今年も、毎日更新を可能な限り行ってまいります!
ただ、毎年同じ期間では、ネタも少なくなってしまうので、タイトルを変更。
今年は『総選挙最終日までの一年間』をテーマとして、色々な話を出していけたらなと思っています。
どうぞ加蓮と奏の応援と合わせ、お楽しみいただければ幸いです。
6月10日「時の記念日」
カタカタ、カタカタ
『時が経つのはなんて早いのか。年齢を重ねるたびに強く感じるようになると、私も幼いころには聞かされた――』
かくいう私も、一年一年と誕生日を迎え、望むと望まずとに関わらず、彼女らの言う「おじさん」への扉に近づいている身であり、世間の例外に漏れず、時の速さを年々実感していたりもする。
気が付くと、四月が七月になり、七月が十月に、十月から一月なんてあっという間。
私の年で、こんなに早く感じるのだから、老人たちは早送りもかくやという速度で一年を過ごしているんじゃないか。なんて、しみじみと思ったりもし、それを愚痴るたびに我らが小悪魔二人は『Pさん若返り計画』という題目の元、若者の街へと私を連れ去り、ファッションの実験台にするのだが……。
時は早く刻み、世間も遷ろう。
一年はあっという間に終わってしまう。
しかし、私にとって幸いなのは、どれだけ時が早く感じようと、退屈を感じることはないということ。
私個人は平凡な隙の多いサラリーマンであるが、私の隣には世界を笑顔に染め上げるアイドルがいてくれる。
退屈を覚えようものなら、その次の瞬間には冷や汗と動機息切れに襲われることは間違いない。……けっして、それは年齢の問題じゃないぞ。彼女たちが繰り出す多種多様のからかいのためだと明言しておきたい。
つまり、なにが言いたいかというと――、
「……前置きが長いわ」
「Pさん、詩の才能は無さそう」
「うわぁ!!!??」
私は突如として耳元に響いた二つの声に、情けなく大声を出し、ひっくりこけそうになった。
たちまち、私の世界は一転。
真っ暗の中にPCのモニタだけが光っている集中状態から、いつもの日常へと逆戻り。見慣れた部屋に、見慣れた間取りの事務所へと。
けれど、いまいち何が起こったのか分からなかった私は、ぐわんぐわんと自分の大声で耳鳴りする両耳を抑えながら、周囲をぐるぐると見渡して。
私の担当アイドルである加蓮と奏。モノクロームリリィの二人は、そんな私を見ながら、くすくすと苦笑していた。
「ふふ、ごめんなさい。驚いたかしら? 聞くまでもないわね」
「あはは♪ もー、すっごい大声! 後ろから抱きついた時の奈緒と同じくらい!」
「いつもやってるものね、加蓮。だから平気な顔しているの? 私なんて、ちょっと耳が痛いくらいなのに」
「んー、慣れちゃったのかな? 奏も奈緒をからかってみたら、分かるかも」
「ふふ、それも面白そうだけど……。でも、やめておくわ。私まで加わったら、さすがに可愛そうね」
「……私は良いのか、私は」
ようやく私も事態を把握し、半目を二人へ向けながら、愚痴をこぼす。
奏の言う、加蓮と奏両方から毎日のようにからかわれてしまう『可愛そう』に該当する人物は確実に一人いる。
私だ。
「Pさんは……。もう、ねえ?」
「別枠、かな?」
「そこで憐れみの視線を向けないで!?」
いったい誰が私を『可愛そう』な目に合わせているというのか。そこ! 二人! 目を逸らすな! ニヤリと微笑むな! 私へ向ける愛はないのか!
「あら。愛はこれでもかっていうくらいに籠めているわよ? 気づいてくれないのかしら?」
「毎日毎日、たくさんの愛情を、Pさんにあげているのに。そんなこと言われたら、悲しいなー」
二人はそう言って、さも悲しそうな口調と表情を作って、私のメンタルへと圧力をかけてくるが、口元の緩んだところだけはあえて隠していなかった。
「もっと分かりやすい愛はないのか!?」
「じゃあ、キスしましょうか? 誰から見てもはっきり分かる、愛のアプローチ……」
「やめて!?」
「奏の持ちネタ、こういう時便利だよね」
「持ちネタ呼ばわりは、抗議するわよ、加蓮」
その後、十分くらい『分かりやすい愛』を示そうとする二人に、散々にからかわれることになるのだが、それは割愛させてほしい。
ともかく、部屋の中を逃げ回り、大きく息を乱した私は自席へとようやく戻った。幸い、パソコンには書きかけの文章が消されずに残っている。その画面を覗きながら、奏が尋ねてくる。
「それで? その文章、何だったの?」
「ん? まあ、隠すほどのものじゃないからいいか。……業務記録とは別に、日記でも書いてみようと思ってて」
私はパソコンを二人へ見せる。フリーの日記ソフトで、日付は今日。
「これが記念すべき一日目。御覧の通りの前置きが長い文章です」
「あんまり内容に凝ると、後に続かないわよ? もっとも、プライベートなものだったなら、私たちの方が野暮なことしてしまったと思うけれど」
「いや、読み返してみると、実際そうだし」
徒然なるままに、じゃあるまいし。これじゃ、日記どころか、小説家気取りだ。そして文章アイデアに優れるわけでもない私なら、三日ボウズは間違いなかっただろう。
「もっとシンプルに書き直すことにするよ、ありがとう」
「どういたしまして」
奏が少し安心したように、微笑む。
すると、今度は加蓮が、興味津々という顔を寄せてきた。
「でも、珍しいね。男の人が日記を書くなんて」
「二人の周りじゃ、誰もつけてないの?」
「男の子は少ないんじゃないかな?」
「中高生なんて遊びたい盛りでしょうし。一方の女子は、世間のイメージ通りに書いてる子が多いわね。ブログだけじゃなくて、今でもノートに」
「まゆとか奈緒のは見せてもらったことあるよ、私」
確かに私も、佐久間さんが大切そうに日記を抱えているのは見たことがある。けれど、神谷さんまで持っているとは驚きだ。
「奈緒の日記イメージよりも乙女乙女してて、可愛いんだよね」
「ちなみに加蓮。そんな乙女な日記を、神谷さんが加蓮に見せるとは思わないんだけど」
どうやって中身を確認したのか、知りたいような知りたくないような。
加蓮はそんな私の半目に、悪戯なウインクで返した。……神谷さんには、後でお菓子でも奢ってあげよう。
「それで? 乙女じゃないけど、夢見がちなPさんは、どうして日記を書き始めたのかしら?」
金色の眼が面白そうに私を見ている。尋ねられつつも、その理由を奏は勘付いているんじゃないかな、とか思ったり。
「大した理由じゃないんだけど、二人と過ごした日常、残しておきたいなって思って」
「……ふふ」
アイドルの仕事は、幸いにも形が残るものが多い。人々の記憶の中で思い出になるのは言うに及ばず、雑誌に、映像に、音楽に。加蓮や奏の生きた証は、何十年も残されていく。
けれど、アイドルである彼女達がどんな日常を過ごしていたのか。
それを覚えられる人は、思った以上に少ないと思う。彼女たちの家族に、友人に、それに私くらいだろう。
ふと、そんなことを考えたら、私が過ごしているこの日常はかけがえがないもので、少しでも私が感じたことを残しておきたいと思い立った。
「私達がからかっちゃったことも?」
「そこは、微妙にぼかしたり……」
「だーめ♪ ちゃんと私たちとの思い出、残してくれないと」
そう言うと、奏と加蓮は楽しそうに私のパソコンを奪ってしまう。カチャカチャとキーボードで叩かれるのは、間違いなく、今日の私が驚いた様子と、彼女達がどれだけの笑顔でいたのか。
(このままだと共用日記になっちゃいそうだけど……)
まあ、それも一つの楽しみだろう。
私はそんなモノクロームリリィの日常を眺めながら、壁にかけられたカレンダーを見る。
ついこの間、第八回の総選挙が終わり、また新しい一年が始まった。加蓮にとっては間違いなく勝負の年で、奏も更なる飛躍を果たす機会。
これから一年後。二人が更に光り輝くときに、この日記にどれだけの思い出が書かれているのだろう。
そんな未来を夢見ながら、私は刻まれていく大切な日常を見守っていた。
加蓮はいよいよ勝負の年。
奏ももちろん、負けてられない。
私の目標は変わらず、モノクロームリリィでの総選挙曲参加です!!
二人に清き一票をお願いいたします!