先日、奏は高垣さんと共にフランスを旅した。
二人が主演の映画撮影。その場になぜかフレデリカさんの出現情報もあるというのが不思議ではあるが。同期のレイジー・レイジーPが何かしたのだろうか?
ともかくとして、その旅は刺激がありつつも楽しい旅だったとは折に触れて奏と高垣さんが話してくれた。お洒落なカフェに、酒に、食事に、酒に、美術品に、酒に。あれ? 高垣さんが話してくれたの、九割くらい酒の話じゃない? なんて思ったり。
さて、当然ながら、そのような話を聞くとき、多くは加蓮が傍にいる。そして、羨ましくも楽しい海外旅行の話を聞いていると、今度は自分も行きたいと考えてしまうのが人というもので……。
「うーん、南国ビーチはもう行ったし……。アメリカでLA? ハリウッド? それよりもイギリスでオシャレな旅っていうのも……。イギリスはフィッシュアンドチップス。……チップスかぁ。いいかも……」
その日、私と奏が出先から戻ってくると、加蓮はソファに座りながら、何やら呟きつつ悩んでいた。よく見ると、その膝の上には雑誌が広げられていて。それを色々とめくりながら考え中。そして、雑誌の中身は……。
「何を読んでいるかと思ったら、観光雑誌?」
「あ、おかえり! Pさん、奏!」
「ただいま。しかも、海外旅行の雑誌か。……どこか行く予定あるの?」
私は尋ねてみる。もしそういう予定があるのなら、スケジュールを空けることもやぶさかではないのだが。
しかし、そのことに対しては、加蓮は苦笑いを浮かべながら手を振って否定した。
「ううん、ちがうよ。ほら、奏が楓さんと旅行行ってきたじゃない? その話を聞いてたら、私もまた海外のお仕事に行ってみたいなーって思って」
「それで、カタログ見ながら考えていたんだ?」
「うん。見てるだけでも、結構楽しいよね。色々と先のことが想像できてさ」
なんて、加蓮は楽しそうに見ていたページをテーブルに置いてくれた。広げられているのはロンドンの写真だ。有名な駅に、通りに、そして加蓮がつぶやいていたフィッシュアンドチップス。
ふと考えると、カフェに座りながら、フィッシュアンドチップスを嬉々として食べる加蓮の姿が容易に想像がついた。
そうでなくても、お洒落な加蓮は、イギリスの街並みにも良く溶け込めるだろう。
奏はしみじみと頷く。
「確かに、加蓮は好きかもしれないわね、イギリス」
「奏はどう?」
「そうね……。今はフランスに行ったばかりだから。加蓮が前に行った、南国ビーチの方が気になるわね」
すると、奏は目を細めながら、私へ『連れてってくれる?』なんて、吐息交じりの問いかけ。さて、奏のビーチ写真集なんて、ファンにとっては夢のような企画だ。立ち上げれば、直ぐに実現できそうではある。
「うーん、来年には実現できるように善処する」
「それじゃあ、期待してるわね♪」
本当に期待してくれている声。さて、それならこちらの力の見せ所だ。場所や日付はどうしようか、などと頭の中でカチャカチャとコンピューターを動かし始める私。けれど、それを遮ったのは加蓮の声。
「ちょっと待って?! その前に私のお仕事の方が先でしょ!? 奏の南国ビーチより、私の海外ロケ!!」
「いや、順番とか、そーいうのとは、ちょっと違う気が……」
「不公平なんて絶対ダメなんだから!!」
確かに加蓮の言葉にも一理ある。けれど、そもそも、海外ロケをやるとも決まっていなかった気が……。
ともあれ、加蓮もやる気十分ということなら、私としても企画を作ってみることに否はない。奏の企画への想像を固めて、脇に置いて、改めて私は加蓮に尋ねた。
「よし。それじゃあ、加蓮はイギリスロケが希望なの?」
「うーん、そこがちょっと悩みどころなんだよね。候補はイギリスと、ドイツとポーランドで」
「その共通点、何?」
えらく離れているぞ、その国々。私がはてなマークを浮かべていると、奏が加蓮の隣に座って、肩に手を置く。私に向けるような、からかう視線で。
「加蓮、あなたポテトで行先決めてるでしょ?」
「そ、そんなことないって!」
奏が言うや否や、加蓮は真っ赤になって否定した。けれど、奏には確信があった。
「でも、どれもポテト料理で有名じゃない。ほらっ、Pさんも見てよ、これ」
と、奏が件の名物料理ページを示してくれる。確かに、ドイツは言うまでもなく、ポーランドもポテト料理が有名と書いてある。
「加蓮……」
「違うって!? さすがに私もポテトだけで決めたわけじゃないんだから! ほらっ、お城とか、メルヘンとか、色々あるでしょ!?」
尚も否定する加蓮。けれども私と奏は、はいはい、と生返事。好きなのはいいけれど、海外行ってまでポテトを食べる気だったとは。このままではポテトアイドルを襲名してしまう。
「むぅ……。それじゃあ、例えばPさんだったら、どこに行きたいの? お仕事とか抜きで」
「そうだなあ、仕事じゃなければアマゾンとか?」
大変だろうけど、密林の奥地は行ってみたいところ。
「前にも言ってたものね、冒険に行きたいって」
「Pさんだったら、蛇に食べられちゃいそうだけど」
ポテトの件でむくれ面の加蓮が、そんな不吉なことをぼそりと呟く。
「それか、オーロラを見に、北極圏とか」
「なんでPさんは、そんなに危ない場所に行きたがるの……」
加蓮のジト目が私に突き刺さる。いや、そういう場所の方が、珍しいものが見えそうじゃない。輿水さんも、偉く大変だったみたいだけど、いい思い出なんて語っていたし。
「私がポテト好きなら、Pさんはロマン好きじゃない……」
「返す言葉もありません」
さて、そんな、女子からは奇異に思われる私の旅行プランは置いておき、加蓮の海外企画に戻る。実は先ほど加蓮が挙げてくれた中に、琴線に触れるものもあったのだ。
「……ポテトは置いておくとして、イギリスは良いかもしれない」
私を組みつつ、つぶやいた。
「だから、ポテトじゃなくて良いから!」
「意地張っちゃって……。英国なら、ポテトもついでに食べれるじゃない? いらないの?」
なんて奏が目を細めて尋ねると、加蓮は少し迷いつつも、
「……いる」
と、顔を赤くしながら小さくつぶやいた。くそ、可愛いな。
「おほん! ……でも、英国は写真撮影でも、PV撮影でも映えるし、アリな選択肢だと思うな。紅茶に、騎士に、古い町並み! きっと、いい画が撮れると思う」
「紅茶を片手に、カフェでお洒落かぁ……。うん、楽しそう!」
加蓮も直ぐにそんな想像をめぐらせたおかげか、機嫌を直してくれたようだ。その調子に、次々と想像を描いていく。
「他にも、ロンドンといえば、魔法の駅とか、有名探偵の家なんてあるし……。けど、それなら……」
私は奏の方を見る。魔法使いの小説といえばだ。
「奏、あの小説、結構好きだったよね?」
「え、ええ。夢に溢れているようでいて、イギリス社会への風刺も効いているし、読み応えあるもの」
「じゃあ、二人で英国撮影なんて、どう?」
私は二人へ提案する。件の探偵物だってバディものだし、魔法使いも一人より二人の方が映えるだろう。二人とも、ハットにステッキなんてシックな格好も似あうに違いない。
それに、
「いいね! 私たち、一緒に海外に行ったことはないし。私は大歓迎だよ!」
加蓮が言うように、私たちチーム全員での海外仕事というのは、今までに経験がなかった。奏もそんな加蓮の言葉に微笑んで。
「……加蓮がそう言ってくれるなら、ええ、私も行ってみたいわね」
なんて、楽しそうに返事をしてくれる。さて、そうすると企画はどんなものがいいだろうか? 探偵衣装や魔法使いは鉄板として……。
「この場合、ホームズが奏かな? それで私がワトソン」
加蓮が私のつぶやきを聞き、考えつつ答える。
「お互いにホームズでも良いんじゃないか? 二人して刑事ドラマもやったし」
「それは欲張りが過ぎる気もするわね。それよりも、加蓮がホームズはどう? 私はワトソンの方が好きよ? 彼がいないと物語は始まりすらしないのだから」
「けど、ワトソンをいつも翻弄するのがホームズだし。むしろ、私の方がワトソンの役回りのような……」
小学生の時はホームズにあこがれたものだが、近頃はワトソンに共感して仕方のない私。そんなことを話すと、奏は、
あら
なんて首をかしげて。
「Pさんにはもっといい配役があるのだけど」
「うん? レストレード警部とか?」
「いいえ。モリアーティ教授」
意外な答えである。私はそれを聞いた瞬間、珍妙な顔になったと思う。なにゆえに私がモリアーティに配役されるのか。
「モリアーティって確か悪役でしょ?」
「ええ、ホームズの対をなす天才的犯罪コンサルタント。影の犯罪王よ」
「ああ……、なるほど……」
しかし、加蓮まで納得顔になったのは、何故だろうか? 尋ねてみると、二人はにやりと笑みを作り、
「だって、私たちの仕事を企画して、サプライズを仕掛ける人だもの。悪い悪いプランナー。それなら、Pさんが適役でしょ?」
「Pさんがワトソンみたいに、後ろに控えているのは想像できないよね。むしろ、一番に飛び出していくほうがPさんらしい」
ということらしい。
二人はそういう理屈でP=モリアーティ説がしっくりくるのだとか。
でも、茶化してはいるが、そのほうが適切だと言ってくれるのは、プロデューサーがアイドルと対だと認めてくれているということで。そういう意味合いで言ってくれるなら、嬉しいとも思う。
「それじゃあ、悪いプロデューサーが、二人にサプライズ英国旅行を送ってあげるから、その時を首を長くして待ってて」
なんて、気障なセリフも言ってみて。
……けれど、綺麗に物語は締まらない。
「その時は、ライヘンバッハも入れておいてね♪」
「え!?」
「ホームズを演じるなら、定番のシチュエーションでしょ?」
「あ! それなら、私も知ってるよ! モリアーティが落ちちゃうシーン!」
「それって私が落ちるやつじゃない!? え!? なに!? 私、モリアーティやらなきゃダメなの!?」
後はいつも通り、二人して私をからかいだす。
さて、私は滝つぼに落ちるのか。
けれどそんな愉快な想像も今はすべて想像の中だ。
きっと、愉快で楽しく、美しい思い出となる二人との海外企画。そんな新しい舞台へと二人を導けるように。
私は今日も、二人に翻弄されながら、笑顔で仕事を進めていくのだった。
皆さま、ミステリアスアイズイベント、お疲れさまでした!
そして、私もイベント期間毎日更新を全うでき、久しぶりに二人とものんびりわちゃわちゃと過ごすことができたと思います。
また、初めてイベントを走って、ランカーの皆様のすさまじさを認識したり、イベントコミュでも奏さんの内面をもっと知ることができたりと、個人としても奏Pとしても、気づきが多い、とても良いイベントでした。
では皆様、また次の機会に。
また面白そうな記念日の題材やイベントが始まりましたら、気ままに書いていこうと思っております。