モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

61 / 99
令和になってしまいましたが、まずは昭和の日!

時代が変わる日を、二人と見られるのは、感無量です


4月29日「昭和の日」

『歴史が変わる日を前に、皆さんはどう過ごしているかしら? こんにちは。速水奏です』

 

『私たちはいつも通り、オシャレしたり、楽しく過ごしてるよ。こんにちは。北条加蓮だよー』

 

『今日のモノクロメモリーズは特別版の生放送。放送中もメールを受け付けるから、たくさんお話を聞かせてちょうだい』

 

 ラジオブースの中で二人が向き合い、和気あいあいと話を続けている。奏のはきはきとした、凛とした声。加蓮のふんわりと柔らかい声。リスナーに届くのは声だけ。それだけでも、二人の豊かな感情は伝わっているだろう。

 

 今日は定期配信している二人の冠ラジオの生放送。時代が変わるということで、これまでの二人の活動を振り返る企画も行っていた。収録現場はいつもと変わらないが、さすがに企画が企画だけあって、新鮮な気分。

 

 私は、当然、ブースには入れないので、スタッフと隣の部屋で控えていた。目の前の机には山盛りの紙束。全部、今日の放送のために、全国各地から届いたメール。それを放送作家さんが選別して、数枚を二人へと渡しているが、こうしている今もパソコンにはいくつものメールが届き、作家さんたちが必死に読み込んでいる。

 

 二人が人気な証拠。私も嬉しいことこの上ないが、一方でスタッフさんには頭が下がる。こうして素敵な番組を作られるのは、彼等の助けがあるおかげだ。

 

「今日も二人、調子良さそうですね」

 

「ええ、特別企画ということもあって、やる気もあり余ってるみたいです」

 

「それは、私も嬉しいものです。まだ気が早いですが、次の時代でも、よろしくお願いします」

 

「こちらこそ」

 

 番組プロデューサーと簡単に挨拶を交わす。すると、視線を逸らしていたのがばれたのか、加蓮が不意に私へと手を振ってきた。ちょっと目が笑っていない。

 

「……ははは、随分と気にされているようで」

 

 隣に苦笑いをされながら、ちゃんと見ているぞ、と手を振り返す。すると、加蓮は目を細めて、挑戦的な笑みを作り、手元の紙を見た。

 

『それじゃあ、最初のお手紙は……。「いっぱんピーポー」さんから。パトカー?』

 

『ふふっ、加蓮の発音だと、それっぽく聞こえちゃうじゃない』

 

『冗談だって! 人って意味だよね。これでも、ちゃんと勉強はしてるんだから! えっと、「そろそろ年号も変わりますが、お二人が印象に残っているお仕事って何ですか? 次の時代になっても応援しています」だって』

 

 すると加蓮も奏も、ふとした昔を思い出すように、台本を置いて一呼吸。

 

『そうね……。随分と色々なお仕事をさせていただいたけど』

 

『ライブに、モデルに、ドラマに、吹き替えに。どれも楽しくて、一番の思い出。でも、その中で印象的っていうと』

 

『最初のお仕事』

 

『だね』

 

 二人が顔を見合わせて、微笑む。それは間違いなく、二人のファーストライブのことを言っているのだろう。私だって忘れるわけがない思い出だ。

 

 かつては緊張であったり、不安を抱えていただろうに。今はもう、二人とも、懐かしむような優しい表情で思い出を語っていく。

 

『緊張でがちがちだったけど、ステージに上がるとね。みんなが声をくれたんだ。サイリウムがキラキラって、ほんとに星空に包まれてるみたいに。

 ……嬉しくて、泣いちゃいそうで。それが、今でも私を支えてくれてる』

 

『もう、随分と前で、私たちも成長したけれど……。それでも、私たちを受け入れてくれた場所は、特別なのよね。過去を振り返るためじゃなくて、前に進むために。原点を忘れたことは無いわ』

 

 目の前のパソコンから、いくつもの通知音が鳴り響く。二人の発言に合わせて、幾人もの人がメールを送ってくれていたようだ。中を覗くと、まさに、そのファーストライブを見ていたというリスナーがいた。

 

 すかさず、二人へとその情報を伝える。

 

『え!? その時のお客さんからメール来たんだ! 聞きたいような、ちょっと恥ずかしいような……』

 

『加蓮はずいぶんと大舞台だったって聞くけど。それなら、お客さんの数も多かったし、覚えている方も同じくらいいるんじゃない?』

 

『そうそう。びっくりするくらい大きいステージだったんだ。企画した誰かさん、ほんと、容赦ないなって思ったよ』

 

『ステージまで頑張った貴女への御褒美だったのよ』

 

 奏が、わかってるわよ、みたいな表情。

 

 私はぎくりと、肩を動かすしかない。奏が語った通りだ。体力つけて、歌って踊れるようになるまで、加蓮は長くかかってしまった。毎日汗水流して、ふらふらになるまで頑張ってきた彼女に、夢のようなステージを送りたかった私は、つい、新人アイドルにしては大きすぎる舞台を用意して。

 

 ほんと、プレッシャーに負けずに、加蓮は頑張ってくれたと思う。

 

『そういう奏は、最初っからライブだったんだっけ?』

 

『そうね……。それこそ、アイドルがよくわかっていない頃よ。事務所に来て、少しレッスンして、それで次の日にライブが決まったって』

 

『うわぁ……。無茶苦茶やるね……』

 

 だんだん、肩身が狭くなってくるのは何故だろう。送られてくるメールにも、『ひっでえ』やら『鬼じゃね』やら、そういうことが混じってくる。

 

 すると、奏は困ったように苦笑いをした。

 

『でも、それが良かったのかもしれないわ。アイドルがどういう存在か、何をして、どこへ向かうのか。真正面から、ファンの人たちが教えてくれたもの。

 あの経験が、私をアイドル『速水奏』にしてくれたって、今は思うわ』

 

 メールの内容が『やるじゃん』、『許してやる』に変わっていって一安心。

 

 二人とも、このラジオの時はあっけらかんとアイドル生活のことを話したりする。コアなファンの人には好評で、初見の人も魅力を発見。ついでに私の胃が痛くなる。

 

 周りのスタッフさんの生暖かい目を受けながら、私は二人の話に耳を傾けることにした。

 

『じゃあ、次のメールは「ピンクの奏ちゃんが可愛いです!」さんから。女性の方だね』

 

『ふふっ、ありがとうございます。それじゃあ、これは私が読もうかしら。「この間の奏ちゃんの写真集、買いました! 海辺のピンクのドレス。奏ちゃんの表情がすっごく柔らかくて。カッコいいだけじゃない魅力を知りました!」』

 

 今度のお手紙で書かれたのは、奏の直近の写真集だろう。夜のイメージが強い奏。そんな奏の新しい一面を開拓しようと、奏の素顔や少女らしさを捉えた写真を多く載せたのだ。

 

『私の周りでも、評判良かったよ。奈緒とか凛とか。あとは、まゆも。「奏ちゃん、可愛いですね~」って』

 

『ありがとう。私にとっても挑戦だったから、素敵な感想を頂けて嬉しいわ。夜に甘えてばかりじゃ先には進めないもの。貴女や楓さんたちから学んで、吸収して、先に進んでいく。その一歩になった……。

 加蓮も、今度のお仕事、ちょっと挑戦してみたんじゃない?』

 

『あ、その話、しちゃってもいいのかな?』

 

 加蓮が私の方を向いて、首を傾げる。

 

 どのみち、この番組の終わりでも報告することだから、開示のタイミングは任せても良いだろう。私が頷きを返すと、加蓮がにっこりと笑顔を浮かべて、マイクに向かう。

 

『今度、新しい写真集を出すんだけど、「宝石」をテーマに素敵なドレスを着させてもらったんだ。いつものゴシックな感じじゃなくて、大人っぽいヤツ。みんなも驚くくらい、新しい私を見せられるから、期待しててね♪』

 

『私は一足先に見せてもらったけれど、お姫様じゃなくて、女王様。加蓮の表情にも注目して欲しいわ。……でも、撮影が終わった後、喜んでハンバーガーを食べてるときは、いつもの加蓮だったって聞いてるわよ?』

 

『もーっ! すぐそういうこと言うんだから! でも、それもいいでしょ? 私はまだまだ女子高生で、ジャンクなのも好きだけど、大人っぽく誘惑とかもできちゃう。

 奏の相棒としては、そういう演技でも魅せていきたいんだよね』

 

『あらあら。気を抜くと、すぐにお株が奪われちゃうわ』

 

『そんなこと、思ってないくせに♪ 奏も負けず嫌いだから、すぐ先に行っちゃうんだもん。演技でも、いつかは追いつくから、待っててよね』

 

 そうして、二人は頂いたメールを読みながら話を進めていく。

 

 思えば、長く二人と仕事をしてきた。二人が語っていく通り、小さなライブも大きなライブも経験した。ドラマにも出演したし、加蓮は映画の主役も。奏は子供向け番組でライバルキャラなんて演じてみた。

 

 そして、私も二人にからかわれながら、楽しい仕事を続けてこれたと思う。

 

『時間も迫ってきたから、これが最後のメールかしら? 「魔法使い」さん、から』

 

『ふふっ、魔法使い、ね』

 

『「二人に出会ってから、毎日が輝いて、楽しくて。素敵な思い出をたくさん頂きました。新しい時代になっても、二人を応援しています。これからも、自分らしく輝く場所を目指してください」。……だって』

 

 加蓮と奏が、なんだか、察したように微笑むと、しっとりと私へと視線をくれる。

 

 だが、私には何のことだかわからない。

 

 ほらほら、書いたのは『魔法使い』とやらで、私じゃないからね。そこ、変な笑顔はやめなさい!

 

『ふふ。熱心なファンがいてくれて、とっても嬉しい。

 同じように応援してくれるメール、たくさん頂いているわ。そして、私たちも、そんな貴方たちから勇気をもらってるの。安心して? 期待に応えて、それ以上を魅せてあげるから』

 

『目指す夢はトップアイドル。それで、そこからさらに上を目指す! 新しい時代になっても。ううん。新しい時代だからこそ、私たちは、未来を切り開いて、もっと輝いていくよ!』

 

 一人じゃなくて、ファンがいて、仲間がいて。背中を押されながら、二人は真っ直ぐに前を向き続けている。

 

 時代が後ろに振り向かないように、ただ、前へ。

 

 そんな二人だからきっと、新時代にもっと輝くアイドルとなれるのだろう。




……新元号。

ですが、加蓮ガチャでは爆死しました。

そのおかげで投票券がいっぱい、いっぱい!!
担当アイドルのためになれるなら、私は満足です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。