奏 中間発表 属性五位!!
いける! 二人とも、上位入賞が狙える!!
社会とは移り変わっていくもの。特に、芸能界なんて流行り廃りが激しくて、一年や二年のスパンで入れ替わってしまうのが普通だ。だが、そうして変わっていくのも強さであり、新しい風が吹かないと、土台から壊れてしまう。
というわけで、この春にかけて、私たちの事務所にも新人がやってきたのだが。
……それがまた、濃い面々であった。
「ねえねえ! ぼくがんばったよね! もう朝から一時間も踊ってばっかりで頑張ったよね! だからもう休んでもいいよね!? ううん! こうして踊るより、へばってるの流した方が炎上狙えていいんじゃない!?
ほらほら、あきらちゃん! いますぐ生配信しようよ! 『現役アイドル、レッスンでダウン』とか! なんでもいいから流そうよ!!」
「いや、それはだめデスって。怒られるのとか、めんどうですし」
「えー!!? じゃあ、あかりちゃん! インスタ入れたばっかりだよね! ぼくの流してよ!」
「えっと、インスタのアップロードって……」
「あかり、それ、ダメなヤツ」
「いいんだよ! 燃え上がれば正義なんだよ!! 今の時代、燃えるのが一番手っ取り早いんだよ!!
……って、トレーナーさん!? ぎゃー! ごめんなさい! ごめんなさい! 炎上とか、そんなの冗談だから!! えっ、ご、五時間追加!? たすけてー! 誰か助けてー!!!」
うるさい。
それが扉を開けて飛び込んできた景色だった。加蓮と奏と、ついでに私も現状視察ということで予約をしていたレッスン室。時間通りに来てみると、そこに文字通りの阿鼻叫喚が広がっていた。
普段から音楽やダンスの音が響いて、決して静かな場所ではない。だが、そんなレッスン場がここまで騒がしくなるのはいつ以来だろうか。アイドルの中には、最初のころレッスンを拒否した子もいると聞くけど、ここまでうるさくなかっただろうし。
そして、その発生源は三人、いや、主に一人と巻き込まれた二人の新人アイドルだった。騒がしい夢見さんと、おとなしめな砂塚さん、そして、
「確か、あかりんご!」
「違うって、あかりだって」
……あの奇妙なリンゴの着ぐるみが、頭から離れなくてな。
そんなわけで、つい最近に事務所にやってきた新人アイドル、明るく手を振ってくる辻野さんと、ぺこりと頭を下げる砂塚さん、マストレこと麗さんに首根っこを掴まれて断末魔をあげている夢見さんに見送られながら、奥のレッスン部屋へと私たちは向かった。何人ものアイドルが同時にできるように、レッスン場の部屋数は多いのだ。
途中、さっきの惨状に苦笑いを浮かべていた二人と話をする。
「にしても、逆に新鮮だったな」
「レッスンから逃げたりするの、今は乃々くらいだよね? それも、すっごくたまにだけ。あそこまで凄いのは久しぶりに見たよ」
「加蓮だって、色々言ってたのは最初だけだったし」
「それ。私も聞くだけしか知らないけど、大変だったらしいわね、加蓮」
「うっ……!? もうそろそろ忘れてほしいんだけどなぁ」
加蓮は頬を掻きながら言うが、そんな日々も私にとっては大切な思い出だ。墓場の中までもっていくことは決定している。
きっとあの新人たちも、私たちのように、今日の日を懐かしく思うのだろう。例外的に三人も担当することになった、あちらのプロデューサーも、聞くところによるとやり手だというし。まだまだアイドルっぽくない三人が、今後どう成長するか、同僚として楽しみでもある。
ところで、かしまし三人娘以外にも、事務所には新人がやってきている。そして、
「二人は、他の新人とも会ってたよな?」
「私は千夜とレッスンでばったり。けど……、まだ本気っていう感じじゃなかったわね。戸惑っている、というのが正しいのかしら」
「あ! 私はちとせとスタジオで。仲良く話せたけど、ちょっと壁があるかな。入ったばっかりで、仕方ないけどね。あと……、ううん。これはただの勘違いだったらいいけど」
二人から話題に上る『Velvet Rose』。どこか不思議な雰囲気を持った主従コンビは、事務所の中でも異質な雰囲気を纏っていた。付き添いでアイドルになったと公言してはばからない白雪さんは、馴染むのが特に難しそうだが、担当プロデューサーはほわほわと笑顔を絶やさない、これまた変なヤツでもある。
多分、最後にはどうにかなるのだろう。
そして、もう一組。我が事務所初の双子アイドルだ。
「颯とは、今度、セレクトショップ案内するって約束したんだよねー。あの子、ほんと、後輩って感じで可愛いんだー。きっと、磨けばもっともっと光るから、美嘉達と計画中♪」
久川姉妹の颯さん。都会に憧れる、元気で明るい子。そんな彼女を紹介された時、私も加蓮と颯さんは打ち解けやすそうだと印象を持った。
一方で姉の凪さんは、一風変わっている不思議なタイプ。そちらとは奏が接点があった。
「あの子も、見ていて飽きないし、楽しいわよね。フレデリカも可愛がっているし、今度LiPPSを見に来るそうよ。……志希と引き合わせるのが、少し不安だけど」
「い、いや……、さすがに変な方向性に目覚めたりしないだろ」
言動とか、かなり特徴的だけど、科学方面とかには。ただ、フレデリカさんと一ノ瀬さんの組み合わせよろしく、どのように転ぶか分からないのが怖い。凪さんの制御には、担当の手腕に期待するとしよう。主に私の平穏のために。万が一、一ノ瀬博士に弟子とかできたら、実験台は向こうの担当と私だ。
あの大学生にしか見えない後輩、マジで頑張れ。
「で? プロデューサーさん的には、誰か気になる子は居ないの?」
「私たちの事務所らしくて、どの子も面白そうだけど」
「うーん」
問われたので考えてみる。このアクの強い事務所に放り込まれた、七人の新人。世間的な事務所の知名度を考慮しても、気概は十分だと思う。その中で、誰に目が行くか、といえば、
「白黒コンビだな」
「へー。キレイ目が好きなんだ」
加蓮も奏も、その分かってますよって目はやめて!
「い、いや。ほら、ユニット名がVelvet Roseだし、モノクロームリリィとなんか似てるからライバルキャラみたいだなって」
アイドルの名前も白黒で、モノクロだ。ヴィジュアルの方向性も似ていないことはないし、どっかで勝負することになりそうだと予想している。
「その時には、きっと手に汗握る戦いが……!」
「結局、そこに行くのね」
「はいはい、ロマンロマン。まあ、私たちも負ける気はないから? その時にはPさん好みの大勝利をプレゼントしてあげるよ」
それでは、期待して待ってるとしよう。ちょうど総選挙も迫っているし、いっちょ先輩としての力を見せてあげて欲しい。新人も、入ったばかりでいきなり総選挙というのも大変だが、アイドル業界の実際を勉強できる機会だ。精一杯、頑張れ。
そんなことを考えていると、ふと、七人という数に思い当たるものがあった。
「そういえば、シンデレラガールも七人か」
歴代の総選挙優勝者『シンデレラガール』。元々が互いに高めあうことが目的の総選挙。なので、称号がイコールでトップアイドルじゃないが、優勝者には違いない。当然、誰もがトップに足る実力を持っている。
「面白い偶然ってあるものね。いいえ、偶然というよりも、必然かしら? そういう重なりを考えてみるのは面白いことだわ」
「また奏は意味深なこと言って。でも、もう七人もいるんだね。シンデレラ七人なんて言ったら、雲の上っぽいけど、普通に友達だったりするし、気づかなかったよ」
加蓮が笑顔で言う。そんな彼女の言う通り、誰もその称号に驕ることなく、いい意味で自分らしく毎日を過ごしている面々。加蓮とも奏とも良い友人関係を築いている。
ただ、友達であると同時にライバル。そして、私たちはその座に手をかけている。ここらで一つ、彼女たちのことを改めて考えてみるのもいいかもしれないと思った。
『彼を知り、己を知らば』というやつだ。二人とも自分のことは分かっているだろうから、改めて、彼女たちを。そういうと二人もたまにはいいね、と同意してくれた。
まず、考えてみるのは、
「初代の十時さん。アイドルらしいっていえば、アイドルらしい子だよな。優しくて、おっとりした可愛いタイプ。素でそういう性格だから、根強いファンが多いし」
「ほんと、みんなに好かれているの、すごいなーって思うよ。喧嘩も見たことないし」
「愛梨が喧嘩したら、それこそ何か不吉の前触れでしょうね」
奏が冗談めいて言うが、私もそれには首を振るしかない。十時さんには何時までもぽわぽわと明るくいて欲しい。
「次に、二代目が蘭子」
「十時さんに続いての、これまた濃い神崎さんか。あのキャラクターは他には真似できないし、ファン層の強さも納得できる」
奇怪ともとれる言語や、仕草。それでもにじみ出る可愛さと、気品はあの子だけの持ち味だ。
「それと、最近は二宮さんと居て、昔より柔らかくなった。それで、女性ファンも増えている感じだし、侮れない……。あ、そうそう! 神崎さんの言葉、私も完全にマスターしたぞ!」
「おめでとう。でも、他のプロデューサーさんたちよりは遅かったわね」
「難しいんだよ、あの言葉」
一時期、誰が呼んだか通称『熊本弁』。熊本県及び、小日向さんへの風評被害である。
「それで、三代目が……」
「我らが渋谷凛! なーんちゃって。そういう風に言ったら、凛も照れちゃうのが可愛いんだよ」
加蓮が所属するトライアドプリムスの渋谷凛さん。上司の担当アイドルにして、事務所の古参メンバー。
「凛は凛。そういう確固としたキャラクターがあるのが強みね」
「頑固だからねー。けど、担当さんには一途だったり、子犬っぽいところも人気あるのかな?」
ファンになると、渋谷さんの優しさや気遣いに触れて、抜け出せなくなるのだとか。普段はしっかりと固めてる表情が緩むときを見たいと、多くの人が支持している。
「次が、周子。……あの子は、言わずもがなね」
「自由って言葉が服着て歩いてる感じだし、それでいて、しっかり者だし。なんか、凛とは違った意味で、周子らしさって真似できないよね」
「最近は小早川さんと一緒に、ますます手を付けられなくなってきたな。
……それで、次がとうとう島村さん」
いつも思うのだが、島村さんのいう普通とは何なのだろう。気が付くと何時間でもレッスンしていたり、気が付かないうちにすごいことをやってのけているイメージがある。
すると、加蓮は彼女とも仲が良いからか、答えを持っているようだった。
「卯月がやってるとさ、自分もそこに追いつけるんじゃないかって思うんだよね。変な器用さとか、才能は見えないから、卯月の口癖みたいに頑張れば、この子みたいに輝けるって」
「卯月が女の子に人気なのも、そこがあるんでしょうね。あの子は親しみやすくて、それでもギリギリで手が届かない。水面に映る、儚い光みたいに。それを感じさせるのも、一つの才能でしょうけど」
「なるほどね。島村さんがレッスン場で頑張ってるの見ると、私だって仕事、頑張ろうって気になるな」
カリスマ性のある人間はいくらでもいるが、あの普通さで、人を励ませられる人間はそうはいないということだ。
「あとは、最近に勝ち取った二人ね。……楓さんと」
「菜々ちゃん。楓さんは歌姫で、女神で、それでダジャレ好きみたいな親しみもある。……正直、ようやくかって思ったな。私も奏も目標にしてるし、納得」
「それで、安部さんは……。ありゃずるい。何しても話題になるし」
強烈なキャラ付けに、ファンも思い切りが良すぎる。感動系でもギャグ系でも、ほんと、どんな演出でもできてしまうのが恐ろしい。今年も、何をしでかしてくるか……。
そうして、一通り、面々を振り返ってみると、やはり共通するのは、一つのことだ。
加蓮も奏も、そのことはしっかりと分かっていて、笑顔でやるべきことを宣言する。
「自分らしさを大切にすること、だね」
「追われる時、追う時。人は安易な道を探しがちだけど、そうして逃げた先にはトップには立てない。シンデレラガールは、自分を貫き通した先にしか待っていないのでしょうね」
どんなに立場になっても、自分らしさを。
そして、加蓮も奏も、アイドルとして、一人の人間として、素晴らしい資質を持っている。だから、二人がトップに立つ時は、きっと、それを輝かせられた時だ。
当たり前だけど、ふとした拍子に忘れがちな、大切なことを、二人はしっかりと胸に抱いている。だから、私も二人のことをそんなに心配はしていない。
「それじゃあ、中間発表ももうすぐだし。改めて、目指すはトップだけ!」
「もちろん。誰にも、夢を譲るつもりはないんだから」
自信満々に前に立つ二人。それを見て、私も一人、胸の中で気合を入れなおす。輝くばかりのアイドル二人。その背中を押して、トップへ連れていくために。
まだまだトップに立つには壁が厚いですね。
それでも、今年も手が届く位置まで来ました。そして、来年を待つつもりもありません。加蓮は未央を。奏は文香と楓さんを。そして、追いついてくるライバルを超えて、上位へ。
皆さんの熱い応援も、どうかよろしくお願いいたします。
モノクロームリリィを! 総選挙CDで!