モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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甘いお菓子は好きですか?


4月13日「喫茶店の日」

 忙しいアイドル生活。さて、その忙しさは何処にあるのか。

 

 例えば、都内に限らず、各地を飛び回ることがある。これは大変なことだ。加えて、高校生でもある彼女たちは、当然学問もついて回る。

 

 ライブひとつをとっても、綿密な打ち合わせ、本番の倍どころではきかないレッスンが必要だ。

 

 これを自分ができるか、と言われると、彼女たちに振り回されるだけでもへとへとな私は、無理だ、と断言してしまう。まだまだ若いのに頑張っている二人にはどれだけ感謝してもしきれない。

 

 さらには、売れっ子となった彼女たちは日常生活でもファンの視線を考えなければならない。

 

 とかく忙しいアイドル稼業。華やかな裏には、それ相応の大変さもあり、それを軽減することも私の仕事である。

 

 長々と話したところで、本題はというと。忙しい彼女たちにも、一息つけるような隠れ家というのは必要なのだ、ということである。

 

 それは例えば、私のオフィスであったり、

 

「あら、いらっしゃいな。今日も同じものでいいの?」

 

 カランカランとベルの音と共にドアを開けると聞き馴染んだご婦人の声。それに透き通る紅茶の香りが鼻孔をくすぐった。

 

「ええ、いつものでお願いします」

 

 この隠れた喫茶店であったりする。

 

 

 

 午後の暖かい日差しが差し込む、華やかな店内。いつも通りおしゃれな二人は、後ろ手に隠していたそれを店主へと見せる。

 

「はい、これプレゼント」

 

「私と加蓮で選んだの。気にいってくださると嬉しいわ」

 

 渋谷さんのお店で選んだという花束だ。もうだいぶお年だが、いつまでも可愛らしく、上品な店主は、ほにゃりと笑うとそれを優しく受け取る。

 

「あらあら、こんなおばちゃんにプレゼントなんて。いったいどうしたの?」

 

「いつもお世話になっているマスターさんと素敵なお店に、ね」

 

「実はね、4月13日は『喫茶店の日』なんだって。日本で初めて喫茶店が作られた日」

 

 話によると、上野にて『可否茶屋』という名前のお店ができたのが1888年の今日だという。

 

 そのお店は不幸にして、しばらく後に閉店したそうだが、開店日が記念として残り、今も名前が伝わっている。きっと、愛されていたのだろう。

 

 そんな記念日に私たちは日ごろの感謝の気持ちを示そうと、馴染の喫茶店を訪れたのだ。

 

 プロダクションに近い立地にある、この喫茶店は人通りから離れ、都会に珍しい静けさを保っている。それでいて味よし、雰囲気よしと、実に隠れ家向けの店だった。

 

 学生時代の私は授業を時折サボっては、ここでのんびりとすることが多かったが、社会人となって、今度はアイドルを連れてくることになるとは。社長にスカウトされる前の私だったら想像もつかなかっただろう。

 

 プレゼントに店主は大層喜んでくれた。ひとまずは、と空いていた花瓶へそれを挿すと、『今日はおごらせてちょうだいな』と、私たちを案内してくれる。

 

 そうして私たち三人はいつも通り、フロアの中央にある、木でできた円卓に座った。真ん中には店主のお手製であるフェルトの白ウサギと黒ウサギがお茶を楽しんでいる。

 

 いつの間にやら作られていたそれは、勘違いでなくとも、二人をモチーフとしたのだろう。

 

「はい、今日のおばちゃんおススメの特別紅茶セット。加蓮ちゃんはアップルパイで、奏ちゃんはレモンパイね」

 

「ありがとう! わあ、今日も美味しそう!!」

 

 加蓮はカップを手に取ると、そっと香りを楽しむ。

 

「今日の紅茶、いつもと少し違う?」

 

「あら、ほんと。いつもより、少しすっきりしてるのかしら」

 

 あいにくと私には分からなかったが、お嬢さんたちは流石に敏感らしい。

 

「分かってもらえると嬉しいわあ。友達の冒険家さんがね、外国で珍しいお茶が手に入ったからってお土産に持ってきてくれたのよ。それを使ってみたの」

 

「へぇー。良いの? そんなに大切なのもらっちゃって」

 

「いいのいいの。お茶だって可愛い女の子に飲んでもらった方が嬉しいはずだもの」

 

「……」

 

「奏は……、だいぶお気に召したみたいね。感想は?」

 

「沈黙こそ雄弁に語るものよ」

 

「なるほどー。でも、私は素直においしいって言っちゃうんだよね。

 

 奏や凛と違って、おすましっていうよりも、まだまだやんちゃに楽しみたいもの」

 

「ふふ、加蓮はその方が魅力的よ。ね、Pさん」

 

 話を振られた私だが、どちらがどちらというのにはあまり考えが及ばなかった。さて、やんちゃな御転婆姫か、澄ました令嬢か。

 

「いや、どっちも捨てがたいし、魅力的だな」

 

「ふふ。それなら、お嬢様気取ってみるのもいいかもね。たまには♪」

 

 ある種のアンバランスさがモノクロームリリィの魅力であるが、私は彼女たちに固定のイメージを作ってはいない。身内のひいき目を抜きにしても、二人は何にでも似合う。その中で振る舞いや周囲に与える印象が異なる二人は、自分の色を保ちつつ、絶妙にその色を混ぜ合わせ、昇華する。

 

 単に白と黒。そんな決めつけで終わらないのが、このユニットの魅力だ。

 

「今は休憩中なんでしょう? お姫さまたちほっといて仕事のことなんて考えたらだめよ?」

 

「確かに」

 

 しばらく加蓮の次の仕事について考えてみると、顔に出てしまっていたようだ。店主からお叱りを受けてしまった。

 

「昔は、この店来ては、授業だるい、だの、彼女できないだの愚痴ってたのにねえ。いつの間にやらワーカーホリック。人って変わるものね」

 

 体は大事にしなさいよ、と店主は困ったように言う。昔を知られているというのは安心な反面、気恥ずかしいものだ。

 

「へー、Pさんの昔ばなし? 聞きたいな!」

 

「あらあら、また弱みが増えちゃうわよ。いいの? プロデューサーさん」

 

「君らにこの店見つかった時から覚悟はしてるわい」

 

 せいぜい私の灰色に染まった青春を知って愕然とするがよい。それで少しは優しくしてくれ。

 

 きゃいのきゃいのと話す三人を尻目に、私は自分の注文がやってくるのを待った。楽しそうに話しながらも手は休めていなかった店主がお盆と一緒に戻ってくると、私は少し口の中が潤うのを感じる。

 

「はい、特製フルーツパフェ!」

 

「待ってました!!」

 

 ひゃっほいと私はテンションを最高潮にする。日頃の疲れた脳と体を休める至極の甘味の到着だ。

 

「いつみてもすごい絵面だよね」

 

「いつにも増して、うん、子供ね」

 

「君らにはわからんのだよ。トップまで生クリームたっぷりのパフェの貴重さを。ソフトクリームじゃないんだぞ、この尖塔が!」

 

 甘さ控えめで口触りのよい生クリームを起点に、イチゴ、オレンジ、ブルーベリーなど彩り鮮やかなフルーツがさながらステンドグラスのように配置されている。パーフェクトビジュアル、パーフェクトハーモニー、テイストグッドだ。

 

 私は相も変わらず若干刺さる視線を受けながら、少しずつ塔を攻略していく。橘師匠のパフェ攻略法は免許皆伝済みだ。

 

「んー。まろやか」

 

「月一度の楽しみ、なんていうから私たちも言うことないし」

 

「人の好きなものに口を出すなんて野暮なことはしないけれど、ねえ」

 

「なんだ、何が問題なんだ」

 

「「サイズ」よ」

 

 マスター特製「ジャンボ」パフェ。

 

「太るわよ?」

 

「もういい年なんだから」

 

「大丈夫。うまいものには何も悪いことなどない」

 

 三村大先生。そうですよね。

 

 実際のところ、年がら年中走り回っているおかげで私はむしろ痩せ形である。仕事を辞めた時を考えると若干の不安があるが、向こう20年は辞めるつもりはない。つまり、あと240回はパフェが食べれる。

 

「確かにそうだけど。……言ってもしようがないかもね。そうね、おなかがポッコリするまでは黙っていましょうか」

 

「だね。ちょうど今はいい感じだし」

 

「そこを超えたら、どうしてしまおうかしら?」

 

「ふふ、その時はまゆじゃないけど、管理だよ。管理。あ、でも想像したらちょっと楽しそう」

 

 何やら物騒な会話が進められている気がするが私はそこへ思考を割くことなくパフェに熱中する。ただ、量が量である。奏と加蓮がパイを食べ終わっても、私のパフェはまだまだ残ってた。

 

「……ねえ、Pさん。少しちょうだい?」

 

 おもむろに加蓮が尋ねてくる。

 

 少し迷い。まあ、食べかけじゃないところからなら良いか、と頷く。

 

「いいけど、それこそ食べ過ぎでないか?」

 

 なんといっても体が資本のアイドルだ。体調管理も大切な仕事である。

 

「少しだったら大丈夫、大丈夫。そのかわりに、とびきり甘くしてもらうから」

 

「? まあいいけど」

 

 店主からスプーンをもう一本貰うと、それを加蓮に渡す。だが、それを加蓮は受け取ろうとせず。

 

「あーん」

 

 と顔を突き出して目を閉じ、かわいらしい口を少し開けた。

 

「ちょっと待て加蓮。それはちょっと、」

 

「だめぇ? 今は誰もいないし、ちょっとくらい良いじゃない?」

 

「そこにいる奏とマスターはどうした!?」

 

 とあわてて奏たちを見るが、二人とも顔を背け、見てませんとアピールをする。

 

「ほらほら、せっかくだから、ね?」

 

「いや、さすがに問題だろう!?」

 

 だが、こうなった加蓮がめったに身を引くことなどない。つまるところ、逃げ道はないに等しい。そして、

 

「Pさんの初恋の人の名前は……」

 

「マスター!!」

 

 それだけは言うなと言っておいただろう!!

 

 叫ぶ声もむなしく響く。結局、私が折れたのは言うまでもない。

 

「うーん、おいしいおいしい。これで明日も頑張れそう」

 

「そうですか」

  

 ほくほくと、加蓮はたいそう満足げに頬に手を当てにこり顔。

 

 私はといえば、どっと疲れてしまい。その分の気力を回復しようと深層のアイス部を掘削していた。

 

 結局、店主は秘密はばらしておらず。加蓮はカマをかけただけだったのだと。相も変わらず、からかい上手というか、頭が回る。ただ、そう話した時の加蓮の不敵な笑みが気にはなっているのだが。マスター、ばらしてないよな?

 

「はい、じゃあ次は奏ね」

 

 と、不意に加蓮はスプーンを渡してくる。

 

「あら、いいの?」

 

「いいの。私だけなんて不公平でしょ? ね、Pさん」

 

 私は同意したつもりはない。

 

「ほんと、あなたのそういうところ好きよ、加蓮。……それじゃあ、Pさん、私にも情熱たっぷりに、ね」

 

 と私の返事も待たずに今度は奏が目を閉じる。なぜかとびきり艶っぽくだ。何を求めてるつもりだ、何を!!

 

「なに、ってわかってるでしょう?」

 

 吐息大目に、ゆったりと言うんじゃない。だが、確かに不公平なのは事実だったので、公平さを保ちたい私としてはしぶしぶとパフェを差し出す。

 

「んっ、おいし……」

 

 なぜ、パフェを食べさせただけで、こんなに如何わしいことをしている気分にさせられるのだろうか。

 

 ファンから見たら眼福なのかもしれないが。プロデューサーの立場を考えるとグレーどころか、ほぼブラックである。ギルティだ。暴走婦警に見つからないようにしないと。

 

 奏はかすかに微笑みながら、ゆっくりと味わうように目を細める。そのしぐさに、またも仕方なくドキリとさせられる。にやにやとからかうような加蓮の視線は無視する。変に勘繰られないよう、少し勢いよくパフェを平らげることで誤魔化した。

 

 どんなに巨大なものでも、無くなるときはあっという間だ。私の甘美な塔は音もなく胃袋の中へと消えていく。

 

「ふぃー」

 

「あら、お疲れみたいね」

 

「だめだよー、しっかりと休まないと」

 

 誰のせいだ、誰の。

 

「「さあ?」」

 

 二人はにっこりと、見惚れるような笑顔を見せてくれる。小気味いいクラッシックのBGMに心を落ち着かせながら、私たちはしばしの安らぎを感じながら、談笑に花を咲かせるのだった。




モノクロームリリィの魅力_1『髪』

奏の雰囲気とアイドルとしての姿にとても似あった髪型だと思うのです。クールで、かっこいい。それでいて時々、困ったように髪をくるくるともてあそぶのも、かわいらしいですよね。ツインテールの風イベントで見せたツインテール姿の破壊力も、普段の髪型の魅力があってのものでしょう。

加蓮の場合、カードごとにがらりと髪型が変わるのが、本当に楽しみです。それでいて、どれも似あっていますし、前髪だけはいじらないというこだわりも微笑ましいものです。ほんと、お洒落さんというのにぴったりで、なかなかそういうところに頓着しない筆者は憧れてしまいます。




今日はのんびりな喫茶店の日でした。明日は昨日に奏単独回を行ったので、加蓮のお仕事の様子を書きたいと思っています。

それでは、どうか二人に総選挙の投票をお願いいたします。
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