルとしての道は続いていく。私のプロデューサーの道も同様だ。

 

 けれど、一つのお祭りのような、この日々は濃厚で、楽しかった。まだ結果はわからないが、それでもいつかの輝かしい未来へつながるだろうし、そして、その後も思い出話として笑いあうことができるのだろう。

 

 最上階の投票箱に丁寧に二人の名前を書いた紙を放り込むと、事務所を出る。

 

 向かうのは事務所近くのホールだ。今日は少しばかりおめかしをしたスーツに身を包んでいる。総選挙の終了と、前日のライブの打ち上げが行われているのだ。最後に少し外回りの仕事があった私は、少し遅れて会場へ。

 

 ホールのエントランスに入ると、そこには珍妙な景色が広がっていた。例えば、輿水さん担当とレイジー・レイジー担当の同期Pが悪魔降臨の儀式と見まごう、そんな踊りを繰り広げている。またぞろバラエティの神でも降臨したか。

 

 以前も見かけたそれに、一ノ瀬博士とフレデリカさんに囲まれて青い顔の輿水さん、P達の奇行を祓おうとしている羽衣小町担当の同期というさらにカオスと化した光景があふれている。

 

 天井付近には、サーカスのようなロープギミックでゆっくりと移動していく巨大な、うん、巨大な太陽が存在する。

 

 他にも、神谷さん担当の先輩が、南条さんと共にヒーローごっこに興じているし、神谷さんがそれを見て苦言を呈しながら顔を赤らめている。

 

 そして、それをベテランの渋谷さん担当Pが上層から、その様子を見守っていたり。あの人も大概、ああいうシチュエーション好きだよなあ。

 

 相も変わらず個性豊かで賑やかな事務所の面々が、いつも以上に個性を爆発させていた。皆、一張羅に身を包んでいるが、今日ばかりは緊張感から離れてはしゃいでいる。

 

 そんな彼らと比べると、私はやっぱりまともじゃないか、と思ったが、『君ほどにからかわれているPはいない』とかつて上司から苦笑いと共に贈られた言葉が頭をよぎった。

 

(いや、流石にそんなことはないんじゃないかな?)

 

 と自分でも不器用なごまかしをして、ホールへと向かった。

 

「あら、遅かったじゃない。待ちくたびれちゃった♪」

 

「ふふ、私たちを待たせたペナルティは重いよ?」

 

 ホールに入るとすぐ、ウチの姫様二人が私の元に来てくれる。

 

「そのドレス……」

 

「そう、あのブライダルパーティーの時の衣装に似せてみたの。衣装さんには少し無理言っちゃったけど、どうかな?」

 

 加蓮は薄紅色、奏は紺色のドレス。それは、モノクロームリリィとしての初仕事となったブライダルパーティーの仕事で二人が着ていたドレスとよく似ている。まばゆくばかりのその姿に、頬が熱を帯びる。

 

 すると、加蓮はウインクをしてくるりと一回転。めちゃくちゃ可愛い。

 

 そういえば、二人から親し気にからかわれ始めたのも、あの時からだったか。その最初のからかいは……。なんて油断していると、

 

「あら、そんなに加蓮ばかり見つめていると嫉妬しちゃうわ、ね」

 

 すっと、奏が瞳を潤ませながら、腕を絡めてくる。大胆に露出した首周りの肌が艶かしい。そして、その細い指で二の腕が撫でられると、背筋にぞわぞわと刺激が奔る。

 

「か、奏!?」

 

「……やっと、私を見てくれたのね……。もう、目を離したらだめよ?」

 

 なんて、妖艶な声と微笑みで誘惑する奏。それに続いて加蓮が、

 

「もー、奏にばっかりデレデレしたらダメ! 私も、ほら、魅力的でしょ? やわらかくて、あったかいし」

 

 もう片方の手も取られて、そこに体が押し付けられる。活発で可憐な笑顔がすぐそばにある。そして、

 

「ねえ」

 

「どっちを選んでくれるの?」

 

 二人の声が耳元で響く。

 

「……もはや、これくらいでは動じません!」

 

 私は毅然とした態度で言い放つ。これは、一度目のからかいの再現だった。あの時の、まったく耐性がなかった私は顔を真っ赤に染めて、卒倒しそうになっていた。今の私はそんなことにはならない。成長したのだ!

 

「そんなこと言って、顔真っ赤だね」

 

「心臓の音も、おっきいわ。……あの時と同じくらい、熱い音が響いてくるもの」

 

 成長したはずだ!

 

「じゃあ、このまま会場を回ろうよ! 凛と奈緒にも見せたいし」

 

「食事のことなら安心して、Pさんのお世話は、私たちが務めるから」

 

「……すみません。やっぱり、勘弁してください」

 

 悪戯な笑みを浮かべる二人を前に、変な意地を張らずに、降参を告げるのだった。そして、

 

「また、やられた」

 

 楽しいBGMと笑顔があふれる会場の中、私は肩を落として呟いた。

 

「ほらほら、せっかくのパーティーなんだから拗ねないの。ポテト美味しいよ。食べる?」

 

「……美味い」

 

「じゃあ、次は唐揚げなんて、どうかしら。ほら、いつか言ってたじゃない? 唐揚げを食べた唇が素敵って」

 

「記憶を捏造してない!? むぐっ」

 

 あれは奏が好きな弁当という話だったはずだ。なんて言い募ろうとしたら、口へと唐揚げが放り込まれる。美味しいのだが、味があんまりわからない。

 

「ほら、次に何が食べたい? なんでも取ってあげるよ!」

 

 腕組みから解放されたのは良いのだ。だが、私の手は依然、二人の柔らかい指に包まれたまま。そんな格好なので、周りの同僚たちからは面白いものを見るように見られている。もとより、私たちのチームはそう思われているのだろうが。

 

「あら、迷惑?」

 

 なんて、奏は笑顔で聞いてくる。それに何か言い返そうとして。いや、今日ぐらいは素直になるか、なんて思い直す。

 

「はあ……。二人にされて迷惑なことなんて、何もないよ」

 

 昔も、今も。だから、同じことをされてもドキドキしてしまうのだ。

 

「だから、私達も甘えたくなっちゃうんだよ♪」

 

 それは分かっているんだけどね。

 

「でも、今日は素直に言ってくれたから。……ねえ、Pさんがしたいことがあるのなら。何でも、叶えてあげるよ……」

 

 奏は今日一番に魅力を溢れさせて、首元に唇を寄せると、そう囁いた。そう言ってくれるなら。なんて。

 

 じゃあ、私が何をやりたいのか、何が欲しいのかをしばらく考えて。

 

「……パフェが食べたいなあ」

 

 ジャンボパフェ。早くあの糖分が欲しいのだ。そう言うと、奏と加蓮はちょっとため息を吐き、

 

「……もう、期待したのは間違いだったかしら」

 

「……0点」

 

 100点解答の方が恐いから、それで今は十分だよ。なんていうと、二人も苦笑いを返してくれた。そして、奏は手に力を込めると言った。

 

「それじゃあ、ロマンチストなのに女心がわからないPさんに、素敵なアイドル2人が雰囲気の作り方をレクチャーしてあげましょうか」

 

 

 

「うわー、良い景色!」

 

 海辺を臨むベランダへ出ると、彼方に天の川のように街の灯りが広がっている。その景色に加蓮が感嘆の声を上げる。いつまでも見ていたい。二人に連れられていったのは、そんな恋愛映画のワンシーンみたいに素敵な場所だ。

 

 ただ、まだまだ春の夜風は冷たい。二人とも薄手の格好だから、少しだけ心配になってしまう。

 

「寒くない?」

 

 私が尋ねると、奏は、気配りできるじゃない、なんて笑みを浮かべる。

 

「平気よ、ありがとう。それに、本当は私たちもちょっと暑いくらいだったんだから。……理由は察してほしいけれどね」

 

「……そう言うなら、からかわないでくれると嬉しいんだけどなあ」

 

 なんてしみじみと呟くと、加蓮はにっこりと笑顔を浮かべながら言うのだ、

 

「からかわれるPさんが可愛いんだもん。それに……、なかなか素直になれない、そんな面倒な私たちなりのコミュニケーション」

 

 少し赤らめた顔に、少し気恥ずかしくなって、ポリポリと頬をかく。

 

「それじゃあ、雰囲気ができたところで……、加蓮?」

 

「そうだね、じゃあ、Pさん。少し後ろ向いていて?」

 

「うん?」

 

 言われて、素直に後ろを振り向く。もういいよ、と数秒の後に言われて、彼女たちに向き直る。

 

「小さいものだけど、いつもの感謝の気持ち」

 

「はい、大事にしてね」

 

 二人の手には小さな白い箱。思わぬサプライズに、私はほおが緩むのが止められない。

 

「ああ、その、嬉しいな。……開けてもいい?」

 

「もちろん♪」

 

 箱の中には、銀色に輝く綺麗なネクタイピン。それは、ユリの花を模したそれで。

 

「どうかしら? モノクロームリリィの敏腕プロデューサーさんに似合いそうだと思ったのだけれど」

 

「ユリの花言葉は『純粋』『無垢』、それに『気高さ』。Pさんが私たちらしい言葉っていってくれるでしょ? でも、Pさんもそういう人だと思ったの」

 

「ロマンチストで、夢を追いかけて、こんなに面倒なアイドルにも愛情を注いでくれる大切なPさんにはぴったりでしょ♪」

 

 思わず瞼が熱くなるが、流石にカッコつけたいので我慢する。

 

「……まったく、今日はパーティーだからって、もう」

 

「総選挙の間、駆け回ってくれたPさんにお礼が言いたかったし。それに、ねえ」

 

「5月9日は告白の日でもあるんですって。アイスクリームの日よりもロマンチックだし。それなら、少しは素直に成りたかったの」

 

 二人はそう言って、笑顔を浮かべて私の手を取った。二人のアイドルが輝く笑顔を贈ってくれる。

 

「それじゃあ、私たちの大切なプロデューサーさん」

 

「トップアイドルになっても、その先まで」

 

「「私たちのプロデュースをよろしくね」」

 

 そんな嬉しい言葉をくれる大切なアイドルへ。私は感謝の言葉と共に強く頷くのだった。




総選挙お疲れ様でした!! そして、本作品もひとまずは完結となります!!

選挙期間中、なにかアイドルのためにできないかと思い、書き始めた本作ですが、最初は3日目が超えられるか、1週間が超えられるか、と恐る恐る進めてきました。
そんな私を支えてくださったのは応援してくださった皆様のおかげです。そのおかげで完結まで書き進めることができました。

毎日書くということで、記念日を題材にしてみましたが、ちょうどいいタイミングでよさそうな題材が来たりと運にも助けられています。そして、大好きなアイドル二人を題材に小説を書くのも初めてでしたが、書くたびに増々二人が好きになっていく自分がいました。

ひとまずは完結ということですが、またいつか、奏と加蓮の二人を題材に、作品を作りたいとも思っています。

それでは、最後まで拙作にお付き合いいただけた皆様、そして、奏と加蓮を応援してくださった全てのPさんと、素敵なアイドルの二人に感謝を込めて、この話を締めさせていただきます。

本当に、ありがとうございました! アイマス最高!!
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