モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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去年は恐竜の日でしたから、別の記念日を。色々と調べてみると面白いですね。


4月17日「なすび記念日」

「四月十七日だから、『よいなす』かぁ」

 

「日本語の語呂合わせって、時々強引だよね。『す』って、いったいどこから来たの?」

 

「縁起を担いでっていうのは、PRに役立つものなのよ。仕方ないわ。ナスの旬は夏と秋。春にも食べてもらいたいから、多少強引でもってところでしょうね」

 

 奏が言うように、この国において縁起というのは大事だ。大安吉日とか、語呂合わせ。そういう記念日は有難がれるもの。色々と理由付けられたイベントには、彼女らもゲストとして呼ばれることが多々ある。

 

 そんな類とアイドル業は切っても切れない縁があるのだ。当然、私だって仕事の種になると、カレンダーとかイベントには気を張っている。

 

 まあ、そんな日本の事情はさておいて、なぜ真昼間からうら若いアイドルと額を突き合わせてナスビの話をしているかと言えば、私たちの目の前に、丸々肥えたナスビが置かれているからに他ならない。

 

 今日は『なすび記念日』。おいしい茄子をみんなで食べようという日。モノクロームリリィというユニットと野菜のナスというのはあまり関わりはないが、個性的な面々がそろった事務所には、それに縁がある仲間もいる。このナスビも、そんな彼女からのお土産。

 

『茄子と一緒に、茄子ですよー』

 

 一時間ほど前、いつものお決まりというか、持ち芸というか、ほんわりとした台詞と共に、鷹富士茄子さんが部屋を訪れた。小早川さんとはまた違った、大人な大和撫子。幸せに満ちた、やさしい笑顔を見ていると仕事疲れも晴れていく気がする、不思議な幸運のアイドル。

 

 そんな彼女の手にはビニール袋に入った艶やかな茄子が下げられていた。

 

『じつは、私たちでキャンペーンに参加してきまして、お土産にとたくさんいただいたんです。でも、ほたるちゃんと私たちのプロデューサーさんでは食べきれなかったので』

 

 物産会でキャンペーンガールを務めたミス・フォーチュンのお二人。イベントは大盛況で、会場は人だかりができたとか。そして、盛況ぶりを喜んだ農家の皆さんがお礼代わりに、こぞって事務所にナスを送ってくれたのだという。

 

 ちなみに、幸運の鷹富士さん、不幸だったらしい白菊さんを率いるプロデューサーは『貧乏神』だなんて呼ばれている。見た目は普通の好青年なのに、とんと金には縁がない後輩。その彼が段ボール一杯のナスを持ち帰っていた姿を、私も目撃していた。

 

 それでも、ナスの量はあまりに多く、傷ませるわけにもいかないので、こうしてお裾分けに来てくれたそうだ。こちらとしても、そんな事情もあるのなら、優しい申し出を断る理由はない。

 

『ありがとうございます! ちゃんと美味しくいただきますね』

 

『おひたしとか、焼きナスにしたら美味しかったですよ』

 

 鷹富士さんから茄子を受け取って、部屋へ帰っていく彼女を見送って。ずっしりと丸まったナスをうちの姫様二人にも見せて、現在に戻る。

 

 英語でエッグプラントという様に、卵型の瑞々しい野菜は、蛍光灯の光を浴びてつやつやと宝石のように光っていた。野菜には詳しくはないが、スーパーで見るナスとは輝きからして違っている。もしかしなくても、ブランドものだろう。丸かじりしても、そのままで食べられそうなほどに、見ているだけで美味しさが伝わってくる逸品。

 

 そんな、テーブルの上に広げたナスを、加蓮も奏も面白そうに見ていた。九つあるので、一人三つずつを持って帰ればちょうどいい。さて、プレゼントをどうやって料理しようかと、男やもめの私は考えていると、

 

「ほんと、美味しそう! ねえねえ、ナスって揚げてもいいんだっけ?」

 

 加蓮が期待に目を光らせて尋ねてきた。フライドポテトならぬ、フライドエッグプラント。いや、語呂が悪いが、それを作るつもりだろうか加蓮は。

 

「揚げナスは有名だけど、ポテトみたいにしたら台無しじゃないかしら? そうね、揚げても、シンプルな味付けの方が良いわよ? それとも、素直におひたしとか」

 

「天ぷらもいいかもな。鷹富士さんからのナスなんて、それこそ縁起物だから、素材の味を損ねないようにしたいし」

 

「もー、二人とも。私だって、そこまではしないって。

 じゃあ、家に帰ったら頼んでみよっと。そういえば、Pさんはちゃんと作れるの? ナス料理」

 

「……味噌汁に入れるくらいは」

 

 ふふん、とジャンクフードをからかわれたお返しとばかりに、目を細めた加蓮には、小声で返すしかない。

 

 毎日トン汁を食べているような私に期待はしないで欲しい。二人のおかげで、前と比べれば、料理もするようになったが、まだ素人に毛が生えた程度。すると、奏もすっと横目にからかいの色を灯して、試すように言うのだ。

 

「ふふっ、それなら私たちで作ってあげても良いわよ? 加蓮もお料理、もうすっかり一人前だから一緒に、ね?」

 

「特訓の成果、見せてあげたいんだけどなー。そのためには、知りたいことがあるんだけどなー」

 

「まだ君たちには家は教えん!!」

 

 安息の地は易々と奪わせるわけにはいかないのだ! 

 

 そう言って大きくバツ印を腕で描く私だったが、二人の表情は面白そうな、あるいは微かに憐れむようなものだった。実は、うすうすと感じていることがある。けれども、決して口にしたくはない。実は既に、なんて。

 

 そんな想像は胸に秘めて、ナスへと無理やりに視点を戻す。こら、二人とも、あからさまにニヤニヤするんじゃない。怖いだろ!

 

 なにはともあれ、この総選挙の開始直後に食べるには、ナスはちょうど食材だと思う。なにせ縁起物で、加えて、幸運の鷹富士さんからの頂き物。それに頼るつもりは欠片もないけれど、二人が怪我なく過ごせるくらいには役立ってくれそう。

 

 そんなことを考えていたら、ふと気になることが出てきた。

 

「一富士二鷹三なすび、なんてよく言うけれど、由来って何なんだろう?」

 

 正月のたびに初夢のネタで挙げられる三つの縁起物。それらを初夢で見れたら、一年が幸せになるとかならないとか。ただ、三つが並ぶにしては、富士山と鷹はともかく、ナスは珍しいとも思う。

 

「何となーく、よく聞くけど、確かに言われてみたら変だよね」

 

「そういうのは、得てして単純なところが由来だと思うわよ。例えば、ナスだって……」

 

 奏がさらさらと、メモ帳に字を書いてくれる。そこに在るのは、同じ音の二つの言葉。

 

「なるほど、ナスと『成す』、か」

 

「それじゃあ、今の時期にちょうどいいね」

 

「他にも、昔に名産物として挙げられたからなんて説も。……確か、駿河の国って静岡の方だったわよね?」

 

 ほんと、奏は色々と知っている。調べてみると、確かに富士山も、鷹も、ナスも、静岡の名物として有名だったらしい。それだけなら、一地方で広がるだけだが、三つをプレゼンした人物が偉人となれば、全国区にもなろう。

 

 その人物とは、

 

「将軍、家康!」

 

「なんでPさんがテンション上げてるの……」

 

「ロマン好きだもの。歴史ものなんて、らしいじゃない?」

 

 酷い言われようだが、家康がナスを含めた名物として挙げたことも有力な説だそうな。そりゃそうだ、江戸時代には文字通り神様だったんだから、それにあやかりたい人は山ほどいただろう。

 

 となると、鷹富士さんの守護神は家康公だったり、等と考えてしまう。どこぞの漫画よろしく、鷹富士さんの後ろに鎧武者が控えていて、彼女を悪霊から守ったり……。

 

「そろそろ戻ってきなさーい」

 

「いひゃい、いひゃい」

 

 頬を引っ張られて、そんな妄想から引き戻された。横に座った加蓮には、呆れたようなジト目を向けられてしまっている。

 

「私たちをおいて、ぼんやりしちゃうなんて、Pさんも罪作りな人ね」

 

「ほんと、忘れられないように、色々しなくちゃいけないかな?」

 

「ごめんなさい、ほんと」

 

 こんなことをしているから、毎度からかいのネタを提供してしまうのだ。

 

 こほんと咳払いをして、ランチを奢るって約束をして、その後で多分からかわれるだろうけど、それはなるべく考えないようにして。

 

「あー、そうそう! このページによると、家康の好物がナスなんだってさ。それに、今日がなすび記念日なのも、家康の命日にちなんでらしい」

 

「あ、話逸らした」

 

「可哀そうなPさんに乗ってあげましょ。でも……」

 

 ふっと、奏の纏う空気が変わった気がした。少し静かに、手の中の野菜を見つめて、

 

「ナスも幸運だったわね」

 

 小さく、親しみのこもった言葉をつぶやいた

 

 私はそんな奏の言葉にピンとこなかった。加蓮もそれは同じようだ。奏の言葉は、どこか、目の前の野菜に感傷を持っているような調子だったから。それは決して、悪い意味を想起させるものではないけれど、奏には、どこか手の中のナスが特別なものに見えたようだった。

 

 私たちの視線を受けた奏は、軽やかな笑顔と共に言う。

 

「だって、ナスは美味しくてもただの野菜。けれども、徳川家康っていう名プロデューサーのおかげで、お正月のアイドルになれたんだもの。そんな人に好きといってもらえて、見出してもらったことは幸運だと思わない?」

 

 奏のほそい指が、ナスの瑞々しい表面を撫でていく。労わる様に、親しみを込めて。そして加蓮も、奏の言葉に思うところがあったのか、不思議な共通点を持っていた野菜を丁寧に持ち上げた。

 

「そう言われると、うん、そうだね。

 それに、そんな野菜なら、私たちにも縁起がいいって思う。幸運に恵まれた先輩として、力を貸してくれるって」

 

 そう言い、加蓮と奏が私を見る。ナスを先輩と呼んだ、その意味を分からないほど、私だって察しが悪い訳じゃない。

 

 二人がそう思ってくれていることは、とても嬉しくて。そんな二人と出会えた自分こそが幸運だなんて、胸がいっぱいになるほど。だから、言葉ではなくて何かの形で報いたかった私は、一つ、楽しい思い出を作ろうと考えた。

 

「よしっ、せっかくだから、何か作って食べようか! 二人はそろそろレッスンだし、帰ってきたときまでに用意しておくよ」

 

「ナスのお味噌汁かしら?」

 

「……プラス一品くらいは、考えておく」

 

「じゃあ、期待しちゃうよ? 幸運がたっぷり詰まった料理。ふふっ、Pさんの手料理なら御利益ありそうだね」

 

 さて、二人が期待してくれているなら、何を作ろうか。洒落たものはできないけれど、精一杯の愛情をこめて迎えるとしよう。

 

 二人がどうか、幸福にアイドル生活を送れるように。




去年は奏を超えて声を手にした女神茄子さん!
今年は奏も負けていられませんから、彼女の幸運にもあやかって頑張っていきたいと思います。

それでは、今日もモノクロームリリィの二人に、幸運と清き一票をお願いいたします!
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