ユニットとはどうあるべきか、そんなことを同僚と語り合うことがある。
気の許せる仲間との調和
ライバル同士のぶつかり合い
あるいは違う者同士の化学反応
けれど、そこに答えはなく、それでいいとも思っている。人と人が結びついて、何かが起こらないということはないのだから。必ず、そこに新しい輝きが生まれるのだから。
私たちの事務所の仕組みは、少し変わっている。もとより、規模や、それに反した自由度といい、奇抜なプロダクションではあるのだが。
まず最初に新人プロデューサーが仰天させられるのは、そのプロデュースの方針だ。
入社したてのプロデューサーはまだ試用期間。まずは一人、アイドルを担当してライブを成功させる。
アイドルの選び方も自由で、ライブへの道のりも自由。自分で街角でスカウトしたり、オーディション合格者から選んだり。ライブまで時間をおいても、いきなりオーディションへ放り込んでもいい。
ともかくとして、ライブを成功させることが合格条件。そして、その後、担当アイドルの正式なプロデューサーとして認められる。
その次に行うのは、もう一人の担当アイドルを決めること。
うちの事務所では、一人のプロデューサーが最低二人のアイドルを担当することになる。
この時、担当の二人の扱い方も自由だ。ユニットを組ませてもいいし、それぞれで単独にプロデュースを続けてもいい。
けれど、必ず新しい仲間を加える。それが決まりだ。
厳しいアイドル業界、信頼できる仲間を得ることは大きな仕事を成功させるよりも重要なこと。互いに支えあい、切磋琢磨できる環境でこそ、トップアイドルは生まれる。それは、うちの社長が若いころに学んだことだともいう。
そして、私にとっては前者が加蓮で、後者が奏。
まずは加蓮で試用期間を全うして、その後で奏をスカウトした。
さて、そのような形で続いている私のチームだが、加蓮と奏はモノクロームリリィだけでなく、事務所内ユニットのトライアドプリムスやLiPPS等のユニット活動も積極的に入れている。そうなると、二人が一人のアイドルとして対決する機会が減ってしまっていた。
「ということで、今度のライブは二人それぞれの全力が見たい」
とある日の夕暮れ、私は二人にそう言い切った。
加蓮と奏は仲が良い。それは趣味だけでなく、心の波長が合うように、互いの良い理解者として今日までを過ごしている。喧嘩をした姿というのは最初期以外、あまりない。
だが、そうはいっても、加蓮も奏も互いにトップアイドルを目指すライバルだ
時には二人で全力を出して、競い合うのもいい機会だろう。
奏は高垣さんと共演して、一皮むけた。
加蓮も総選挙という場所で大きな結果を得た。
今、この時こそ、二人が互いの実力を改めて確かめるのに、ちょうどいい時間だと思えた。
そして、そんな仕事を告げられた二人はというと。
「……」
「……」
私の前に立つ加蓮と奏は、しばしの間、互いに無言で見つめあっていた。そして、
パンッ
鳴らされたのは軽快なハイタッチの音。
二人はさわやかな笑顔を浮かべて、やる気十分だという気持ちを示している。
加蓮は目の奥が燃え上がるみたいに輝いて。奏はクールな表情をかぶりながらも、熱い想いを隠していない。
「確かに、最近は一緒の仕事が多かったし、久しぶりにぶつかり合うのも良いよね。私も、奏の全力見てみたいから……」
「受けて立つ……、なんて余裕ある台詞は言えないわね。けれど、勝つのは私よ」
「ふふ、それはこっちの台詞だから!」
そんな二人のやり取りに、きっとこの仕事も二人の大きな成長につながることを確信した。いつだって、二人は私を驚かせてくれるのだから、今回も、必ず。
二人に用意したステージは一月後に開かれる。決して大きくはない箱だが、その分、観客の反応はステージに立つ二人へと分かりやすく伝わるだろう。二人のアイドルとしての技量が直接会場に反映される、シビアな場所。
そして、その日から加蓮と奏のステージに向けた特訓が始まった。
とはいっても、三人での仕事に大きな変化が起きることはなかった。
加蓮も奏も先のステージを意識している動いているが、それはどこか、互いに競い合えるのを楽むそれで。それ以外の仕事やオフの時は、いつも通り二人で仲良く、頻繁に私をからかいながら過ごしている。
けれど、そこから離れると……。
「ほら! テンポが遅れてるぞ!! そんなことで速水に勝てると思うのか!!」
「……! はいっ!!」
レッスン場にトレーナーさんの大声が響く。そして、それを受けた加蓮も、大粒の汗を流しながら、負けない声で応じた。加蓮はまた、激しいダンスに戻っていく。
私はレッスン場の扉の前で、そんな彼女をじっと見つめていた。私は今しがた来たところ。けれど、そのことにも加蓮は気づいていない。
ステージ開催を発表した日から、二人のレッスンはますます激しいものとなっていた。いつかの日と違い、コンディションや先のスケジュールを意識しつつも、一回のレッスンで着実に得るものがある様に。アイドルとして高みに上るためのレッスン。
その光景は私の目を捕え、離すことはない。
「……お疲れ様、加蓮」
レッスン後、私はスポーツドリンクを加蓮に渡した。加蓮は息も絶え絶えのようす。きっと身体を動かすのも億劫だろうに、汗をぬぐいながら、笑顔でそれを受け取った。
「ありがと! ちゃんと見てくれたよね?」
「うん。良いレッスンだったよ。……それに体力も、もう大丈夫みたいだな」
昔のように体力が切れて表情も作れない、なんてことはない。
「Pさんったら……。もう、いったい何時のことを言ってるの?」
私がからかいつつ言うと、加蓮は苦笑いを浮かべて、ぷんすかと抗議をしてくる。
「ごめんごめん。いや、少し感慨深いと思ってね。二人と出会ってから随分経ったけれど、やっぱり成長したなって」
加蓮のレッスンを見ているうちに、しみじみと考えてしまったのだ。すると、加蓮は目に真剣の色を灯して、口を開く。
「うん。けれど、まだまだだよ。もっと磨き上げないと、あっさり奏に負けちゃうから」
固い声。けれどもそれは、一瞬で。すぐに加蓮は頬を緩ませながら、言葉を零していく。それは、別の場所で頑張っている奏を想像してか。
「……奏、すごいよね。初めて会ったときから、すごく綺麗で、かっこいい子だなって思っていたけれど。毎日、ううん、一瞬見ている間にも、どんどん魅力的になってる」
ずっと一緒にやってきたから、その変化は私だけでなく、加蓮にも確かに伝わっていることだろう。私は頷きを返す。それは奏だけで成しえた変化ではなく、
「そうだね。けど、それは加蓮が一緒にいるからだと思うよ」
すると、加蓮は本当にうれしそうに、微笑みを浮かべて。そして、遠い場所を見つめながら言葉を続ける。
「それなら嬉しいな。ねえ、Pさん。私ね、奏のこと仲間だし、ライバルだし、友達だと思ってる。けど、やっぱり尊敬もしてるんだ。
奏はいつだって理想の自分を持ってる。私はまだ知らなくて、探り探りで目指しているそれを。だから、一番に輝いている自分を演じ切ることができるの。
怖さとか緊張とか、全部を自分の中で受け止めて、ステージの上で眩しいほどに素敵なアイドルになる」
すごいよね。
その言葉は自分に言い聞かせるように。
確かに、奏の真骨頂は演技だろう。彼女は、その聡明さと感受性の豊かさで、自分の理想のアイドル像を現実へと映し出す。少女も、大人も、アイドルも、全てが思うがまま。影の努力と不安を、奏は理想という『嘘』で包み込みながら昇華できる。
だから奏のステージに、人は夢を見る、理想を見る。奏自身を眩しく思う。
「でも、私はそれに追いつきたい。奏の目指す理想のアイドルに。トップになるには、絶対に超えなくちゃいけないから。追いついて、追い越して、もっともっと輝きたいから」
そうして加蓮は汗をぬぐい、決意と共にレッスンへと戻っていくのだ。遠くに立つ、ライバルの背中を目掛け、走り続けるために。
決意と挑戦の思いを抱いているのは奏も同じ。
別の日、奏はボイスレッスンに臨んでいた。何度も何度も、指導を受けながら、ワンフレーズ、一音を見つめて、心と感情をこめて歌い上げる。そうして、一歩一歩、歌を完成させていく。
ただ歌を歌うだけではない。
一つの歌の裏には計り知れないほどの汗と努力がある。
だから、一つの曲を歌い上げ、休憩に入った奏は、レッスン場の壁にもたれながら、大きく肩を上下させていた。じっと、自分の中で歌と見つめあうように。
そんな彼女が不意に顔を上げて、向かいにたたずむ私を見つめてくる。
お呼びとあらば。
私は奏のそばに行くと、同じように壁にもたれてみた。しばらくの間、二人して無言で過ごし、そして、不意に二人そろって笑顔を零す。
「もうっ、何か言ってくれてもいいのに」
「いや、言葉が迷子になっちゃって。でも、うん、凄かったよ……」
まだレッスン。ステージはまだ先。
だけれど奏の歌は常以上に情感たっぷりで、感情に訴えかけてきた。気を抜いたら、立ったまま泣いてしまいそうなほどに。
そんな感想に、奏は嬉しそうに頬をほころばせてくれる。
「ありがとう。やっぱり、貴方が見てくれると違うわね。心の込め方も、訴え方も」
「そんなに役に立ったかな?」
「いない時とは大違いよ。貴方は私のプロデューサーで、何より最初のファン。観客を喜ばせる歌い方。それができているか、貴方を見ていればわかるの。
だって、貴方はニクいくらいに素直で分かりやすい人だから」
それは褒められているのだろうか。そんな言い回しに苦笑いしながらも、私はその言葉を嬉しく思う。奏の役に少しでも立てているのなら、プロデューサー冥利に尽きる。
けれど、今日の奏はそこで顔をうつむけた。
「でも、それだけじゃ加蓮には勝てない……」
加蓮と同じ、固く結んだ言葉。そうして先を見据えるように視線に力を込め、奏は前を向き直す。
「私はこうして嘘と技術で塗り固めて、アイドルになっていく。ファンを魅了する、輝く姿を作り上げる。
……けれど、加蓮は違うわ。がむしゃらなほどに真っ直ぐに、それでも一歩一歩を大切に踏みしめて進んでいくの。加蓮のまま、心のままに輝いて。
だから、あの子のステージは人の心を動かすのよ。渾身の輝きを、一目も離せないほどに」
加蓮は白紙からのスタートだった。
体力もなく、アイドルとしての実力は下から数えた方が早いほど。けれど、その白紙のスタートラインを踏み出してから、彼女は歩みを進めるほどに輝きを増していく。毎日の発見に、一つ一つのステージに、そこに在ることに喜びを得て、ステージで満開に花開いていった。
だから、加蓮のステージから、誰も目を離すことはできない。
奏はそんな加蓮に羨望を向けながら、それでもと強く拳を握り、宣言する。
「けれど、私は負けたくないの。加蓮が眩しいほどに輝いていても、それで諦めるほど安い夢じゃないわ。
私だって手を伸ばしたい。私たちで作った『速水奏』を纏って、あの輝く姿を追い越したい。そして、いつかは私自身も……」
心から輝くために。
奏の理想はどこまでも遠く、今は嘘まみれかもしれない。けれど、それを本当にしていくために、輝く自分となるために。奏は歩みを止めることはない。
モノクロームリリィ。
黒と白、色違いの美しい花。
形は同じ、美と気高さの象徴。けれど、その在り方と、目指し方は正反対。
がむしゃらに、一直線に、眩しいほどの夢への熱量で魅了する。
しなやかに、したたかに、作り上げた理想の仮面を被って魅せる。
だけれど、二人とも心に抱くのは同じ想い。
輝く自分になりたい。憧れた、理想の姿にたどり着きたい。
そして、目指す場所が同じだから、二人は共に歩むことができる。
時に憧れ、時にぶつかり、それでも理解し、夢を分かち合う。
だからこそ、モノクロームリリィは。
「ねぇ、私のステージに誘惑されたでしょ?」
「ふふ、私のステージにくぎ付けだったよね?」
加蓮と奏は。
「それじゃあ、最後は私たちのステージ」
「正反対の二人だから」
「「誰も彼も、魅了してあげる」」
二人で、どこまでも輝いていく。
如何だったでしょうか?
今話では、私なりのモノクロームリリィというユニットの解釈を行いました。
奏と加蓮には美容やからかい、過去の出来事。二人で共有できる物事も多く、だからこそ、互いに理解者として寄り添えているのだと思います。
けれど、アイドルとしての在り方は全く違って見えて、だからこそ、二人の調和は奇跡のように尊く見えるのではないか。
私はそう思えてなりません。
皆様の解釈はいかがでしょうか?
なんだか、書いていてエピローグみたいな語り口になりましたが、まだまだ続きますよ!
さて、明日はとうとうイベント最終日、皆さん、頑張りましょう!