モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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こんな加蓮らしい日もあるのですね。

奏の新曲も我が家に届いた嬉しい日でもあります。皆さんはif、もう聞かれましたか?


6月20日「薄荷の日」

 部屋に帰ると珍しい景色を見た。

 

「すー、すー」

 

 ソファーをベッドのようにして、加蓮が小さく寝息を立てている。今日は午前中にトレーナーさん、しかも麗さんのレッスンが入っていた。きっと少しばかりきつかったのだろう。最近は気温の寒暖差も激しいから、その負担もあったのかもしれない。

 

 一瞬だけちょっと心配して、穏やかな様子にほっと胸を撫で下ろす。

 

 そうしてちょっとだけその可愛らしい無防備な顔に、胸をほっこりとさせて。私は戸棚の中から薄いブランケットを出し、加蓮にそっとかけた。ついでに机にちょっとした小物をおいて、仕事へ戻る。

 

 穏やかな加蓮の寝息と少しだけ開けた窓から差し込む優しい風をBGMに、カタカタとキーボードをリズム良く叩いて十数分。

 

「うぅん」

 

 そんな可愛らしい声を上げて加蓮がゆっくりと目を開けた。少しだけいつもしっかりと整えている髪が乱れていて。目をしばしばと細めている。

 

「やあ、おはよう」

 

「……おはょー。……ってPさん!?」

 

 快活に手を上げて挨拶すると、加蓮はのんびりな返事をして、その後、気が付いたように飛び起きた。あんまりな驚きように、髪がふわっと舞い上がって加蓮の額にかかる。

 

「そんなに急いで飛び起きると心臓に悪いぞ」

 

「そ、そうだけど! ってこっち見ないで!!」

 

 手をばたばたと動かすと加蓮はそそくさと鏡へと向かってしまう。流石に寝起きの顔は見られたくなかったのだろう。珍しい様子に、まじまじと見てしまったのは、やはり、少しばかりデリカシーが足りなかったか。

 

 しばらくは、向こうのほうから慌てた音だったり、恥ずかしそうな声が聞こえてきたり。私はそれに肩をすくめながら、お詫びの印に紅茶を煎れるのだった。目覚めに良い温かいハーブティーを淹れて、ちょっとだけ私も一休み。

 

 そうしていると、加蓮はしばらくして戻ってきたのだが、悪い予感が当たって、見るからに拗ねてしまっていた。ふくれっ面で頬を突き、ジト目を向けてくる。

 

 コチコチと、時計の針がしばらく鳴って。

 

「……ごめんね」

 

 いつものように折れたのは私のほうが先。素直に頭を下げると、加蓮は気まずそうにため息をちょっとだけついて、

 

「……もう。まあ、私があんなところで寝てたのが悪いんだけどね……。あと、ブランケット、ありがと」

 

 少し赤くなった顔を隠すように、そんなことを加蓮は小声で言うのだった。

 

「そういえば、これ、なんだったの?」

 

 気を取り直したように、加蓮は机の上におかれた緑色の小物を指さす。

 

「ああ、寝起きが爽やかになるっていう香りを出してくれるんだ。ミントの香りね」

 

 私はその小物を手に取って、少しばかり扇いで香りを嗅いでみる。強くはないが、ほどよいミントの香りが鼻孔を楽しませてくれた。

 

 ミントは花言葉が「目覚め」というだけあって昔から気付けやリラクゼーションに利用されている。それでなくても、清涼感のある香りは好きだったので、小物屋で発見したときに衝動買いしてしまったのである。

 

「それで起きたときに、すっきりした気分だったのかな? ふふ、わざわざ出してくれたんだ♪」

 

「いやー、それが買ったは良いんだけど、使い時がなくてね。効果あるかなーって試してみたんだよ。言うなれば、実験?」

 

「えー、ひどい! もう、そんなこと言うなら、今度志希の実験に渡しちゃうんだから」

 

 それは勘弁してもらいたい。苦笑いをしながら、余計なことは言わないほうがよかったかな、と少し反省。

 

「せっかくPさんのこと、見直してたのになー。私に合わせてミントにしてくれたのかな、とか。そういうこと想像してた乙女心を返してよ」

 

 加蓮も少し笑いながら、本気か、そうでないか、ぷんすかと腕を組んだ非難の声あげていた。確かに、ミントと言えば、加蓮の代表的な曲である「薄荷」を忘れるわけにはいかないが、

 

「ミントの香りは好きだからね、昔から」

 

「じゃあ、曲のタイトルをつけたのもPさんだったり?」

 

「まさか」

 

 いやいや、そういうことはない。音楽に関することは作曲家さんたちに何時も任せているし。ただ、出来上がった曲を聞いて、加蓮が歌う姿がとても楽しみになったことは覚えている。

 

「ふふ、いつかPさんが曲名をつけてくれても嬉しいんだけどね。

 けど、ミントが私にとって特別な名前になるなんて、不思議だよね。曲の中身もそう。昔は歌うような恋とか愛とか分からなかったし、それに名前も不思議だった。けど、何度も歌うと、いつも私の中でも言葉や音が形を変わって、それが楽しくて、時々せつなかったりするんだ」

 

 奏みたいだったかな? なんて加蓮は照れ臭そうに言う。

 

「そう言ってくれるなら、プロデュースした甲斐があったし、関わってくれたスタッフさんも喜ぶよ。ちなみに、最近歌った時は、どんな気持ちを込めたのかな?」

 

 興味がわいて、加蓮に尋ねてみる。すると、加蓮は少しだけ目を細めて、照れ臭そうに、

 

「色々な景色を見せてくれる、ファンのみんな、それに奏やPさんとの時間がいつまでも続きますようにってね。昔はいつまで続けられるのかなって不安もあったけど。今は、純粋にそんな気持ち。

 ……そういえば、私、いつかはこんな風に歌いたいって夢もあるんだ」

 

「へぇー、それはどんなの?」

 

「好きな人に、思いっきり感謝と愛情を込めて。なんて、まだまだ私には早いけど!」

 

 加蓮は先ほどの照れ臭さはどこにやら、一転、からかう様な視線と一緒に言うのだった。まったく、不意うちでドキドキさせるんじゃありません。

 

「いいじゃない! 今日は私の方がPさんにドキドキさせられたんだから、ね。

 そうだ! Pさんも少しお昼寝したらどう? 今度は私が寝顔を観察してあげるし、寝起きは私流に『薄荷』で起こしてあげるから!」

 

 それはとてもうれしい言葉であり、同時に恐ろしい提案でもあったり。ただ、加蓮、自分の膝をぽんぽんと叩くのは止めなさい! それだけはNoである。

 

「だめぇ? ……まあ、寝ちゃえば、こっちのものだけど」

 

 小声で言っても、聞こえていますよ。

 

「まったく、そんなこと言うから眠気もさめたじゃないか」

 

「ふふ、残念♪ でも、せっかくだから奏が戻るまでに一曲歌ってあげようか? アイドル北条加蓮の、Pさんへの独占ライブなんて、すごく贅沢でしょ」

 

 そうして加蓮は優しく微笑むと、小さく手を胸に当てながら、ゆっくりと歌い出すのだった。新しい世界と愛に気づいた、可憐な少女の歌を。




『薄荷』、加蓮の曲として世に出たときは、曲名といい、歌詞といい、加蓮らしくない曲だなーと感想を抱きました。

けれど、何度も聞くうちに優しいメロディーが加蓮らしいし、恋を歌った歌詞も、アイドルや新しい出会いと同じく、これから加蓮が体験していくそんな出来事を歌ったいじらしいものだと思えて、今ではすっかりお気にいりだったり。

皆さんも、せっかくですから薄荷を聞き返してみてはいかがでしょうか。
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