モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

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5月3日「リカちゃん人形誕生日」

「変わらない夢はあるのかな?」

 

「変わらない今はありえない?」

 

「でも」

 

「ここはその一瞬」

 

「「さあ、夢のような一夜を過ごしましょう」」

 

 スポットライトが照らされる。

 

 シルエットは、人形のよう。けれど変わらぬ美しさの中に、人の温かさを包みこんで。理想の虚像を描きながら、現実の心を内に秘めて。

 

 そんな二人の影をステージに浮き彫りとしたのは、極彩色の光だった。

 

 赤

 

 緑

 

 青

 

 音楽に合わせて明滅する光たち。色が重なり、新たな色が。色が離れて、彩色が。つかず離れず、淡い色。

 

 そして、色が重なり光となって……。

 

「「「うぉおおおおおお!!!」」」

 

 爆発音のように、観客の叫びが会場を満たす。待ち望んだ歓喜の時に、ファンの皆も準備万端。そんな彼らの存在と反響と共に、日常が非日常へと一転した。

 

 その中心。輝くステージにいるのは、美しい偶像。

 

 加蓮と奏。

 

 黒と白のゴシック衣装に身を包んだモノクロームリリィは、光と歓声を浴びて立ち上がる。人形のように静的に。けれども、ただの操り人形ではなく、主さえ堕とすほどの魅力を振りまきながら。

 

 そして、

 

「……っ」

 

 私はごくりと息をのむ。二人が閉じていた目を開けた、ただそれだけで空気が張り詰めた。微睡から目覚めたような、虚ろな眼。誰にも向けられることないそれは、けれど、確かに私を射止めたような気がしてならなかった。

 

 そして、それは私だけが抱いた感傷じゃない。

 

 沈黙が広がっていく。

 

 先ほどまで、あれだけ興奮と期待に胸を躍らせていた観客。その全体が叫びを止めている。決して、彼等の興味が失われたという意味じゃない。むしろ、逆。誰もが、ステージから目が離せなかった。

 

 会場全体が、息さえ張り詰める様な緊迫に浸かっていく。

 

 きっと、この空間を共有する全員が思っただろう。私たちは今、彼女たちの手のひらの上だと。

 

 隷属したような静けさの中で、奏と加蓮が微かに微笑んだ気がした。

 

 魅惑の人形たち。その舞踏会の幕が開く。

 

「―――♪」

 

「――♪ ―――♪」

 

 緊迫と恍惚を行き来するように、二人の歌声が解き放たれていく。

 

 静やかなバラード。けれど、怪しげな響きを交え、深い水底へと魂を誘う恋の歌。共に披露されるのは『人形劇』というテーマらしく、激しくはないダンス。だが、それは激しくないがゆえに、いっそ魔的だった。

 

 数瞬、奏がほほ笑む。

 

 数瞬、加蓮が物憂げに。

 

 一瞬、奏が挑発した。

 

 一瞬、加蓮が誘惑した。

 

 ひらり、ひらり。踊りのワンテンポごとに移り変わる、二人の表情。

 

 歌で、表情で、彼女たちはファンを翻弄していく。私には、彼女たちの微笑みが焼き付いたように、移り替わる色の中で、ファン一人一人に刻まれた一瞬は、きっと異なっているだろう。

 

 ただの一つのステージ。されど、抱くイメージは千差万別。

 

 正反対の、けれど似通った二人による人形劇。その成功と二人の成長を間近で見られる喜びが溢れながら、私は最後まで二人の舞台を見続けていた。

 

 ただただ、彼女たちに従う人形のように。

 

 

 

 終演後。

 

 ステージは予想通りに最高のフィナーレを迎えた。定期的に行っている中堅規模のライブ。とはいえ、昔と比べれば箱の大きさもそれなり以上。客入りは満員御礼。

 

 その誰もが、恐ろしいほど美しい者に出会ったかのような、ふらふらとした足取りで会場を出ていったのだ。今日のステージコンセプトを考えても、彼等に挑戦的なモノクロームリリィの魅力を伝えることはできたと確信している。

 

 そんな、翌日の社会復帰が心配になってしまうファンを見送って、控室で私たちはささやかな祝杯を上げていた。

 

「それで? 今日のライブは」

 

「もちろん、ね」

 

「ああ、最高だった!!」

 

 いつもの、それでも精一杯の言葉。

 

 私の掛け声に合わせて、紙コップが宙で触れ合う。そのまま、加蓮も奏もドリンクを飲み干して、一呼吸。私だって、ライブからこっち、全く喉が通らなかったので、こうしてウーロン茶を飲むことで生きる実感を取り戻していた。

 

 まったく、このままだと石か、人形にでもなってしまいそうだった。

 

「Pさん、大げさすぎだって」

 

「いや、そんなことない! ほんと、加蓮も奏も、最高のパフォーマンスだったし、最後の方はファンの人たちの方が人形みたいになってたぞ」

 

 ほとんどサイリウムを動かす自動人形だった。タガが外れたように、目から涙をこぼし続ける者もいたが、それをぬぐわないでいるから、余計に人形みたいに。

 

 ただ、そんな日常では見ることができない反応は、それだけ観客がステージに熱中してくれた証拠でもある。

 

 私がそんな様子を伝えると、奏も加蓮も満足げに微笑んでくれた。

 

「それくらいに記憶に焼き付いてくれたなら、私たちも頑張った甲斐があったわ。もちろん、舞台袖で固まっていた誰かさんの、胸の奥にも、でしょ?」

 

「こっちが声かけるまで、ぼーっとしてたもんねー」

 

「……うっ!?」

 

 ニヤリとからかいたげな眼。そのまま、フリルたっぷりのドレスの肘で、加蓮が私の脇腹をちょいちょいとつついてくる。そして、図星の私はそれに反論することなんてできない。

 

 だって仕方ないじゃないか! 私は二人のプロデューサーであるが、それ以前に大ファンでもあるのだから。

 

 ステージを終えた興奮に酔っぱらったように、私は素直に白状する。

 

 すると、奏が袖で口元を押さえながらくすくすと笑みを零した。

 

「こんなフリルたっぷりのドレスを着せて、『人形劇』をテーマに。貴方の突拍子もなくて、素敵なアイデアにしっかりと応えられていたようね

 プロデューサーさんまで人形になるなんて、意外だったけれど♪」

 

「そりゃあ、ね。二人なら、ただの人形で終わるはずがないし」

 

 元々、演出家さんと相談した時から、予感はしていたのだ。ますます演技とパフォーマンスに磨きがかかっていく二人。こういう独特の演出を行ったら、きっと本番で化けると。

 

 そして、今回のライブでは、大化けに化けた。二人の演技によって、魅了されたファンと観客が人形へと大変身。結果、アイドルとファンと、会場全体を巻き込んだ『人形劇』の完成である。

 

「可愛いだけのお人形なんて、私たちには合わないでしょ?」

 

「手の中にいたと思ったら、いつの間にか飛び出して……。世話をしているつもりが、召使いに。愛される人形と、愛を注ぐ持ち主。でも、本当はどちらが主なのかしらね」

 

 言って、奏が意味深に目を細める。

 

 アイドル。

 

 偶像。理想の具現体。

 

 語源の上での意味。だが、決して彼女たちは愛でられるだけの人形じゃない。そのパフォーマンスと演技で、ファンを魅了し、

 

 『愛させる』

 

 そうして自らの力でファンを導いていくのも、一つのアイドルの姿なのだろう。

 

 ただ、

 

「さて、ちょうどいい機会だもの、たまにはPさんを人形にしちゃうのも、一興じゃない?」

 

「え!?」

 

「あ! いいアイデア! Pさんが、どこで固まっちゃったのか、気になるもんね。じゃあ、奏は左からで、私は右から……」

 

 人を人形に代えるのは、ステージの上だけにしてほしいものである。




総選挙期間も残りわずかになってきましたねー。

少しずれて更新になってしまっているので、ここらで追いついていきたいものです。


どうか、面白いと思っていただけたら、加蓮と奏に一票をお願いいたします!
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