「変わらない夢はあるのかな?」
「変わらない今はありえない?」
「でも」
「ここはその一瞬」
「「さあ、夢のような一夜を過ごしましょう」」
スポットライトが照らされる。
シルエットは、人形のよう。けれど変わらぬ美しさの中に、人の温かさを包みこんで。理想の虚像を描きながら、現実の心を内に秘めて。
そんな二人の影をステージに浮き彫りとしたのは、極彩色の光だった。
赤
緑
青
音楽に合わせて明滅する光たち。色が重なり、新たな色が。色が離れて、彩色が。つかず離れず、淡い色。
そして、色が重なり光となって……。
「「「うぉおおおおおお!!!」」」
爆発音のように、観客の叫びが会場を満たす。待ち望んだ歓喜の時に、ファンの皆も準備万端。そんな彼らの存在と反響と共に、日常が非日常へと一転した。
その中心。輝くステージにいるのは、美しい偶像。
加蓮と奏。
黒と白のゴシック衣装に身を包んだモノクロームリリィは、光と歓声を浴びて立ち上がる。人形のように静的に。けれども、ただの操り人形ではなく、主さえ堕とすほどの魅力を振りまきながら。
そして、
「……っ」
私はごくりと息をのむ。二人が閉じていた目を開けた、ただそれだけで空気が張り詰めた。微睡から目覚めたような、虚ろな眼。誰にも向けられることないそれは、けれど、確かに私を射止めたような気がしてならなかった。
そして、それは私だけが抱いた感傷じゃない。
沈黙が広がっていく。
先ほどまで、あれだけ興奮と期待に胸を躍らせていた観客。その全体が叫びを止めている。決して、彼等の興味が失われたという意味じゃない。むしろ、逆。誰もが、ステージから目が離せなかった。
会場全体が、息さえ張り詰める様な緊迫に浸かっていく。
きっと、この空間を共有する全員が思っただろう。私たちは今、彼女たちの手のひらの上だと。
隷属したような静けさの中で、奏と加蓮が微かに微笑んだ気がした。
魅惑の人形たち。その舞踏会の幕が開く。
「―――♪」
「――♪ ―――♪」
緊迫と恍惚を行き来するように、二人の歌声が解き放たれていく。
静やかなバラード。けれど、怪しげな響きを交え、深い水底へと魂を誘う恋の歌。共に披露されるのは『人形劇』というテーマらしく、激しくはないダンス。だが、それは激しくないがゆえに、いっそ魔的だった。
数瞬、奏がほほ笑む。
数瞬、加蓮が物憂げに。
一瞬、奏が挑発した。
一瞬、加蓮が誘惑した。
ひらり、ひらり。踊りのワンテンポごとに移り変わる、二人の表情。
歌で、表情で、彼女たちはファンを翻弄していく。私には、彼女たちの微笑みが焼き付いたように、移り替わる色の中で、ファン一人一人に刻まれた一瞬は、きっと異なっているだろう。
ただの一つのステージ。されど、抱くイメージは千差万別。
正反対の、けれど似通った二人による人形劇。その成功と二人の成長を間近で見られる喜びが溢れながら、私は最後まで二人の舞台を見続けていた。
ただただ、彼女たちに従う人形のように。
終演後。
ステージは予想通りに最高のフィナーレを迎えた。定期的に行っている中堅規模のライブ。とはいえ、昔と比べれば箱の大きさもそれなり以上。客入りは満員御礼。
その誰もが、恐ろしいほど美しい者に出会ったかのような、ふらふらとした足取りで会場を出ていったのだ。今日のステージコンセプトを考えても、彼等に挑戦的なモノクロームリリィの魅力を伝えることはできたと確信している。
そんな、翌日の社会復帰が心配になってしまうファンを見送って、控室で私たちはささやかな祝杯を上げていた。
「それで? 今日のライブは」
「もちろん、ね」
「ああ、最高だった!!」
いつもの、それでも精一杯の言葉。
私の掛け声に合わせて、紙コップが宙で触れ合う。そのまま、加蓮も奏もドリンクを飲み干して、一呼吸。私だって、ライブからこっち、全く喉が通らなかったので、こうしてウーロン茶を飲むことで生きる実感を取り戻していた。
まったく、このままだと石か、人形にでもなってしまいそうだった。
「Pさん、大げさすぎだって」
「いや、そんなことない! ほんと、加蓮も奏も、最高のパフォーマンスだったし、最後の方はファンの人たちの方が人形みたいになってたぞ」
ほとんどサイリウムを動かす自動人形だった。タガが外れたように、目から涙をこぼし続ける者もいたが、それをぬぐわないでいるから、余計に人形みたいに。
ただ、そんな日常では見ることができない反応は、それだけ観客がステージに熱中してくれた証拠でもある。
私がそんな様子を伝えると、奏も加蓮も満足げに微笑んでくれた。
「それくらいに記憶に焼き付いてくれたなら、私たちも頑張った甲斐があったわ。もちろん、舞台袖で固まっていた誰かさんの、胸の奥にも、でしょ?」
「こっちが声かけるまで、ぼーっとしてたもんねー」
「……うっ!?」
ニヤリとからかいたげな眼。そのまま、フリルたっぷりのドレスの肘で、加蓮が私の脇腹をちょいちょいとつついてくる。そして、図星の私はそれに反論することなんてできない。
だって仕方ないじゃないか! 私は二人のプロデューサーであるが、それ以前に大ファンでもあるのだから。
ステージを終えた興奮に酔っぱらったように、私は素直に白状する。
すると、奏が袖で口元を押さえながらくすくすと笑みを零した。
「こんなフリルたっぷりのドレスを着せて、『人形劇』をテーマに。貴方の突拍子もなくて、素敵なアイデアにしっかりと応えられていたようね
プロデューサーさんまで人形になるなんて、意外だったけれど♪」
「そりゃあ、ね。二人なら、ただの人形で終わるはずがないし」
元々、演出家さんと相談した時から、予感はしていたのだ。ますます演技とパフォーマンスに磨きがかかっていく二人。こういう独特の演出を行ったら、きっと本番で化けると。
そして、今回のライブでは、大化けに化けた。二人の演技によって、魅了されたファンと観客が人形へと大変身。結果、アイドルとファンと、会場全体を巻き込んだ『人形劇』の完成である。
「可愛いだけのお人形なんて、私たちには合わないでしょ?」
「手の中にいたと思ったら、いつの間にか飛び出して……。世話をしているつもりが、召使いに。愛される人形と、愛を注ぐ持ち主。でも、本当はどちらが主なのかしらね」
言って、奏が意味深に目を細める。
アイドル。
偶像。理想の具現体。
語源の上での意味。だが、決して彼女たちは愛でられるだけの人形じゃない。そのパフォーマンスと演技で、ファンを魅了し、
『愛させる』
そうして自らの力でファンを導いていくのも、一つのアイドルの姿なのだろう。
ただ、
「さて、ちょうどいい機会だもの、たまにはPさんを人形にしちゃうのも、一興じゃない?」
「え!?」
「あ! いいアイデア! Pさんが、どこで固まっちゃったのか、気になるもんね。じゃあ、奏は左からで、私は右から……」
人を人形に代えるのは、ステージの上だけにしてほしいものである。
総選挙期間も残りわずかになってきましたねー。
少しずれて更新になってしまっているので、ここらで追いついていきたいものです。
どうか、面白いと思っていただけたら、加蓮と奏に一票をお願いいたします!