モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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たまには大声で叫んでもいいじゃない。


6月27日「演説の日」

 時に人々は言いたいことを溜めこむことがある。社会や友人や、あるいは恋人へ。言いたいことを我慢して円滑な関係を保とうとする。それが悪いとは言わないが、そうした我慢は大きなストレスともなるのだろう。

 

 それはアイドルでも、プロデューサーでも同じだ。

 

 今日は演説の日。我が社のホールには立派な演説台が作られていた。一年に一度、ストレス解消を目的として自由に社員みんなへと演説できる、そんな催しがわが社では開かれる。それは例えば、私にとっては懐かしい、学生たちの主張のような、そんな企画だ。

 

 参加は特に強制ではないのだが、やはり、皆も大声で訴えたいことはあるようで、たくさんのアイドルやプロデューサーが壇上の下では列を成している。

 

 例えば、

 

「平伏しなさい、豚!」

 

 時子様が鞭を振るいながら皆々様を見下ろし、かなりの数の同僚が平伏していたり。

 

「な、なんで、きのこより、あのタケノコが人気なんだ……! そんなの我慢できねえ、ヒャッハー!!」

 

 星さんが某お菓子に関する社内アンケートの結果に怒りを爆発し、プロデューサーと共にメタルを奏で始めたり。ちなみに私はタケノコ派である。

 

「週休七日の実現はいつになるんだー! もう杏は騙されないぞー! プロデューサーは謝れー! 休ませろー!!」

 

 双葉さんが諸星さんに抱えられながら、ウサギを振り回しながら訴えたり。まあ、あれは例年通りであり、口が達者なあちらのプロデューサーによって、さらなる仕事へと放り込まれるようになるのだが。

 

 そんな悲喜交々の様子を私と奏は客席から見ていた。私としては特に訴えたいことはないので、見学である。諸星さんに引きずられて壇上を降りていく双葉さんを乾いた笑いと共に見送っていると。隣に座った奏が悪戯な笑顔と共に私の顔を覗き込んできた。

 

「Pさんは訴えなくても良いの? 『もうからかうのは止めて』みたいなこと」

 

「言ったら、それをネタにからかわれるから言わないの」

 

 もはやそのようなことは分かり切っているのだ。

 

「それに、ほら。実例があそこに」

 

 私が指さした先では、神谷さんがもふもふの髪を振り乱しながら、

 

「凛も加蓮もあたしをからかって遊ぶのはヤメロー! あたしだって怒るときは怒るんだからなー!! 最近はPさんも加わってくるし、うがー!!!」

 

 終いには拳を振り上げながら熱弁を振るっている。本人が大真面目も大真面目なのは、伝わってくるのだ。ただ、余りにもその様子が可愛らしい。

 

「ほら、見てごらん。渋谷さんも先輩も、ついでに他のみんなもほっこりした顔で見てるだろう? 演説したときの私の未来だよ、あれが。神谷さんみたいに可愛くもないのだから、なおさら悲惨だ」

 

「確かに、凛も加蓮も、楽しそうにからかうでしょうしね……」

 

 私が手を合わせて哀悼を示すと、奏も納得がいったようにため息。こら、君もからかい側だろうに。

 

「私がからかうのはPさんだもの」

 

「……私にも同情してほしいよ、少しは」

 

「だーめ♪」

 

 肩を落とす私を尻目に、会はどんどんと進んでいく。世界一周強行ロケを提案する輿水さんのプロデューサーに、社内のどこかに魔王が眠っていると訴える羽衣小町P。奴も普段は真面目極まりないのに、時々変な電波を受信するのはなぜなのか。

 

 他にもお山への愛と渇望を訴える棟方師匠に、主張と言うよりも皆に大声でエールを送る日野さん、とまじめなものからネタに塗れたものまで、いくつもの演説が終わり。次に壇上に上がったのは、

 

「お、来た来た」

 

「さて、何を話すのかしらね、加蓮は」

 

 我らが北条加蓮である。私たちも、彼女が何事かを演説することは聞いてはいた。もっとも、何を話すのかは知らない。

 

『ふふ、楽しみにしててね』

 

 等と不敵な笑みを浮かべていたので、私としては、背筋に冷たいものが走ってはいるのだが。

 

 ゆっくりとマイクの前まで歩いた加蓮は、きっと表情を固めて、口をゆっくりと開き、心の声を訴え始める。

 

「私はとある人に言いたいことがあります」

 

 ゆったりとした調子から始まった演説。その視線はなぜか私の方向を向いていて。その第一声は私を大いに驚かせることとなる。

 

「Pさん! 過保護はもう止めなさいー!!」

 

「……はい?」

 

 そして、その大声と内容に、私は間の抜けた声を上げるのだった。今、何といった、あの子。

 

「ああ、そういうことね……」

 

 奏も納得したように笑うのは止めて!?

 

 冷や汗がドバドバと出始めた私をよそに、加蓮は声を張り上げて熱弁をふるい始める。

 

「確かに! 確かに! 私だって女の子だから大切にされて嬉しいよ? だけど! 私のPさんは限度を知りません! ちょっと前はくしゃみしただけで毛布に湯たんぽ、ストーブの前に強制連行! 疲れてふらりとしたら病院に一直線! 今でも、Pさんの仕事カバンの中には各種薬が完備されているのを私は知っています!!」

 

「ちょっと待て!?」

 

 これはあれだろう!? 演説にかこつけてからかってるだけだろ!?

 

 こら、周りのみんなも生暖かい目で見るのは止めろ!! 何が『お熱いですね』だ!? プロデューサーとしての仕事です!?

 

「ほら、つい先週、加蓮がちょっと気だる気にしていたら、医務室に連行しちゃったじゃない? きっとそれが原因よ。この頃はPさんの心配性も収まってて、加蓮も喜んでいたのに、昔に逆戻り」

 

 奏は苦笑いをしながらそう言って、残念ね、と私の肩を叩くのだった。

 

「Pさんはもっと私を雑に扱うことを覚えなさい! それで食事にショッピングにも付き合いなさいー!!」

 

「最後のはもう関係なくないかな!?」

 

 とうとう加蓮に向かって哀れな声を出した私は、決して悪くはないだろう。

 

 

 

 加蓮の大演説が終わり、皆の生暖かい目に見送られながら私は会場を脱出した。そうして、気を取り直して自販機でコーヒーを買うと、気が抜けたように休憩スペースに座り込んで。すると、その隣に、わざわざ着いてきてくれた奏がちょこんと座って丸まった私の背をなでてくれた。

 

「ほら、元気出して、Pさん」

 

「……疲れた。久しぶりにがっつりと疲れた……。いや、確かに加蓮の健康のこと、おせっかいすぎた、と思うときはあるし、今日は無礼講だから、気にしてはいないんだけど」

 

 不意に会心の一撃を受けた気分だ。

 

「ふふ、けれど、あまり雑にしても加蓮は嫌がるかもしれないわね」

 

「女心って奴は難しいもんだ……」

 

「はっきりと口に出すだけ可愛らしいものよ? それだけ心を開いている証だもの。口に出すことで心の澱みを出すこともできるし。きっと、加蓮もすっきりしたでしょうから、終わった後は甘えてくるんじゃないかしら?」

 

 奏は口元に手を当てると、面白そうにのどを鳴らす。けど、それってまた、からかわれるってことと同じじゃないかな。なんて、考えたり。そうしてゆっくりと心を落ち着けていると、少し隣の奏のことを考える。

 

「そういえば、奏は何か言いたいこととか、無かったの?」

 

「私?」

 

 私がうなずくと、奏の金色の目は珍しく驚いたように見開いていた。

 

「ほら、奏だってたまには羽目を外して大声出したいこととか、言いたいことはあるんじゃないかなって思ってさ」

 

「……Pさんは、私が大声で叫ぶ場面が想像できる?」

 

 確かに、奏のキャラクターで叫んでいる様子はイメージしづらいかもしれないけど、

 

「言いたいこと言うときがあっても良いじゃないか、奏だって」

 

 皆好き勝手なことを言っているのだから、奏だって堅苦しいこと考えないで叫んでも良いはずだ。いつもしっかりしてくれているのだから、たまに我儘言っても罰は当たらないだろう。

 

 そんなことを言うと、奏はちょっとだけ黙って、ふと嬉しそうに笑うのだ。

 

「そうね……。けど、今日は止めておくわ。今から大声出すのは、少し恥ずかしいもの」

 

「そう? ちょっと残念だな」

 

 私が肩をすくめると、けれど、と奏は小さくつぶやいて。

 

「ふふ、せっかくPさんがそう言ってくれるのだから……。我儘聞いてもらっても良いかしら?」

 

 なんて、悪戯を思いついたようにウィンクをするのだった。




アイドル達の主張!みたいな番組があっても面白そうですが、奏ではいざ叫ぶときはどんな声を出すのでしょうね。Near to youや秋めいての時も少し恥ずかし気な声でしたし、普段とは違う一面を見れそうです。


さて、日曜日は奏の生誕祭!
奏が何を思いついたのか、それはそのときのお楽しみに。
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