モノクロームリリィとの日常   作:カサノリ

70 / 99
加蓮、総合2位

奏、総合17位

二人とも頑張った。

来年こそは!!


5月11日「何でもない日」

 また少し日付が進んで、空に昇った太陽の照り付けが強まってきた頃。

 

 珍しくも二人がオフの日。けれども二人は事務所に来てくれて、テレビを付けながら紅茶とコーヒー片手に過ごしている。声はここまで聞こえてこないが、お互いの指を見ながら笑いあっている辺り、ネイルの話でもしているのだろうか。

 

 私はぱちぱちとキーボードを打ちながら、そんな二人を横目で見ていた。何でもないことなのに、仕事がはかどる。居心地がいい空間というのは、いい仕事に必須なんて聞くが、二人と過ごすようになってからは実感を伴って分かるようになった。

 

 笑顔もあって、音楽もあって、時々からかわれたり。何でもない幸せな日常。

 

 何でもないというのは、私たちだけのことではなくて、

 

「ほんと、珍しいな」

 

 事務所の机に置かれている日めくりカレンダーを見つめ、私は一人ごちた。記念日が毎日記載されているカレンダーは、例えば仕事を計画したり、三人でのイベントごとを企画したりするときに役立ててきた愛用の品。

 

 今日、そこには何の文字も刻まれてはいない。

 

 

 

 記念日がない。文字通り、何もない日。

 

 

 

 それをじっと見ていると、

 

「あら、ほんとね。何もないなんて珍しいわ」

 

 いつの間にやら奏と加蓮が背後からカレンダーを覗き込んできた。ふわりと華やぐ香りに、肩に添えられた細く温かい手。思わず胸が高鳴ってしまうが、それは魅力に惑わされたというよりも、相も変わらず突然にドッキリさせてくる事への驚きが原因。

 

 毎度のことでも慣れることはない。私が気を抜いていると、すぐにからかってくる。刺激があるのは良いことで楽しいのだけど、もう少しだけ手心が欲しいところだ。

 

 そう言うと、

 

「でも、からかう方も大変なんだよ? 毎日同じパターンだと誰かさんも慣れちゃうし」

 

「慣れさせてください」

 

「だーめ♪ それじゃ、Pさんの魅力も減っちゃうから」

 

 加蓮はそう言って、私の頬を柔らかい指先でぷにぷにと触ってくる。こんなおじ、いや、お兄さんの頬を突いて何が楽しいのか。いや、愉しいんだろうなあ。加蓮、すごい良い笑顔しているし。

 

 からかい大好きなお姫様達は置いておいて……。こら、髪の毛を引っ張るでない。ヘアアレンジは加蓮の専売特許だが、私はそこは保守的だ。

 

 カレンダーに視線を戻して、話を続ける。

 

「おほん。最近は何でもかんでも記念日を付けるから、毎日何かしらあるって思ってた」

 

「今日も著名人の命日だったりはするけど……。確かに、○○の日ってつかないのね」

 

「探せば何かありそうだけど。語呂合わせとか」

 

 5月7日だから『コナ』モンの日だったり。

 

 加蓮が言う通りに、語呂合わせはこの手の記念日にありがちな付け方だ。あとは、日本あるいは世界で最初に何かが行われた日が多いだろうか。無理くりな名付け方でも、今は殆どの日に記念日が設定されている。

 

 そこが今日は白紙。それを見ていると、不思議な感覚にもなるのだ。

 

「毎日、このカレンダーには何かが書かれていたから、ちょっと寂しいんだよな。……語呂合わせで、何かつかないかな?」

 

「えっと……。単純に考えて『511』で『濃い』日なんて? それとも、恋の日とか」

 

「それなら5月1日の方がらしいんじゃないかしら? ……けれど、言葉で思いつくのはそれくらい。変則的だけど『コイ・1』で『初恋の日』なんてどう?」

 

 ロマンチックすぎる? なんて、発言した後で少し恥ずかしがっている奏。加蓮はそれを見て、からかいたそうに目を細めるが、奏は途端に澄ました顔で誤魔化すことに決めたようだ。

 

 一方で私は、奏のアイデアに納得しつつ、目の前のパソコンで探ってみる。

 

「いいアイデアだけど、残念。『初恋の日』は他に設定されてる。10月30日だって」

 

「どうしてその日なの?」

 

「えーっと、島崎藤村が『初恋の詩』を発表した日だそうだ」

 

「藤村って、作家さんだっけ?」

 

「ええ。著名な、ね。藤村の初恋も、素敵な詩よ。子供のような無鉄砲な恋ではなくて、何気ない仕草の中から恋を見つける。静かで、深い、ちょっぴり大人の恋心。私には恥ずかしいくらいに」

 

 奏は眼を閉じ、艶やかな唇を煌めかせながら詩を朗々と読み上げる。その鈴が鳴るような響きに耳を澄ませると、目の前にリンゴ畑の情景が思い浮かぶようだった。

 

 ちょっとした相手の姿、考え方を知るたびに、魅力に感じて恋をする。

 

(……気持ちは分かるな)

 

 だって、私だって毎日のように恋をしているようなものだ。加蓮と奏が新たな一面を見せてくれるたびに、心の奥底まで魅了されて、もっと二人を支えたいと願っていく。それは一般的な『恋』ではないけれども、二人のアイドル、あるいは少女に魅せられているという点では似通った感情だ。

 

 二人と過ごす中で感じる、不思議で温かい、特別な気持ち。

 

「ねえ。Pさんって、時々そういう目をするよね?」

 

 加蓮が突然、声をかけてくる。私がそれに首を傾げると、

 

「無意識だとしたら、注意した方が良いわよ? 本当に。思わずからかいたくなっちゃうから。いろんな人に、ね」

 

「それは、たぶん大丈夫だよ」

 

 きっと、二人の前でないと、こういう気持ちにはならないから。

 

 声に出すと、またもや良いネタになるだろうから、そんな本気は胸にしまい込む。そして、それを考えているうちに思いついたことも。

 

 私はそっとカレンダーを取り出して、次いで筆立てからボールペン。前に二人からプレゼントされたものだ。それをカチリと一押しして、今日の日付に向かわせる。

 

「何か思いついたの?」

 

「記念日ってさ、別に世界とか日本にとって特別な日じゃなくてもいいんだなって」

 

 例えば、誕生日だったり、記念日だったり。それらの日付は人によって異なる。加蓮の誕生日9月5日は『黒の日』や『生クリームの日』に設定されているけれど、私にとってはそれらの日はどうでもいいくらいに加蓮の誕生日が大切。奏の誕生日、7月1日も同じこと。

 

 二人と過ごす毎日が、私のカレンダーを塗り替えていく。

 

「だから、今日にイベントがないなら」

 

 さらりと、書き加えられる文字。

 

「あら……」

 

「へぇ……」

 

 加蓮と奏が、面白そうに呟いた。

 

「そういう名前つけちゃっていいの? もっと特別にしたくてからかっちゃうかもしれないけど?」

 

「それがいいの。いつかは、こちらだってからかい返してあげるし」

 

 突然に宇宙一のライブでもプレゼントしてあげたら、二人とも目を白黒させて驚くだろうから。その時には、たくさんからかってみたいと思う。

 

 そうして

 

 奏が澄ました笑顔で、ステップを踏むように。

 

 加蓮が華やぐ笑顔で、舞い踊るように。

 

 モノクロームリリィはステージの上で輝いて、多くの人に笑顔と夢を届けてくれる。それを傍で見れるなら、私もどこまでも頑張れると思うのだ。

 

 だから、この毎日は素敵な未来へ続く、特別な日常。

 

 例え、今日が特別な出来事がなくても、世界にはごく普通な日だったとしても。

 

 5月11日。今日も『モノクロームリリィとの日常』。

 

 そう書けば、私たちにとって、かけがえのなく、素敵な一日になるのだから。




ひとまず今年の総選挙も終わりました。

私としては、毎日更新が途中で崩れてしまったりと悔いが残る結果になりましたが。また二人を描けたことはとても嬉しく思っています。

来年はどうするかは決定していませんが、またモノリリの二人が活躍する小説を書いてみたいとは思っています。

それでは、またお会いできることを祈って。

アイマス最高!!
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